平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/7/21(第306号)
企業経営と創造的破壊

  • 創造的需要
    先週号で述べたように、本来シュムペータの創造的破壊は、供給サイドを重視している。古い設備が廃棄されることによって、新しい設備が導入されたり、新しい産業が興ると説明している。ちょうど新しい家を建てるために、古い家屋の解体撤去が必要という話と同じである。

    しかしシュムペータの創造的破壊には、大きな問題がある。新しく導入した設備で製造される製品に対して、はたして需要があるかどうかということである。しかしこの批難を意識してか、最近ではシュムペータの信奉者達(シュムペータチルドレン)は「創造的需要」という奇妙なことを言い始めた。

    日経新聞にも頻繁にこの「創造的需要」に近い言葉が登場する。「デフレの克服には官製の総需要追加政策よりも、民間の創需要が肝心だ」といった具合である。創需要と美しい言葉であるが、それが何なのか決して明示されない。そしてこれには規制緩和が必要と言ういつものパターンの理屈が続く。要するに彼等は、「財政政策は不要だ」と言いたいのである。

    この論議では、いつも何か目新しい商品や設備が造られると需要が生まれ、これが規制緩和の成果と強調される。世の中の「点」のような出来事を取上げ、このようなパターンで新しい需要が起ってくると主張する。たとえば六本木ヒルズが人出を集めていれば、これは規制緩和による再開発の成果と言う。このように規制緩和を続ければ、どんどん需要が増え、デフレも解決するというのである。反対に財政政策による需要創出政策は、このような流れを阻害すると厳しく弾劾する。

    最近もっとすごい意見が堂々と日経新聞に掲載されていた。三国事務所代表の三国氏の意見である。まず「デフレは原因はマネー不足である。金利を上げてマネーを海外から呼び戻したり、タンス預金を呼び込む必要がある。雇用維持の優先がむしろ経済を破壊して行く。」である。これらもすごいが、最後に「見たこともない商品を買ってくれるベンチャー消費者の存在が欠かせない。」にはびっくりした。この三国氏の意見は日経の「デフレが蝕む」というシリーズの中の一つである。

    彼はデフレ克服には「ベンチャー消費者」が必要と言っているのである。「民間の創需要」もすごいが、「ベンチャー消費者」とは笑いを越えている。このように日経は、デフレ経済の問題を真面目に考えたことがないのである。


    そのような日経でもまともな意見が時々散見される。7月13日の「エコノ探偵団」である。このシリーズは毎週日曜日に掲載されており、これはマクロ経済を理解している人々の編集のようである。7月13日には阪神快進撃の経済効果を取上げていた。世間では、阪神の快進撃が大きな経済効果を生むという解説がなされている。この「エコノ探偵団」でも前半は、このような経済効果の試算が紹介されていた。筆者も「また同じことを」と思っていたが、後半は一転した。代替消費の説明があった。

    どれだけ阪神が活躍し、阪神グッズが売れても、一方で、消費が減るものがあるというのである。たとえば阪神の試合のある日は、飲み屋の客が減り、売り上げが減少するといった具合である。また特に貯蓄のない人々は、阪神グッズを買った場合、他の消費を減らさざるをえないと解説している。つまり阪神効果といってもプラスマイナスはほぼゼロと言っているのである。


    本誌でもずっと主張しているように、消費はほぼ所得の一定額である。したがって何かの消費が増えれば、他の消費が減るのである。まさにこれが消費の代替効果である。数年前にも「ユニバーサルスタジオ」の経済効果が話題になった。たしかに大阪には経済的メリットは発生する。しかし全国的で見れば、その分他のテーマパークの客が減るのである。実際、このためかその後、ハウステンボスや宮崎のシーガイアは経営危機に陥った。つまり「創造的需要」とか「ベンチャー消費者」があっても、マクロ経済には何の影響もないのである。

    デフレを克服するために消費を増やすには、まず所得を増やすことが先決である。需要といっても日本全体の総需要が問題なのである。所得が増えないのに、「創造的需要」とか「ベンチャー消費者」とか言っているが、これらは全く経済学を理解していない人々の妄想である。


  • 企業経営と国の経済運営
    いつ頃からなのか、日経新聞は、経済新聞というより経営新聞になった。日経にとって一国の経済より、一企業の経営の方が大事なのである。よくデフレに関する特集が組まれているが、どれもこれも視点がおかしく、言っていることが的外れである。「個人の技量を磨く」「規制緩和で新しい産業を起こす」「大企業から独立してベンチャーを興す」など、デフレ克服と全く関係のない事柄ばかりである。

