- 無党派層票の奪い合い
参議院の郵政民営化法案否決を受け、小泉総理は衆議院を解散した。郵政民営化法案が参議院で否決されたにもかかわらず、小泉首相は「総選挙で郵政民営化の信を問う」と衆議院を解散した。しかし仮に参議院で法案が可決していたとしても、小泉首相は衆議院を適当な時期を見て解散していたと筆者は想っている。もちろん反対派を除名した後である。
小泉首相の狙いは、反対派の自民党からの排除である。そのために自民党の執行部を自分の言うことに従う者で固めた。仮に郵政法案を本気で通すつもりだったなら、自民党の執行部や主要閣僚に力のある者を配置したはずである。小泉首相は、郵政法案の成立と反対派の排除を同時に行おうと考えいたのであろう。
自民党は、選挙の度に足腰が弱くなっている。それを補っているのが公明票である。また公明党と接近するから自民党がさらに弱くなる。従来の自民党の支持者は離れつつある。自民党支持者の中で今の自民党政権の政策に不満を持つ者は、棄権するか、あるいは民主党などの野党に投票している。また小選挙区は支持する立候補者に投票するが、比例区は野党というパターンもかなりある。中選挙区制のもと、同じ自民党でも候補者が複数いた昔なら、自民党の中で投票する候補が選ぶことができ、これが自民党の強みになっていた。今日、比例区では自民党が民主党に完全に負けている。小選挙区制が続く限り、この傾向は続くと考える。
自民党の進む道は二つ考えられる。従来の支持層を大切にするか、あるいは無党派層に支持を広げるかである。しかし両者を同時に目指すことは難しく、いつか矛盾が出てくる。今回の郵政法案を巡る混乱もこれが原因と言えよう。小泉政権の基本戦略は無党派層に食い込もうということである。そのためには従来の自民党支持層を切捨てることもやむを得ないというスタンスである。
ちなみに民主党はの支持者は、労組などの組織票を除けば無党派層が中心である。今回の選挙は、この無党派層票の自民と民主の激しい奪い合いと言える。自民党にとっては、従来の支持層票のマイナスと無党派層票のプラスとどちらが大きいかということになる。
マスコミに登場する政治解説者は、選挙戦の序盤戦の今日、小泉政権の支持率が上昇していることを根拠に、自民党の善戦(大勝)を予想している。早くも与党の勝利を前提に小泉首相の任期延長の話さえ出ている。ただ先週号で述べたように、今日の大マスコミの幹部は小泉政権を露骨に支援しており、このことが選挙結果の見通しに影響を与えているとも考えられる。マスコミの小泉首相への異常な肩入れを、テレビの視聴者や新聞の読者は気が付いているはずである。内閣支持率調査もこれに使われている可能性がある。
例えばTBSのJNNが集計した内閣支持率調査では、小泉内閣を「支持する」が59.8%、「支持しない」が39.3%であった。両者の数字を合計するとなんと99.1%になる。どのような強引な集計方法を行っているのか容易に想像できる。筆者としては、むしろ残りの0.9%の人々がどのような回答をしたのか興味がある(笑)。
またこういった内閣支持率調査では、回答率が問題になる。良心的な調査でもせいぜい65%くらいであり、テレビ局が頻繁に行っている調査は50%前後とまことに杜撰なものである。つまり二人のうち一人しか回答を行っていない。特に首都圏を中心の調査となれば、この地域に強い特定の団体の影響が色濃く反映されると見るべきである。また何回も低コストで調査するとなると、電話を掛けて確実にいる人々だけが対象になっている可能性が強い。つまり統計の母集団そのものが問題である。もし仮に母集団に年金生活者が多ければ、今日のようなデフレ経済をこの好ましいと考え、小泉政権の政策を肯定する人々が多いはずと考えられる。
はっきりした支持政党のない無党派層にはいくつかの特徴がある。無党派層が多いのは大都会である。そして無党派層はマスコミの影響うけやすい人々の集まりであり、いわばマスコミにとってのお客様である。無党派層の人々は、マスコミに影響を受け易いことをむしろ誇りとしている。反対に世間の動きに動じない地方の保守層の人々を「頑固者」と無党派層の人々は軽蔑している。
これまで無党派層は、新自由クラブや新党ブームの時の日本新党や新党さきがけ、そして新生党に投票してきた。しかしこれらの新党はどれも長続きしなかった。無党派層の実態は浮動票である。マスコミがあきれば無党派層もそっぽを向くことになる。
したがって無党派層の票を掴むには、マスコミが好きな「改革」を政策の中心に据えることになる。考えてみればマスコミが左翼に片寄っていた時代は、社会党や共産党が無党派層の受け皿になっていた。当時は社会主義や共産主義こそが輝く「改革」そのものであった。今日、日本の大マスコミは、かなり新保守主義に傾いており、何がなんでも「構造改革」と「小さな政府」が正しいと主張している。しかしこの考えはこれまでむしろ民主党の主流派の主張であった。
