- 内閣府の経済モデル
今週は、11日4日(日経の5日に掲載)内閣府が公表した経済金融政策が日本経済に及ぼす最新の経済モデルの試算結果を取上げる。各数値は各々1%増減した場合の実質GDPの増減率である。短期金利は1%の利上げの場合である。また( )内は98年の旧モデルの数値であり、合計は筆者が算出した。
実質GDP押し上げ効果
| 公共投資 | 所得税減税 | 消費税増税 | 短期金利 |
| 1年目 | 1.14(1.12) | 0.48(0.62) | ▲0.18(▲0.14) | ▲0.60(▲0.05) |
| 2年目 | 1.13(1.31) | 0.63(0.59) | ▲0.29(▲0.17) | ▲0.80(▲0.25) |
| 3年目 | 1.01(1.10) | 0.58(0.05) | ▲0.24(0.10) | ▲1.12(▲0.64) |
| 合計 | 3.28(3.53) | 1.69(1.26) | ▲0.71(▲0.21) | ▲2.52(▲0.94) |
これらの数値に関して日経には色々な解説があり、興味のある方は5日の日経新聞を読んでもらえば良いと考える。また円が対ドルで10%上昇した場合の影響の試算結果も出ていたが、本誌では割愛させていただいた。たしかに二三疑問に思われる数値があるが、この表の数字は重要である。
まず「公共投資、波及効果が縮小」と言う日経のこの記事に対するタイトルが変である。たしかに公共投資の効果は、5年前の98年に比べいく分小さくなっている(三年間の合計で3.53から3.28と0.25減少している)。しかし依然、公共投資の波及効果は抜群に大きい。1兆円の公共投資の増加によって、三年間で3.28兆円も日本のGDPが増えるのである。
たしかに日経新聞が好きな「小さな政府」のためには、公共投資を始めとした政府支出を削り、減税を行なうことになる。しかし所得税の減税の波及効果は、依然公共投資の効果に比べずっと小さい。つまり公共投資を削減し、その分所得税減税を行なえば、どんどん日本のGDPは小さくなるのである。
現実に、日本政府は、公共投資をどんどん減らし、一方で税収が減っている。つまり減税を行ないながら、公共投資を削っているのである。これではデフレから脱却できるはずがない。このことをこの内閣府の数字は如実に表わしている。
不思議なことに今回の公表数字には、法人税の減税効果が含まれていない。前回の98年にはこの法人税の効果も公表されていたのである。この法人税を含んだ表を、本誌98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」に掲載している。この時の数字は上記の( )内の数字に対応しているはずであるが、微妙に違う。おそらく国民経済計算の基準が2000年から変わったことも影響していると考えられる。また短期金利は、1%の利上げではなく、利下げの場合が示されていた。
実質GDP押し上げ効果(98年版)
| 公共投資 | 所得減税 | 法人減税 | 短期金利 |
| 1年目 | 1.22 | 0.41 | 0.06 | 0.09 |
| 2年目 | 1.29 | 0.57 | 0.24 | 0.37 |
| 3年目 | 1.16 | 0.22 | 0.35 | 0.63 |
| 合計 | 3.67 | 1.20 | 0.65 | 1.09 |
この表から分るように、98年版では法人税減税の効果は絶望的に小さい。ところで世間には、これらの内閣府の数字に異論がある人もいると思われる。もちろん筆者も内閣府のモデルが正しく、他のシンクタンクのモデルの数字が間違っているとは言わない。しかし著しく違う数字については、モデルの前提条件を互に提示し、歩み寄る工夫が必要と考える。めいめいが好き勝手な計算を行っていては、経済モデル全体の科学性や信頼性が失われることは間違いない。
気が付いている人は少数派と思われるが、自民党の総裁選では、たいへん建設的な経済議論がなされていのである。亀井・高村・藤井の三氏は公共投資などの財政出動を行なうべきと主張していた。一方、小泉政権は、緊縮財政を続けて、財政の再建を図るとしていた。たしかに前者の三氏は積極財政によって、一時的に財政赤字が増えても、経済が拡大するため、将来の税収が期待されると説明していた。そして小泉政権の行なっている緊縮財政では、経済が縮小するだけでなく、税収も減り、むしろ財政再建が難しくなると指摘していた。
そこで今回の内閣府の経済モデルの試算結果で、この両者の主張を検証してみる。たしかに公共投資などの財政支出の波及効果は、依然大きくGDPも大きく伸びる。ただし効果がはっきり現われるまでには、最低でも数年かかるのである。たしかに波及効果大きいはずの公共投資でさえ、初年度には1.14の効果しかないのである。つまり積極財政はずっと続ける必要がある。思えば小渕内閣の時の積極財政が中途半端に終わったことが悔やまれるのである。
一方、緊縮財政を行なった場合には、GDPは大きく減少する。したがって税収は減ることになる。つまりこれは実質的に減税と同じことであり、この効果によって経済の落込みを小さくしている。これは租税のスタビライザー機能と呼ばれるが、減税の波及効果は、所得税・法人税・消費税のいずれも小さい。特に日本経済においては、減税の効果が小さい。
これではとても経済を反転させる力はない(もっともこのような見方に対しては、制度として事前に減税した場合には効果は大きくなると反論がありそうだが)。つまり内閣府の経済モデルによれば、緊縮財政を続ければ、税収の減少によって財政再建どころではなく、財政の赤字がどんどん増える可能性が強いことを示している。このように小泉政権の緊縮財政路線は、まさに「経済破壊路線」と言うことが、この内閣府の数字を見ても明らかである。したがって内閣府の数字を見る限り、亀井・高村・藤井の三氏の主張が正しいと考える。
このような微妙な経済論議では、租税のGDPの弾性値と言うものが分れば、さらに結論がはっきりする。これはGDPが1%増えた場合、租税収入がこれによって何%増えるかと言う数値である。そして累進課税カーブや不良債権の存在を考えれば、GDPの伸びが大きいほど、この弾性値自体も大きくなると思われる。つまり財政支出の規模を大きくするほど、加速度的に税収が増えることが予想されるのである。
したがって財政支出を増やすことによって、財政再建も可能になるという話である。かりに財政赤字がそれほど縮小しなくても、少なくとも財政赤字のGDP比は確実に小さくなると考える。内閣府もこのような数値を掴んでいるはずで、是非ともこれを公表してもらいたいものである。
このように自民党の総裁選は、とても興味ある議論がなされていたのである。しかし何も考えていないマスコミ人や御用学者化した日本のエコノミスト達は、自民党の総裁選の時には人々の興味をそらすことしかしていなかった。興味のある議論に深入りすることが、全くなかったのである。そしてこのような重要な数字を、何故、内閣府が総裁選の前にでなく、総選挙の直前に公表したかについては憶測を呼ぶ。
いずれにしても今日の与野党の総選挙の争点は、国民の一番関心のある経済問題を避けており、話にならないものである。したがって総選挙は、自民党の総裁選に比べ、とてもレベルの低い議論に終始していた。マスコミは、今回の選挙を「政権選択の選挙」と位置付けている。しかし「政権選択の選挙」は民主党のキャチコピーであり、民主党自身がとても政権なんか取れるとは思っていない。「政権選択の選挙」と言うから、小泉首相も「勝敗ラインは与党三党で過半数の241」ととんでもないことを言い始めたのである。どう言う訳か、マスコミも経済問題をどうしても避けたかったようである。
- 総選挙の結果
総選挙の結果については、今週号で取上げるつもりでいたが、もう少し情報が必要である。したがってこれは来週号で行なうことにする。
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