平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/8/18(第29号)
  • 米国株式が少し下がっているが、まだパ-センテ-ジトとしてはそんなに大きなものではない。これが本格的な下落になるかどうかは、資金の流れを見極める必要がある。もしそのような事態になるとしたら、その資金の受け入れ先は日本と欧州であるが、日本に流れて来る可能性が高い。その根拠は株を売った資金はまた株に投資されやすいからである。その場合には、既に高くなっている欧州より、日本に向かう方がリスクが小さいのである。いずれにしても、しばらくは資金の流れと円レ-トの動向に注目される。ただ、資金が日本に流入して円高になつた場合には、もたつき気味の景気が本当に悪くなる可能性がある。もしそうなれば、「不況下の株高」と言う事態になりかねない。

米国経済の生産性の向上を考える
  • 生産性の計測は難しい
    失業率が低位に推移し、企業業績が良く、税収も増えている好調な米国経済であるが、以前のように好景気時の物価上昇がみられない。この説明として、米国経済の生産性の向上が挙げられている。先週号、8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」で取り上げた「ニュ-エコノミ-論」はその代表である。しかし、生産性と言うものを計測するのは難しく、ましてやその向上と言ってもまるで雲を掴むような話である。
    仕事の内容が「杭を打つ」とか「商品を運ぶ」と言った単純な場合には、その生産性と言うものはある程度具体的に理解できるし、かりに新しい機械を使用することによる生産性の向上があった場合にもその効果を計測することは可能であろう。しかし、今日の先進国の経済を見れば、このようなものの割合は小さいのであり、ほとんどのものは個々の生産性を計測することは難しい。たとえば同じパソコンを制作するにしても、同じコストで前のものより処理スピ-ドが大きく向上したものを製造できたとしたら、本来これも生産性の向上とらえるべきであろう。
    日本の製鉄会社の生産量は、最近ほとんど増えていない。中国などの方が、飛躍的に生産量は増えているのである。しかし、単位当りの販売価格は日本の方が断然高いのである。つまり製品の品質に大きな開きがあるのである。年々品質向上させ、販売価格が高くできるならば、これも生産性向上と言えるであろう。
    今日では生産物が複雑になっており、このような工業製品の場合でも生産性を計測するのは難しい。ましてや、ホワイトカラ-の生産性なんかはほとんど計測不可能である。まさか一日の書類の作成枚数で計測するわけにはいかない。そもそもホワイトカラ-の生産物と言うものがはっきりしないのである。筆者は、一応、ホワイトカラ-の生産物は「情報」と考えている。もし「情報」が生産物としたら、生産性を考える時、それは「量」的に捉えることはほとんど無意味であろう。一番価値がある情報は「早く」て「正しい」情報である。
    このように経済の生産性と言葉を考える時、個々のセクタ-まで考えると、具体的なイメ-ジが浮かばなくなるのである。「生産性」と言う言葉を使用するなら、それはどのように計測するのか併せて説明するのが努めと考える。つまり、ム-ドだけで相手に理解させるのは誤りのもとである。

