- 株式市場の嵌め込み話
バブル期のもっと前、ある製薬会社の株が仕手化した。人々が競って買ったため、連日高騰を続け、ついに16,600円にもなった。買い材料は「制ガン剤の開発」であった。ある人が証券マンに「その制ガン剤は本当に効くのかね」と訪ねると、その証券マンは「さあー、ガンに効くかどうか判らないが、兜町には効いているみたいですよ」と答えたそうである。この話は実に株式市場の性格や雰囲気と言うものをよく表している。
株式市場に限らず、市場では、必ずしもいつも論理的で正しい判断が行われているわけではない。為替市場でも同様である。橋本政権の頃、米国の金利が高いと言って、資金が日本から米国に流出を続け(主に米国国債の購入資金)、円安傾向がずっと続いた。政府・日銀は円買い介入を行ったが、効果はなかった。解説者は「水が高い所から低い所に流れるように資金も金利が安いところから、高い所に流れる」ともっともらしいことを言っていた。しかしある日突然、為替は円高傾向に転換した。別に金利に大きな変化があったのではない。その日を境に「金利ではなく、日米のファンダメンタルズの違いが為替を決める」とルールが突然変わったのである。
株式市場において、必ずしも株価はその会社の実際の価値を反映したものではない。これを理解するには、自ら株投資を行っていたケインズの言葉「値が上がる株を予想することは、美人投票で選ばれる美人を適中させることと似ている」が参考にる。つまり投票選ばれる「美人」の予想は、自分の美人の基準で予想するのではなく、投票する全体の人々の基準で「美人」を予想することである。このように株式市場で大切なことは、必ずしも本当のことではなく、皆が「そう思う」ことである。問題は「そう思う」ことがしょっちゅう間違っていることである。
市場関係者の考え方にはついていけない時が多い。02/5/13(第251号)「酔っぱらいの論理」で紹介したような、支離滅裂な考え方は別としても、それに近いものによく出くわす。どうもオピニオンリーダみたいなのがいて、皆それに合わせと言うか、合わせるように自分に言って聞かせているのであろう。たしかに市場参加者が同じ方向で考えれば、相場も一定方向に動くことになり、天井までは皆が儲けることができる。この結果、ガンに効くかどうかよく判らない制ガン剤の薬品会社の株も暴騰するのである。
市場関係者の経済や経済政策に対する考えも、驚くほど似ている。「減税」と誰かが言い出すと、皆が「減税」と言い出す。また「構造改革や規制緩和」と言えば、面白いように「構造改革や規制緩和」と言い出す。そして先月までのキーワードは「銀行の不良債権の徹底処理」であった。特に「公的資金を投入してでも不良債権を処理」が市場関係者の合い言葉であった。このため「銀行は健全である」と発言し、「公的資金の投入構想」を断固拒否していた柳沢金融担当相は、「諸悪の根源」のような存在であった。
したがって9月末の内閣改造で、柳沢金融担当相が辞めれば、株価は上昇すると言う「空気」があった。さらに柳沢金融担当相が辞めれば、銀行の不良債権の処理も進み、経済にプラスと言う雰囲気は、株式関係者だけでなく、世の中全般の雰囲気であった。特にサンデープロジェクトの田原総一郎氏にいたっては、「柳沢降ろし」の先頭に立っていた。
しかし本誌は、02/9/23(第267号)「銀行の不良債権問題(その3)」で指摘したように、「財政出動なしの、不良債権処理はとんでもない」と言う立場であった。そして柳沢金融担当相は、「異常な世論(公的資金投入による不良債権処理)」に対する「最後の砦」と言う認識であった。
そして内閣改造の日の株価が注目された。当日はかなり下げていたが、柳沢金融担当相の解任と、竹中氏が金融担当相を兼務すると言うニュースが流れると、同時に株価は戻し始めた。筆者も、これは事前の話の通りと納得していた。つまり「柳沢金融担当相の解任で銀行の不良債権の処理が進む」と言う話で株価が上昇していると考えたのである。ところが市場の終了が近づくにつれ、株価は逆に下落を始めた。そして翌日以降も株価は下落を続けている。事前の予想(柳沢金融担当相の解任で株価上昇)とは全く逆の現象が起ったのである。
「柳沢金融担当相の解任で株価上昇」と言う話は、日本の人々のほとんどが信じていたストーリである。このストーリを信じていたのは市場関係者だけでない。報道2001のキャスターの黒岩氏も、番組の中で「柳沢金融担当相の解任で株価上昇するものと思っていた」と卒直な感想を述べていた。筆者に言わせれば、市場関係者を始め、まさに日本中が「嵌められていた(表現は悪いが、これ以上適切な表現を思いつかない)」のである。
