- 景気の現状
今日、日本の景気後退が問題になっている。各種のアンケートでも、国民が政府に望む対策のトップに「景気対策」が挙げられている。半年前までは「行政改革」が一番であったことを考えると短い期間で様変りである。本誌でも以前から「景気」について取り上げるつもりでいたが、為替レートがはっきり円高になるまで待とうと考えていたので、しばらくまとまった形では取り上げてはこなかった。 景気は文字通り「気」に左右されるものである。日本人の大半が先行きの経済が悪いと感じるなら、景気も自然と悪い方向に行く。政府がいくら「景気は回復基調にある」と言っても、国民の多くがそう思わなかったら、景気は回復しない。また、政府を支える自民党が景気対策を考えると言うことは、「景気は回復基調にある」と言っている政府の言葉が「嘘」であることを示している。ちょっと話がずれるが、これまでも政府の経済に対する見通しや現状認識が現実と大きく異なることはよくあったことである。政府の公式発表と言うものが、それ自体政策的な意味合いを持つことは理解できるが、それがいつも現実を踏まえないものなら、そのうち誰もその言葉を信用しなくなるであろう。最近こうゆうことが多すぎる。金融機関の実際の不良債権額が、政府の発表を大きく上回っていることもその一つである。政府が信頼をなくすことはこれ自体問題である。しかしこれはまた別の機会に述べたい。 世間は、現状を単純に消費不況と呼んでいるが、これは事実であろうか。これによれば、消費税のアップや特別減税の廃止と夏場の天候不順が景気を悪くしていると言う主張である。前者、つまり増税により国民の購買力が財政再建に使われたことが景気の足を引っぱっていることは事実である。しかし、「天候不順で景気が悪くなる」と言うことはちょっと考えられない。本誌では繰り返し言っているが、消費は名目所得の一定割合であるから、フトコロに入ってくる所得が変わらないなら消費水準自体はそんなに増えたり減ったりするものではないのである。かりに季節商品の売り上げが落ちても、他の物が買われているはずである。例えば、最近、音楽のCDの売り上げが落ちているが、これは携帯電話やPHSの料金に喰われているからである。また、デパートやスーパーの売り上げが減少していても、コンビニの売り上げが増えているように、簡単にはトータルの消費水準は変わらないものである。 筆者は景気を左右するのは民間の設備投資と消費の中でも投資的消費、つまり住宅への投資と考えている。民間の設備投資は現状では落ち込んではいない。落ち込んでいるのは住宅の建設である。これについては後ほどまた述べる。ただし、景気の見通しがさらに悪くなれば、民間の設備投資が減少し、本当の不況に落ち込む可能性が強い。ただ現状は、昨年までの景気対策の名残と輸出の好調さで持っている状態である。 ここまでの話は全体の経済である。個々に見ると、大手の製造業、輸出企業が好調なのに対し、中小企業、特に内需関連企業の落ち込みが大きい。ここにも本年度の政府の緊縮予算の影響が見られる。それにしても中小企業の落ち込み方が大きい。筆者は、これはもっと根本的な経済の動きの表われの一部と考えている。2年前の「円高不況」の後遺症である。大手の輸出企業は為替レート80円の円高に対処するためにリストラを行なった。もちろん本体の合理化もある程度行なわれたが、順番から言えば一番しわ寄せを喰ったのは中小の出入りの業者、つまり下請けであろう。これは部品メーカに限らない。大手企業本体はそれ以降の「円安」により業績を回復させたが、出入りの業者まではその恩恵は及んでいないのである。先週号10/13(第37号)「市場の心理を考える」で日本経済は「濡れ雑巾」と表現したが、まず絞られたのが、この出入り業者である。今後の景気の動向によっては、次はいよいよ本体の本格的なリストラに進むことも考えられる。
- 今後の景気の動向ーーその1
今回の景気後退で問題なのは、良い材料がほとんどないことである。反対に悪くなる要素なら山ほどある。それらを今週号と来週号で個々に見てみよう。
- 為替が「円高」になる可能性が強い
現在の景気はかろうじて輸出に支えられている部分が大きい。為替が「円高」になれば、景気は底割れする可能性がつよい。経常収支は毎月黒字である。これだけを見れば、いつ「円高」になってもおかしくないが、日本からの資金の流出がそれを阻止している。 これも為替の動向が「円高」傾向がはっきりして来れば、ストップするか、逆に流入してくる事態も考えられる。そうなれば、「円高」が一層加速されることになる。 投機家のソロス氏は年末の円相場を130円くらいと予想しているらしい。筆者には、本人が本気でそう思っているのか疑っている。8月の経常黒字は前年比で80パーセントの増加であった。丁度その記事が載った夕刊に「ソロス氏の標的は欧州通貨か」と言うコラム載った。執筆者の編集委員は、それに関連し、「円安」に言及していた。氏によれば「本来もっと円安になるべきところを当局が「円安」になるところを政治的に抑えてきた」と言うことらしい。そのため「円」もソロス氏の標的となり、さらり「円安」になる可能性があると言うのである。筆者とこの編集委員とは180度違う見解を持っているのである。答えはそのうち出ると思われるが、もし筆者の考えと異なって、さらに「円安」になれば、どれだけ経常黒字が巨大化するか想像もできない。特に、内需に期待できないのであるから。また、はたして各国がそのような状況を容認するか、はなはだ疑問である。 現在の為替レートの水準は121円前後である。しかし、米ドルとリンクしていたASEAN諸国の通貨が下落した。日本とこれらの国々との交易量を考えると、この下落により、実質的に現在の為替レートは5,6円の「円高」になったと考えられる。つまり現在の為替レートはASEAN諸国の通貨の下落前の115円くらいに相当する。また下落前までは、日本の主な輸出企業の採算がとれる限界の為替レートは106円くらいであったが、これも5,6円修正する必要があり、現在では111円くらいと考えるべきである。つまり、為替レートが110を超える「円高」になった場合には輸出企業も苦しくなる。
