平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/7/28(第307号)
設備投資の実態

  • 日米の設備投資
    経済の循環で、輸出を除けば、注入は住宅投資、政府支出、そして民間の設備投資である。まず今日のような輸出依存型経済には限界があることは、誰でも承知しているはずである。したがって経済の縮小を避けるには、他の注入を増やし、内需を拡大する必要がある。

    しかし住宅投資はピークを過ぎ、今後減少に向かうことはほぼ確実であり、財政支出も小泉政権の政策を見れば明らかなように、むしろ縮小の方向に向かっている。来年度予算では、当初、公共投資を7%もの削減を目指していた。補助金も、税源移譲という美名のもとに、削減が計画されている。地方も単独事業をカットしている。したがってどうしても期待されるのは、残る民間の設備投資の増大である。

    しかし内需の縮小策が先行するなかで、設備投資だけが増えることは考えにくい。ところが経済を知らない日本のエコノミストやマスコミは、本気に「規制緩和」や「特区」などで設備投資が増えると信じ、このことを吹聴して回っている。彼等は、これを邪魔するのが、規制で利益のある既得権者とその庇護者である抵抗勢力という単純な図式で説明する。

    しかし彼等の主張する通りの規制緩和が実現しても、一体どれだけの設備投資が増えるのか不明である。もしそれがほんの僅かな投資しか生まないのなら、我々は壮大な時間と労力を浪費し、逆に有効な政策を実施するチャンスを逃していることになる。そこでそれを確かめるため、日本の設備投資の推移を米国との比較で見てみることにする。

    日米の設備投資名目GDP比率(%)
    日 本米 国差(日本−米国)
    85年16.512.54.0
    86年16.411.74.7
    87年16.511.15.4
    88年17.611.16.5
    89年19.011.27.8
    90年20.210.99.3
    91年18.410.18.3
    92年16.09.96.1
    93年14.610.34.3
    94年14.610.64.0
    95年14.611.13.5
    96年14.511.53.0
    97年15.912.03.9
    98年15.512.53.0
    99年14.512.71.8
    00年15.512.92.6
    01年15.511.93.6
    02年10.7

    表を見ればはっきりしているように、改革派の人々の意に反して、日本の設備投資はかなり高い水準でずっと推移している。これだけの設備投資を続けていれば、かなりの過剰設備が存在すると考えられる。バブル期の高水準の数値を除けば、今日の15%台の設備投資は決して小さくはない。

    一方、米国はずっと低い水準で推移しており、ITブームの頃でもわずか12%台である。今日、米国はITブーム時代の過剰の設備投資のため、新規の設備投資が盛上がらず、デフレが心配されている。たった2%の設備投資名目GDP比率が下がっただけなのに、米国政府は、デフレを警戒し、景気刺激策として減税を実施しているのである。

    本誌は3週間前03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」で、バブル崩壊後、日本の設備投資がものすごい勢いで減少したことを説明した。年間ベースで、20から25兆円(GDPの約5%)も減った。これは大変と、政府は財政支出を増やし、かろうじてマイナス成長を回避したのである。しかし今日、頭のおかしいエコノミスト達は、財政政策はその有効性を失ったとばかげたことを言っている。日本のバブル崩壊の方が衝撃としてはずっと大きかったのである。


  • 技術進歩による投資減少
    上の表でもう一つ別のことが、注目される。米国のITバブル時代の設備投資は、ものすごく大きなものであったと言う印象を与えている。しかし数値としてはたった2%くらいの増加に過ぎない。ところが設備投資が元のレベルに戻った今日の段階で、米国は大きな過剰設備を抱えていると言われている。やはり経済の質というものが変わって来ていることを考えるべきである。

    ポイントは技術進歩である。小さな設備投資でも、大きく生産能力が増える経済に変質していると考えられるのである。減価償却費の範囲の投資でも、設備の生産能力が大きく増えて行くのである。さらに技術進歩の影響が大きい分野の消費比率が、大きくなっている可能性も考える必要がある。

    近年、消費の中で比率を高めているのが通信費である。しかしこの分野では、たとえば光ファイバーWDM(光波長分割多重伝送)装置というものが登場している。たった2億円のこの装置で、東京ー名古屋間の光ファイバーの通信能力が40倍にもなる。桁違いの能力増である。これによって日米とも光ファイバー通信網の稼働率は数パーセントとなっている。おそらくそのうち、技術開発が進めば、ほんの僅かの追加的投資によって、この数倍の伝送を可能にする装置が登場すると思われる。


    ところで投資には二面性というものがある。投資によって生産力が生み出されるだけではない。一方で乗数効果を通じ、有効需要を創出する働きを投資は持っている。前に、経済循環で、貯蓄は漏出、投資は注入ということを説明した。技術進歩によって、わずかの投資で十分生産能力を確保できるとしたなら、貯蓄の全てを使わなくても良いという状況が生まれているのである。しかしこれによって漏出より注入が小さくなるため、経済の縮小均衡が起るおそれがある。つまり投資額が小さくてすむため、有効需要の不足といった事態が引き起されるのである。


    本来、家計が貯蓄を行い、これが銀行の仲介機能によって企業に渡され、企業がこれを投資に使っていた。実際、ずっと企業は貯蓄に関して赤字主体であった。しかし今日、企業までが貯蓄を行っているのである。つまり外部から資金を導入しなくとも、減価償却費の範囲内で必要な投資資金が賄えるのである。

