- 消費税のマクロ経済への影響
財政再建(プライマリーバランス回復)のための具体的な案として、消費税の7%の増税が囁かれている。97年に消費税が3%から5%に2%増税され、この時には卸売り物価が0.6%、消費者物価が1.8%上昇している。このことから消費税が7%増税されたなら、おそらく物価は5%くらい上昇するものと推定される。つまり物価上昇の5%という国民負担によって、財政再建の実現をしようというものである。
また公的年金の財源を捻出するとなると、さらに消費税の増税(一応これも7%の増税を想定)が必要となる。おそらく両者の合計である14%くらいの消費税の増税が必要となり、物価は10%くらい上昇することになる。つまり財政再建だけでなく、年金の財源の確保まで行うには、10%の物価上昇という国民負担が必要になる。
しかし消費税が14%も増税となれば、ある程度のデフレ圧力が発生し、経済はマイナス成長となると考えるのが普通である。ところが財政再建原理主義者は全く逆の想定を行っている。財政再建(歳出削減と増税)の試算はいくつかの所から出ている。先週取上げた財政制度等審議会は、1%台半ばから3%の経済成長を想定している。また経済諮問会議の「21世紀ビジョン」の試算では3〜4%の経済成長を想定している。何と財政支出を削減したり増税を行った方が、経済は順調に成長するということになっているらしい。
これらの試算の前提となったシミュレーションプログラムの中身は不明である。しかし歳出削減や増税を行った方が経済成長率が大きくなるなんて異常な話である。驚くことに「消費税を増税した方が、国民は安心をして消費を増やす」という想定もあると聞いたことがある。あほらしい話であるが、これについてはそのうち本誌でも取上げる。また消費税と経済成長の話は後ほど改めて行う。
年金と消費税の話に移す。先週号で、年金支給の財源として年金積立金を担保にした国債を発行し、これを日銀が購入(引受)するアイディアを紹介した。これは通貨の増発を意味し、物価上昇の要因となる。ただし今日のように巨額のデフレギャップが存在する時には、仮に物価上昇があってもかなり緩慢なものに止まるものと考える。つまり5%の物価上昇となれば、相当の額の担保国債発行とその日銀引受が可能と考える。
年金の財源が問題になっている。消費税の増税を財源にするという意見がかなり有力である。それに対して筆者は、消費税の増税で財源を捻出することに賛成ではあるが、消費税の増税の前に、年金積立金の取崩の先行を提案している(なおかつ積立金を取崩し方として、積立金を担保にした国債を発行し、これを日銀が購入することを考えている)。
まず消費税を7%増税すると5%くらいの物価上昇という国民負担が生まれる。もう一つの方法として物価が5%上昇するまで、年金積立金を担保にした国債を日銀引受で発行することが考えられる。両者はともに5%の物価上昇という負担を国民に課すことになる。つまり物価に関しては、両者の国民負担は同じ程度になる。
しかし消費税を増税すれば、ある程度のデフレ圧力が発生する(財政制度等審議会や経済諮問会議などの御用知識人は、逆に経済が成長すると言っているが)。筆者は、増減税が経済に与える影響はそれほど大きくはないが、減税はプラス、増税はマイナスと認識している。
小渕首相時代のデフレ対策の際には、財政支出より減税の方が効果があるという論調が圧倒していた。筆者は、減税の経済効果は小さく、財政政策を中心にデフレ対策を行うべきと主張した。その後の経済の推移を見れば、やはり筆者の意見の方が正しかったのである。ところが今日、増税した方が経済がより成長するという人々が現れた。奇妙なことにこのような主張を行っている人々は、小渕政権当時、減税こそ大きな経済効果があると言っていた人々と重なる。要するにこの人々にとって増減税の経済効果はどうでも良く、「所得税と法人税を減税し、消費税を引上げる」ということが最終目的だったのである。
- デフレ経済と年金
財政再建や年金ための財源に充てるとして消費税を引上げると、政府部門の貯蓄が増える(あるいは赤字が小さくなる)。つまり消費税増税で資金が政府部門に吸上げられるが、この資金は国債の償還に使われたり、当面は年金の積立に使われることになり、経済に循環しないことになる。
これに対して筆者のアイディアでは、年金積立金を担保にした国債の日銀引受による財源を、年金支給に使ったり、年金保険料の引下げに使う。年金支給を増やしたり、年金保険料の引下げに使えば、政府部門の貯蓄は減ることになる。これによって有効需要は増え、確実に経済は成長する。また経済が成長することによって物価は少し上昇する。
つまり物価上昇という国民負担の発生については同じでも、マクロ経済に与える影響は正反対である。前者ではさらにデフレが一層激しくなり、失業が増える。筆者のアイディアなら、経済成長によって失業は減る。
筆者は、日本経済のデフレ体質を分析した結果、原因は過剰貯蓄の存在と、その余剰な資金が経済の循環の中で滞留していることと指摘した。これについては本誌でも04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」以降で詳しく述べた。筆者は、過剰貯蓄の大きな原因を、具体的に土地の売却代金と年金の積立金と指摘した。
しかし土地の売却代金がいきなり消費に回るということは難しい。金利がほぼゼロでも、この資金が金融機関に眠り続けていることを見ればご理解できるであろう。一方、公的年金の積立金は、一応政府のコントロール下にあり、これを取崩すことは可能である。しかし年金積立金も色々の形で運用されているので、いきなり取崩すことは難しい。
年金積立金を担保にした国債の発行し、これを日銀引受にすることは苦肉の策である。しかし年金の財源に将来行う消費税の増税を充てると法律に明記すれば、今日存在する197兆円の年金積立金は不要になる。筆者のアイディアでは、とりあえずこれが100兆円になるまで、年金積立金の取崩(国債発行と日銀引受)を先行させ、消費税の増税の実施はそれまで待つことにする。またこの結果が好ましく国民の理解が得られるなら、このラインを70兆円、50兆円と引下げることも考えられる。
筆者のアイディアは、実質的に通貨の増発であり、今日のようなデフレ経済においては好ましい。しかし景気が良くなり過ぎ、もし日本経済がインフレ気味になったら(このような状況は近頃絶えてなかった)、年金積立金担保の国債の日銀の引受を減らし、市中にこの国債を売却すれば良い。また年金積立金で運用している国債や株式を直接売却する方法もある。
今日、年金問題の論議は、個々の関係者の利害だけを考えて行われている。厚生労働省は、将来の年金が心配と保険料の引上げと年金支給額の削減・支給開始時期の延期にこだわる。財務省は、年金の財源にするのか、それとも財政収支の均衡が目的なのかはっきりしないのに、消費税の増税には一生懸命である。財界は、企業の保険料の負担を避けることしか頭になく、消費税の引上げにこだわる。
いずれにしても自分達から半径1m以内でしか物事を考えていないのだ。彼等は国民経済や日本経済のデフレには全く関心がない。マクロ経済への影響を問われると、経済学者としてのプライドをなくした者達が、インチキなシミュレーションをでっち上げ、国民負担が増えても経済成長すると言ったデタラメな説明書を用意する。まさに日本は末期的である。
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