平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/10/27(第39号)


景気の現状と対策を考えるーーその2
  • 今後の景気の動向ーーその2
    先週号10/20(第37号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」に続き、今週号でも今後の景気に悪材料と思われる事柄を述べる。誤解してもらっては困るのは、筆者はけっして日本の経済自体がダメになったとは考えていない。むしろ経済の潜在的な力が発揮できない状態が長らく続いているだけと言うことである。また、他の国に比べ大きい国民の貯蓄が、うまく生かされていない状態が問題と考えているのである。
    1. 公共事業の削減によるマイナス
      公共事業の削減が景気にマイナスであることは単純で分かりやすいことである。取り敢えず来年度は金額ベースで7パーセントのカットの方針である。さらにそれ以降は削減額が増えることになっている。削減方法としては、「工事量の削減」と「積算単価の切り下げ」であるが、マクロ経済では双方の効果に大した違いはない。
      たしかに「内需拡大策」以降、日本の建設土木会社の数と従業員の数は増えている。この現象は他の産業が従業員を減少させている状況と反対である。このことがリストラに直面している他産業からは、この業界が甘い業界との非難がでる要因であろう。事実この業界の「談合事件」に見られる旧態依然とした体質は責められても仕方のないものである。しかし、この業界が「円高不況」による各企業のリストラで余剰となった労働者の受け皿になったのも事実である。もしこれがなかったら85年以降もっと失業率は高い水準で推移したであろう。
      官需が減少しても、その分民需が増えればかまわないが、今日これがほとんど期待できない。したがって公共工事の削減がなされたならば、確実にこの分野から失業が発生する。また、このような状況下では工事関連の設備投資も確実に減少することになる。
      関連で、この業界の「不良債権問題」を避けることができない。バブル期に作った不良債権に加え、バブル崩壊後海外に需要を求めた企業は昨今のアジア諸国の金融不安に端を発した不況でさらに不良債権を増加させている。ここ半年でも大手の建設会社が数社「会社更正法の申請」を行なった。事実上の倒産である。この傾向は今後も続くであろう。話はずれるが、最近はあまりも会社更正法の申請が多いので、良い弁護士が不足気味と言うことである。またどの会社も借入金が多いため、早めに会社更正法の適用を受けた方が金利の負担がない分競争上有利になると言うことである。つまり早く再建するためには早く倒産した方が良いと言うことが成り立つのである。しかし、これでは債権者はたまったものではない。
    2. 金融機関の不良債権の悪影響
      世間では景気浮揚のために「金融機関の不良債権問題」を解決することが大切と言う論者が多いが、これは全く理屈にあわない。不良債権を償却するには、銀行は業務利益を大きくする必要がある。業務利益を大きくするためには、預金利息を低くし、貸出金利を高くすることになる。そしてこれは預金者の購買力を減少させ、貸出先企業の経費を増加させることになり、これらはいずれにしても景気にはマイナスである。もちろん業務利益が増えた分、銀行が経費を増加させるか設備投資を増やせば、前者のマイナス分は相殺されるが、ひたすら不良債権の償却に当てられるならば、マクロの需要はそれだけ減少することになる。業務利益の増加は銀行の経費節減で行なっていると反論し、かりにそれが正しいとしても、この場合でも銀行の経費節減によるマクロの需要の減少と言う点では同じである。つまり、金融機関が不良債権を償却すればするほど、景気は低迷することになる。
      公的資金つまり政府の金でこの不良債権を償却すれば、話は違う。多くの論者が言うように景気にプラスになる。しかし、公的資金の使用は銀行の方で拒否するであろう。公的資金の使用は経営陣の責任問題に繋がるからである。また、公的資金の使用は政治的にも難しく、当分無理であろう。したがって、現在の銀行の再建は国民の負担と不良債権償却による納税額の減少によって行なわれているいるのが実態である。つまり、知らない間に公的資金が使われているのと変わらないのである。そしてこの景気のマイナス要因は今後も続くことになる。
      銀行が業務利益を増やしていると言うことは、銀行間の競争が激しくないと言うことを意味している。筆者は、これは実質的なカルテル行為が行なわれていることを示しているのではないかと考えている。
    3. アジア経済の混乱による悪影響
      本誌でも7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」で指摘したように、中国を含むアジア経済の脆弱さと、それにあまりにものめり込み過ぎている日本の金融機関と企業がいずれ問題を起こすとを本誌は危惧していた。それが今日のアジア経済の混乱やヤオハンの倒産に見られるようにこんなに早く現実化するとは、筆者も驚いている。