  • 組織トップの生産物
    ついでに経営者の生産性と言うものも考えてみよう。経営者の生産物は「判断」であり、これも生産性とかけ離れた概念である。しかし、「判断」の質を向上させるには、どれだけ正確な情報をどれだけ多く得ることができるかと言うことが大事である。さらに、それをどれだけ早く得ることができるかも一つの要素になる。つまり、このよう情報を得ることが可能なシステムや組織を構築することが、経営トップの「判断」の質を高めることになる。
    話は若干ずれるが、最近、総会屋問題で金融機関のトップ経営陣の退陣が続けて発表されている。筆者が注目するのは、退陣が発表されるとその金融機関の株が上がることである。その業界の人に言わせると、今の経営トップが早めに退陣してくれる方がその銀行や証券会社が「金融ビックバン」に対応しやすいと言うことらしい。つまり、今回の総会屋問題を起こした企業ほど先行きが明るいのであり、株価も上がるのである。
    それではその経営陣の企業における生産物とはなにであったのか。ひょっとしたら彼等が会社に経営陣として存在していたこと自体がマイナスであり、邪魔であると言うことにほかならないのではないか。もし各社とも共通してそう言えるのなら、むしろ会社にマイナスを与えるような人物達であったからこそ経営トップに出世したとも言えるのである。また、これに関連し、官僚のトップが業者との癒着で問題になったが、これも同様に業者と癒着するような人間でなければトップに出世しなかっと考えられるのである。このように経営のトップが問題と言うことは、決してその個人の問題だけではなく、むしろそう言うトップを生み出したその組織自身が問題と考えるべきである。筆者が考えるには、このようなトップ経営陣の方が組織内では好まれていたのではないかと言うことである。また、好まれたから出世したとも言える。これは問題であるが、重要なことであり、そのうち「組織の限界」と言うテ-マで取り上げたい。

  • 一国の生産性向上の計測
    前段までに説明したように、簡単に「生産性」とよく論者はこの言葉を使うが、その定義ははっきりしない。使う人によって、その内容が違うことも考えられる。したがって言っていることも説得力がないのである。これとよく似た使われ方をするのが「ファンダメンタルズ」や「インフレ」(3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」を参照)と言う言葉である。これらの言葉を多用する人の話は、よくわからない。
    筆者は、前述したように個々のセクタ-の生産性を集計することは不可能と考えている。むしろこれは一国のGDPの伸び率、つまり経済成長率から逆算する他はないと考えている。もちろん国によって生産要素の稼働率の違いはあるが、まずこの違いはとりあえず無視する。
    このように定義すれば、実質成長率イコ-ルその国の生産性の向上率と言うことになる。これは「その国の経済成長は生産性の向上でなされる」と言う話になり、理解しやすい。つまり技術進歩により生産性の向上がある国ほど経済成長が高いと言うことになる。しかし、これには人口の増加率がどの国でも同じと言うことが暗黙の前提になる。人口の増加率が高いほど経済成長率が高いのは当り前である。かりに人口の増加率が、その国の経済成長率より大きい場合は一人当り所得は毎年小さくなることを意味する。
    つまり、一国の経済成長率は、その国の生産性の向上率プラス人口の増加率と言うことになる。逆算して、経済成長率から人口増加率を差し引けば、その国の生産性の向上率が算出できる。
    先進国はどこも人口はあまり増えていない。日本の場合は年間わずか50万人で、率で0.4% である。ところが先進国の中にあって例外は米国である。米国は、年間300万人も人口が増え、率では1.2%増である。その差は0.8%もある。ここまで話をするなら、稼働人口も問題である。日本は急速に高年齢化している。それに対して米国のこの動きはずっとマイルドである。人口のピ-クを向かえるのは、日本が2,007年頃に対して、さらに米国は20~30年後になる。つまり、米国の方が生産性の高い年齢層の人口がより増えているのである。これを加味すれば、実質的な人口増加率の差は1%を超えることも考えられる。つまり、米国は日本より、経済成長率が1%以上高くて普通なのである。これを下回れば、一人当りの所得の伸びは日本より低くなることを意味する。
    米国の人口増加率が大きいのは、出生率の落ち込みが小さいことと移民の数が多いからと考えられる。さらに稼働人口の話では、失業者数も関係してくる。失業者数は、日本が若干増えているのに対して、米国はかなり減っている。これも加味することになれば、実質人口増加率の差はさらに大きくなる。

