平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




05/1/10(372号)
中国経済の実態

  • 中国の不良債権処理方法
    年末年始にかけ、表立った大きな経済ニュースはなかった。しかし新聞には筆者が注目した記事がいくつかあった。一つは12月30日付の「中国政府が国有商業銀行の一つに公的資金を注入する方針を固めた」というものである。

    中国の4大国有商業銀行に大きな不良債権が発生していることは、本誌でも何回か取上げたことがある。4大国有商業銀行は、中国の銀行融資の6割を占めており、中国経済に大きな影響力をもっている。中国政府は、その中の一行である中国工商銀行に、なんと4,000億元、つまり5兆2千億円の公的資金を注入することにしたのである。圧倒的に購買力平価より安く維持されている人民元の使いでを考えると、今回の注入額は日本の感覚では30兆円くらいに相当する。おそらくこの金額は中国のGDPの5%程度となり、中国の軍事費を上回っている。

    しかし中国工商銀行の不良債権額の総額は6,900億元と言われており、4,000億元を消却してもまだ2,900億元の不良債権が残る。特に中国工商銀行については、過去に1,800億元の不良債権の処理が公的資金で行われている。中国には中国農業銀行という、さらにもう一つ大きな不良債権を抱える国有商業銀行がある。こちらの不良債権額も6,800億元ほどある。


    ところが中国政府の発表している不良債権額は、これでも実態よりかなり小さいという見方がある。例えば公表されている国工商銀行の不良債権比率は19.2%であるが、とてもその程度ではないというのである(融資額の半分は不良債権という話もあるくらいだ)。実際のところは部外者によく分からない。

    しかし中国の経済の調子が良いと見られているだけに、国有商業銀の多額の不良債権の発生は奇妙なことではある。毎年、中国経済は9%の経済成長を続けながら、銀行は空前の不良債権を発生させているのである。ところで日本のばかなエコノミスト達は、銀行の不良債権の存在が日本の経済成長を妨げていると主張している。したがって景気を良くするには徹底した不良債権の処理を進めろと、これらのエコノミストはいい加減なことを言っている。

    しかし中国経済を見れば分かるように、銀行が不良債権を抱えていることによって経済成長が阻害されているという事実はない。反対に多額の不良債権が発生するくらい乱暴な融資を続けているから、中国経済は成長しているという見方が成り立つ。逆に日本政府は、銀行に不良債権の処理を急がせることによって、むしろマクロ経済の回復を遅らせているのである(デフレから脱却できない理由はこれだけではないが)。


    筆者が中国工商銀行の不良債権の処理で注目しているのは、その処理方法である。前回号04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」で、中国政府は銀行の不良債権をセイニアリッジ政策で処理しているのではないかと憶測を述べた。いやそれしか考えられなかったのである。そして12月30日付の日経によって、まさにこの推測が正しかったことが証明された。中国政府は外貨準備(中国人民銀行が管理している)と「債券」を発行し中国人民銀行(中国の中央銀行)を引受させ、注入する公的資金を調達している。日経は「債券」とごまかすような表現をしているが、これは明らかに国債である。つまり中央銀行が国債を直接引受して、銀行の不良債権を処理する原資を捻出しているのである。

    中国は、日本のように銀行の積み上げてきた資産を削ったり、貸出先の資産を処分させて不良債権を処理しているのではない。もし中国が日本と同じ方法で不良債権を処理していたなら、とっくの昔に中国経済はひっくり返っていたに違いない。


    中国の国有商業銀行の不良債権の額は驚きである。これに関しては、政府が国有商業銀行に杜撰な融資を強要しているからという面があるとの指摘がある。しかし我々部外者には正確なところは分からない。

    一方、これだけの不良債権が発生しているということは、それだけの貸出金を踏み倒している者がいるということを意味する。そして政府が不良債権を全部処理するということになれば、踏み倒した者には類が及ばないことになる。たしかに中国では債務者が雲隠れする話はよく聞く。大事なことは、中国政府が今後もこれまでのように、不良債権をどんどん処理することができるかどうかという点である。とにかく中国経済に関しては、日本のエコノミストが想定しているものと全く違うリスクを覚悟する必要がある。


  • 国家の破綻に招く新自由主義経済思想
    もう一つ中国経済関連で注目した記事は、1月6日付日経の「逆流・胡錦濤の中国」という特集である。外見ではソフトなイメージの胡錦濤主席であるが、今日、言論統制や思想教育に力を入れているという話である。実際、胡錦濤主席は、チベットの行政官だったの時、強圧的にこの地域を管理していたことで有名である。

