- 自生的有効需要の伸び率
毎年、年初には日本における経済論議が混乱していることを取り上げている。残念ながら、今年も同じようなスタートである。年末年始、読んでなかった月刊誌をまとめて読んだり、テレビでの経済論議を視たりした。驚くことは、いまだ「構造改革」と言っている論者が沢山にいることである。
まず、これまでも日本における経済論議が科学的でないことを、本誌はずっと指摘して来た。とにかく事実に基づかない議論が多すぎる。これが一般の人々ではなく、エコノミストや経済学者と言った専門家の言っていることであるから呆れる。
代表的な意見が「国・地方の累積債務が大きくなった原因は公共投資など、効果のない財政出動が大きかった」「財政政策は効果がなくなった」、あるいは「日本ではマクロ政策は効果がなく、ミクロ、つまり個々の企業や個人が変わる他はない」などである。驚くばかりである。「財政政策は有効であるが、財政が逼迫しているので、政策として限界に来ている」と言う意見はまともな方である。
「日本では乗数効果がなくなった」と主張する「たわけもの」まで出る始末である。乗数効果がなくなったと言うことは、自生的支出の波及過程で発生する所得が全く消費されないことを意味する。これは日本の消費が、預貯金の取崩し、年金、失業手当などからしか行われないことを意味する。つまり勤労者は、所得から消費を全く行わないと言う意味である。
ここで02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」で掲載した表をもう一度取り上げる。
GDPと自生的有効需要の伸び率比較
| 年度 | GDP | 総額 | 民間投資+純輸出 | 政府支出 | (うち公共投資) |
| 70→00 | 2.56 | 2.49 | 2.57 | 2.38 | (2.34) |
| 80→00 | 1.66 | 1.66 | 1.83 | 1.51 | (1.41) |
| 80→95 | 1.60 | 1.60 | 1.67 | 1.53 | (1.63) |
| 95→00 | 1.04 | 1.04 | 1.10 | 0.96 | (0.87) |
表の総額は民間投資、純輸出、政府支出の自生的支出の総額である。また政府支出は国と地方の財政支出の合計である。
この表から分るように、GDPと自生的支出の総額の伸び率の関係は、少なくとも2000年までは極めて安定的に推移している。つまり乗数の値がほとんど変わっていないことを示している。また国と地方の財政支出の合計(政府支出)の伸び率はむしろ小さくなっている。
この表を見た人は必ず「公的債務残高急増の原因が財政支出の増加と言う話が真っ赤な嘘であったことが解った」と言う。そこで次は、最近国・地方の債務が急増している原因が問題になる。たしかに日本の財政は昔から基調としては赤字であった。しかし急増した理由は、説明したように財政支出の増加ではない。
一番の原因は、税収の大幅な減少である。1990年の63兆円から2002年の42兆円と実に20兆円以上も税収が減少している。これは国税だけであり、地方税を加えるなら、もっと数字は大きくなる。税収が減っている原因は、政策としての減税もあるが、意図せざる減税、つまり企業や個人の所得が減少したための税収の落込みと言った要素が大きい。たしかに銀行を始め、企業や個人まで、不良債権処理や資産売却損を計上している現状では、税収が減るのは当たり前である。
さらに政府は、破綻した金融機関の預金の補填や銀行への公的資金注入を行っているが、これは国の債務残高を増やすだけで、所得を生まない。さらに国鉄の長期債務を毎年償却しているが、これも所得を生まず、国の債務に振替えられているだけである。このように国債を発行した資金の一部は所得の生まない分野に投入されているのである。また本誌がずっと主張しているように「減税(意図せざる減税を含め)」の所得創出効果は小さい。つまりバブル崩壊後、国債の発行はかなり増えたが、かなりの部分が所得を生まないか、あるいは生んでも小さい分野への支出ばかりが増えたのである。
そして注目されるのは公共投資の大きな落込みである。特にここ5,6年の公共投資の減少はすさまじい。1996年の国と地方の公共投資額は44兆円であったが、これが2002年には33兆円までに減っている。逆に増えているのが福祉関連の義務的経費、たとえば生活保護費などである。つまり小泉政権のやっていることは「仕事をやらなくても良いから失業手当を貰ったり、生活保護を受けなさい」と言うことである。
いまでも「日本経済が苦境に落ち入っているのは、公共事業など生産性の低いところに資金が流れているから」と、全く事実無根なことを言っている経済学者やエコノミストがよくテレビに登場する。しかし実際は、公共投資は激減しているのである。したがってゼネコンの債務が減らないのは道理である。ところで公共投資は激減しているが、一向に経済は回復しない。つまり「公共事業などの低生産性説」は全くの「嘘」なのである。