  • 日米の生産性向上率の比較
    では、日本と米国の最近3年間の経済成長率から人口の増加率を差し引き、生産性の向上率を算出する。さらに両国の生産性の向上率の差を計算してみる。
    (日本は季節調整済み・年度ベ-ス、米国は暦年ベ-ス、人口の増加率を日本0.4%、米国1.2%とする、単位:%)
    日本成長率生産性米国成長率生産性両国の差
    940.60.23.52.3-2.1
    952.52.12.00.81.3
    963.32.92.81.61.3
    この表をみればわかるように、驚くことに日本の方がここ2年間は、生産性の向上が高いことになる。人口の年齢構成を考慮すれば、この差は大きくなる。世間の常識とまったく逆の結果である。
    しかし、GDPを国際比較する場合は、為替レ-トの動きも関係してくる。ただ、為替レ-トが一国の経済実態に影響を及ぼすには時間がかかる。したがってその年の平均レ-トの水準をある程度考慮することになる。94年・95年は「円高」、96年は「円安」であった。つまり両国の差は、94年・95年がプラスされ、96年がマイナスすることになる。具体的な数値は示せないが、そんなに大きなものではないであろう。
    以上の検証から導き出される結論は、「米国経済だけが生産性を向上させている」と言う話は間違いと言うことである。日本もそれに増して生産性を向上させているのである。

  • 好調と言われる米国経済の本質
    前段の結論は、極めて理解できる。「米国だけが経済の生産性が際立って向上している」と言う話では、決して減っていない米国の貿易収支の赤字が説明できない。これはドル高基調が続いたことも一因であるが、米国経済全体では、競争力が対外的にそんなに強くなっていないことを意味する。また、日本の主な輸出企業の均衡レ-トが、「円高不況」のころには115円くらいと言われていたが、最近ではこれが106円くらいに上がってきている。つまり、少なくとも日本に関しては、輸出企業の生産性は米国より向上していると考えるべきである。米国の高官がやって来る度に「日本経済そんなに心配する状況ではない」と繰り返していることとも符合する。
    では、米国経済はなにが好調なのであろうか。それはズバリ企業の収益が飛躍的に伸びていることであろう。これによって米国の株式は高くなり(筆者は高くなり過ぎと考えるが)、政府も税収が伸びている。ではなぜ企業の収益が伸びたかが問題である。この理由は、機関投資家が株式の保有を増やしていることが一番であろう。つまり、機関投資家の要求が強くなり、企業に高収益と高い株価の維持を押し付けているのである。これに対応できない場合には 、経営陣はレイオフされるのであるから厳しい。そして経営がやったことはコストの削減である。また、これを可能にしたのは、先週号、8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」で説明した「ニュ-エコノミ-論」で述べた事柄である。たしかに生産性の向上もあったかもしれないが、「生産のグロ-バル化」や「テンポラリ-ワ-カ-の増加」などによる実質的な人件費の削減効果が大きかったと筆者は考えている。
    企業収益が増加し、人件費が減少したと言うことは、「労働分配率」が小さくなったことを意味する。そのうちにこれを裏付けるデ-タに出会うと思われる。米国のGDPの増加があまり大きくないのもそのせいであろう。
    しかし、これでは、米国の景気の良さは労働者の犠牲の上に成り立っていることになるが、事実であろうか。筆者は、これは半分は当っているが、残り半分は当っていないと考えている。その理由は「同一人物が労働者であり、株主であることが一般的になりつつある」からである。年金プランなどにより、米国では株主の裾野はひろがっている。つまり、労働者としての収入が減っても、株主としての収入が増えれば良いのである。「ストックオプション」はこの典型である。不幸なのは、レイオフされ、株式を持っていない人々である。つまり最近の景気の良さの恩恵を受けていない人々である。
    米国は極めて「自己破産」の多い国である。昨年の100万人が、今年の150万人に「自己破産」の数が増えると言う予測がある。人口比では、日本の、昨年が10倍で、今年は12~13倍になる。しかし、このことはあまり話題になっていない。つまり、「米国では成功するのも破産するのも自由」と言うことなのであろう。
    「ニュ-エコノミ-論」の背景には、このように労働者のあり方が変わってきたことがあると考えている。つまり伝統的な労働者像が変わってきているのである。来週号ではこのようなことを踏まえ、「労働者と賃金」について述べたい。



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97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」