- 移民との融合
ちょっと古い話ではあるが、元国連大使の波多野氏は、テレビ番組(読売テレビのウェークアップ)で、日本のタクシー料金が高いことに憤慨していた。氏は「米国のタクシーの運転手にはインド人が多く、人件費が安いから料金も安くなっている」と解説し、「日本もどんどん外国人ドライバーを入れてタクシー料金を安くすべき」と主張していた。(もっともたとえ日本のタクシー料金が高いとしても、これがドライバーの給料だけのせいではないと思われるが。むしろ規制緩和で、今日の日本のタクシードライバーは酷い目に会っている。)
経団連は、将来の人手不足を見越し、外国からの単純労働者の流入を容認することを主張している。ある大手居酒屋チェーンの従業員の3割は中国人である。従業員を募集すると、応募者の8割は中国人という話である。またフィリピン政府からは、フィリピンの看護師を受入れるよう強い要請がある。このように合法・違法を問わず、外国人労働者の問題が身近なものになっている。
筆者は、政府公表の失業率は実態を表しておらず、実質的な日本の失業率は20%くらいと推定している。ところで日本だけでなく先進各国はどこも、自国民の失業問題を抱えながら、外国人労働者や移民の問題に直面している。しかしどの国もこの問題を解決できず、むしろ深刻化させている。
最近、スペインの移民に対する規制緩和がEUで問題になった。スペインのサパテロ社会労働党政権は不法滞在している移民に対し、半年間の居住証明や雇用契約の存在など一定の条件を満たせば、滞在を認める特別政策を導入した。同国には中南米や東欧、北アフリカからの不法移民が100万人以上いるといわれ、政府には「地下経済を明るみに出し、不法就労をやめて正規雇用させることで社会保障などの税収増を図る」との狙いがある。
しかし移民がいったん滞在・労働許可証を得ればEU域内を自由に移動できるため、移民増に悩むドイツやオランダが「スペインは関係国に事前に相談するべきだった」と反発している。国内でも野党が不法移民の急増を招くと批判する。ちなみにEU各国は、移民を熟練工など、特殊な技術を持ち、自国語に習熟した者に制限するという流れにある。さらに難民受入も拒否する動きが広がっている。
欧州各国は多くの移民を抱え、移民にまつわる問題が常に起っている。どの国にも失業者がいて、特にこれらの人々と移民との間の軋轢が深刻になっている。日本ではあまり報道されないが、英国、フランス、ドイツでは、よく元の国民と移民との間に抗争が起っている。最近では、前に本誌で取上げたようにオランダでのイスラム教徒の移民が問題になった。
移民と元からの国民が簡単に融合できるのなら、移民を巡る問題はさほど大きくならなかったかもしれない。しかし移民と元の国民との間に価値観や宗教観に大きな違いがある場合、両者の融合は難しい。特に最近問題になっているオランダは、麻薬や売春が制限はあるが合法化されているようなリベラルな国である。したがってイスラム教徒の移民がオランダ人の価値観に同調することはちょっと考えられない。筆者は融合する可能性が極めて小さい人々を、移民として受入れて来たオランダ人側にも大きな問題があると考える。
移民が就く職業は、自国民があまりやりたくない低収入のものばかりである。競争が激しい製品の製造現場や日本で言うなら3Kの仕事が中心である。しかし移民にとっては、母国での雇用環境を考えると、移民先の国は天国である。また受入れた国も、当初はむしろ積極的に移民受入を受入れていたふしがある。政府も移民によって物価上昇が抑えられるといった、目先の利益に目がくらんだのである。
移民は、雇った雇用主にとって都合の良い存在であった。自国民を雇うより、賃金は安くて済む。しかし彼等にとって、将来、移民と元の国民との間に軋轢が生じるなんて知ったことではない。これこそが資本の論理である。昔、米国の南部では、農場主がアフリカから奴隷を連れてきて働かせた。これが後の時代の人種差別問題を生んでいる。移民の国の米国でも民族の融和が難しい。ましてや長い歴史を持つ欧州各国が、今後移民とどう融合して行くのか注目される。