驚くことに、このようなゼネコンを潰すことが、日本経済の再生と言う論者が沢山にいることである。ゼネコンを潰し、銀行に公的資金を注入しても、国民所得は全く増えない。回り回って国債が買われるだけである。むしろこのような資金があれば、それを公共投資に使い、ゼネコンの仕事を増やすのが筋である。これによって日本のGDPは増え、銀行の不良債権も減る。このような簡単で当り前の解決方法が、話題にもならないのであるから、日本の経済の論壇は異常である。
財政支出に関連した話を加える。マスコミは今日、公共投資を削減している市長や県知事をヒーロー扱いしている。市場は、競争状態が異なる産業の集まりである。今日のようにデフレ経済で価格下落が続けば、競争にさらされていない人にとっては収入が安定しているから、むしろ良い時代である。一方、参入障壁が低く、いつも過当競争に陥りやすい業界は、デフレ経済が続くことは死活問題である。収入は確実に減る。タクシー業界や建設業界などは典型である。
市町村が業務を外部に発注せず、市の職員やボランティアにまかせていることがよく美談のように語られている。景気が良く、失業がない時代ならそうであろう。しかし今日の経済状況で、このようなことをどんどんやれば、市町村が失業を発生させていることになる。もっとも近くの大都市でビルがどんどん建設されていたり、近くで愛知万博の大型公共工事が行われいて、失業が小さいのなら話は別である。
- 製品在庫指数
最近、日本経済の不調について「日本の産業構造が新しい需要構造に合っていない。したがって構造改革が必要」と言う「雲を掴むような話」が頻繁に出ている。そして「これには徹底した規制緩和と、減税などの投資の優遇が必要」と言うのである。つまり日本経済再生のカギは、供給サイドの整備」と言っている。もっともらしく聞こえるが、筆者に言わせれば、これは「マルチ商法」のセールストークと同程度のものである。
筆者の見解を経済産業省(旧通産省)のデータを用いて説明してみる。
製品在庫指数の推移
| 製品在庫指数 |
| 92年度 | 118.5 |
| 93年度 | 119.7 |
| 94年度 | 112.8 |
| 95年度 | 117.0 |
| 96年度 | 98.9 |
| 97年度 | 104.3 |
| 98年度 | 110.8 |
| 99年度 | 101.6 |
| 00年度 | 100.8 |
| 01年度 | 111.6 |
まずこの表の数字は、98年の5月において以前の数値(96年度分から)を調整している。ところで00年の12月までは、製品在庫率と称していた。また金融危機による景気の急速な冷込みのあった98年度と、同時多発テロの影響のあった01年度の数値が多少大きくなっている。しかしこのような例外的な時期を除けば、製品在庫指数は極めて安定的に推移している。たしかに時には10%くらいのブレが生じることがあるが、毎月のデータを追って行くと、わずか数カ月で調整されている。ちなみに直近の数値は、昨年の11月であり、98.6と平常値に戻っている。
製品在庫指数が極めて安定的に推移しているこの事実は重要である。これは「日本においては製品の需要と供給はみごとにマッチしていること」を意味している。つまり消費者が望む製品が必要な数量だけ製造され、市場にうまく供給されているのである。たしかに時には供給不足や供給過剰が生じている。しかしこのような需給のブレも短期間のうちに調整されているのである。
もし消費者の望まない物ばかり作っているなら、どこかに大量の在庫が発生しているはずである。反対に消費者の需要に生産が追いつかない場合には、製品在庫指数がもっと極端に小さくなっているはずである。しかしそのような数値は皆無である。そうでなくとも、供給者は日夜真剣に消費者の行動を研究し、新製品を開発しているのである。コンビニなんかはその典型である。
このことは物に限定されず、サービスにも言えることである。もしサービスの分野で消費者の望む供給がうまくされずに、需給にミスマッチが生じているなら、そのサービスの価格が上昇しているはずである。しかし筆者は、それがどのようなサービスなのか全く思い当たらない。はっきり言えば、そのようなものはないのである。かりにそのようなサービスがあっても、おそらく短期間のうちに、そのサービスの供給が増やされていると考えるべきである。
つまり「日本の産業構造が新しい需要構造に合っていない。したがって構造改革が必要」と言う話は、いい加減な作り話である。もしうまく供給されていない物やサービスがあるとあくまでも主張するのなら、経済学者やエコノミストを辞め、その供給者として転職すれば良い。貴重なビジネスチャンスであり、大儲けができるはずである。実際は、彼等は何の考えがないのに、偉そうにでたらめを言っているだけである。筆者の知る限りで、学者から実業者に転進して、自分の理論を実践し、大儲けした人はいない。例外は「森ビル」の創業者ぐらいのものである。このように日本のデフレ経済は、ミクロの問題ではなく、大きく総需要が不足していることが原因である。
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