平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/9/8(第32号)
  • 本誌で以前から主張していたように、経常収支が赤字であるに拘わらず、ASEAN諸国の為替は高過ぎる水準を維持してきた。この原因は、これらの国が無理に自国の通貨をドルにリンクさせていたからである。このため、ここ数年のドル高と日本の円安により、経済が立ち行かなくなった。金融不安の発生である。それ以降は、ドルへのリンクを止め、実質的に為替の切り下げを行なった。これは正しい政策である。
    ASEAN諸国のこの政策と金融不安の影響は、当然関係諸国の経済にも及ぶ。日本の場合は、相対的な「円高」効果とこれら国の金融不安に対する金融支援である。交易条件としては、ASEAN諸国の「為替の切り下げ」は日本にとって、実質的な円高効果である。本誌では、円の均衡為替水準は106円くらいと想定して来たが、この切り下げによって、これを若干低い水準に修正する必要がある。
    日本以外で影響を受けるのは中国である。これについては、7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」を参照願いたい。既に香港の金融市場にもこの影響が現われているが、経済の競争力に影響が及ぶのはこれからである。最悪のケ-スでは、これらの国に金融不安が広がり、結果的には債権国でもある日本に大きな金融支援をせまられることである。最終的には、これらの金融支援が実質的な財政支出に変わることも十分考えられるのである。日本は「財政再建」の掛け声のもとに緊縮財政を行なっているが、これにより日本経済は外需に依存せざるを得ない。したがって、ASEAN諸国の経済のスランプもこの日本の経済政策のとばっちりとも考えられる。国内で財政の均衡を目指した政策をおこなっても、結果的にこれらの国に金融支援や財政支援が必要となれば、一体何を行なっているかわからないことになるのである。


住宅と貯蓄を考える(その1)
  • 住宅投資の国民経済に占める比重
    日本経済にとって住宅投資は一定の影響がある。最近のGDPに占める比率は75年当時の8%超に比べ3%くらい下がっているが、依然として5%を超え水準である。金額では25兆円くらいである。とくに96年度は、低金利と消費税アップ前の駆け込み需要により、例年より1割位くらい多いと考えられる。逆に、97年はその反動もあり、年間ベ-スで130万戸と例年より1割くらい減少しそうである。つまり96年度に比べ約2割減と言ったところであろう。金額では約5兆円くらいの減少と計算される。特別減税の廃止と消費税のアップが9兆円であるから、国内の需要はこれらだけで、(14兆円+住宅投資の誘発消費)のマイナスである。「円安」によって輸出が伸びているいるからそれほど景気の落ち込みは大きくないが、そのうち為替が円高となれば、景気が一気に下降する可能性がある。
    住宅の建設は、それに伴い家具などの購入、つまり誘発消費が行なわれることから、経済の波及効果は大きい。今年はエアコンなどの売れ行きが不振である。これは天候の不順が原因と言うことになっているが、筆者は、住宅建設の急激な減少の影響が大きいと考えている。現在のところ、住宅建設については残念ながら回復の見込みはない。したがって、政府の言っているような秋口からの景気の上昇はとても期待できない。
    このように住宅投資は国民経済にも大きな比重を占めているため、内需拡大策の切り札としてバブル崩壊後の景気対策の柱として、これを喚起する施策が採られてきた。それにより、住宅需要はかなり先食いされており、よほどの有利な条件が出現しない限り、今後もかなり住宅投資は減ると覚悟するべきであろう。また、ここ数年、低金利を追風に住宅融資を借り、マイホ-ムを買った人は多いが、返済に困っている人も多いのも事実である。4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」で述べた通り、日本の金利は見かけが低いが、物価上昇も極めて低いため、決して実質金利としては低いことはない。大きな昇給を想定して借入金額を大きくすれば、返済に困ることになる。物価が上昇しないから、名目の給料も上がらないのである。世間で言われている「低金利」と言う言葉はとかく錯覚を生みやすいのである。

  • 「大深度地下」の利用による地下鉄建設
    「大深度地下」の利用の具体的内容は「鉄道」、つまり「地下鉄」と「道路」の建設である。しかし、都市交通を考えると中心は「鉄道」と筆者は考える。世界的に見ても、道路を中心に交通体系を考えた都市はマヒ状態である。東京がかろうじて機能しているのも鉄道のおかげである。特に人の移動を中心に考えると今後も鉄道の重要性に変わりはない。
    筆者が考える、「大深度地下」の利用は「高速地下鉄」をとりあえず5線くらい首都圏の中心から郊外へ建設することである。さらにこれらの幹線を繋ぐ環状線を一線建設する。したがって合計で6線の地下鉄を建設することになる。これらの地下鉄に道路を併設することも考えられる。地下鉄の建設ルートは既存の鉄道が近くに走っていない所である。これにより、新しい宅地を大量に開発することが可能となる。ただし、そのうちの一線は、「東京駅」を経由して「羽田」と「成田」を結ぶものである。これにより「羽田」と「成田」の間は30分内で結ばれる。さらにそれにはジェット燃料のパイプラインを併設することも考えられる。また別の一線は、将来、東京大阪間のリニア線に使用できるよう山梨に向かって引くことになる。これらの線は始めから複々線で建設する。予算は一線が2兆円として、総額で12兆円である。これはユーロトンネルや青函トンネルの実績から類推した。
    これらの地下鉄建設により飛躍的に住宅の適地は増大する。都心から30分内のところに、年収の3倍と言わないまでもそれに近い価格でかなり大きな土地付の住宅が購入可能となろう。政府は現在の土地の供給を前提に、マンションによる「持ち家」を推進してきた。しかし、筆者は、マンションはあくまでも一時的な住居であり、将来はスラム化する可能性もあり、「持ち家」としては問題があると考えている。日本においてはやはり「土地」付の住宅を持ち家の中心に据えるべきである。土地については将来下落することがあっても一定の価値を保持することが望めるからである。
    ここまでは分かりやすい例として首都圏について述べたが、もちろん他の大都市圏でも大深度地下鉄の建設を行なうべきである。関西なら「関西国際空港」と「大阪、京都、神戸」を結ぶルートが候補となるであろう。

