平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/12/16(第278号)
零細企業・個人の借入金問題
  • 住宅ローン
    最近ある事情で、筆者は、零細企業・個人がバブル期に借りた借入金の実態を調べた。具体的には、零細企業の借入金は、主に自分・自社の土地に自社ビルを建設のためのものである。また個人の借入金は住宅ローンである。今日、人々が借入金の返済に追われ、消費が伸びないことがよく指摘される。この実態を知りたかったのである。

    しかし適当な数字が全く入手できないのには驚いた。色々な資料や役所のホームページを見たが、該当するような数字はない。最後に辿り着いたのが日銀の経済統計年報である。これも最近では絶版になっており(最近はCDになっているようだ)、やっと過去の年報を図書館で見つけることができた。しかしこれも対象は主な金融機関の住宅ローンだけであり、全ての金融機関を網羅している訳ではない。


    この日銀の資料は、都市銀行を始め、各種銀行、信金、信組、保険会社、住専、労金、そして住宅金融公庫などの数字を対象にしている。ただし農業協同組合については、融資残高だけであり新規貸出が載っていないため、集計から一旦外した。またバブルのピークを91年度とし、前後5年の10年間の数字を集計した。この数字を表にまとめると次のようになる。ただし住宅戸数は経済白書の数字で、全ての住宅新設着工戸数である。つまり日銀の経済統計年報の対象外の金融機関の住宅ローンで建てたり、あるいは住宅ローンを借りていないケースも含まれている。

    融資額(兆円)の推移と住宅新設着工戸数(万戸)
    新規貸出融資残高住宅戸数
    86年度  63  
    87年度2169173
    88年度1772166
    89年度2187167
    90年度1996167
    91年度17103134
    92年度17109142
    93年度18115151
    94年度26124156
    95年度34136149
    96年度32146163
    合 計224  1,568

    この表から単純に捉えるなら、バブル期の10年間の新規貸出額の合計は224兆円となるが、ちょっと大きすぎる。特に94年度から96年度の金額が異常に大きい。どうも新規貸出額の中には、借換分などが含まれていると思われる。また住専の振替分も新規貸出額の中に入っているようである。

    そこで86年度と96年度の残高からおおよその貸出額を算出してみることにした。住宅ローンの平均返済年数を30年とした。計算過程は多少複雑なので省略する。この結果は約125兆円となった。しかしこの10年間で新規貸出されたが、退職金などで一括返済されたものや繰上げ返済されたものは残高に反映されていない。また10年間のうちに自己破産などによって処理されたものや、住宅を売却して借入金を返済したものもあると考えられる。つまりバブル期の新規貸出の総額はこの125兆円にこれらを加えたものである。

    ところで日銀の経済統計年報では把握できていない住宅ローンがある。たまたま筆者は、99年度の各種住宅ローンの残高掲載されている本を見つけることができた。これには日銀の資料にはない、年金福祉事業団、都市基盤整備公団や地方公共団体などの住宅ローン残高までが掲載されていた(おそらくこの本の数字が日本の住宅ローンのほとんどを網羅していると見る)。

    ちなみに99年度におけるの住宅ローン残高の合計は181兆円である。そこでこの全部の融資残高合計と日銀の経済統計年報で把握できる金融機関の融資残高合計の比で、バブル期の新規貸出の125兆円を修正すると137兆円となった。さらに一括、繰上返済分や破産処理されたものの予想金額を加えると、バブル期の住宅ローンの貸出総額は160兆円から180兆円と推定される。一戸当りの住宅ローンは1千万円から1千150万円と言ったところである(住宅ローンを使わず全て自己資金で建てたケースの件数を除けば金額はもう少し大きくなる)。


    ところで筆者は、始めは借入金額に注目していたが、むしろ借入残高の方に関心を持った。99年度の残高は実に181兆円である。96年度の借入金残高は160兆円(日銀の統計では146兆円であるが、日銀で把握していない数字が一割くらいある)と推定される。つまり96年度から99年度の3年間に実に20兆円くらい増えていることになる。このように特に注目されるのは、住宅ローンは、バブル崩壊後も依然として着実に増えていることである。

    したがって今日この数字はさらに大きくなっている可能性がある。おそらく190兆円から200兆円の間と言ったところであろう。86年の推定値が70兆円(日銀の統計数字63兆円の一割増し)であったから、住宅ローンの残高は、16年の間に120兆円から130兆円増えたことになる。実に3倍弱になったのである。これが日本経済に影響を与えないはずがない。いや既に大きな影響を与えていると考えるべきである。


  • 自社ビル建設の借入金
    個人の住宅ローンと並んで、主に個人や零細企業の自社ビル建設に伴う借入金が注目される。これはバブル期に相続税対策に有利と、銀行に奨められ、自分の土地に賃貸ビルを建てたものである。しかし毎年の地価の下落によって担保価値が下がっているだけでなく、景気低迷によって、賃貸料が酷い水準まで下がっている。今日、自社ビルのオーナーは窮地に立たされている。

    さらに「2003年問題」と言われているように、特に東京では、来年から大型の再開発ビルが次々とオープンする。ただでさえ供給過多の市場に、さらに新たなオフィスの供給が加わるのである。既に新しいビルはテナントの確保に走っており、既存のビルは賃貸料をさらに下げてこれに防戦している(この影響は横浜など近隣にも広がっている)。東京のオフィスの賃貸料の水準は異常なくらい下がっている。おそらく世界の先進国の首都で東京が一番安いと思われる。

