- 危うい楽観論
エネルギー問題を扱うと言えば、そのうち石油の確保を意味することになると予測する。数年前までは、エネルギー問題と言えば、コストと環境の問題であった。油田でおける採掘技術の進歩によって、既存の油田の可採掘量が飛躍的に増え、原油採掘の限界コストがバーレル当り7ドルまで低下し、一時的に原油代はバーレル9ドルまで下落した。
当時は、石油が量的に確保できることは当り前と考えられていた。むしろ石油の消費による大量の二酸化炭素排出といった環境問題の方に注目が集まっていた。ガソリン車よりディーゼル車の方が二酸化炭素排出量が少ないから環境にやさしいといった間抜けな議論が横行していた。また石炭や石油の消費を抑え、天然ガスないしLNG(液化天然ガス)へのエネルギー転換が促進が環境に良いとされた。
しかし石油巡る状況はここ1,2年で大きく変化した。まず需要面では、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる大きな人口を抱える国の経済成長率が大きくなって、これらの国々の石油消費が驚異的に伸びていることが注目される。特筆されるのは中国であり、中国の石油消費量は、とうとう昨年500万bpdの日本を追抜いた。さらに今年はさらに増え、中国の消費量は625万bpdと予想されている。たしかに中国は産油国であるが、自国の生産量は400bpd(世界の5%)で頭打ちになっているので、不足分は輸入することになる(ただし中国の場合、以前本誌が取上げたように石油の密輸入があり、正確な数字は分かりにくい)。
したがって計算の上では、中国の石油輸入量は昨年の140万〜150万bpdから、今年は225万bpdになる。50%くらいの増加率である。石油の消費量の伸び率に対するGDPの成長率、つまり経済成長率の比を弾性値と呼ぶ。一般に発展途上国の石油消費の弾性値は大きい(経済成長率より石油消費の伸び率の方が大きい)。したがってBRICsのような途上国の経済成長率が大きくなると、石油の消費量も飛躍的に伸びる。中国を見ても、経済発展とともに自動車の普及が進み、電力需要が伸びている。また経済が豊かになるにつれ環境問題がクローズアップされ、石炭から石油への燃料転換が進んでいる。つまり今後も世界の石油需要は堅調に伸びることが確実である。
一方供給面であるが、これには楽観論が目立つ。三井物産戦略研究所長の寺島実郎氏は「ロシアや北海の産油量は豊富で、供給不安はほとんどない」「ただ原油の金融商品化が進み、投機的な資金の流れに揺すぶられている」(6月19日日経)と述べている。つまり今日の原油高は、実需ではなく、イラク情勢や途上国の需要増大を見越した投機的資金による仮需によるという判断である。
筆者も、原油価格を今日の状況だけで語るならば、この話が正解と考える。たしかに採掘技術の向上と原油価格の上昇によって、これから石油開発はさらに加速されると考える。したがって中東情勢の悪化が一時的なものなら、BRICsの経済成長がこれから続いても、当分の間必要な原油は十分供給されると考える。したがって原油価格は、以前のような水準まで下がることはないが、今日の価格が何倍にもなるといった状況はないと考える。
しかしこのような楽観論は、あくまでも中東の情勢がこれ以上悪くならないことが前提である。ところが直近になってその前提があやしくなった。例えばイラクはテロによって輸出機能が停止してしまった。またサウジアラビアの石油施設や石油関連従事者に対する執拗なテロが続いている。
さらに注目すべきは、石油施設へのテロは中東地域だけではないということである。べネズエラでパイプラインが狙われたり、アフリカのナイジェリアでも国際石油メジャーの社員が襲撃を受け死亡している。そしてべネズエラやナイジェリアの犯行グループが中東のテログループと同一かどうかはっきりしないが、仮に別グループとしても、今後彼等が連携する可能性がある。今日石油市場はとんでもない不確定要因を抱えることになったのである。ところが原油価格の方は、六月初旬のOPECの増産宣言を受け、少し下落している。石油を巡る楽観論もこの原油価格の下落が影響していると考える。
- 頼りない米国
本誌はこれまで世の中にはびこる根拠のない悲観論を否定してきた。「財政赤字がどんどん増え、インフレが起り、金利が高騰する」「円が暴落するから、海外に資産を移せ」「預金封鎖で新円に切り替わる」など数限りなく虚言・妄言が続いた(これらは主に構造改革派の人々からのブラフ)。しかし筆者は、将来のエネルギー確保に関しては、日本はもう少し危機感を持つべきと考える。過去に第一次オイルショック、第二次オイルショックを経験したせいか、人々の間に自信があり、今回の原油高に対しては妙に静かである。
