- 国会便覧による人事
27日、自民党の役員と内閣の改造が行なわれた。当初から今回の人事は筆者には予想がつかなかった。ところで改造人事に対しては、世間の評価も極めて低い。もちろん自民党内からの不満も大きい。しかし小泉首相が自分にとってやりやすいことを第一義に考えたのなら、納得のできる陣容である。
筆者は、亀井さんのように、昨年、小泉再選に反対した政治家がこの人事に不満を漏らすのは当然と考える。しかし昨年の総裁選で小泉支持走った政治家までが文句を言っている。人事を発表されてはっきりしたが、このような事態になることは、昨年から当然予想されたことと考える。
昨年の総裁選では、政策に賛同できないが、来年(つまり今年)の参院選を考えると、小泉首相の再選しかないないと小泉支持を打出した政治家が多かった。久間現総務会長なんかは「今回の総裁選は政策ではない」と言っていた。つまり来年(つまり今年)の参院選のためには、人気者の小泉首相の続投しかないと言っていた。しかし政治家が政策ではないと言始めたらお終いである。このような政治家はもはや政治家ではない。
マスコミはもっと酷かった。ニューズウィーク日本版に「国民に人気のある小泉首相が総裁選で負けたら日本国民は怒りだす」とまで言い切った意見が掲載されていると、ある掲示板に投稿があった。しかし本誌は、ずっと小泉人気なんて幻と主張して来た。自民党は早く「改革ごっこ」から脱却し、本来の自民党政治に転換して選挙に臨むべきであった。さらに衆議院選は、今年の参院選と同日選挙に持込むべきであった。案の定、昨年の総選挙は負け、今年の参院選はさらにボロ負けであった。図らずしも小泉人気なんて全くの幻想だったことが証明された。
これは小泉グッズの売上に関する新聞記事の一部である。これに目を通した方もいるだろう。「平成十三年は空前の「小泉ブーム」に乗り、二億八千二百十四万円の販売収入があったが、十四年は七千六百十六万円に減少。さらに十五年は六百九十五万円にまで落ち込み、グッズ収入の面で「人気のピークが過ぎた」(党関係者)のは歴然となった。たった2年間で小泉グッズの売上は40分の1まで減っていたのである。このように小泉人気なんて政権発足当初だけであった。特に売上が40分の1に落込んだのは、平成15年、つまり総裁選のあった昨年のことである。ニューズウィーク日本版の意見は的外れもいいところである。
人気が全くないのに、マスコミは小泉人気があると喧伝していた。最近の唐突な韓流ブームもこれに似ている。マスコミ界にはこのような幻の人気を仕立てる仕掛人がいるとしか考えられない。このような幻の小泉人気に騙されて小泉支持に走った、いわゆる「毒まんじゅう組」は間抜けなだけでなく、罪は重い。
森前首相が怒っている。小泉首相には事前に森派からの閣僚採用を2人と申入れていたところ、5名の入閣となったというのである。森前首相は「女性閣僚(小池氏)の留任なんか頼んでいない」と激怒していた。たしかに堀内派からは入閣者は一人になり、三役はいなくなった。このような状況では、森前首相に対する党内の風当たりが厳しくなることは容易に予想される。しかしこの森前首相の話が本当なら面白い。
どうも小泉首相は今回の改造人事を極めていい加減にやった可能性が強い。面倒になったので、顔の浮かぶ森派の政治家ばかりを入閣させたのである。さらに途中で考えるのがいやになったので、残りは全部留任させたという具合である。麻生総務相については代えるのをついつい忘れた可能性がある。一方、疎遠な堀内派の政治家の顔が浮かばなかっただけである。また三役入りや入閣した政治家には、直前に官邸を訪問した者が多く、首相に印象が残っていたとも考えられる。
そのような話は信じられないという意見があろう。しかし昨年の人事の際、首相は国会便覧を見ながら決めたという話があるくらいである。あ行から順番にめくっていったのである。たしかに昨年就任した閣僚には、やけに「あ行」と「か行」の政治家が目立つとずっと思っていた。麻生、石原、石波、小野、金子、亀井(善)、河村、小池と8名もいる。ちょっと片寄り過ぎたので、ページを少しペラペラとめくって他の閣僚を決めたという次第である。
日頃の首相の仕事振りや国会答弁を聞いていると、このような事も真実のように思われる。これまでもいい加減な判断をくだし、後は詭弁をろうするか、あるいはいきなり怒り出すというお決まりパターンを見ていると今回の人事もかなりいい加減なものと思われる。小泉首相にとって三役や閣僚は誰でも良いのである。ただし自分に苦言をていする者や力のある政治家達は排除している。
このようないい加減な首相の言動を真面目に分析したり解説している人々の方がおかしい。「改革は小泉首相の言っている通りには進展していない」といった論説をよく聞く。しかし小泉首相が改革の中味を具体的に説明したのを聞いたことがない。実際、小泉首相にとって改革とは、郵政民営化しかない。つまり小泉改革なんて実態は何もないのである。
本誌がずっと前から指摘しているように、経済政策の空白が続いている。政府が適切な政策を行なっておれば、窮地に陥らなくても済んだ人が多数いると思われる。このような人々の運命が、このようないい加減な男によって左右されているのである。