    デフレは総需要と総供給の関係の話である。ところでよく日経はデフレ解決策として、総供給を減らすことを主張している。建設・土木業者や銀行は多すぎるから、これらの中で淘汰が起れば、残った企業の採算もよくなり、投資も行われるというのである。これもシュムペータの創造的破壊に通じる考えである。しかし総供給を減らせば、失業が発生し、総需要がさらに減るのである。しかし小泉政権の政策はこの線に沿って行われている。したがって大企業が破綻する度に小泉首相は「改革は順調に進んでいる」と喜んでいる。


    「創造的破壊」の信奉者は、小泉首相だけではない。企業の経営者にもこの信者が多い。経団連や経済同友会の主なメンバーも同じような考え方を持っている。しかし企業経営と国の経済運営では大きな違いがある。たしかに企業経営では、「創造的破壊」は是認される。

    企業経営では、悪い設備を廃棄し、古い技術しか持たない労働者を解雇することはあり得る。またコスト削減について行けない下請企業との取引を止めることができる。つまり企業経営においては「排除の理論」を実行できるのである。しかし国は反対に「排除の理論」を実行することができないだけでなく、むしろ「排除の理論」によって排除された人々を受入れる必要がある。

    どの企業も「創造的破壊」に走れば、倒産が増え失業が増える。これを保険や国で手当しなければ、総需要は減る。この結果、企業は国内の需要が不足するため、製品を輸出することになる。つまり日本の産業構造が外需依存型にならざるを得ない。

    この場合、一企業にとって為替は所与である。1米ドルが120円なら、120円で製品を輸出ができる。しかし全ての企業が「創造的破壊」的経営を行えば、輸出ばかりがどんどん増えることになる。つまり一企業にとって所与であった為替レートもどんどん円高になる。まさにこれが今日の日本経済の姿である。円高傾向に対して、今日当局は大きな為替介入を行って、これを阻止している。政府は、為替介入という名の輸出企業の保護政策を行っているのである。つまり企業の「創造的破壊」的経営を容認しながら、外需依存型経済を助長しているのが今日の政府の経済政策である。


    経団連や経済同友会は、小泉政権の「創造的破壊」路線に賛成している。しかし一企業の経営手法が国の経済運営と同じになるはずがない。ましてや政府が、今年に入って既に7兆円を越える為替介入という名の輸出補助金を支出していることに、彼等は全く気が付いていない。自分達の実力で企業経営が成立っていると誤解しているのである。

    「松下」が企業の生残りを賭けて「創造的破壊」的経営を行うことは一向にかまわない。しかし企業経営と国の経済運営とは全く違う。最近、財界人が国の審議会などで、国の経済運営に対して、企業経営を引合に色々と意見を述べているが、これらがことごとく的外れである。これも世間がシュムペータを経済学者と勘違いしているからである。彼は経済学者ではなく、経営学者なのである。まさにシュムペータの信者(患者)達によって、日本は本当に破壊されそうである。



来週号は、設備投資を取上げる。日本の民間の設備投資が容易に増えないことを説明したい。

テレビ朝日系サンデープロジェクトのアンケート調査の結果が非常におかしい。アンケートの結果、小泉首相の再選に賛成する者が60%となっていた。しかし反対する者と賛成する者の合計が、90%くらいと、異常に大き過ぎる。まだ二ヶ月も先の話であり、通常、「分らない」「まだ判断できない」という答がもっと大きいはずである。ましてや回答者には自民党支持者でない人々の方が多いはずなのである。

さらにその前の質問で、小泉政権の経済政策を支持するものが24.4%しかいないというのである。このような矛盾した、おかしな結果を平気で放送しているテレビ局には、何らかの意図が感じる。

アンケートの質問によって結果は大きく異なってくる。たとえば「次ぎの自民党の総裁では、小泉首相に賛成しますか、反対なら誰が適当か答えて下さい」と言った形や、「次ぎの自民党の総裁では、小泉首相に賛成しますか、反対ならその理由を答えて下さい」といった具合である。つまり小泉再選に反対するなら、次から次へ根掘り葉掘り聞かれるという印象を与えるのである。アンケートに答える人々は、「プライバシーを守りたい」「はやくアンケートを終えたい」という心理が働き、このようなおなしな結果が出たとも考えられる。とにかく「分らない」「まだ判断できない」があまりにも少な過ぎる。



03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン