平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/7/19(353号)
参院選で見たもの

  • 純ちゃんで〜す
    11日の参院選の結果は、当初予想されていたほどには自民党は負けず、民主党も伸び悩んだ。これは一週間前の各種メディアの「自民党のボロ負け」という予想報道に危機感を持った自民党の巻き返しが多少効いたからである。

    たしかに数字の上では、自民49に対して民主50の僅差という説明がある。しかし一人区で当選した無所属議員は5名で、そのうち4名は民主党系ないし反自民であり、これを含めれば明らかに自民党の完敗であった。実際、比例の投票数において自民党は民主党に大差をつけられた。さらに今回公明党の支援を受けていたことを考慮すれば、自民党にとって橋本政権の44議席のボロ負けより実質的に酷い敗北だったと筆者は感じている。

    この参院選の分析を今週行なう予定であったが、もう少し時間があった方が良いと考え、それは来週号に延期する。今週は今回の参院選を象徴するような出来事を二つ取上げたい。案外このような事柄が今回の選挙結果と密接な関係があると考える。


    今回の選挙中、小泉首相の生の応援演説を初めて見た(聴いたというより見たという方がぴったりの表現)。街頭に集まっていた人の大半は明らかに動員されたと分る人々であった。残りは筆者のように興味本位で、「小泉首相の生の演説を一度見てみたい」というヤジウマ的聴衆である。しかしなかなか小泉首相本人が現われず、暑い中地方議員の話が延々と続き、聴衆から「もうヤメロ」という声があがっていた。

    一時間くらいたってようやく小泉首相御一行が到着した。さっそく首相は選挙カーの上に立ち演説を始めた。なんと第一声は「純ちゃんで〜す」だった。中央に位置する動員されたと想われるおばちゃん達は、これに合わせて小旗を振っていた。これはテレビでよく見かける聴衆の様子である。周りを取り囲む見物人は失笑する他はない。

    首相の応援を受けているはずの候補者の運動員は、ずっと下を向いたまま顔を上げない。暑いので「早く応援演説を終わってくれ」ということなのであろう。ひょっとすると小泉首相への応援演説の要請は、自民党の公認を得るためのノルマのようなものかもしれない。


    小泉首相の応援演説の様子を簡単に説明すれば、「支離滅裂」「自画自賛」「言い訳」である。いつもテレビで報道されている街頭での演説はほんの一部であり、これでは全体のことは全く分らない。また応援演説のはずであるが、驚くことに立候補者の名前を言ったかさえもはっきりしない。もちろん立候補者の業績の紹介や推薦の弁はない。ほとんどが自分に関する話だけである。

    いきなり中国で青森のりんごが2,000円で売れているといった唐突な話から演説は始まった。次が外国人が最近一番興味を持っている日本の技術が「回転すし」という話であった。株価が少し上がっているが、これは「小泉改革」の成果という話もあった。年金については色々と言い訳していた。しかしこのような応援演説を聴いて、この応援を受けている候補者に投票しようと考えた人は皆無と思われる。

    小泉首相が秋田で「北朝鮮との関係を敵対関係から友好関係に変える必要がある。これによって日本人がもう拉致されることがないようにしたい。」と演説したと報道されている。たしかに筆者が聴いた演説から判断しても、それくらいの脱線発言を行なったとしても不思議はない。


    小泉首相の真後ろに無表情の人物が立っていた。おかしいのはこの人物が定期的に演説中の首相の両肩をぐっと掴んで方向を変えるのである(まさに小泉首相はこの人物の操り人形である)。中央・右・左、そしてまた中央・右・左といった具合である。方向が変る度に首相は毎回手を挙げる。するとその方向のサクラのおばちゃん達が一斉に小旗を振るのである。30分の演説中、方向転換は幾度となく繰返された。

    3年前の参院選では小泉首相の応援演説には多くの熱狂的な聴衆が集まった。例えば大阪では20,000人が集まった。しかし今回は、6,000人が精々だったという話である。おそらくそれも大半が動員された人々であろう。筆者の周りでは演説が始まると同時に帰る人が結構いた。有名な小泉首相の顔を見たから目的は達成したということであろう。一方、多くの一般の通行人が演説中の小泉首相に全く振向くことなく、その目の前を次々と通り過ぎていた。マスメディアが言っている「小泉人気」とは、今日ではこの程度のものである。


  • 土下座騒動
    荒井広幸候補の応援で、亀井静香元政調会長が土下座して支援を訴えたことが話題になっている。この様子が週間文春に掲載されていた(筆者はこれを見ていないが、テレビで放映されたものを何回か見た)。この亀井さんの土下座に対しては賛否両論がある。