    中国では憲法を改正され、私有財産の保護をうたっている。また中国にも、米国で先端的な経済学を学んだ学者が大勢いる。少なくとも今日の経済の開放状況を見れば、誰もが中国が資本主義経済の国家とみなすようになっているだろう。ところが最近、中国でこれらの新自由主義的な経済理論を唱える経済学者が集う会議が当局の指導で中止になっている。つまり中国では新自由主義的経済学者達が徐々に排斥されているのである。

    新自由主義とは、筆者が言うところのニュークラシカルの系統である。おそらく彼等のスローガンは「悪い銀行は潰せ」「悪い企業も潰せ」ということになる。つまり中国政府が今日やっていることと正反対の政策を主張していると考えられる。ところがこのような経済理論に対して、中国政府寄りの経済学者は猛反発している。この理屈が今日の日本経済に通じるから面白い。


    「破綻した国有企業をタダのような値段で買った者が、多少リストラを施したりして再生して、その企業を自分のものにしている」とこれらの経済学者は指摘している。今日の日本や中国の新自由主義経済学者は、市場経済の元ではそのようなことは当たり前のことと考えるであろう。しかし中国政府寄りの経済学者は「家政婦が、家の掃除をし掃除が終わったらこの家は私のものと言っているのと同じ」と弾劾している。

    筆者は、どちらの言い分が正当なのか正直いって複雑な気持ちである。とにかく中国政府はこのような国有企業の破綻を防ぐため、今日公的資金を国有商業銀行に注ぎ込んでいるのである。ところで本誌は、政府の財政赤字を非難した香港のエコノミストを、中国政府が牢屋にぶち込んだ話を何回か取上げてきた。冗談のような話であるが、中国政府の新自由主義経済学者に対する対応を見ていると、どうも本当の出来事と認める他はない。このように新進の経済学者に対する対応を含め、中国の経済政策からは目が離せない。


    日本国内では「緊縮財政をおこなっているのにもかかわらず(実際はそれほどの緊縮型財政ではない)、設備投資が好調なので景気が良くなった」とか「これは構造改革の成果であり、デフレ経済からの脱却も近い」といったボケた話がエコノミストや市場関係者の間にある。たしかに大手の製造業の業績は良くなっている。しかし決して構造改革によって日本経済が良くなった訳ではない。

    大手企業の業績が良くなったのは主にリストラの成果である。このため労働分配率がかなり小さくなっているので、国内の消費は増えていない。設備投資は多少増えているが、金額的には大したことはなく、依然、企業は借入金の返済に励んでいる。設備投資の増加は、循環的要因と好調な輸出による。

    やはり外需によって経済状態が少し回復したというのが日本経済の実態である。米国が全ての地域に対して貿易赤字を記録している。日本からの輸出は対中国で増加しているが、中国に中間財の輸出が増え、これが最終製品に組立てられ、米国に輸出されるパターンが定着している。さらに中国での設備投資の増加によって、日本からの素材や生産関連設備の輸出が順調である。さらにユーロ高によって、日本の対欧州への輸出も増えている。


    大きく世界の経済を見れば、米国がイラク戦争で軍事費を増やし、さらにこれに加え減税と低金利政策で内需を拡大させている。また中国が異常な水準の設備投資を続けている。このことが4大国有商業銀行の異常な不良債権の発生と密接な関係がある。つまり米国と中国のこのような異常な経済状態が、回り回って日本経済を支えているのである。

    つまり日本が緊縮財政のスタンスを変えないとしても、中国政府がせっせとセイニアリッジ政策によって4大国有商業銀行の不良債権を処理し、バブルの崩壊を避けている。また米国も経常赤字と財政赤字を拡大させている。つまり日本経済は、35兆円というともうもなく巨額な為替介入と、米国と中国の内需拡大政策によって、なんとか大きく落込むことだけは避けられているのが実態である。しかし米国や中国が、このようないびつな経済政策を、いつまで続けられるかがポイントとなる。



来週は、経済成長の条件というものを取上げたい。

インド洋の津波災害に対して、日本政府は5億ドルの無償援助をいとも簡単に決めた。おかしいのはドイツやオーストラリアの援助額が日本の提示額を越えると、日本政府はさらに援助額を上積みする用意があることを示唆した。まるでバナナの叩き売りの様相である。つまり5兆円近い補正予算と言い、今回のインド洋の津波災害に対する援助金を見ても、本音では日本政府は財政危機であるなんてまるで考えていない。日本の財政が危機と思い込んで騒いでいるのは、経済を知らないエコノミストと経済人である。国債の金利が1.4%で、どうして財政が危機なのだ。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
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03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
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03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
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03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
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03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
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03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
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03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
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03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
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03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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