筆者は、次のオイルショックが起るとしたなら、原因は国際的なテロ組織の破壊活動によると考える。問題は彼等の原理的思考が妥協を許さないことである。彼等の活動が活発化すれば、解決までどれだけの時間がかかるかメドさえ立たない。米国大統領ブッシュも「テロとの戦いは20年に及ぶかも知れないと覚悟している」と宣言している。国際テロ組織のターゲットは色々考えられる。交通機関、通信施設、原子力施設、化学工場など限りない。しかし大きな効果があり手っ取り早いのが、守りが脆弱な石油関連施設へのテロである。イラク内戦でも、テロ組織の攻撃対象が石油施設に移っている。イラクでは過去七ヶ月の間に130回の石油施設へのテロがあった。
一口に反米武装組織と言っても、基本的にイラク国内の反米組織は石油施設を狙うことはないと筆者は考えてきた。イラクにとって石油は国の生命線であり、反米と言っても国内勢力は石油施設への攻撃は念頭にないと考えたからである。石油施設を破壊しているのは、主にアルカイダのような国際テロ集団と見てきた。当初目立たなかった石油施設へのテロが最近活発になったのも、国際テロ組織のイラク侵入が進み、活動拠点も整備されたからと考えてきた。
むしろフセイン政権の存在が、このような原理主義テロ組織の国内侵入をこれまで防いでいたと考える。基本的にフセインのバース党は社会主義政党であり、アルカイダのような宗教原理主義とは相容れないところがあったのである。しかし最近になって国際テロ集団とイラク国内の反米勢力の連携が見られるようになっており、事態は悪化している。もしイラク国内の反米勢力が石油施設の破壊に加担するようになれば、事態の収拾はつかなくなる。
頼りがないのが米国である。イラク戦争を主導したネオコンはゲームの理論の信奉者達である。彼等は将来が予測可能という前提で机上の作戦を立てる。まさに構造改革派と一緒である。ところがその作戦がことごとく狂っている。昨年の5月には勝利宣言まで行なっていた。当時はイラクに関する情報の全てを掴み、物事の判断を行なっていると自信満々であった。
しかしよく考えてみれば、米国とイラクの関係は湾岸戦争以来ずっと疎遠であり、米国はイラクの事情に疎かったと考えるべきである。例えば各国が放棄を検討しているイラクに対する債権に占める比率は、トップが日本でその次がフランス、ドイツ、ロシアである。ところが米国のイラクに対する債権額は微々たるものである。日本を除けば、イラクの実状に詳しいとみられる大口債権国であるフランス、ドイツ、ロシアは、揃ってイラクへの派兵を見送っている。
今後のイラク情勢は分らなくなっている。それにも増して、アルカイダなどの国際テロ組織の今後の動向が不明である。石油施設への攻撃を本格化させる可能性がある。これに対してイラク暫定政府は1万4千人の警備専門組織を新設する。サウジアラビアも警備人を5千人増やし、さらに監視カメラなどのハイテク器機を使い警備を強化する。しかしサウジアラビアのパイプラインは1万5千キロもある。完全に防御することはほぼ不可能である。
先日の西部さんとの対談の中で、亀井静香氏も「警察でテロ対策の責任者をやっていた経験で言えば、確信犯的なテロを完全に抑え込むことは難しい」と言っておられた。とくに原理主義者のテロには自爆テロもあり、これを防ぐことは極めて難しい。
今日テロ組織の攻撃対象は、警備の甘い民間に集中している。仮に石油施設の警備が強化されれば、次には彼等はタンカーを狙う可能性がある。実際、2年前にはイエメン沖で小型ボートによるタンカーへのテロがあった。一度タンカーにテロが実行されれば、保険料が高騰するだけでなく、船会社も中東への配船を取り止める可能性がある。国際テロ集団には資金面のスポンサーがいる。このスポンサーにアッピールするようなより派手なテロを実行する可能性がある。
ここ数年日本においては、エネルギーに関して経済的な合理性ばかりが優先されてきた。電力の自由化論議においても、エネルギーの安定的確保という観点は極めて軽視されていた。「原子力は意外とコストがかかるので、これ以上比率を高めるのは問題」といった意見まで飛び出す始末である。たしかに一次エネルギーに占める石油の比率は小さくなっている(5割を切っている)が、経済的な合理性を重視するあまり石油に関しては、むしろ中東への依存度が高まっている。たしかに中東からの石油輸入が止まっても、日本には石油備蓄があり、多額の外貨を持っているので短期的には困らない。しかし石油輸入停止が長引けば、一番打撃を受ける国はこの日本である。
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