平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




03/3/17(第289号)
波乱の株式市場

  • 囚人のジレンマ
    日経ダウが8,000円を割込むなど、株式市場は波乱である。やはり今週号は株式相場を取上げる必要がある。ちょっと前までは、筆者も漠然と3月になれば、日本の株価はある程度(大きく上がることはないが)は上がると思っていた。たしかにイラク情勢は予断を許さないが、銀行の3月決算のことを考えると、政府によって株価対策がなされると思っていた。

    株の世界では、「節分天井、彼岸底」という言葉がある。これは1月から2月の最初にかけて株価が上昇し、その後3月の後半まで株価が下落することを意味している。おそらくこれは3月に決算対策で株が売られやすいためと考えられる。しかしこれは過去のパターンであり、昨年は、これとは反対であった。

    昨年は1月が一番安く、2月、3月と株価が上昇した。これはカラ売り規制など、政府によって株価対策が行われたからである。この主な目的は、大量の株式を持つ銀行の自己資本比率を維持することであった。当然、今年も政府の株価対策があるものと誰もが考えていたはずである。

    事前に銀行は、増資を行って、自己資本の増強を行っている。しかし株式については、一定の株価が維持されることが前提になっていると考えて良い。新聞報道によれば、一部の銀行は日経ダウが6,900円までなら、8%の自己資本比率をなんとか維持できると言っている。どうも7,000円くらいが一つの目安になる。

    危機の一歩手前という状況である。もちろん8%をクリアできれば、それで良いというものではない。また今後突発的な出来事がないとも断言できない。イラクの情勢以外にも色々なことが考えられ、場合によっては世界同時株安も考えられる。つまり少なくとも3月末までは、薄氷を踏む思いである。


    政府は、2月後半からの日本の株価の下落をイラク情勢のせいにしている。しかし細かく見てみると、米国の株価が上がった日にも日本の株価が下がった日がある。また米国がかなり上げたのに、日本はほとんど上がらない日もある。つまり必ずしも日本の株価は、イラク情勢に左右されている米国の株価に正確に連動しているとはいえない。むしろ日本政府の経済政策への不信が株価に反映されているものと考える。

    また毎日の売買高が5,000億円くらいといやに小さい。つまり売り越している主体はあるが、そんなに大量には売ってはいないのである。むしろ買手がいないと理解すべきである。
    そしてここに来て、さすがに政府も危機感を持つようになった。金融庁は13日に株価対策を発表した。内訳は「不正取引の監視強化」「売りの抑制」「自社株買いの促進策」である。

    しかしこれらが本当に効果があるか疑問である。実際、13日には、イラク攻撃の延期報道を受け米国の株価はかなり上昇したが、対策発表後の翌14日の日本株価の上昇は限られていた。つまり金融庁の対策は、市場であまり評価されていないということになる。

    今後、さらに対策が打たれると思われる。たしかに「厚生年金の代行返上に伴う株売却の抑制」「公的年金の株式保有枠の拡大」などは効果があると思われる。しかしほとんどの銀行の株価の評価は、3月の毎日の終値の平均である。つまり3月半ばの今日では、既に勝負は半分済んでいるのである。まさに今回の政府の株価対策を見ても、小泉政権の経済対策がいつも泥縄ということを示している。


    つまり小泉政権のような政権が続く限り、銀行や企業は自己防衛が必要になるということである。しかし個々の銀行や企業が、自分だけが助かろうとする行動を採れば、却って自分達の首を絞めることになる。個々の銀行が持合い株の売却を急げば、それだけ株価が下落し、回り回って自分達の持株の評価が下がり、それだけ苦境に陥る。まさに「囚人のジレンマ」である。

    もちろん政府の経済運営がもっと早く、内需拡大政策に転換していたなら、恒例の3月の銀行の経営危機対策は必要なくなっていたはずである。こんなばか騒ぎは今年を最後にしてほしい。ちなみにテレビ東京の自動集計のアンケート調査によれば、小泉政権の支持率は24.5%、不支持率68.1%ということである。他のテレビや新聞のアンケート調査の40%台の支持率と大きく違う。どちらが本当なのであろうか。いずれにしても小泉政権は最終コーナを回っていることはたしかであろう。


  • ドイチェ証券の武者氏
    これまでの銀行を対象にした政府の株価対策は前段で紹介したが、筆者にもアイディアがある。しかし筆者の方法は「一種の賭」である。銀行はこれまで持合い株解消のため、株を売ってきた。筆者は、逆にこれからは銀行が株を買えば良いと思っている。特にイラク情勢の逼迫で、株が急落した時がチャンスと考える。

    これは俗にいう「ナンピン買い」である。持株が大きく下落した場合、その銘柄を買増しして、平均購入単価を下げるのである。これ以上株価が下落することがないと確信した場合には有効な手段である。具体的には100円で買った株が40円まで下がった場合、40円で同じ数量の株を買増しするのである。これによって平均購入単価は70円まで下げることができる。

    たしかに小泉政権発足以来、株価は下げる一方であった。もしこれまで「ナンピン買い」を行って来たなら大損していることになる。これ以上下がることはないと「ナンピン買い」をしていたなら、「ナンピン買い」をした株でさらに損をしていたのである。したがって今日この「ナンピン買い」を行うとしても、これは「賭」と言っているである。


