平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




04/3/1(334号)
為替介入ではなく財政支出を

  • もう一つの嘘
    先週号で「財政は破綻状態で、これ以上国債を増発したり、公的借金を増やすことはできない」という、世間に広くまかり通っている話が真っ赤な嘘であることを説明した。現実に、政府は為替特別会計による巨額の為替介入資金は外為政府短期証券(FB)を大増発して賄っている。この外為政府短期証券(FB)は国債となんら変らない。政府・日銀は、昨年わずか1年間で20兆円以上、さらに今年の1,2月だけで10兆円以上の米ドル買い介入を実施している。もちろんこれとは別に、一般会計で36兆円を超える新規の国債を発行している。

    しかし今日の日本には「これ以上国の借金を増やせば、国債の買手がいなくなり、国債は大暴落する」という明らかな嘘を大々的に唱え、人々を脅かし続けている経済評論家が多い。その中には「日本はもうだめだ、サバイバルを考え、資産は海外に移転しろ」とか「国債大暴落はそこまで来ている」といったとんでもない本を出版している者がいる。ところがこれが世間に受け、彼等の本がベストセラーになっている。世の中にはこのような言動を信じた人々が多く、中には大損している人もいる。

    驚くことに、このようなむちゃくちゃなことをずっと言い続けている経済評論家が依然として今日マスコミに登場し、同じような本をいまだに出版している。またこのような怪しい論客と共著を出しているある財政学の大学教授は、政府の年金問題の諮問委員になっている。日本では、このような異常な論調が蔓延し、逆に「財政出動によってデフレを克服する」と言ったまともな意見が封殺されている。とうとう最近では「近々預金封鎖がある」と言ったとんでもない本が売れる始末である。


    財政出動にまつわるもう一つの嘘は「財政政策の効果が小さくなった。あるいは効果がなくなった」という話である。しかしこれが真実かどうかは、数字を見れば簡単に判断できる。昨年本誌は03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」で、これに関連した数字を示した。

    次の数字は11日4日(日経の5日に掲載)内閣府が公表した経済金融政策が日本経済に及ぼす最新の経済モデルの試算結果である。各数値は各々1%増減した場合の実質GDPの増減率である。また( )内は98年の旧モデルの数値であり、また3年間の合計数字は筆者が算出した。

    実質GDP押し上げ効果
    公共投資所得税減税消費税増税
    1年目1.14(1.12)0.48(0.62)▲0.18(▲0.14)
    2年目1.13(1.31)0.63(0.59)▲0.29(▲0.17)
    3年目1.01(1.10)0.58(0.05)▲0.24(0.10)
    合計3.28(3.53)1.69(1.26)▲0.71(▲0.21)


    公共投資がGDPを押上げる効果が極めて大きいことは、上記の数値を見れば、一目瞭然である。1兆円の公共投資を増額すれば、3年間でGDPが3.28兆円も増加することになる(民主党のある国会議員が朝まで生テレビに出演し、乗数値は1.14と極めて小さいと主張して引下がらなかった。しかしそれは1年目だけの数値である。またこれらの数値は乗数値と称されているが、ケインズの乗数値とは異なり、その説明は後日行なう)。「財政政策の効果が小さくなった。あるいは効果がなくなった」というあくまでも主張する人々は、内閣府の公表している数字が間違っていることの根拠を示す必要がある。

    たしかに公共投資のGDP押上げ効果が、98年のモデルより若干小さくなっている(一つには国民経済計算の基準が2000年から変わったことも影響していると思われるが)。筆者は、現実に公共投資のGDP押上げ効果が多少小さくなっている可能性があることを認める。これは公共投資の現場の合理化が進んでいるからと考える。公共工事の単価がずっと下がっており、建設・土木会社は工事の施工を効率化せざるを得ない状況に追込まれているのである。しかしGDP押上げ効果が極端に小さくなったとか、あるいはなくなったということは絶対にない。


  • 60兆円の財政支出
    政府・日銀は、昨年一年間で20兆円、そして今年に入って既に10兆円以上の為替介入を行なっている。これは明らかに財政の支出である。本年度の為替特別会計の当初の予算規模が79兆円が、来年度の予算では140兆円になる。つまり足掛け2年で約60兆円増えることになる。

    しかしこの60兆円を使えば、毎年20兆円の公共投資を3年間続けることができる。そして上記の内閣府のモデルの数値を使った試算では、1年目は、20兆円の1.14倍の22.8兆円のGDP増加に止まるが(日本のGDPを500兆円とすれば、実質経済成長率は4.56%とこれでもけっこう大きくなる)、2年目は効果が累積され(1.14+1.13)×20兆円=45.4兆円のGDPが増える。2年目の実質経済成長率は9.08%(正確にはGDPの分母が前年大きくなっているので8.68%)になる。そして3年目には、20兆円の3.28倍である65.6兆円もの実質GDPの増加を実現し、実質経済成長率は実に13.12%(これも正確には12.03%)にもなる。まさに日本は中国以上の経済成長を実現できる(ただし土地の買収費用が公共投資額に含まれている場合には、GDP押上げ効果の計算から除く必要があると考える。)。

    中国も需要が爆発的に増えているから経済が成長しているのであり、日本も財政支出で需要を作ってやれば、当然、経済は成長する。そしてこれだけ経済が成長すれば、雇用問題もかなり片付く。さらに税収も大きく伸びる。特に日本の累進課税のカーブを考えると、GDPの伸び率以上に税収が増える可能性がある(この段階では、経済成長率に対する税収の弾性値というものが重要になってくる)。うまく行けば、3年間で60兆円以上の税収増も実現するかもしれない(試算の結果は実質値であり、名目値はもっと大きくなる可能性があるため)。仮に税収増がそこまで行かなくても、GDPが大きく伸びるので、少なくとも公的債務のGDP比は確実に小さくなる。格付機関も日本の国債の格付を上げるはずである(特にムーディーズは、日本がリフレ政策を実行し、税収が増える見込みが出て来たら、日本の国債の格付を上げることを表明している)。


