- 小泉病の蔓延
参院選の結果は、数の上では共産党が議席数を減らし、その分民主党が増えた。6年前共産党は、自民党に対する批判票を一手に引受け、大幅に議席を増やしていた。しかし元々この票は共産党の支持票ではなかった。共産党もこのことを解っていてこの票を「ヤドカリ票」と称し、いずれ他党へ流れるものと認識していた。この「ヤドカリ票」が、今回は一斉に民主党に流れたのである。
6年前の参院選では、橋本政権の不況下の緊縮財政という失政によって自民党は大敗北を喫した。これと今回の選挙結果を比べてもあまり意味がない。比べる対象は3年前の参院選と昨年の衆院選である。3年前の参院選は小泉ブームに乗って64議席を獲得し、たしかに大勝利であった。しかし昨年の衆院選は、公明党のかってない程の選挙協力によってかろうじて過半数を確保した。そしてとうとう今回の参院選は、公明党の支援を受けながらボロ負けしたのである。明らかに今回の参院選は自民党の危機的な大敗北である。
自民党の一部の幹部は、事前に勝敗ラインを勝手にどんどん下げた。さらに選挙結果に対して、彼等は「前回並みの議席を確保」「公明党の議席をたせば過半数」と自民党の敗北を誤魔化している。一番笑うのは「今回のような逆風下ではまずまずの成績」である。理屈の通らない屁理屈を小泉病と呼ぶなら、自民党はこの小泉病が蔓延している。敗北を認めないということは責任もとらないということになる。しかしこれは通用する話ではない。
参院選の結果については、色々なメディアや評論家が既に分析を行なっており、それぞれ説得力を持っている。そこで本誌は、これらとは違う切り口で今回の参院選を分析してみる。筆者は、昨年の総裁選の影響が今回の参院選にも及んでいると見ている。
まず筆者は橋本派が今回の参院選で11も議席を減らしていることに着目する。総裁選では色々と揉めた後、橋本派は衆議院議員を中心に藤井孝男氏を総裁候補に擁立した。一方、橋本派の参議院議員と一部の衆議院議員は小泉首相を推した。特に青木参院幹事長は小泉候補の推薦人になったくらいである。ここに橋本派は分裂したのである。
昨年の自民党の総裁選は、小泉首相に対して、亀井氏、高村氏、藤井氏が立候補した。我々は、総裁選のカギは、橋本派の参議院議員が握っていると認識していた。40名(当時)の橋本派の参議院議員は各種業界をバックにしている者が多い。これは党員票のうち職域票の大半を橋本派の参議院議員が抑えていることを意味する。つまり橋本派の参議院議員(青木グループ)の動向が、自民党の総裁選の帰趨を決めると言っても過言ではなかったのである。
この微妙な状況での橋本派の分裂である。当初、筆者達は、いずれ橋本派の参議院議員(青木グループ)は、自派の候補者である藤井氏支持にまとまざるを得ないと考えていた。もし橋本派が一本にまとまれば、小泉陣営は一気に不利になる。しかし橋本派の参議院議員(青木グループ)は方針を変えることなく、小泉支持を貫き通したのである。
衆議院議員は各々自分の選挙地盤を持ち、独自に選挙を行なう。彼等は特に参議院議員の応援を必要としない。ところが地方区の参議院議員は、自前の選挙組織が脆弱であり、衆議院議員の協力がなければ当選がおぼつかない。参議院議員の立候補者は、一人区の場合なら3人くらい、二人区の場合には5、6人くらいの自民党の衆議院議員の地盤に乗っかって選挙を行なうことになる。ところがその橋本派の参議院議員が、自派の衆議院議員の意向に反して小泉支持に走ったのである。
たしかに橋本派の参議院議員の考えは解る。3年前の小泉ブームの再来と公明党の支援への期待である。これがあれば今回の参議院選も乗り切れると判断したのであろう。つまり小泉人気に賭けたのである。しかし小泉人気は先週号で述べたように、今日ではまさに「ハリボテ」であった。マスコミが創作した作り話であったのである。
地方に行けば「小泉首相」とか「小泉さん」と呼ぶ者はいない。かなり前から皆「小泉」と呼び捨てであった(とにかく小泉・竹中両氏の評判は信じられないくらい悪い)。昨年の衆議院選挙で自民党に投票した人も、候補者との繋がりでしょうがなく投票していた。決して小泉人気で投票したのではない。