- 住宅建設が減少する可能性が強い
輸出と並んで景気を支えていた「住宅建設」が息切れしそうである。世間ではこれを消費税アップに伴う駆け込み需要の反動と見ているが、筆者はもっと根が深いと考えている。次の表は最近24年間の年間住宅着工件数である。
単位は万件
| 73 | 176 | 81 | 114 | 89 | 167 |
| 74 | 126 | 82 | 116 | 90 | 167 |
| 75 | 143 | 83 | 113 | 91 | 134 |
| 76 | 153 | 84 | 121 | 92 | 142 |
| 77 | 153 | 85 | 125 | 93 | 151 |
| 78 | 150 | 86 | 140 | 94 | 156 |
| 79 | 149 | 87 | 173 | 95 | 148 |
| 80 | 121 | 88 | 166 | 96 | 163 |
この表には載っていないが、ピークの年は72年で、186万件である。今年度の予想は137万件と政府の当初見通しより10万件少ない。まず、今年度のGDPの伸び率の政府見通しは1.9パーセントであったが、実績はこれを下回る予想が大勢を占めている。筆者はGDPの伸び率の低下のかなりの部分が、この住宅の建設の減少で説明がつくと考えている。住宅建設の10万件は金額で2兆円に相当する。さらに住宅建設には、家具などの誘発消費が伴うが、これも減少することになる。これらを合計すると、住宅建設の減少がGDPの伸び率に与えたマイナスの値は一次分だけでも0.6パーセントくらいと考えている。 問題は今後の住宅建設の見通しである。筆者には、政府や世間の予想がちょっと高すぎると考えている。筆者は、年間の日本の住宅建設の件数のベースは110万から120万件と考えている。この数字は世間の常識より30万件くらい少ない。表の数字をご覧になればわかるように、これは80年から85年までの数字と同じ水準である。筆者は、平時ではこれくらいが日本の新築住宅の需要と考えているからである。むしろ86年からの数字の方が異常なのである。今年度の137万件はこの正常値に戻る過程の数字と考えている。世間では最近の住宅建設の不振を消費税アップ前の駆け込み需要の反動ととらえているが、筆者はそれに正常値への回帰分がプラスされていると考えている。来年度以降はさらに落ち込む可能性が強い。だから「根が深い」と言っているのである。 85年の「プラザ合意」以降、為替が急激に「円高」となり、景気が深刻になった。これに対処するため採られた政策が「内需拡大策」であり、これがバブル経済のスタートになったのである。当然、住宅建設を増やすためにも色々施策がうたれた。民間の方も毎年資産価値が上がるため、住宅の建設に積極的になった。この結果、それ以降数年は、住宅建設が年間170万件前後と極めて高水準を維持した。バブル崩壊後も、住宅建設への施策が継続され、今日に至っているのである。つまり、ここ10年間は住宅に関してかなり無理をして需要を喚起してきたのである。だから、抜本的な土地政策が行なわれるとかセカンドハウスのブームでも来ない限り、住宅建設はそろそろ息切れしてもしょうがないと考えるのである。また、現在の住宅建設の不振は消費税アップによるものだけではないので、増税の影響が一巡しても住宅建設のペースが元に戻らないのでせある。 住宅に関しては気になることがもう一つある。住宅金融公庫の「ゆとり返済融資」である。これは融資は最初の5年間の返済額を小さくし、それ以降の返済額を大きくした融資制度である。そして来年度から返済額が大きくなった対象者が登場することになっている。当初は、5年もたてば景気も良くなっていて、給料も上がっていると言う想定があったのであろう。事実はそうはいっていない。つまり、返済にそれだけ苦しむ人が現われることになる。そして今後5年間はこのような人が増え続けることになる。手取りの給料がそれだけ減るわけだから、消費にも当然影響はある。
景気が悪くなる要素はまだ色々あるが、今週号ではここまでである。続きは来週号になる。ただ大きいものは上記の2点と公共事業の抑制であると考えている。 先日、経済企画庁の長官がテレビのある番組に出演し、景気について話をしていた。景気現状の認識も公式通り、対策も「財政支出を伴うものはできない」の一点張りであった。官僚の答弁とまったく変わらない。官僚がそのように答えるのは別にかまわないが、大臣は政治家のはずであり、視聴者も政治家としての言葉を期待しているのである。この長官は官僚出身であるが、これではなぜ官僚をやめ、政治家になったのか意味がないではないか。また、このような「景気」に対する甘い認識を知られること自体が、景気にも悪影響を与えるのである。だから公式見解から一歩も踏み出した意見やアイディアを持っていないなら、テレビ出演を断わるべきである。
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