    賃貸料が異常な水準まで下っている理由は、前述の供給増に加え、不良債権処理に伴う不動産の投売りが止まらないことである。借入金が返済できない場合や、担保価値が下落した賃貸ビルは売りに出され、これがまたビルの賃貸料の下落を招くと言った悪循環が起っている。また自社ビルのオーナーが破産と言うことになれば、賃貸ビルを売却しても、銀行には新たな不良債権が発生することになる。


    筆者は、バブル期に自分の土地に自社ビルを建てたケースで、銀行からどれだけの借入を行ったかを調べたが、これまた全くデータがない。唯一データらしきものは、東京でバブル期10年の間に建設されたオフィスの広さが、3,200haから3,300haと言う話である。これは約1,000万坪である。不動産を営む知人の話では、ビル建設の平均坪単価は100万円くらいと言う(豪華なオフィスは200万円くらいであり、自社ビルは100万円程度)。金額では10兆円になる。ラフに東京が全国の半分と見れば、全国で20兆円となる。またこのだいたい3割くらいが、個人や零細企業の自社ビルと言う。つまり極めてラフな計算であるが、建設コストを全て借入に頼ったとすれ、6兆円が該当する数字である。ただしこれはビルの建設費だけである。もし隣地を買増してビルを建設していたなら、借入金はその分多くなる。

    バブル期には、もっと巨額の資金が不動産市場に流れた。大半は地上げを伴う、ビル、マンション、ゴルフ場建設である。今日、バブルの清算はほぼ終わったと言われている。しかし終わったのは、当時ハデに地上げを行っていたこれらの業者である(それも全ては終わっていない)。個人や零細企業の自社ビルのオーナは、今日、まさにバブル時代の清算を迫られているのである。さらに賃貸料の下落が極端なため、バブル期以前に自社ビルを建てた人も借入金を返済できない状態になっており、問題は広がっている。

    この問題が表面化して来たのは、2,3年前からである。この頃から東京のオフィスの空室率が急速に大きくなって来たのである。これらの人々は、一方では堅実な商売を行っているが、この利益を注ぎ込んでも、借入金の返済が難しくなっている。バブル紳士と言われていた人々は、簡単に破綻している。また借入金返済が困難な大企業は債権の放棄を受けている。しかしこのような人々は、地道に借入金の返済を行ってきたが、そろそろギブアップしそうなのである。


    ところが政治は全く無策である。無策どころかむしろ逆の政策を行っているのだから驚く。これだけ空室率が大きくなっているのに、規制緩和でビルの容積率を大きくしようとしている。容積率を大きくするのは、オフィス需要が大きくて、賃貸料が高騰している時の政策である。

    また銀行によっては、利息さえ入金されれば、元本の返済は急がなくても良いと言う所もある。また返済がなされるなら、返済期限を延すことに同意している銀行もある。資金の借手のいない今日の状況では、借入金を返済されても、国債を買う他はないのである。ましてや、返済を強く迫って倒産されては、不良債権が増えることになる。ところが金融庁は、返済期限を延す場合には、銀行に引当金の積増しを迫って、銀行の足を引張っている。一方では、金融庁は中小企業への貸出を増やすように指導しているのであるから、彼等は一体何を考えているのであろうか。

    何をやっているのか全く解らないのが小泉政権の特徴である。この政権には何も期待していない。景気をさらに低迷させ、デフレ経済を深刻化させ、政府の借金だけは増やしている。さっさと辞めてもらう他はない。そして次の政権には、まともな経済政策を行ってもらうことになる。しかしそのような政策が効果を生むまで待てない人々がいるのである。このような人々に対する施策が是非とも必要となって来る可能性がある。時限的なモラトリアム(金融債務の返済猶予)もその一つである。



来週号では、今週取上げた巨額の借入金が、経済に与えている影響を考えたい。

民主党が起爆剤となって、政界再編が起ろうとしている。これがどの規模になるか現時点では予想できない。しかし今日の政界の再編は、いまだ「選挙区の事情」や「政治家同士の好き嫌い」で行われているような気がする。やはり基本的な政策で再編が行われる必要がある。

経済政策に関しては「需要派」対「構造改革派」、あるいは「現実派」対「観念論派」に別れるのが理想である。どの党にも両者が存在しており、日本の経済政策が混乱する原因となっている。また民主党の菅代表のように「構造改革ではデフレ経済は解決しない」と講演では言っているようだが、どこまで本音なのか不明な人物もいる。少なくとも民主党の新しい執行部はほとんどが構造改革派である(彼等は小泉改革のテンポは遅すぎるとまで言っているーー相当考えがズレている)。

先週号に述べたように、予想より早く円高が進んでいる。日本の対抗措置は当局の介入しかない。株価も下げている。これも公的資金による買支えだけが頼りである。つまり小泉政権は、これらの当局の市場への介入で支えられている。小泉政権をどうしても延命させたい人々がいるのであろう。



02/12/9(第277号)「ルーカスの子供達」
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02/11/25(第275号)「小泉政権の支持率の怪」
02/11/18(第274号)「セイニア−リッジ政策の推進(その3)」
02/11/11(第273号)「セイニア−リッジ政策の推進(その2)」
02/11/4(第272号)「外資系ファンドの実態」
02/10/28(第271号)「竹中平蔵大臣の研究」
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02/9/30(第268号)「末期的な経済政策」
02/9/23(第267号)「銀行の不良債権問題(その3)」
02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」
02/9/9(第265号)「セイニア−リッジ政策の推進(その1)」
02/8/12(第264号)「経済よもやま話」
02/8/5(第263号)「マスコミのチャイナースクール化」
02/7/29(第262号)「チャイナースクールの落日」
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