- 日米の設備投資
経済の循環で、輸出を除けば、注入は住宅投資、政府支出、そして民間の設備投資である。まず今日のような輸出依存型経済には限界があることは、誰でも承知しているはずである。したがって経済の縮小を避けるには、他の注入を増やし、内需を拡大する必要がある。
しかし住宅投資はピークを過ぎ、今後減少に向かうことはほぼ確実であり、財政支出も小泉政権の政策を見れば明らかなように、むしろ縮小の方向に向かっている。来年度予算では、当初、公共投資を7%もの削減を目指していた。補助金も、税源移譲という美名のもとに、削減が計画されている。地方も単独事業をカットしている。したがってどうしても期待されるのは、残る民間の設備投資の増大である。
しかし内需の縮小策が先行するなかで、設備投資だけが増えることは考えにくい。ところが経済を知らない日本のエコノミストやマスコミは、本気に「規制緩和」や「特区」などで設備投資が増えると信じ、このことを吹聴して回っている。彼等は、これを邪魔するのが、規制で利益のある既得権者とその庇護者である抵抗勢力という単純な図式で説明する。
しかし彼等の主張する通りの規制緩和が実現しても、一体どれだけの設備投資が増えるのか不明である。もしそれがほんの僅かな投資しか生まないのなら、我々は壮大な時間と労力を浪費し、逆に有効な政策を実施するチャンスを逃していることになる。そこでそれを確かめるため、日本の設備投資の推移を米国との比較で見てみることにする。
日米の設備投資名目GDP比率(%)
| 年 | 日 本 | 米 国 | 差(日本−米国) |
| 85年 | 16.5 | 12.5 | 4.0 |
| 86年 | 16.4 | 11.7 | 4.7 |
| 87年 | 16.5 | 11.1 | 5.4 |
| 88年 | 17.6 | 11.1 | 6.5 |
| 89年 | 19.0 | 11.2 | 7.8 |
| 90年 | 20.2 | 10.9 | 9.3 |
| 91年 | 18.4 | 10.1 | 8.3 |
| 92年 | 16.0 | 9.9 | 6.1 |
| 93年 | 14.6 | 10.3 | 4.3 |
| 94年 | 14.6 | 10.6 | 4.0 |
| 95年 | 14.6 | 11.1 | 3.5 |
| 96年 | 14.5 | 11.5 | 3.0 |
| 97年 | 15.9 | 12.0 | 3.9 |
| 98年 | 15.5 | 12.5 | 3.0 |
| 99年 | 14.5 | 12.7 | 1.8 |
| 00年 | 15.5 | 12.9 | 2.6 |
| 01年 | 15.5 | 11.9 | 3.6 |
| 02年 | ー | 10.7 | ー |
表を見ればはっきりしているように、改革派の人々の意に反して、日本の設備投資はかなり高い水準でずっと推移している。これだけの設備投資を続けていれば、かなりの過剰設備が存在すると考えられる。バブル期の高水準の数値を除けば、今日の15%台の設備投資は決して小さくはない。
一方、米国はずっと低い水準で推移しており、ITブームの頃でもわずか12%台である。今日、米国はITブーム時代の過剰の設備投資のため、新規の設備投資が盛上がらず、デフレが心配されている。たった2%の設備投資名目GDP比率が下がっただけなのに、米国政府は、デフレを警戒し、景気刺激策として減税を実施しているのである。
本誌は3週間前03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」で、バブル崩壊後、日本の設備投資がものすごい勢いで減少したことを説明した。年間ベースで、20から25兆円(GDPの約5%)も減った。これは大変と、政府は財政支出を増やし、かろうじてマイナス成長を回避したのである。しかし今日、頭のおかしいエコノミスト達は、財政政策はその有効性を失ったとばかげたことを言っている。日本のバブル崩壊の方が衝撃としてはずっと大きかったのである。
- 技術進歩による投資減少
上の表でもう一つ別のことが、注目される。米国のITバブル時代の設備投資は、ものすごく大きなものであったと言う印象を与えている。しかし数値としてはたった2%くらいの増加に過ぎない。ところが設備投資が元のレベルに戻った今日の段階で、米国は大きな過剰設備を抱えていると言われている。やはり経済の質というものが変わって来ていることを考えるべきである。
