平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/11/3(第40号)


景気の現状と対策を考えるーーその3
  • 政府と自民党の景気対策
    政府と自民党は、現在、景気対策を検討している。両者の景気に対する認識はこれまで決して深刻なものではなかった。特に政府の景気に対する認識は、「弱いながらも回復基調にある」と言った発言に見られるように十分とは考えられない。したがって現在検討されている対策はとても景気浮揚に繋がらないものである。対策案が報道されるたびに株価が下落するのも無理はない。現行の案では、いかに財政の出動をなくして景気を刺激するかに重点がおかれている。なかにはどうしてこれが景気対策なのか疑問に思われるものもある。
    ただし、今回の対策はあくまでも第一弾であり、今後は税制の改正を含めた第二弾が考えられていると言うことなので、これが公表されないと景気対策の全体像は判らない。税制の改正は来年度の改正に合わせて検討すると言うことなので、今回の対策には含まれていない。たしかに今回の景気対策には「減税」などの財政政策が含まれていないと言う非難がマスコミ等でなされているが、自民党も「減税」ついて全く考えていないと言う訳ではなさそうである。多少マスコミが先走っているようである。ただ、来年度の税制改正を待って、景気対策を行なうと言ったのんなことを言っているのが、今の自民党や政府であることも事実である。もっとも野党にも有力で具体的な案があるわけではない。
    最近になって自民党の非主流派である保保派から「10兆円の景気対策提言」が出されているが、このグループの中心メンバーの一人、与謝野前官房長官は、半年前の財政構造会議の際には今後の財政で公共事業を極力抑えることを主張した政治家である。これによる景気に対するマイナスは、「規制緩和」を進めることによって解決すると言っていた。立場が替われば、意見も変わると言うのも変な話である。ただし、一方のこのグループの有力メンバーである亀井前建設相は昔からの公共事業の積極論者である。つまり保保派も一枚岩ではないと言うことであろう。いずれにしても、このグループの動きは今後注目される。
    現時点の自民党の対策に全く興味がないと言うわけではない。注目されるアイディアの一つに「農地の転用の規制緩和」がある。これは農地から宅地への転用をスムーズにすることを意図していると思われる。これにより宅地の供給を増やし、住宅の建設を刺激しようとするものであろう。これの主な対象は地方ではなく、大都市圏のはずである。しかし、筆者はこの案に賛成であるが、現状ではこれがどれだけ有効に働くか疑問に思っている。大都市圏で宅地となりうる農地の大部分は都心から相当離れた所である。片道が1時間半以上の所であろう。最近都心への回帰現象が起こっている。つまり、あまりにも新しい住宅地が都心から離れており、体力的に通勤が無理であるからである。小さくても都心のマンションの方が好まれるのもこう言った事情が背景にあると思われる。都心の地価の落ち着きも、この流れを加速している。そこでこの「農地の転用の規制緩和」が唐突に感じられるのである。「農地の転用の規制緩和」は本誌でも6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」などで何回も主張しているように大都市圏における交通インフラの整備を行なうことによって始めて意味を持つのであり、これ単独ではほとんど有効には働かないと思われる。
  • 新進党の景気対策
    野党第一党である新進党の景気対策は、昨年の総選挙の時の公約の延長線上にある。この公約の骨子は、次の通りである。
    1. 消費税は3パーセントの据え置く
    2. 所得税と住民税を半減させることにより、今年度から18兆円の減税を行なう
    3. 行政改革,地方分権,規制撤廃を断行し、国と地方の経費を20兆円以上削減する
    4. この他に公共料金の引き下げや官僚依存体質の打破を行なう
    この公約に対しては、党内で議論されたものではないと言う非難や、減税の財源が根拠がはっきりしていないと評判は良くなかった。また、「月刊文芸春秋2月号」上での指摘では、このアイディアそのものが、盗用されたものであると言うことであった。故松下幸之助の「無税国家論」の提案に基づき経済学者がシュミレーションした結果を「日本再編計画ー無税国家への道」と言う書籍にまとめた。新進党の公約はこれの盗用と言うことらしい。しかし、新進党の党首小沢氏は、元々新保守的な考えの持ち主であり、政府は経済にあまり関与しない、いわゆる「小さな政府」論者である。新進党内ではこの公約についてほとんど議論されていないようであるが、この考えは党首小沢氏の思想をよくあらわしたものである。
    筆者は、政府が効率的に機能すべきで、かりにこれで経費が浮けば、減税も考えるべきと思っているが、「小さい政府」論には疑義がある。詳しくは号を改めておこなうが、簡単に述べれば、経済が一定の発展をとげた国では、国民はむしろ公共的な欲求が大きくなるのではないかと考えるのである。日本ように「住」は不十分であるが一応「衣食住」がそろった国においては、国民の要求は今後「環境」や「交通渋滞の解消」と言った公共的要求に向かうと思われる。つまり「小さな政府」論とは反対の方向に国民の欲求は向かうのである。「小さな政府」論の手本とされる米国でも今後は「治安」とか「教育」と言った公共的要求が強まると考えられる。
    新進党の景気対策もこの「小さい政府」論の延長で、「減税であり、その財源は公共事業の削減と政府の無駄な経費の削減」である。なぜ新進党の政策を取り上げたかと言うと、マスコミに登場する論者のほとんどがこれと似かよった意見を述べているからである。これらの人々はほとんど「小さい政府」論者なのである。
    筆者は、この「小さい政府」論者の景気対策が全く景気対策にはならないことを指摘したい。場合によってはこれが景気にマイナスとなることも考えられる。この対策では減税を行ない、景気の刺激をするが、この財源を支出の削減に求めることになる。かりに1兆円の減税を行なうと、貯蓄率を15パーセントとすれば、残りの8,500億円が第一次の需要を作り出し、第一次の需要の需要が第二次の需要を作り出すことになる。そして、第二次の需要の需要は8,500億の85パーセントの7,225億円と第一次の需要から貯蓄分を差し引いたものになる。この経済の波及は第三次,第四次と続くことになる。理論的には合計5兆7千億円になるが、実際はこんなには大きくならない。同様に政府支出を1兆円削減した場合の経済のマイナス効果は6兆7千億円となる。これも理論上の計算であるが、減税によるプラス効果より大きいことは間違いない。
    「減税」が景気対策として効果をもつには、他の政府の支出を削減してはいけないのである。また、同じ額で財政出動するなら「公共事業」の方が明らかに「減税」より景気に対する効果は大きい。大蔵省も財政出動をある程度覚悟したのか、最近、「公共事業」の方が景気対策として有効で、将来の税収増も大きいと言うシュミレーションを発表し、「減税」に予防線を張り始めている。
    特に最近のように先行きが暗いと、「減税」が行なわれてもかなりの部分が貯蓄に回る可能性が高い。一時的な特別減税ではなく恒久減税にすれば、消費に回る率が高くなると言う意見があるが、それにも限度があると思われる。さらに日本のように累進課税のカーブの強い国で所得減税を行なっても、その恩恵は所得の高く貯蓄率が大きい層に厚くなる。つまりそれだけ全体の消費の増加は小さくなるのである。「減税」を期限付の商品券で行なえと言うアイディアがあるが、バカバカしいので論じない。
    「減税」では自民党が考えている住宅や教育に対する減税や所得減税の他に法人税の減税がある。これは長期的な観点から検討すべき課題であり、景気対策にはならないと考えている。また、この経済的効果もそんなに大きいものではないと思っている。これについても後日述べたい。