- グローバリズムと臨時雇用
移民や外国人労働者を巡る問題に関しては、欧米での出来事が参考になる。したがって経団連が唱える単純労働者の受入に対しては、強い違和感を感じる。だいたい、今日、単純労働者を積極的に受入れようという国は、先進国では皆無であろう。どの国も痛い目を経験している。経団連は一体何を考えているのか。
日本においても、製造現場や3K職場に人が集まりにくいという話がある。しかしだから外国人労働者の採用をという話は、あまりにも単純で短絡的である。筆者は、このような職場でこそ日本人が働くべきと考える。人が集まらないなら、雇用条件を良くすれば良いのである。徹底的に良くするのである。少なくとも日本には潜在的な失業者が溢れている。
話はちょつと変わるが、究極の3K職場は軍隊である。自国民が軍隊はいやと言うのなら、傭兵を雇う他はない。米国に守ってもらえば良いという発想もこの延長である。しかし米国人が本当に命を掛けて日本を守ってくれるのか疑問である。また歴史に学べば、傭兵に滅ぼされた国家もある。日本でも平安の貴族は、傭兵であった平氏や源氏にとって代わられた。
筆者は、日本人は皆3K職場を経験すべきと考える。何も自衛隊に入隊する必要はないが、若い人々は他の3Kの現場を経験した方が良い。エリートと言われる、政治家、官僚、学者は特にそうである。いかに頭だけの観念論が、現実と大きくズレているか理解できるはずである。
今日、色々な職場で、正社員から請負、そして派遣社員やアルバイト・パートに変わっている。日本においては、正社員を減らし、このような臨時雇用を増やすことが経費節減につながっている。たしかにこれまでの日本の雇用慣行では、正社員には保険や退職金の企業負担がある。
ところで日本の派遣社員やアルバイト・パートの人件費は安い。特に派遣社員については雇用条件が厳しい。欧米では、正社員と同等の仕事をしておれば、派遣社員の給与は、正社員と変わらないレベルである。日本では経済学的にも奇妙な現象が起っている。臨時雇用は企業にとって極めて都合の良い労働力である。必要がなくなったら簡単に首を切ることができる。正社員に必要な福利厚生費や退職金が不要である。ところが臨時雇用の方が正社員よりずっと企業の負担が小さい。
年収500万円の正社員には、200万円くらいの福利厚生費や退職金が必要なるため、年間の企業負担は700万円くらいになる。年間の労働時間を1,800時間とすると1時間当たり3,900円くらいの人件費負担となる。ところがアルバイト・パートなら時給は1,000円以下であり、派遣社員についても派遣会社に払う費用は時給換算で1,500円から2,000円くらいである。
このように正社員の半分以下の人件費の臨時雇用が日本では当たり前になっている。この事実は重要である。企業が合理的に行動するとしたなら、今後も正社員が削られ、臨時雇用が増やされるという傾向がまだまだ続くことを意味する。さらに正社員の雇用条件が臨時雇用に近付いて行く可能性が強い。たしかに契約社員といった中間的雇用が増えている。つまり臨時雇用の条件が正社員に近付くのではなく、正社員の雇用条件が臨時雇用に近くなるのである。
日本は、外国との競争に勝つための合理化、つまり具体的には正社員を減らし、臨時雇用を増やすという流れの中にある。しかしこのようなことをして競争力を回復させても、日本の輸出が増え、いずれ為替が円高になる。円高になれば、次の合理化が必要になるのである。日本のグローバリズムの流れへの対処方法では、結果的に日本人の雇用条件は段々悪くなる。
円高傾向が続けば、さらに正社員と臨時雇用が置き換わることになる。もし円高を阻止しようとして当局が為替介入を行えば、先週号で述べたように、その資金が回り回って日本の企業の買収資金になる。日本の政府はいったい何をやっているのかという話である。このような状況を逆転させるには、一つは内需拡大を行い、潜在失業を少なくすることと考える。
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