      アジア経済のスランプは日本企業、特に金融機関の不良債権の増加につながる。新たなる不良債権の追加であるが、これについては上記「金融機関の不良債権の悪影響」と重複するので、これ以上の話は省略する。
      アジア経済のスランプは日本から輸出の拡大に障害になる。また、アジア各国からは日本への輸出に当然ドライブがかかることになる。為替レートもこれらの動きに都合の良い方向に動いている。対アジアとの交易条件の変化も、今後は日本の景気にマイナスに働く。これらがどれほどのものなのか、当面見守ることになるが、以前に比べ影響力は大きくなっているはずである。
    4. 政府資産の売却による悪影響
      これは額としては大きくないが、景気にはマイナスであることは否定できない。JRの株式など、政府の所有する株式が順次売却されている。つまり民間の資金が政府に移動している。もし、この資金が新たに政府の支出として民間に還流するのなら問題ないが、国鉄の長期債務や財政赤字の引当に当てられるだけならば、これは景気にマイナス要因として働くであろう。今後、国鉄の長期債務の処理が問題となろうが、このために新たな税の創出となれば、これは即、景気へのマイナス要因となる。
    5. 政治家と官僚の景気に対する認識
      「景気は歩は緩やかではあるが回復基調にある」と言う言葉に象徴されるように、政府の景気に対する認識は極めて甘い。したがって今後打ち出される対策も期待できない。今回の景気後退局面での特徴は、政治家の認識も甘いことである。一つには当分選挙がないことが影響していると筆者は考えている。半年ほど前、橋本総理と小沢新進党党首との間で「行政改革を進めるために当分選挙は行なわない」と言う点で合意している。これは野党にとっても都合の良いことである。また、小選挙区制もこの政治家の行動に影響しているのか、以前に比べ末端の声が党の中央に届きにくくなったと考えられる。一つの党から候補者が一人であり、現役優先と言うことになれば、選挙民に対するサービスも低下するのである。筆者は、このような政治家の景気に対する無関心さが、今後訪れる不況を深刻なものにすると考えている。
      政治家に輪をかけたように官僚は景気に全く関心がない。自分達は失業する心配はないと言うことなのかもしれないが、今回はひどすぎる。もっとも、よく考えてみると政府には「景気」を司る部署はないのである。かろうじて関係があるのは大蔵省である。景気が悪くなれば、税収が減るからである。ところが最近では大蔵省も景気を気にしていないようである。この原因の大きいものは「消費税の導入」と、筆者は考えている。消費税の導入に際しては色々議論されたが、それらは相当に的はずれたものであった。筆者は、それが低率であれば消費税に決して反対ではないが、反面、問題点も大きいと考えていた。それは官庁、特に大蔵省が経済の動向に関心を持たなくなるのではないかと思われたからである。現在、一応その予想が当ったことになる。そもそも「消費税」は景気に左右されない大きな財源を持つと言う大蔵省の悲願を実現したものである。「消費税」の導入では「直間比率の是正」など、どうでも良いことに議論が集中したが、一番大切なことに関心が向かなかったのである。
      現時点ではそんなに景気が落ち込んでいるわけではないが、景気後退がはっきりしても、当分抜本的な景気対策は打たれないと世間はうすうす気がついている。こう言ったマインドがさらに景気をさらに落ち込ませているのである。
    現在政府は、景気対策を検討しているが、これらはあまり効果が期待できない。世間ではそれとは別に景気対策として色々なアイディアが出されている。来週号ではそれらについて検証してみる。
    ここ1,2年の間に政府は財政再建を政策の一番に目標となっている。その目標では「2,003年までに財政赤字をGDPの3パーセントに抑える」と言うことらしい。この3パーセントと言う数字はEUの参加基準と同じであり、この数字を意識したものであろう。しかし、この3パーセントと言う数字は経済的にはほとんど意味はない。国によって経済の基盤や経常収支が異なるのであるから、どの国も許容の赤字の比率が一定の範囲に収まれば良いと言うものではないはずである。どうも政府はこの3パーセントと言う数字にまさしく「呪縛」されている状態である。これについては別の機会に述べたい。



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97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
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97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
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97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
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