- TBSの時事放談
1月16日日曜日の深夜、TBSの時事放談に宮沢元総理と塩川前財務大臣がゲスト出演していた。両人は大蔵大臣・財務大臣の経験者である。今回、特にこの番組を取上げたのは、両人から聞き捨てならない発言があったからである。
司会の岩見隆夫氏が、両人にフリップを示し「今日本の国債発行残高が530兆円と巨額になっているが、財政は心配ないのか」という質問をした。ところが両人ともに即座に「今は心配ない」と答えた。さすがに岩見氏も「えっ」と驚いた。日頃から日本の財政は危機とさんざん聞かされているのに、大蔵大臣・財務大臣の経験者の宮沢、塩川氏が日本の財政は大丈夫と言っているのだから、びっくりするのは当たり前である。
岩見隆夫氏の反応を見て、今度は宮沢、塩川氏の方が慌てた。宮沢元総理は「今は大丈夫ということで、今後はどうなるか分からない」と苦しい言い訳をしていた。塩川氏も「私も今すぐに日本の国債が問題になることはないと言ったのであって、今後はどうなるか分からない。とにかく2013年までにプライマリーバランスをとるように財政を健全化して行く必要がある。」と答えていた。
つまり本誌がずっと主張し、04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」で述べたように、本当は日本の財政に特に問題はない。これが真相である。反対に日本の全国民は「日本の財政は危機だ」「財政破綻は近い」という幼稚な嘘話に長い間、完全にだまされてきたのである。そして財政危機を前提にした経済政策をずっと続けたため、むしろ財政の数字を悪化させたのである。
「日本の財政は危機だ」「財政破綻は近い」というデマは今に始まったことではない。筆者の記憶では、82年(昭和57年)の鈴木善幸首相による「財政事情非常事態宣言」が本格的なスタートであった。もっともこれ以前から赤字国債の発行の際には、一時的に財政が問題になった。しかし組織的なプロパガンダを伴って財政危機が唱えられようになったのは、鈴木政権の前の大平政権の頃からであった。このような流れの中でこの鈴木善幸首相の「財政事情非常事態宣言」があった。
当時、日本の財政が危ないという話の背景には大型間接税、つまり今日の消費税の導入の目論みがあった。つまり実際以上に財政が悪いことが意図的に喧伝されたのである。しかし今日振返れば、当時の財政は超健全であり、問題は全くなかった。つまり当時「白い」ものを「黒だ」言っていたのに過ぎない。しかし世間のほとんど全部の人々がこの嘘話に騙された。
82年からであるから、実に23年間もの間、途切れることなくずっと財政再建キャンペーンが行われてきた。実際、毎年、公債が発行されているのだから、借金は増え続けている。しかしもし「財政事情非常事態宣言」や「財政再建キャンペーン」の唄い文句が正しいのなら、日本の財政はとっくの昔に破綻していなくてはならない。ところがその挙げ句が、直近まで大蔵大臣・財務大臣の座にいた宮沢元総理と塩川前財務大臣の「現在の日本の財政は大丈夫ですよ」発言である。岩見隆夫氏でなくとも驚くのが当然である。
この23年間、日本の財政が問題がないことを理解していたのはごく少数の人々である。筆者の記憶でも、財政状態の真相を説明する経済学者やエコノミストはほとんど皆無である。まれに雑誌にこのような人々の記事や論文が掲載されるくらいである。この少数の人々を除き、ほとんどの日本国民は、「日本の財政は最悪だ」という嘘話に完全にマインド・コントロールされ続けてきた。
図らずもこの嘘話がバレたのは、宮沢元総理と塩川前財務大臣の上記の発言と、財務省の日本国債の海外での販売キャンペーンである。先週取上げたように、財務省は、海外に日本国債の販売キャラバン隊を送っている。しかし国内に国債の買手がいないということではない。今月12日に実施されたFB3カ月物の入札を見れば分かる。約5兆円の募集に対して応札額はなんと2,740兆5千億円と、日本には資金がうなるように余っている。
財政当局は「日本国債を保有する外国人の割合はまだ4%程度。今後の大量発行時代を乗り切るためには、国内投資家だけでは不安なため、保有者層を厚くする」と説明している。問題は「国内投資家だけでは不安なため」というセリフである。しかし近年起った財政破綻・金融危機は、ことごとく外国人の投資家が逃げたことが発端となっている。ロシアの財政危機、アジア金融危機、アルゼンチンの財政破綻、これらは全て外国人の投資家が逃げ出したことが引きがねになっている。
財政に関して、これだけトンチンカンな説明は聞いたことがない。逆に財政当局はこれまで23年の間、日本の財政が危機的状態と訴え続けてきた(マスコミもこれを受け日本の財政は直ぐにも破綻するような話を毎日まき散らしている)。もし政府のこれまでの発言が正しいのなら、特に最近の毎年35兆円を超える新規の国債発行によって、日本の財政はボロボロのはずだ。そのような国の国債を他国に売り付けるなんて、「詐欺」そのものではないか。