    しかしこの「ナンピン買い」には別のメリットがある。減損会計対策である。上の例では、100円の株が40円になったのであるから、60%の評価損になる。5割を超える評価損は特別損失に計上する必要がある。しかし上の例のように40円の「ナンピン買い」を行えば、平均購入単価は70円まで下がるため、35円以下にならない限り、減損会計の適用を免れる可能性がある。

    ところで「ナンピン買い」した後が問題である。順調に株価が戻せば「めでたしめでたし」である。特に上の例で70円を越えれば、逆に含み益が発生する。この場合、利益確定のために全株を売却することも考えられる。しかし数量が多ければ、自分が売出すことによって株価が下落する可能性がある。このような時にはこの株を日銀に売却すれば良い。筆者は、日銀が銀行の持合い株を購入することには反対(このようなことは制度を改善し、政府株式取得機構が行うべきである)していたが、制度としてあるのなら、利用しない手はない。

    しかし不幸にもさらに株価が下落した場合が問題である。このような場合には、さらに株を「ナンピン買い」することが考えられる。上の例なら35円より安くなった場合には、さらに買増しをするのである。もっともへたをすれば、このような株は40円までなかなか戻らないリスクがある。だからこのような「ナンピン買い」は「賭」である。もっとも減損会計の適用を免れることが目的なら、やってみる価値はある。


    最後に朗報である。最近、ドイチェ証券の武者氏が頻繁にマスコミに登場し、例のごとく弱気の見通しを行っている。6,000円台もあり得ると言う話である。しかし武者氏の弱気の予想がマスコミに登場すると、そろそろ下落相場も終了するというジンクスがある。今回はどうなるか興味がある。



日本経済は渾沌としており、来週号のテーマも未定である。

「日本経済復活の会」は実質的な発足会を開いた。実に色々な人々が集まった。中には有力者もかなり多数いた。しかし名を出しても良い人と今のところそうではない人がいる。いずれにしても今日の緊縮財政による財政再建路線が間違っていることを実感している人が多いのである。

世界で米国のイラク攻撃に反対する人々が示威運動を行っている。しかしこれを反戦運動と単純に理解している人が多い。また日本のマスコミも誤解するような報道を行っている。この動きは反グローバルリズム運動の延長線と捉えるべきである。シアトルでのWTO総会開催の阻止運動やジェノバサミットに反対していた人々の行動である。

本誌も3年も前に00/5/22(第163号)「グローバル化と市場の競争」で、このような活動をしている人々は単なる「ハネ上がり者」ではなく、バックには多くの支持者がいることを説明している(この点が日本のマスコミが誤解しているのか、正確に報道しない)。この支持者が今回の「イラク攻撃に対する抗議活動」で表面に出て来たのである。またこれらの人々は決して反米主義者ではない。

彼等が反発しているのは、米国のイラク攻撃の主導権を握りつつある「ネオコン」、つまり新保守主義者に対してである。筆者は、外交や防衛の点では、この「ネオコン」の活動には一定の理解をしているつもりである。しかし彼等の主張する経済政策は破綻している。今日の日本経済の混迷も、日本経済の実状を知らない、新保守主義にかぶれた人々の政策によって引き起されたものと考える。



03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
02/12/23(第279号)「乗数値の低下と経済政策」
02/12/16(第278号)「零細企業・個人の借入金問題」
02/12/9(第277号)「ルーカスの子供達」
02/12/2(第276号)「日本のデフレギャップの怪」
02/11/25(第275号)「小泉政権の支持率の怪」
02/11/18(第274号)「セイニア−リッジ政策の推進(その3)」
02/11/11(第273号)「セイニア−リッジ政策の推進(その2)」
> 02/11/4(第272号)「外資系ファンドの実態」
02/10/28(第271号)「竹中平蔵大臣の研究」
02/10/21(第270号)「嵌められた話」
02/10/7(第269号)「銀座のデモ隊」
02/9/30(第268号)「末期的な経済政策」
02/9/23(第267号)「銀行の不良債権問題(その3)」
02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」
02/9/9(第265号)「セイニア−リッジ政策の推進(その1)」
02/8/12(第264号)「経済よもやま話」
02/8/5(第263号)「マスコミのチャイナースクール化」
02/7/29(第262号)「チャイナースクールの落日」
02/7/22(第261号)「中国の不当な為替政策」
02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」
02/7/8(第259号)「榊原慶大教授の文章」
02/7/1(第258号)「小泉政権の本音」
02/6/24(第257号)「小泉政権への批難」
02/6/17(第256号)「サッカーのワールドカップ大会」
02/6/10(第255号)「成功は失敗のもと」
02/6/3(第254号)「為替と物価」
02/5/27(第253号)「消費税の減税効果」
02/5/20(第252号)「小泉政権のデフレ対策」
02/5/13(第251号)「酔っぱらいの論理」
02/4/22(第250号)「生産力を生まない投資」
02/4/15(第249号)「商品相場と世界の動き」
02/4/8(第248号)「経済予測のレビュ-」
02/4/1(第247号)「ニュークラシカル派の実験」
02/3/25(第246号)「ニュークラシカル派の論理」
02/3/18(第245号)「日本の所得格差の動向」
02/3/11(第244号)「通常では行わないような経済政策」
02/3/4(第243号)「セイニア−リッジ政策への準備」
02/2/25(第242号)「資金の使途(その3)」
02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」
02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
02/1/14(第236号)「経済政策の目標」
01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン