平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


次週4月28日号はゴールデンウィークにつき休刊とさせていただく

03/4/21(第294号)
逆噴射の財政政策

  • 慶応大学
    92年の地価下落から、日本経済は危機的状況が続いている。10年以上も経済のスランプが続いている。かろうじて経済が持っているという状態である。しかし増資で自己資本比率を維持している銀行に象徴されるように、日本経済もそろそろ限界である。

    しかしこのような深刻なフローのデフレと資産デフレが起っている中で、逆噴射的に緊縮財政を行った政権が二つある。橋本政権と小泉政権である。結果は全く同じように、経済をさらに落込ませただけでなく、税収不足やその後の景気対策によって、却って公的債務を増やした。驚くことにはこの橋本元首相と小泉首相は共通点が実に多い。


    両者は自民党に強い基盤を持っていない。早く言えば、子分がほとんどいない。橋本氏は首相になった時には、小渕派の一メンバーに過ぎなかった。小泉首相も元は森派の一メンバーである。このように党内に強い基盤を持っていない宰相は過去に何人かいたが、共通する政治スタンスがある。

    党内の基盤が弱い総理大臣は、立場が弱いため、どうしても「改革」ばかりを唱えるのであるる。つまり「改革」を唱えることによって国民的な支持を取り付け、与党から足を引張られないようにするのである。具体例としては三木、海部の「政治改革」、中曽根の「行政改革」などである。中曽根首相は強い基盤を持っていたように思われているが、内閣発足当初は田中元首相の影響下にあった。当時は「田中曽根内閣」と呼ばれていたほどである。

    党内の基盤が弱い首相は、支持率を維持するために、どうしても世論の動向を気にし過ぎる。そのためパフォーマンスが過剰になる。信念よりパフォーマンスが大事なのである。自民党ではないが、細川元首相にも同様の傾向があった。そう言えば、初めて8月15日に靖国神社に参拝した首相は三木首相だったはずである。8月15日には東京で終戦記念式典があり、自民党の強力な支持団体である遺族会の人々が靖国神社に参拝にやって来るからである。靖国神社に縁のなかったはずの小泉首相も、8月15日にこだわったのもこのような事情があったからと思われる。


    橋本・小泉首相の話に戻る。両者は決して経済が強いと定評のある政治家ではない。党内では両者はともに厚生族として活動しており、両者は厚生大臣の経験者である。特に小泉氏は厚生大臣しか閣僚経験がない。また橋本内閣の財政改革路線も、橋本首相自身ではなく、梶山静六官房長官(この政治家も経済に弱かった)が強引に進めていたのが実状である。

    しかし筆者が考える橋本・小泉首相の最も重要な共通点は、両者がともに「慶応大学」の出身者という点である。「何をばかなことを」と思われる方が随分いると想われるが、これが結構大事なことである。慶応大学は割りとはっきり特定の経済理論に傾倒している。大学全体にJ・M・ブキャナンの影響を強く受けているのである。ブキャナンは公共経済学者で、86年にノーベル経済学賞を受賞したえらい学者である。そして日本のブキャナンの研究の第一人者が、以前慶応大学経済学部長で、現在千葉商科大学長の加藤寛氏である。

    橋本元首相はどれだけ加藤寛氏の影響があったかはっきりしないが、行政改革委員会や政府税調の要職にあった加藤寛氏と相当の接触があったものと想像される。一方、小泉氏は、はっきりと学生時代は加藤寛氏の授業を熱心に聴講していたとテレビで発言していた。


  • ブキャナン・ワグナーの定理
    ブキャナン経済学の真髄は「民主主義的意思決定過程の中では、景気が過熱しているときでも、人々が好まない緊縮的政策をとることができない」という主張である。つまり民主国家では、どうしても財政支出が増え続け、どんどんインフレが進行するメカニズムを持っているというのである。これはまさに一種のケインズ政策批判である。ブキャナンはこの分析を政治学者であるワグナーとの共同研究で行っている。そしてこのような考えは「ブキャナン・ワグナーの定理」と呼ばれている。この定理は84年両者の共著「赤字財政の政治経済学」の中で展開されている。