    たしかに20兆円の公共投資を増やすということは机上の話である。実際、一年間で20兆円もの公共投資を増やすことは難しい。公共投資を実行するには、計画を立て、設計を行ない、環境アセスメントを実施し、地域住民の同意を取付ける必要があり、相当の長い期間を要する。しかしそのような場合には、公共投資に近いGDP押上げ効果のある財政支出を併せて行なえば良い。とにかく合計で20兆円の財政の支出の増加を実現すれば良いのである。

    しかしそのように急激に財政支出を増大させれば、物価が上昇するのではないかという意見が出そうである。たしかに10%を超える経済成長が実現すれば、ある程度の物価上昇は避けられない。全体としてのデフレギャップが大きくても、どうしてもボトルネックとなる分野があり、物価はある程度上昇すると思われる。しかしおそらく10%くらいの成長なら、物価の上昇も限られると思われる。特に近年、消費構造が大きく変化しており、消費が増えても、価格が上昇しない分野の消費ウェートが大きくなっている。むしろ中には通信費のように需要が増えれば、かえって価格が低下するものもある。

    だいたいデフレ克服が今日の最重要課題であるのに、インフレを警戒すること自体がおかしい。むしろインフレの問題を持出すような人々は、財政支出そのものに反対しているのである。物価上昇がどうしても気になるというのなら、国民の合意の範囲の物価上昇率に抑える政策を同時に行なえば良い。まさにインフレターゲット政策である(英国などの先進国では成功しているのだから、日本でうまく行かないことはない)。また場合によっては、財政支出のスピードを抑えることも考えられる。むしろ金融政策だけでデフレを克服するという今日のインフレターゲット論の方が奇妙である。しかしどうしても物価上昇が問題というのなら、その時こそ競争促進政策が有効になる。


    ところで20兆円の財政支出を3年間も続ければ、国債の価格が下落し、金利が上昇することが考えられる。しかしこれこそ日銀の金融政策に掛かっている。日銀が、今日のような金融の超緩和を続け、国債や外為政府短期証券(FB)を買入れを行なうのなら、金利上昇も一定の範囲に収めることは可能と考える。もっとも本当に経済成長が実現すれば、民間の資金需要が出てくる。資金の取合い、つまりクラウディングアウトが発生する可能性が生まれるのである。しかしこれも日銀のさらなる金融緩和で解決がつくと考える。

    財政支出の増加額を合計で60兆円としたのは、外為特別会計の規模がたまたま60兆円増えることに着目したからである。筆者は、60兆円もの為替介入するのなら、その60兆円を公共投資などの財政支出に充てるべきと主張したいのである。したがって財政政策の効果が大き過ぎるのなら、金額を45兆円に減額しても良いし、反対にもっと経済成長が必要と考えるなら、80兆円、100兆円と増やせば良い話である。


    今日のような為替介入に巨額の財政を使っても、効果は極めて小さい。しかしその介入資金を財政支出に使えば、確実に経済が成長し、大きな雇用が生まれる。うまく行けば、財政の累積債務問題も解決の方向に行く。さらに人件費が高くなれば、職場の合理化が進み、人手に頼る産業分野から、もっと付加価値を生む分野に労働者は移動する(ガソリンスタンドのセルフ化も人件費が低いままなので進まない。これも設備投資を行なうより、人手の方が安いからである)。これこそ本当の構造改革である。

    一方、何の展望のない野方図な為替介入を是認する人々はほとんど構造改革派である。「財政支出に頼らなくても、構造改革でデフレは克服できる」と言った荒唐無稽な主張を行なっている人々である。カルトの集まりのIMFの専務理事も日本の常軌を逸した為替介入を認めている。しかし偶然起っている中国の経済成長や、ケインズ政策を行なっている米国の成果を、為替介入(わずか一年二ヶ月で30兆円)によってかすめ取っているのが日本政府の経済政策の現状である。たしかにこれによって日本経済は少し回復している。ところが構造改革派は「構造改革の成果」とか「改革の芽が出てきた」と主張しているのだから、大笑いである。



来週号は、為替介入による経済の下支えの効果が極めて小さいことを説明する。

オウムの教祖に一審の判決が出た。日本には昔から、根拠の薄い話で人々を脅かす人々が蔓延(はびこ)っている。「2ヶ月後に日本は沈没する」「ハルマゲドンが来る」と言ったオウムの嘘話しに簡単にだまされた人がけっこういた。どういう訳か日本人は危機話に弱い。幼稚な「ノストラダムスの大予言」をあんなに信じたのは、世界中で日本国民だけであろう。

このような日本人の弱味を熟知している人々は、今日でも人々を脅かし続けている。「預金封鎖が近い」「年金は破綻する」など、根拠なく語られている。しかし最も悪質なのが「財政出動はもう無理である」とか「子々孫々に借金を残すな」と言って回っている構造改革派である。彼等の主張する政策によって、失業が増えるだけでなく、逆に公的債務が急増し、とうとう社会も荒れた。

亀井静香勝手連のアドレスは(亀井静香勝手連のホームページhttp://www.nb-j.co.jp/katteren)である。



04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
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03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
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03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
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03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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