  • 日米の住宅の比較
    日本と諸外国、特に米国の住宅事情を比較することは、経済を考える上でも重要である。両国の最近の住宅着工件数は次の表の通りである。
    (日本は年度ベ-ス、米国は暦年ベ-ス。単位:万戸)
     日   本  米   国
    94156146
    95148135
    96163148
    この表の数字で注目される点は、各年とも日本の方が住宅着工件数は少し多いのである。ここ数年日本が住宅ブ-ムであると言うことではない。人口が米国の半分である日本の方が、建てる家の数は若干多いのである。件数は一戸建てと集合住宅を合計したものであるが、その比率はここでは一応無視する。同様に一戸当りの構成人数の違いも考慮しない。

    この数字が教える重要な結論は「米国の住宅の耐用年数は日本の倍以上」と言うことである。この理由は一つには気候の違い、つまり日本の方が高温多湿で家が傷みやすいと言うことが考えられる。また反対に、米国の家の建て方自体が頑丈であるとも言える。しかし筆者が考える最大の違いは「メンテナンス」と考える。米国人にとって家の「メンテナンス」は大切なことである。米国の勤め人が終業時とともに寄り道をせずに早く家に帰るのは、家に替えってからペンキを塗ったり、芝を刈るためである。これは現在住んでいる家のメンテナンスを行ない少しでも高く売るための行動でもある。
    日本の住宅の耐用年数が35年くらいなら、米国のものは80年以上持つのである。日本では家屋が消耗品なのに対して、米国ではりっぱな「資産」と言うことである。

  • 日本の住宅の流通市場
    日本には、米国のような既存住宅の流通市場はないと言える。日本の場合、既存住宅は中古住宅と呼ばれており、家屋にはほとんどその価値はないと考えられている。土地付きの中古住宅は、実質的にはその土地の価値で取引されているのである。家屋が古い場合には、撤去費用を考えると更地の方が価値があるのである。つまり土地の流通市場はあるが、家屋の流通市場は事実上ないのである。かろうじて流通市場があるのは、都心のマンションだけであろう。これも都心から一定の距離までである。とにかく、新築の家屋は、一旦人が住み込むと同時に価値が急速に落ちるのである。賃貸のマンションさえ同様の傾向がある。新築の賃貸マンションの方が好まれ、賃貸料もその分高くなる。
    ではなぜ、これほど日本人は新築の物件にこだわリ、また中古住宅の流通が難しいのかを考えてみよう。筆者には、この理由として次の事柄が挙げられる。
    1. 高温多湿の日本の気候が住宅を傷め、耐用年数を縮める。
    2. 日本は、特に都会では土地が高く、狭い土地しか確保できない。したがって狭い宅地に無理に家を建てるため、出来上がったものが個性的になりがちで、流通性が乏しくなる。
    3. 建てる方も、将来、それが高く売れると思っていないので、それほど丈夫なものを造らない。
    以上の事柄が考えられるが、筆者は、この他に日本人独特の精神的な感性が要因として大きいと考えている。それは、日本人が「けがれ」を極端に嫌うことである。一旦他人が使ったもの、あるいは住んだところは「けがれた」と考えるのである。これは日本人が大昔から脈々と受け継いでいる精神的なものである。「けがれ」を解消するのが、通常「みそぎ」である。また「人の死」も「けがれ」を生むものとみなされていた。だから為政者が死んだ時は大変である。その場合には、「都の引っ越し」、つまり「遷都」である。奈良に都が落ち着くまで、為政者が死ぬ度に遷都を行なっていたのである。昔のこの時代にあっては、この行動も高温多湿の日本の気候を考慮すれば、伝染病の防止などの意味もあって、けっして不合理な行動ではなかったかもしれないが、現代においても依然としてこの感性だけが強く生きている。このためか、抗菌グッズを買ったり、西洋式トイレの便座を拭くのは日本人くらいのものである。
    しかし、日本人のこのようなメンタリティ-が変わらない限り、日本において中古住宅が価値を持って流通することは難しい。そしてこのことが、経済にも結構影響を与えているのである。日米の貯蓄率の差もある程度これが影響していると考えられるが、これについては次週号で述べたい。





日常的に起こる経済問題をトーク形式で解説
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97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」