平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




05/5/30(391号)
マクロ経済政策で解決するもの

  • 一般会計歳出の3割カットよ!
    最近、財政制度等審議会が打出した財政健全化(何と10年後、基礎的収支を均衡)への三つのシナリオが話題になった。第一が国債費を除く一般会計歳出の3割カットである。第二が歳出規模を現状のまま維持し、消費税率を19%に引き上げる。第三が消費税率を12%程度に引き上げ、社会保障費以外の歳出を削減する。当然、第三のシナリオが当局の狙いである。つまりプライマリーバランス回復のために、今日の緊縮財政を続け、消費税をさらに7%増税するという案である。

    TBSテレビ系「みのもんたの朝ズバッ!」でも、この話を取上げていた。するとこの番組のレギュラーコメンテーターのおばさんが「増税なんてとんでもない。当然、第一の案である一般会計歳出の3割カットよ!」と叫んだ。みのもんたも「最近の大阪市のようないい加減な金の使いを見たら、それしかありませんな!」といった風な言い方でこれに同調した。とにかく税金を多く払っている方々は、増税と言うと拒絶反応があり、財政再建と言えば財政支出を削ることを主張する。


    筆者は、先週号で述べたように日本の債務残高はヴァーチャルなものと考えている。したがってこの番組も最初は聞き流していたが、さすが「一般会計歳出の3割カットよ!」にはびっくりした。「3割カット」と言えば、14〜15兆円に相当する。つまり14〜15兆円の財政支出が削減され、削減された状態がずっと続くということになる。しかし財政支出が削減はマイナスの乗数効果を生む。内閣府の経済モデルでは、公共投資の実質GDP押し上げ効果は3年間の累積で3.28になる(公共投資以外の政府支出の実質GDP押し上げ効果もほぼ同じ値と思われる)。したがって3年後には、実質GDPは46〜49兆円減少することになる。

    実質GDPが46〜49兆円も減少すれば、税収はかなり減少することになる。しかし財政制度等審議会はちゃんと計算している(シミュレーションなどによって)と考え、それでも毎年14〜15兆円の一般会計歳出のカットの効果の方が大きくて、10年後には基礎的収支を均衡すると理解する他はない。財政制度等審議会が、ちゃんと計算しているかどうかについては来週号で触れるのでここでは止める(なんと財政制度等審議会は、1%台半ばから3%の経済成長を想定している)。ただ「歳出の3割カット」によって実質GDPが10%弱減少することは、机上で計算ができる。

    筆者が問題にしたいのは、「みのもんたの朝ズバッ!」で「一般会計歳出の3割カットよ!」と叫んでいたおばさんコメンテーターが、実質GDPが10%弱も減少することを本当に分っていて、この発言をしているのかという点である。実質GDPが10%弱も減少すれば、デフレがさらに深刻化し、失業もかなり増えるはずである。おそらくこのコメンテーターは、何も考えていないのであろう。

    このコメンテーターの場合に限らず、マクロ経済、あるいは経済の全体を無視したような発言がマスコミでまかり通っている。原因は経済についての基礎知識の欠如である。しかし経済のメカニズムを理解しないまま手当りしだいに行われている発言が、テレビを通じ一般の人々に悪影響を与えていることが大問題である。


    当り前のことではあるが、一つの好ましい出来事が起っても、それが原因で好ましくない出来事が引き起される事が多い。輸出の増加は、国民所得を増やし雇用を増やす。しかしこれによって貿易黒字が増え、円高と言ったマイナスの現象が起る。規制緩和でタクシー料金が下がって消費者は喜ぶが、タクシードラバーの収入は減少し労働は強化される。

    マクロ経済学では「合成の誤謬」という言葉がある。「各経済主体にとって利益を最大化する行動が、かえってマクロ経済にとっては利益を減少させる結果になる」ことである。例えば企業の人員整理などの合理化は、その企業にとって利益となるが、社会全体で見れば失業が増えるという不利益を生む。今日、企業利益が増えているが、雇用者報酬が減っているのも一種の「合成の誤謬」である。

    最近、個々の事柄を改善することばかり強調され、全体への影響を無視した議論が多い。日本国民全体が、自分から半径1m以内でしか物事を考えなくなっている。経済問題をミクロでしか捉えず、マクロの観点がスッポリ抜けているのである。「一般会計歳出の3割カットよ!」発言もその一つである。テレビに登場する識者と言われている人々の思考回路がニワトリ並になっているのだ。しかし今日日本経済が抱えている問題は、ミクロの改善では解決しない。マクロ経済の観点からの解決策が必要である。


  • 年金問題の解決案
    そこで今週からマクロ経済の観点から年金問題を取上げる。昨年、年金法の改正が行われたが、将来の問題の解決は先送りされた。本誌では03/12/15(第326号)「日本の公的年金」で一度だけ年金を取上げたことがある。基本的には、この時と考えは変わっていない。しかしここからもっと具体的な提案を行う。

    年金問題を考えるには、日本の経済と社会が大きく変化したことを考慮する必要がある。日本の年金制度は、大半の人々が企業や役所で定年まで勤め上げることを前提にしている。そして定年後の生活費を保障するものが厚生年金や共済年金である。一方、自営業者は、定年がなく老後の心配は少ないという前提で、国民年金は小遣い程度であれば良いと設計されている。