- 「日本の財政の危機発言」の沈静化の予感
財務省の日本国債の海外での販売キャンペーンくらい奇妙な話を近年聞いたことがない。まず前段で述べたこと以外でも、先週で触れたようにこれが円高要因になることである。国債の外国での販売は、車を輸出する代りに、国債を輸出することと同じである。ところで車を輸出すれば、輸出に伴い乗数効果で日本の国民所得は増える。しかし国債を海外に売っても、円高になるだけで国民所得は増えない。国民所得を増やそうとするなら、外国人に売った国債の売却代金で軍艦を造るか公共投資に充当するなど、政府支出に使う必要がある(減税も考えられるが、減税は乗数効果が小さい)。ところが小泉政権は、反対に防衛費や公共投資を減らそうしているのである。
先週触れたように、ちょっと前まで「日本の国債は暴落するとか日本の財政は破たんする」と言い張っていた幸田真音氏が、20日の報道ステーションでは、一転して今回の財政当局の日本国債の海外での販売キャンペーンをフォローしていた。「日本の国債は危ないのでは、日本国債の金利が低すぎるのでは」という問いかけに「大丈夫」という主旨の発言をし、さらに「金利が低くても今後円高になる可能性があるから、日本の国債の購入は有利」と答えていた。たしかに外国で日本の国債を売れば、それだけでも円高要因にはなる。
しかし筆者は、日本国債の海外での販売キャンペーンの目的が、財務省の言っている通りと決して考えていない。むしろ筆者は、財政当局が少しずつ、日本の財政政策のスタンスを変えたがっているのではないかと勘ぐっている。例えば日本の国債の暴落論者の一人の幸田真音氏を取り込むこと(氏は政府の審議会の委員になっている)もその一つと見ている。
筆者は、財政当局がこれまでの財政政策が間違っていたことに気が付き始めたのではないかと考える。一つの失敗は、財政再建キャンペーンのために「小さな政府論者」と組んだことである。財政支出を削減する点で両者は一致したが、減税を飲まされたことが、今日の膨大な累積債務の一因となった。減税が「小さな政府論者」の言っていたいたような経済効果がなく、むしろ税収が極端に減ったのだ。
これ以外でも財政再建キャンペーンが弊害を生んだことがはっきりしてきた。各国が、日本の財政が本当に危機ではないかと思うようになったことである。本誌が05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」で取上げたように、タイ政府が、日本が申し出た20億円の津波被害に対する無償資金協力を“より被害の大きい国に回してもらった方がよい”と言って断ったという話である(どういう訳かマスコミはこの話を取上げない)。これは経済や財政に関する知識、そして思考力のない日本のエリート官僚、経済人、アナリスト、新聞記者がアジア諸国を訪問した時、口を揃えて「日本は借金大国になった。実質1000兆円の借金がある。もうどうにもならない。日本は破産国になる」と言っていることが影響している。
これらの大バカもの達の発言で、海外では日本の財政が、直ぐにでも破綻すると受取られているとしても不思議はない。実際は、世界一低い金利が示す通り、そのようなことは絶対にない。ところが海外から「本当は日本は貧乏な国」と見なされており、色々な方面で予期せぬ問題を引き起すのである。
東南アジアでは、中国の影響が大きくなっている。これを牽制できるのは日本だけである。しかしタイだけでなく、東南アジア各国が「日本は本当は貧乏なのだ」という見方を強めている可能性がある。実際、日本のODA予算も年々減額されている。今後、東南アジア諸国も貧乏な日本は相手にせず、中国について行こうということになる可能性がある。今回の財務省の日本国債の海外での販売キャンペーンで、資金力が乏しい東南アジアをわざわざ対象にしているのも、このような地政学的な思惑が感じられる。
さらに東南アジア諸国だけでなく、世界中の国々が「日本は貧乏な国」と見なすようになっている可能性がある。このよう噂が広まっては、日本の国連の常任理事国入りなんて無理である。武力がないだけでなく、金もない日本が常任理事国なんて冗談である。このように日本国債の販売キャラバン隊に関して、額面では受取られない様々な理由が考えられる。少なくとも日本国債の販売キャンペーンを行うということは、今後、「日本の財政の危機発言」が沈静化することを予感させる。もっとも単純に、財務省の出張旅費の予算が余っていたという推理も捨てがたい。
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