    わずかの設備投資で、大きな生産力が得られる今日は、人類にとって幸運な時代のはずである。消費を切り詰め、この節約した資源を明日の生産力の確保のために投資に回してきたのが、これまでの人類の歴史である。しかし減価償却費の範囲の投資だけでも生産力が大幅にアップするなら、人々は貯蓄する必要がなくなったのである。つまり生産された財を全て消費しても経済成長は達成できる。まさにこれも技術進歩のおかげである。

    しかし技術進歩によって、投資額が以前に比べ小さくてすむことによって、別の問題が生じる。先に触れたように、投資の減少による、有効需要の不足である。経済のことが分らない経済学者は、人々の欲求は無限であり、需要にはきりがなく、需要不足なんか起るはずがないと考える。また需要が不足するのは、規制緩和が十分でないからと主張している人々がいる。しかし米国の光ファイバーの稼働率は何と2.6%である。かりに規制が原因で生産資源が十分使われていないとしても、90%以上の遊休設備が規制緩和で全面的に稼動するとはとても考えられない。

    世の中にはどうしても、デフレギャップの発生を認めない経済学者がいるのである。またどうしても投資が、貯蓄よりも不足する事態を想定したくないのである。これらの人々は、小泉首相の周辺によく見かける。しかし現実に、採算ベース、あるいは商業ベースを考えた投資だけでは、国民の貯蓄は使い切れず、どうしても有効需要の不足という事態が発生する。今日日本は、これを輸出の増加で辻褄を合わせている。またこれによって引き起される円高を、為替介入によってごまかしているのである。しかしとうとう米国から、巨額の為替介入にクレームがつくようになった。

    投資資金はそれほど必要ないのに毎年貯蓄は発生するため、今日どうしても、商業ベースの投資とは別に、生産力を生まない投資や支出が必要なのである。いわゆる余剰資金のはけ口である。しかし住宅投資はむしろ減少ぎみであり、残るは政府支出しかないのである。民間投資の比率の低い米国は、名目GDP比率で5%の軍需費(日本は1%)という生産力を生まない巨額の政府支出を行っている。しかしその米国でさえ、過剰設備によってデフレに陥ることを警戒せざるを得ない状態である。したがってもっと事態が深刻な日本で(貯蓄が大きく、過剰設備が大きい)、政府支出を削減しろ、あるいは採算が合わないから高速道路を造るなと主張している人々の頭の中味がわからない。採算が合わないなら、国が国費を支出して高速道路を造れば良いのである。



来週号では、設備の稼働率を取上げる。

9月20日に自民党の総裁選の結果が出る。これは極めて重要なことである。最近まで多くのマスコミ人は、無投票による小泉首相の再選という事態を想定していた。筆者は、何故そのように考えているのか不思議でならなかった。一つの根拠があやしい支持率調査の結果と考える。しかし先週号で述べたように相当操作されている可能性が強い。

本誌の今年の夏休みの休刊予定は、変則的になる。8月11日号と8月25日号を休刊にする予定である。



03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
02/12/23(第279号)「乗数値の低下と経済政策」
02/12/16(第278号)「零細企業・個人の借入金問題」
02/12/9(第277号)「ルーカスの子供達」
02/12/2(第276号)「日本のデフレギャップの怪」
02/11/25(第275号)「小泉政権の支持率の怪」
02/11/18(第274号)「セイニア−リッジ政策の推進(その3)」
02/11/11(第273号)「セイニア−リッジ政策の推進(その2)」
> 02/11/4(第272号)「外資系ファンドの実態」
02/10/28(第271号)「竹中平蔵大臣の研究」
02/10/21(第270号)「嵌められた話」
02/10/7(第269号)「銀座のデモ隊」
02/9/30(第268号)「末期的な経済政策」
02/9/23(第267号)「銀行の不良債権問題(その3)」
02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」
02/9/9(第265号)「セイニア−リッジ政策の推進(その1)」
02/8/12(第264号)「経済よもやま話」
02/8/5(第263号)「マスコミのチャイナースクール化」
02/7/29(第262号)「チャイナースクールの落日」
02/7/22(第261号)「中国の不当な為替政策」
02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」
02/7/8(第259号)「榊原慶大教授の文章」
02/7/1(第258号)「小泉政権の本音」
02/6/24(第257号)「小泉政権への批難」
02/6/17(第256号)「サッカーのワールドカップ大会」
02/6/10(第255号)「成功は失敗のもと」
02/6/3(第254号)「為替と物価」
02/5/27(第253号)「消費税の減税効果」
02/5/20(第252号)「小泉政権のデフレ対策」
02/5/13(第251号)「酔っぱらいの論理」
02/4/22(第250号)「生産力を生まない投資」
02/4/15(第249号)「商品相場と世界の動き」
02/4/8(第248号)「経済予測のレビュ-」
02/4/1(第247号)「ニュークラシカル派の実験」
02/3/25(第246号)「ニュークラシカル派の論理」
02/3/18(第245号)「日本の所得格差の動向」
02/3/11(第244号)「通常では行わないような経済政策」
02/3/4(第243号)「セイニア−リッジ政策への準備」
02/2/25(第242号)「資金の使途(その3)」
02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」
02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
02/1/14(第236号)「経済政策の目標」
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