    昨年の年金改革といっても、「現役時の50%の維持」とか「そのための財源としての加入者の負担増」と、ほとんどの議論の対象は厚生年金と共済年金に限られていた。結論も将来の支給額を減額し、月々の保険料を引上げるといった誰もが考えそうなことである。しかし今後も経済の停滞が続き、少子化が進行し、年金受給者の寿命が延びれば、さらに支給額の削減と保険料の引上げが必要になる。

    ところでこんな調子で、公的年金の問題が解決したなんて考える者は全くいない。特にバブル崩壊後、日本の雇用情勢はガラッと変わった。正社員がどんどん減り、派遣社員、アルバイト・パートなどの臨時雇用が増えた。とても厚生年金と共済年金だけで年金問題を語れなくなっている。さらに自営業者も大手業者との競争が激しくなり、店をたたみ廃業する人が激増している。

    厚生年金と共済年金はまだ良い。しかし国民年金を巡る現状は悲惨である。先週号で触れたように、国民年金の納付率は60%である。しかし社会保険庁は、本来の国民年金保険料納付義務者を正確には把握していない。国民年金の未登録者が相当いると思われる。筆者の感触では、将来まともに国民年金を受取れる者の割合は良くて5割程度である。つまりこのままではものすごい数の無年金者が発生することが確実である。関係者は、恐くて口にだせないことであろう。


    自己責任が建前上強調されている今日、将来、千万人単位の無年金者が生まれてもしょうがないとされている。しかし一方には、この国民年金の無年金者の問題、負担能力を越えてどんどん上がる厚生年金の保険料を考えると、このままでは公的年金制度が持たないと感じている人が多くいるのは当然である。この解決法の一つが、消費税の大幅増税による年金財源の確保である。

    詳しくは、来週号で説明するが、筆者も年金の財源として消費税の増税はやむを得ないという立場である。もっとも財源を税金ということになれば、所得税や法人税の増税でも良いとも考えられる。ただ説明のしやすさを考えて、ここでは一応消費税の増税を念頭に置く。


    消費税の増税分を年金の財源にするという考えは、かなり一般的である。民主党の年金改革案も消費税を充てるようになっている。自民党の中にも、保険料だけでは限界があり、消費税増税を財源にする意見はある。ただ小泉首相が、在任中は消費税を上げないと宣言しているから、具体的な話がなされていないだけである。

    しかし世間の消費税を年金の財源にするというアイディアと、筆者の考えの間には大きな違いがある。筆者は、法律の上では消費税の増税を年金の財源に充当する形にするが、消費税の増税の実施に条件をつける。今日、公的年金には197兆円の積立金がある。この積立金の取崩しを先行させ、消費税増税は、積立金が一定額を下回った時に初めて実施することを考えている。


    公的年金の積立金の取崩しはあまり考えられていない。しかし将来の年金支給が心配とただちに消費税の増税が行われた場合、さらに日本経済にデフレ圧力が掛かる。そこで筆者は、例えば積立金が100兆円に減るまで消費税を上げない形を考えている。つまり積立金残高100兆円が消費税増税のトリッガー(引き金)になる。さらに積立金の取崩しを使って厚生年金の保険料の引下げまで考えている。

    ところで積立金の取崩し方法が問題になる。現在年金の積立金は、国債や株式などで運用されている。もし年金の支給に充当のために積立金を単純に取崩すとなれば、運用している国債や株式を売却することになる。しかしこれらを市場で処分するとなったら、市場は暴落する可能性が強い。それではまずいので、筆者は公的年金の積立金を担保にした国債を発行し、かつこれを日銀に売却することを考えている。担保国債を発行し、日銀が引受た金額が取崩額になる。

    おそらくこのような方法で年金支給に積立金の取崩しを使えば、経済は確実に上向く。これによって税収も増えるはずである。この増えた税収を年金の積立金に繰入れることによって、消費税増税のトリッガーが引かれる時期をさらに遅らせることができる。うまく行けば消費税増税のトリッガーを引くことなく、年金の財源問題が解決する可能性さえ考えられる。このように年金問題は、マクロ経済の観点から考えなければ、絶対に解決しない。年金問題は、議員年金や保険料の未納者といったミクロの問題ではない。



来週は、年金問題解決のアイディアについて、マクロ経済の観点からもっと詳しく述べる。

自民党武部幹事長は、中国に行って、「日中共同宣言の中には相互内政不干渉の原則であり、中国の首相の靖国神社参拝への抗議はまさに内政干渉である」と発言し、中国側から猛烈が攻撃を受けた。情けないことに武部幹事長は、発言を撤回したそうである。しかし外交とか外交交渉とは、建前はどうであれ、互いに相手の内政に干渉することである。日米間でも、米国は日本に牛肉を買えと言ってきているし、日中間では日本が中国ガス田の開発にクレームをつけている。これらを最初から「内政干渉」と切捨てるなら、外交なんてなくなる。

日本国内で、中国が首相の靖国神社参拝に対して非難していることを「内政干渉」というのはかまわない。しかし外交交渉の席上で「内政干渉」だから話を聞かないというのでは、わざわざ中国に出掛ける必要はなかったのである。しかし互いの「内政干渉」のやり方が、今後の両国の国交のあり方に影響する。もし中国からの理不尽と思われる「内政干渉」的発言が今後も続き、それが日本の国民にとって不快なようなら、日中友好なんて成立たない。実際、そろそろ中国との付合い方そのものを見直す他はないのではないかと考える。

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