    ちょうど一年前、筆者はもう一人の人物と一緒に、当時衆議院議員だった荒井広幸氏を議員会館に訪ねた。国会議員は全員同じ造作の個室を議員会館内に持つ。秘書が控える小部屋を過ぎると議員の執務室兼応接室がある。ほとんどの国会議員は、ここに執務用のデスクと応接セットを置いている。国会議員はこの部屋で支援者や官僚の話を聞くことから、応接セットは必需品である。

    しかし驚くことに荒井議員の部屋にはこの応接セットがないのである。その代りに長方形の机が置いてあった。さらにビックリしたのは、政策に関する書類と資料が山盛りにその机に乗っかっていた。荒井氏はここで政策を勉強し、一連の説明用の「フリップ」を制作していたのであろう。我々も固い円椅子に座って、議員の色々な話を聞いた(ついでに亀井さんのモノマネをしてくれたが、これが結構面白かった)。しかし少なくとも議員会館の荒井氏の個室は、とても人を招いて話を聞くといった雰囲気の部屋ではなかった。


    自民党の国会議員の部屋には、次々と訪問者が訪れる。中には支援者や陳情者もいる。国会議員は、このような多くの人々の話を聞いて、秘書に色々と指示を出す。選挙に勝つには、このような日常活動をこなすことが重要である。ところが荒井広幸氏は、部屋の様子から判るように、このような日常活動が決定的に不足していると推測された。実際、政策に詳しいかもしれないが、彼は決して選挙に強い国会議員ではない。

    筆者達も「荒井さんは、衆議院議員よりも参議院議員の方が向いているかもしれない」と話をしながら帰って来たほどである。我々が危惧した通り、昨年は衆院議員選でみごとに落選した。今回は参院選への鞍替え挑戦であった。しかし荒井氏は松下政経塾の出身者のように選挙戦術に長けていない。選挙に関しては全く不器用である。さらに今回は自民党に対する逆風もあり、相当の苦戦が予想され、周りも心配していたのである。

    亀井さんもこの選挙に弱い荒井広幸候補のことをよく承知している。解っているだけに、亀井さんは応援演説をしている間に、いたたまれなくなって土下座をしたものと思われる。テレビのVTRを見るとそのことが何となく判る。以前、やたら選挙選で土下座がはやったが、亀井さんの今回の土下座はこれらと明らかに違うと見る。


    今回の参院選で腑に落ちない事柄の一つが、荒井広幸氏のように、小泉政権の目玉政策にはっきり反対を表明している候補が自民党の公認を受けていることである。特に今回の参院選の当選者の中には、荒井氏の他にはっきり郵政族と言われている人物がもう一人含まれている。このことは小泉政権の性格をよく表わしている。

    小泉政権はの最大の特徴は「言っていること」と「やっていること」がまるで異なることである。緊縮財政と言っておきながら、財政の赤字は逆に大きくなっている。悪い銀行は整理するハードランディング路線と言っておきながら、銀行にはどんどん金を注ぎ込んでおり、破綻した銀行は皆無である。高速道路はもう造らないと言っていたが、むしろ高速道の建設は促進される。

    小泉・竹中コンビは今だに「改革」と言っているが、めちゃくちゃな金融緩和や為替介入に見られるように、むしろ実際にやっていることは改革ではなく中途半端な「デフレ対策」である(今だに小泉政権の政策が改革路線と言っているエコノミストや解説者は頭が完全におかしい)。もっともこれが中国や米国の外需増大と相まって、日本の経済が最悪の事態に陥ることを防いでいる。しかし表向きのキャッツフレーズとポーズがあるため、全てが中途半端である。この中途半端な政策によって、国民の所得格差が増大し、都会と地方の経済格差がどうしようもない程大きくなっている。参院選で自民党が惨敗するのも当り前である。



来週号では参院選の結果を筆者なりに分析してみる。

小泉首相の飯島秘書官は「アイ・アム・ア・シャドー・プライミニスター(影の首相)」と自分のことを自己紹介した。これは6月のサミットの時、各国首脳をもてなすホステス役をしていたローラ・ブッシュ大統領夫人に対してである。このエピソードは、文芸春秋8月号p224に掲載されている。民主党にシャドー・キャビネットがあることは承知していたが、自民党にもシャドー・キャビネットがあったとは驚いた。もっとも小泉内閣の場合、シャドー・プライミニスター(影の首相)の方が本当の内閣総理大臣かもしれない。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
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03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
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03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
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