    しかしこの種の定理が、今日の日本でも有効なのかどうかが大問題である。これを考えるにはまず当時の米国経済を簡単に見ておく必要がある。第二次世界大戦時から、米国の財政は危機管理下に入った。膨大な戦費の負担と社会主義国のソ連の登場に対抗するための大幅な福祉予算の増額があったからである。歳出を大幅に増やしたが、これを税収ではとても賄えない。

    米国の連銀は、42年から51年まで青空天井で政府の財務省証券を購入した。10年物の財務省証券の利回りが2.5%以上に上昇しないように、連銀は証券を買い続けたのである。しかしさすがに財務省証券を買い続けて貨幣の流通量を増やしたので、物価も上昇の兆しが出てきた。そこで51年にFRBは政府と協定を結んだ。財務省証券の利回りが2.5%以上に上昇しても良いという形に変えたのである。これが有名なアコード(協定)である。この協定によって、中央銀行としてのFRBは独立性を回復したともいえる。

    それ以降、米国は朝鮮戦争、ベトナム戦争、さらに福祉予算と米政府は依然金が足らない状態が続いた。連銀は、利回り上昇を容認しながらも、財務省証券の購入を続けたのである。一時は財務省証券の発行額の半分以上を連銀が保有する状態になった。これによって物価の上昇率も大きくなり、まさにインフレ状態になった。一方、日本やドイツなどの工業国の生産力が飛躍的に伸び、米国産業は競争に負けるようになった。


    要するに「ブキャナン・ワグナーの定理」が主張された頃の米国は、経済がボロボロに疲弊し、貿易赤字と財政赤字が増え続けていた時代であった。インフレが続くのに、選挙民の財政支出を求める声が大きかった。政治家の方も選挙に勝つために、歳出を増やすような政策を選択しがちだったのである。また金利も相当高くなり、民間と政府が資金を取合う、つまり金融はクラウディングアウト状態であった。

    当時の米国経済の惨状を目の前にすれば、筆者でもケインズ政策を否定したくなるであろう。つまりブキャナン・ワグナーが直面していた米国経済は、今日の日本経済と全く違うものであった。状況はむしろ正反対である。ただ公的累積債務がどんどん増える点だけは同じである。しかし物価が上昇する米国に対して、下落する日本、金利も上昇が著しい米国に対して、歴史的に低い日本とまるで対照的である。


    経済の基礎的条件が全く正反対なのに、米国で行われてしかるべき緊縮財政を行って、一層経済状況を悪化させたのが橋本・小泉首相である。筆者はこの二人にブキャナン・ワグナーの影響を見る。両者の緊縮財政の結果、フローのデフレが酷くなっただけでなく、資産デフレが止まらなくなったのである。

    さらに「民主国家では、景気が過熱しているときでも、人々が好まない緊縮的政策をとることができない」というブキャナン・ワグナーの定理も日本の実状に全く合わない。これだけ経済が落込んでいる日本なのに、人々に痛みを強いる緊縮財政を行うことで、小泉政権は80%以上の支持率を得ていたのである。最近の選挙では「金を使わない」という立候補者の方が当選するのである。実際、「清貧の思想」が好まれる日本では、むしろどんどん金を使う発想の方が嫌われているのである。

    小泉政権の閣僚に慶応大学出身者が極めて多いだけでなく、応援している若手の二世議員にも慶大出が多い。これらの人々は声を揃えてブキャナン流の主張を行っている。どうも「機会の均等が確保されることが重要であり、結果を均等化しようとすることが間違い」という常套句もブキャナンが言っていそうである。日本においては、「機会の均等」が確保される可能性などまったくないのに、彼等は結果の均等化の方だけをいやに否定している。二世議員の存在自体が「機会の均等」に全く反しているではないか。

    小泉政権に関係している経済学者やエコノミストにも慶大関係者が突出して多い。これらの人々もブキャナン・ワグナーの影響を強く受けていると思われる。そろそろ加藤寛慶大名誉教授が表に出て来て、「今日の日本ではブキャナン・ワグナーの定理は全くあてはまらない」と、めちゃくちゃをやっている弟子達を諌める必要があると思われる。

    ところで驚くことに、反ケインズ主義と思われているブキャナン・ワグナーは、79年版「赤字財政の政治経済学」の中で「需要不足の経済状態から脱出するにはための理想的な経済政策は、政府貨幣発行を財源とする赤字予算を組むことである。」といっている。まさにその通りである。やはりブキャナンは第一級の経済学者である。それにしても政府貨幣発行とは進歩的である。ブキャナンの孫弟子達は、ちゃんとブキャナンを勉強すべきである。