このような末端の有権者の事情をよく知っている衆議院議員が危機感(小泉ではだめだ)を持つのは当り前である。さらに比例区の参議院議員も問題であった。特に6年前までは拘束名簿方式であり業界の支持を得ておれば当選でき、選挙運動なんて真剣にやったことがない。今回も業界のボスの応援を得ておけば当選するといった浮き世離れした感覚だったのである。しかし業界の幹部と一般の会員との間には既に大きな溝が生じている。したがってこのような橋本派の立候補者は、地方区も比例区も今回バタバタと落選したのである。
- 自民党の自滅
では自民党の敗因が問題になる。巷間伝えられている話では「年金法改正」が一番の理由だとされている。各種世論調査でも、やはり年金問題が参院選の最大の争点だったことを示している。しかし今回の年金法改正は、自民党ではなく公明党が主導権を握っていた。その公明党が議席を減らすことがなかったのである(比例区の投票数は、昨年の衆議院選挙の比例の得票数より少し減少しているが)。
たしかにこれには公明党が特殊だからという解釈は成立つ。しかし筆者は、自民党敗北には年金問題とは違うもっと根本的な原因があると確信している。一つは有権者(従来の自民党支持者といっても良い)がかなり前から、説明できないないような不満や不安を、政府や自民党に対して強く持っていたことである。ところが今日の自民党は、有権者のこのような不満や不安を掬い上げる機能が極めて弱くなっている。人々の様々な不満や不安が選挙の直前になって、年金問題に集約されて行ったと理解している。
それでは人々の強い不満や不安とは何かが問題になる。しかしこれはなかなか表面に現われない種類のものであり、筆者にとっても説明が難しい。しかし難しいがあえてこれを来週号で取上げてみようと思う。また人々のこのような不満や不安は個人によっても異なり、なかなかマスコミも取上げない。例えば「時代の閉塞感」みたいなものもその一つと考える。むしろ3年前にはこれを撃ち破ってくれるかもしれない政治家として、人々が小泉首相に大きく期待したのである。
表面的にも年金問題が選挙の争点になったことについては、筆者はテレビなどのメディアの世論誘導もあったと見る。選挙の数カ月前から妙な形で年金が頻繁に扱われるようになった。国会議員の未納問題もその一つである。年金問題には根本的な解決方法がないのに、マスコミはあたかもそのような方法があるような捉え方をしていた。民主党もメディアのそのような動きを察知して、争点を年金一本に絞ることによって参院選での勝利を確実にした。
有権者は、決して民主党に魅力を感じて投票したのではない。だいたい民主党の政策を理解している人はほとんどいない。民主党の支持率は、数カ月前にはわずか10%であった。つまり今回の参議院選は、民主党の勝利というより、自民党の敗北である。もっと正確にいえば「自民党の自滅」である。
それにしても橋本派の参議院議員に関してはわけが解らないことが多過ぎる。不思議なことの一つは、「自民党を壊す」と宣言していた小泉首相に、いかに「小泉人気」と言えどほとんどの参議院議員が付いて行ったことである。「自民党を壊す」とは自分達の選挙基盤を壊すことを意味する。さらに衆議院と参議院の同時選挙が、自民党にとって一番良い選択ということは当時誰でも解っていたはずである。ところが公明党の都合でこれをやらず、自民党は自滅したのである。とにかくこのような間抜けな話は近年聞いたことがない。
また日本歯科医師会の会長が、自分達の推薦候補を参議院選で有利に取計らってもらうように、橋本派に一億円の献金を行なったという話が話題になっている。3年前の話であり、既に参議院選の比例区は非拘束名簿方式に変っており、派閥に献金を行なっても意味がないはずである。
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