- 過剰貯蓄体質とマネーサプライ
リチャード・A・ベルナーの「虚構(フィクション・エコノミクス)の終焉」を取上げる前に、筆者の考えをまとめておこうと思われる。またこのまとめたものを他にも使う予定である。内容は、これまで本誌で述べて来た事柄が中心になる。したがって経済コラムマガジンを読んできた方々には多少新鮮味がないかもしれない。
日本がデフレに陥った原因には、色々な仮説がある。「バブル崩壊による信用収縮」「資産取得者のバランスシート調節」「産業構造と需要の動向との相違」「趨勢的な円高」「中国製品の競争力の向上」などである。それぞれの仮説に説得力がある。
しかし我々は、デフレの原因として日本の過剰貯蓄体質を指摘する。他の仮説が主にバブル生成からバブル崩壊後の90年代を説明している。それに対して日本の過剰貯蓄体質は70年代からのテーマである。むしろ70年代からの過剰貯蓄体質問題が80年代後半のバブル生成の原因と考える。
過剰貯蓄体質を反映して、日本のマネーサプライは年々大きくなっている。またマネーサプライを名目GDPで除した数字、つまりマーシャルのkが日本の場合異常に大きい。下の表は70年からのマネーサプライとマーシャルのkの推移を表わしている。そして日本のマネーサプライの増加率が特に大きかった時期が二度あることに注目している。最初が70年代の前半であり、二度目は85年のプラザ合意後のバブル期である。
マネーサプライとマーシャルのkの推移
| M2+CD(兆円) | 増加率(%) | GDP(兆円) | マーシャルのk |
| 70年 | 48 | 18.3 | 73 | 0.7 |
| 71年 | 58 | 20.5 | 81 | 0.7 |
| 72年 | 73 | 26.5 | 92 | 0.8 |
| 73年 | 89 | 22.7 | 112 | 0.8 |
| 74年 | 100 | 11.9 | 134 | 0.7 |
| 75年 | 113 | 13.1 | 148 | 0.8 |
| 76年 | 130 | 15.1 | 167 | 0.8 |
| 77年 | 145 | 11.4 | 186 | 0.8 |
| 78年 | 162 | 11.8 | 204 | 0.8 |
| 84年 | 272 | 7.8 | 305 | 0.9 |
| 85年 | 295 | 8.4 | 326 | 0.9 |
| 86年 | 321 | 8.7 | 341 | 0.9 |
| 87年 | 354 | 10.4 | 356 | 1.0 |
| 88年 | 394 | 11.2 | 382 | 1.0 |
| 89年 | 433 | 9.9 | 410 | 1.1 |
| 90年 | 483 | 11.7 | 442 | 1.1 |
| 91年 | 501 | 3.6 | 469 | 1.1 |
| 92年 | 504 | 0.6 | 482 | 1.0 |
| 93年 | 509 | 1.1 | 487 | 1.0 |
| 01年 | 647 | 2.8 | 506 | 1.3 |
| 02年 | 668 | 3.3 | 498 | 1.3 |
| 03年 | 680 | 1.7 | 498 | 1.4 |
一般的に日本でマネーサプライと言えば、この表のにあるM2+CDである。しかしM2は財務省と日銀の縁のある金融機関だけの預金が対象である。しかし郵便貯金や農協など、財務省と日銀の管轄外の金融機関にも大きな預貯金がある。郵便貯金だけでも230兆円もある。これらを含めたマネーサプライがM3+CDである。
マネーサプライをM3+CDで捉えると、数字はもっと大きくなる。おそらくマネーサプライは1,000兆円近くになる。またマーシャルのkの方も2ととんでもない数字になる。先進国のマーシャルのkは0.5くらいである。しかし日本にはこれをはるかに越えるマネーサプライが存在している。
先進国のマーシャルのkは0.5ということは、名目GDPの半分くらいのマネーサプライがあれば、一国の経済は回るということを意味する。マネーサプライをM3+CDで捉えると、日本のマネーサプライは、マーシャルのkで1.5倍分多すぎることになる。これは金額で750兆円に相当する。
日本の政府・地方公共団体の借金の大きさが問題になっており、財政再建が急がれている。しかし日本では、一方に計算上余分なマネーサプライが750兆円も存在していることになる。しかもそれが年々大きくなっている。つまり全体を見渡せば、使われない預貯金を政府が吸い上げ、財政支出に使っている図式になる。政府の巨額の累積債務この結果である。
さらにこれだけ財政赤字が大きくなっているのにも拘らず、日本の金利は世界的・歴史的に見ても最低の水準で推移している。また国内の物価も、消費税のアップのあった97年を除き、92年以来一貫して下がり続けている。つまり財政の赤字の規模が小さ過ぎるため、増えるマネーサプライに追いついていないという解釈が成立つ。
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