ポイントは技術進歩である。小さな設備投資でも、大きく生産能力が増える経済に変質していると考えられるのである。減価償却費の範囲の投資でも、設備の生産能力が大きく増えて行くのである。さらに技術進歩の影響が大きい分野の消費比率が、大きくなっている可能性も考える必要がある。
近年、消費の中で比率を高めているのが通信費である。しかしこの分野では、たとえば光ファイバーWDM(光波長分割多重伝送)装置というものが登場している。たった2億円のこの装置で、東京ー名古屋間の光ファイバーの通信能力が40倍にもなる。桁違いの能力増である。これによって日米とも光ファイバー通信網の稼働率は数パーセントとなっている。おそらくそのうち、技術開発が進めば、ほんの僅かの追加的投資によって、この数倍の伝送を可能にする装置が登場すると思われる。
ところで投資には二面性というものがある。投資によって生産力が生み出されるだけではない。一方で乗数効果を通じ、有効需要を創出する働きを投資は持っている。前に、経済循環で、貯蓄は漏出、投資は注入ということを説明した。技術進歩によって、わずかの投資で十分生産能力を確保できるとしたなら、貯蓄の全てを使わなくても良いという状況が生まれているのである。しかしこれによって漏出より注入が小さくなるため、経済の縮小均衡が起るおそれがある。つまり投資額が小さくてすむため、有効需要の不足といった事態が引き起されるのである。
本来、家計が貯蓄を行い、これが銀行の仲介機能によって企業に渡され、企業がこれを投資に使っていた。実際、ずっと企業は貯蓄に関して赤字主体であった。しかし今日、企業までが貯蓄を行っているのである。つまり外部から資金を導入しなくとも、減価償却費の範囲内で必要な投資資金が賄えるのである。
わずかの設備投資で、大きな生産力が得られる今日は、人類にとって幸運な時代のはずである。消費を切り詰め、この節約した資源を明日の生産力の確保のために投資に回してきたのが、これまでの人類の歴史である。しかし減価償却費の範囲の投資だけでも生産力が大幅にアップするなら、人々は貯蓄する必要がなくなったのである。つまり生産された財を全て消費しても経済成長は達成できる。まさにこれも技術進歩のおかげである。
しかし技術進歩によって、投資額が以前に比べ小さくてすむことによって、別の問題が生じる。先に触れたように、投資の減少による、有効需要の不足である。経済のことが分らない経済学者は、人々の欲求は無限であり、需要にはきりがなく、需要不足なんか起るはずがないと考える。また需要が不足するのは、規制緩和が十分でないからと主張している人々がいる。しかし米国の光ファイバーの稼働率は何と2.6%である。かりに規制が原因で生産資源が十分使われていないとしても、90%以上の遊休設備が規制緩和で全面的に稼動するとはとても考えられない。
世の中にはどうしても、デフレギャップの発生を認めない経済学者がいるのである。またどうしても投資が、貯蓄よりも不足する事態を想定したくないのである。これらの人々は、小泉首相の周辺によく見かける。しかし現実に、採算ベース、あるいは商業ベースを考えた投資だけでは、国民の貯蓄は使い切れず、どうしても有効需要の不足という事態が発生する。今日日本は、これを輸出の増加で辻褄を合わせている。またこれによって引き起される円高を、為替介入によってごまかしているのである。しかしとうとう米国から、巨額の為替介入にクレームがつくようになった。
投資資金はそれほど必要ないのに毎年貯蓄は発生するため、今日どうしても、商業ベースの投資とは別に、生産力を生まない投資や支出が必要なのである。いわゆる余剰資金のはけ口である。しかし住宅投資はむしろ減少ぎみであり、残るは政府支出しかないのである。民間投資の比率の低い米国は、名目GDP比率で5%の軍需費(日本は1%)という生産力を生まない巨額の政府支出を行っている。しかしその米国でさえ、過剰設備によってデフレに陥ることを警戒せざるを得ない状態である。したがってもっと事態が深刻な日本で(貯蓄が大きく、過剰設備が大きい)、政府支出を削減しろ、あるいは採算が合わないから高速道路を造るなと主張している人々の頭の中味がわからない。採算が合わないなら、国が国費を支出して高速道路を造れば良いのである。
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