ところが本来保守政党のはずの自民党において少数派だった「構造改革派」が実権を握った。これが小泉首相のグループである。大マスコミは諸手で小泉首相を持上げた。たしかに小泉政権が発足した時には小泉ブームが起った。そして改革派が実権を握った小泉自民党は、無党派層の票を巡り、民主党と真っ向からぶつかることになった。両者とも意味なく「改革だ」「改革だ」と叫び、相手の「改革」は「嘘の改革」と罵り会いながら戦っているのが今回の総選挙である。
マスコミに影響を受け易い無党派層を掴むには、両者とも「改革」という言葉の連発だけでは足りず、広告代理店を総動員したイメージ戦略を行っている。昔はマドンナだった女性達の候補を比例の上位に置いたり、ついにはホリエモンまで登場した。
- 新党の役目
2年前の自民党の総裁選の時、日本財政研(亀井静香勝手連)は政策提言を行った。この提言の一部は亀井候補の公約にも使ってもらえたという話もある。しかしこの政策提言も2年も経ったので見直そうということになった。今回はポイントだけということで8項目と簡単にまとめ、8月4日の亀井静香勝手連のオフ会で参加者に配った。
我々の新しい政策提言の狙いは、従来の自民党の支持者から共感を得ることである。もちろん第一に訴える政策はデフレ経済からの脱却である。その次あたりが年金問題である。郵政法案も一応取上げている。これらの他にテロ対策、中国人民元の操作への抗議、そして生産拠点の海外移転問題も取上げた。政策提言のタイトルを「我々が希望する自民党本来の政策」とした。
新しい提言は、自民党から離れた昔からの支持者を呼び戻すことを念頭に作った。したがって今の自民党の方針に影響されることなく作成した。いやむしろ今日の自民党と反対の考えや、今の自民党では絶対に打ち出せない政策が中心になっている。例えば「政教の分離の徹底」などはその典型である。
根っからの自民党支持者は、民主党の改革路線に反対である。しかしこの人々は民主党まがいの今の自民党の構造改革政策にも強く反発している。筆者達の新しい政策提言は、これらの人々から間違いなく賛同を得るものと確信している。
我々は、現在の自民党の方針に捕われることなく考えるとしたなら、これだけ有効な政策が主張できることを知って改めて驚いた。これなら新党を作って、このような政策を訴えれば、相当議席が取れるのではないかと考えた。そこで親しくしてもらっている自民党の代議士にこれを配ることにした。しかし配って回ったのが8月5日と郵政国会の山場であり、残念ながら国会議員は皆不在だったので、議員に渡してもらうよう秘書に託した。ちなみに配った相手の国会議員は全て郵政民営化法案に反対票を投じた。
秘書には「新しい政策提言です。新党を作った時にもこれは使えます。」と半分冗談混じりで手渡した。秘書達は「えっ!新党」と怪訝な表情であった。しかし新党が二つできた今日、我々の読みの方が現実的だったということである。むしろ新党構想が一旦潰れた時には、我々はもやきもきした。
今回の新党創設を、昔の新自由クラブや日本新党になぞらえる政治解説者が多い。しかし筆者は、今度の新党はこれらと全く別物と捉えている。これまでの新党は改革派が自民党から飛出して作ったものである。今回は、むしろ保守派が追出され、やむを得ず政党を作った形になっている。
新自由クラブや日本新党のターゲットは、まさにマスコミのお客様の無党派層の浮動票である。マスコミが諸手を上げてこれらの新党を応援をした。たしかに最初の選挙では、日本新党の名があれば立候補者はたいてい当選したくらいである。しかし今回の二つの新党の支持者は、頑強な保守層である。マスコミも今回は新党には辛辣である。国民新党から新党日本に一人の国会議員が移籍しただけで、「数合わせだ」「政党の理念がない」と総攻撃を行っている。
二つの新党の船出は大変厳しいものになっている。マスコミ調査の政党支持率も1%前後と極めて低い。さらにマスコミによる反新党キャンペーンが続くものと覚悟すべきである。また訴える政策も地味であり、訴える対象も保守層という難しさがある。政党の性格から、政策が理解され支持を得るには時間がかかる。唯一幸運だったのは、解散から公示日まで二十日余りあったことである。通常の倍くらいの時間的余裕が与えられ、不十分な準備ながら新党設立まではなんとか漕ぎ着けられた。
筆者の知人に郵政民営化法案に賛成したある自民党国会議員の後援会のメンバーがいる。この人に今回の政策提言の話をした。彼はこれに興味を示し、ついでに「裁判員制度」もなんとかならないかという話をしていた。筆者もなるほどと思った。
「裁判員制度」については「裁判員制度の関連法案を大幅に見直しをするか、あるいは見直しをするまで執行停止する」という政策を追加することが考えられる。さらに「人権擁護法案反対」と「外国人の地方参政権反対」を盛込むことも考えて良い。いずれも構造改革派と公明党の影響下にある今日の自民党では、絶対に打ち出せない政策である。
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