  • 景気対策と所得の分配
    世間では景気対策として所得税の減税を求める声が日増しに強くなっている。「減税」の効果が小さいことは述べたが、財源が問題である。赤字国債で行なえばそれなりの効果はあるが、他の支出、特に公共支出をその分削減すれば、上記で述べたように景気に対してはかえってマイナスになる。「減税」と「公共事業の削減」をセットで考えることは、これは景気対策ではなく「所得の分配」の問題である。つまり建設業者に分配される所得を、減税を行なうことによって、それを納税者で分けると言う話である。しかし、話が分配のことに及ぶと難しいことになる。この話は「景気対策」とは別の次元の話として論ずるべきである。
    無駄な経費の代表として「官官接待の費用」がよく取り上げられる。しかし、この費用も末端で全て費消されているならば、この分を減税するよりも景気にはプラスなのである。よく景気対策として「官官接待の費用」などの無駄をなくし、その分を減税すべきと言う論者がいる。気持ちは分かるが、これも「所得の分配」の問題である。皮肉にも無駄と思われる政府の支出の方が減税より景気にはプラスのケースがありうるのである。しかし、これらの経済効果は消費拡大に限ったものである。民間の誘発投資を考慮した場合には、政府支出の内容によって効果は異なってくる。これについては来週号で述べたい。ただし、「減税」ではこの民間の誘発投資はほとんど期待できない。

景気対策としては、この他に「規制緩和」がよく話題になるが、本誌で何度か述べたように、これは需要の増加にはほとんど効果がない。場合にはよっては、「規制緩和」が景気に対してマイナスになることもありうるのである。これについてもそのうち再論したい。
来週号ではいよいよ、本誌が考える「景気対策」を述べたい。株式市場も混乱しているが、世界経済の方向がはっきりするにはもう少し時間がかかると思われる。筆者にはこのカギを握っているのは、意外にも日本であるような気がしている。つまり世界経済と、日本がどれだけ協調的な政策が採れるかと言うことである。



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97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
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