平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/8/11(第28号)
米国の景気を考える(その2)
  • ニュ-エコノミ-論について
    本誌では一貫して米国の株式が、企業の収益の実態以上の水準であることを主張しているが、米国では、この高株価を説明の根拠 として「ニュ-エコノミ-論」と言うものが最近注目を集めている。まず、「ニュ-エコノミ-論」の概要と簡単な説明を行なう。
    1. 生産のグロ-バル化
      途上国の生産技術の向上によって、生産拠点を世界中に配置し、より安い製品の製造が可能になったり、よりコストの安い地域から商品を輸入することができるようになった。これにより国内の物価が安定化した。
    2. 金融の変化
      金融市場の規制緩和により、資金の調達や運用のコストが下がったり、より効率的な資金の移動が可能になった。
    3. 雇用の性格の変化
      従来の労働組合の組織率の高い産業から、サ-ビス業やソフト産業への雇用の移行がなされた。これにより、テンポラリ-ワ-カ-の増加し、人件費の削減と企業の柔軟な雇用調整を可能にした。
    4. 政府の政策
      これは二つ考えられる。一つは各産業分野での規制緩和により、競争がそれだけ激しくなり、商品価格があまり上がらなくなった。もう一つは、米政府の財政赤字の削減である。資金が余剰の日本と違い、米国は慢性的に資金が不足している国である。政府と民間の資金需要がぶつかる状態、つまり米国の金融市場はクラウディングアウトの状態である。ここで政府の資金需要が減ることにより、その分市場金利が低目に推移することになった。また、日本経済に比べ米国の経済は、金利により感応的であり、金利水準は景気により大きな影響を与えている。
    5. 途上国市場の拡大
      文字通り、ASEAN諸国、中国、中南米諸国の経済発展が、米国経済にも良い影響を与えていることである。
    6. 情報技術の発展
      情報システムへの投資の増大と、情報技術そのものの進歩により、企業経営の意思決定を速め、また在庫の管理を効率化させた。
    以上が「ニュ-エコノミ-論」の内容である。このポイントは以前の景気循環のように、景気が良くなって需要が増えた場合でも、物価が上昇せず、金利も上昇しなくなったと言うことである。そしてその原因は生産性の向上であり、これは従来のバランスシ-トには現われにくいと言うことである。この説明に対しては、米国内でも「あまりにも楽観的過ぎる」と反論があり、米国の経済学会もにぎやかである。
    筆者の考えは、これらの実際に起こっている経済の現象面については特に異論はないが、米国だけが生産性を向上させていると考えるのは誤りと思われる。また、この「ニュ-エコノミ-論」が今日の高い米国の株価の説明に使われるのもおかしいと考える。これは経済成長が物価上昇を伴わないと言っているのであり、妥当な株価の水準を説明するものではない。

  • FRBの金融政策の危機
    従来、各国の中央銀行、米国の場合はFRBは景気循環に合わせ、「景気が後退すれば金融を緩和し、景気が加熱し、失業率が下がり、物価が上昇して来ると金融を引き締める」ことを政策として行なってきた。ところが最近の米国経済は、「ニュ-エコノミ-論」が言っているように、景気が良くなり、失業率が下がっても、物価があまり上昇しないのである。たしかに最近のドル高による輸入品価格の安定もこれに寄与しているが、それを差し引いても物価は落ち着いた動きをしている。先週号8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」で述べたように、自国で発行している通貨の価値が下がらないのなら、FRBや中央銀行はやることがないのである。グリ-ンスパン議長の株式市場に対するコメントが議会から非難を受けたように、市場に異常な取引がないのに、市場で形成される価格に関与することは政府・FRBもできないのである。
    しかし、米国の金融市場はたしかにバブルの部分を含んでおり、そしてこれが日々大きくなって来ていることは事実であろう。いずれこれが崩壊する可能性は高い。しかし、市場で不正取引が行なわれていたのなら、その監督責任と言うものが当局にあると言えるが、取引自体は正常である場合には、市場が崩壊しても責任をとる者は誰もいないはずである。強いて言えば市場参加者の自己責任であるはずだ。ところが今日の金融市場はその規模も大きくなっており、その崩壊によるリスクも大きなものになる可能性がある。つまり市場参加者に限定されるのではなく、それ以外の人々にもその崩壊が悪影響を及ぼすのである。特に最近のデリバティブの残高などを考えると、その市場のリスクは、一国の政府・中央銀行では対処出来ないような大きな影響をその国の経済に与えることも考えられる。
    ところが、本来自由であるべき市場に、どこまで政府・中央銀行は関与すべきかコンセンサスさえできていないのが現実である。

  • ニュ-エコノミ-論は各国共通
    「ニュ-エコノミ-論」は理論的に体系だったものではない。これは経済界の現象を羅列したものである。そして、これはなにも米国だけに起こっている現象ではない。むしろ日本経済の方が先に経験したことである。
    日本ではバブル景気の頃がこれにほぼ該当する。一番物価が上昇した年は90年度であった。しかし、この年でも消費者物価は3.3%の上昇に収まり、卸売物価にいたっては、わずか1.1%の上昇であった。土地や株があれだけ上がったのに、物価は上昇しなかったのである。また、物価が上昇しなかったからこそ、金融の引き締めがそれだけ遅れたとも言える。ここは重要なポイントである。
    ではなぜ日本では「ニュ-エコノミ-論」のような考えが話にでなかったのか疑問であろう。筆者は、日本のエコノミストと呼ばれる人々が「経済の理論は外国、特に米国から来るものだ」と言う考えが頭に染みついているからと思っている。いずれにしても、世界の先進国は、今後、あまり物価上昇のない時代に入って行くと思われる。つまり「ニュ-エコノミ-論」で述べられている現象は程度の差はあるが、各国経済の共通の事柄であるからである。
    日本経済はバブル崩壊後、随分スランプが続いているが、米国の市場と経済の動向は注目される。グリ-ンスパン議長の頭には、日本のバブル崩壊が経済に与えた影響のことがあると思われる。FBRの憂鬱は当分続くのである。

  • ニュ-エコノミ-論の問題
    筆者は、「ニュ-エコノミ-論」には、それ自体は経済の現象を述べたものとして特に異論はない。しかし、これにまつわる問題がないわけではない。まとめると次のようになる。
    1. 「ニュ-エコノミ-論」が米国の高株価の説明に使われていることである。企業収益が高く、失業率が低く、物価が落ち着いていることを説明できるが、前述したようにこれが適切な株価の水準を示すものではない。
    2. 「ニュ-エコノミ-論」が米国の生産性の向上を示していると言う説明がよくなされるが、筆者は、これは誤りと考えている。米国だけが際立って経済の生産性が向上しているわけではない。これについては来週号の本誌で取り上げたい。
    3. 「ニュ-エコノミ-論」があまりにも米国経済の健全性を強調しすぎている。どのような国でも、またどれだけ経済が好調でも問題を抱えているものである。特に、株式市場に代表される米国の金融市場のリスクは高まっている。健全性を強調しすぎるあまり、金融の流動性が過剰であることの認識が遅れた場合にはそれだけ危険性が増すことになる。
    このように「ニュ-エコノミ-論」の問題はそれ自体ではなく、主にその取扱である。特にマスコミの取り上げ方に問題があると思われる。これについても、来週号で述べたい。



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97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」