次週4月28日号はゴールデンウィークにつき休刊とさせていただく。次回号は、5月5日発行であるが、テーマは未定である。

ノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ教授が、日経新聞の招きで来日し、シンポジウムで意見を述べている。デフレからの脱出には、円安や消費税減税に加え、政府紙幣(貨幣)発行による積極財政を主張している。ほとんど筆者達と同じ主張である。一気に政府紙幣(貨幣)発行が注目を集めている。本誌ではかなり以前から取上げていたが、日本では政府紙幣(貨幣)発行はほとんど知られていない政策である。世の中も変わったものである。

まだ政府紙幣(貨幣)については理解が十分になされていない。日銀のある理事は「日銀券が政府紙幣に置き換わるだけであり、問題を解決する方策とは思えない」と反論していた。これは全くの誤解である。政府紙幣を発行するとは、これを使って財政政策を行うことを意味する。つまり所得を発生させるようなマネーサプライを増やすことを意味しているのである。政府紙幣を使って銀行が持っている国債を政府が買上げるような政策は想定していない。

政府紙幣に対して、岩田一正日銀副総裁は「国債の日銀引受け同様に、日銀の独立性を脅かす」と反論している。これに対してスティグリッツ教授は「世界的に中央銀行の独立性があれば経済が回復するとの証拠はない」と反論している。さらに政府紙幣の発行量に制限を設ければ、問題はないといっている。全くその通りである。

だいたい内閣府出身の岩田一正日銀副総裁は「インフレ目標実現のため、日銀にETFやREITを買わせろ」と言っていた人物である。そのような人物が急に「日銀の独立性」といっているのであるから驚く。また中央銀行による国債買入れの方も、今週号で説明したように米国などが大々的にやって来たように、経済状況によって行われるむしろオーソドックスな政策である。日銀がETFやREITを買う方が、よほど異常な政策である(既に誰か関係者がETFを高値で買っているのであろうか)。筆者の印象では、この岩田副総裁自身が日銀でも浮いている存在のような気がする。

財務省もスティグリッツ教授を招いて講演会を行っている。これがどういう意味を持つのか、ゴールデンウィーク中考えてみるのも良いかもしれない。「感」の鈍いエコノミスト、政治家、官僚は世の中の流れがひょっとしたら大きく変わろうとしていることに、全く気がついていないのかもしれない。

政府紙幣(貨幣)に関して、本誌は以前、政府貨幣発行権を日銀に売却し、日銀振出しの小切手を受取る方法を説明した。これに関して知人が財務省と日銀に照会していた。財務省からの回答は「政府が政府紙幣(貨幣)を作成し、それを日銀に持ってゆき、日銀の口座である国庫(政府預金口座)に入金してもらえば、政府貨幣発行となる。」『「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」(昭和62年法律第42条)第4条3項』であった。どうもやはり政府紙幣(貨幣)の現物をまず作成(金額の制限はない)する必要があるみたいである。

スティグリッツ教授の主張通り、政府貨幣を発行し、これを財源に積極財政を行えば、日本もデフレ経済から脱却できる。銀行の不良債権も処理が簡単になり、失業も減る。政府紙幣は借金ではなく、もちろん財政は急速に良くなる。困るのはこれまで「規制緩和」や「構造改革」で日本経済が良くなると大嘘をついてきた連中である。これらの主張が虚言・妄言ということが証明されるのである。したがってその代表格である内閣府出身の岩田一正日銀副総裁などは、スティグリッツ教授の主張を否定するのに必死である。



03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
02/12/23(第279号)「乗数値の低下と経済政策」
02/12/16(第278号)「零細企業・個人の借入金問題」
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02/12/2(第276号)「日本のデフレギャップの怪」
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02/11/18(第274号)「セイニア−リッジ政策の推進(その3)」
02/11/11(第273号)「セイニア−リッジ政策の推進(その2)」
> 02/11/4(第272号)「外資系ファンドの実態」
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02/10/21(第270号)「嵌められた話」
02/10/7(第269号)「銀座のデモ隊」
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02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」
02/9/9(第265号)「セイニア−リッジ政策の推進(その1)」
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02/2/25(第242号)「資金の使途(その3)」
02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」
02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
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