小泉首相も「嵌められていた」可能性がある。彼は支持率のためには何でもする人物である。柳沢金融担当相を切れば、株価も上がり、内閣支持率も上がると考えたとしても不思議はない。前にも、サンデープロジェクトの田原総一郎氏が強く押していた猪瀬氏を、道路公団の民営化委員会の委員に指名し、支持率アップに繋げている。田原総一郎氏が毛嫌いしている柳沢金融担当相を解任するのは当然の流れだったのであろう。首相は内閣改造を「自分一人で」決めたと言っているが、そうではない。国の重要ポストはサンデープロジェクトの田原総一郎氏が決めているのである。
では「嵌めた」のは一体誰であろうか。これは筆者にも分らない。ただ株式市場における外人の動向が気になる。9月は外人ガ大きく売越している。拾っているのは日本の公的資金である。さらに外人は内閣改造後もはでに売っている。たしかに米国の金融機関がピンチであることは承知している。投信の解約も続いている。米国の大手銀行がやばいと言う話もある。円安が続いており、本国への送金の可能性が考えられる(ただし今後の為替相場は色々な要素が絡んでおり、非常に読みにくい)。しかし特に内閣改造後、外人売りがさらに大きくなったことが不思議である。内閣改造は外資系証券会社が希望するような形になったはずなのである。
たしかに以前から外資系証券会社のエコノミストが揃って「不良債権の処理」を強く訴えていた。メリルリンチ日本証券のチーフエコノミストのイェスパー・コール氏なんかは、エイジアン・ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿して「内閣改造で小泉首相のデフレ対策に真剣に取組む姿勢を確認した。成功の可能性は高まっている。竹中氏は金融庁の銀行行政の最も率直な非難者であり、優れたエコノミストである」と述べている。
この人物は、頻繁にテレビや日経新聞に登場し、いつもとんでもない政策を訴えている。筆者から見れば、実に怪しい「ガイジン」である。日本政府がまともな政策を行おうとすると、いつも「本当にそれをやるなら、日本からさよならね」と怪しい日本語をあやつる。そんなことを言い続けながらずっと日本にへばりついているのである。今回の内閣改造は彼にとっては理想的なはずである。したがってまさかメリルリンチは株を売ってはいないはずである。しかしネットには、メリルリンチがバンバン株を売っている話が載っていた。
- 金融庁の嵌め込み
「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」、いわゆる竹中チームに木村剛氏が入った。このニユースで株価はさらに下落した。昨年、木村氏は整理対象の会社のリストをあちこち持って回り、これらの会社の株価が下落した。今回、竹中チームに木村剛氏が入ると言う話が出てから、リストに掲載されていると噂されている会社の株は再び売られている。特にカラ売りが大量に入り、みじめなほどの下落である。
このような人物をどうして竹中氏が選んだのか話題になっていた。木村氏は、元日銀マンである。この経歴のせいか、日頃から大蔵省をルーツにする柳沢金融担当相や金融庁に極めて批判的であった。両者への批難が、田原総一郎氏との対談で本になっているくらいである。噂では、銀行行政をめぐって、金融庁の長官と大喧嘩になったと言う。
一般の理解では、竹中氏が金融庁の官僚に対抗するために、特に金融庁に批判的な木村氏を引張って来たと言うことになっていた。筆者もそのように思っていた。ところが真相は全く違っていた。プロジェクトチームを作ると言うことになって、金融庁がそのメンバーの候補者リスト作成し、竹中氏に示した。そして竹中氏がリストの候補者の中から木村氏を指名したのである。つまり金融庁が、天敵のような存在である木村氏をあえて選んでリストに載せていたのである。金融庁の言い分は「外部から色々と批難されるより、中でやってもらった方が良い」と言うことである。これは驚きであり、実に面白い話である。
そう言われてみると柳沢前金融担当相のかたくなな姿勢も理解できる。柳沢氏は辞めても良いと覚悟していたのであろう。また金融庁の官僚は、竹中・木村コンビに不良債権処理を「丸投げ」したのである。二人に「そんなに言うなら、自分達でやってみたら」と言うことである。デフレ経済が続く日本で、ましてや小泉政権の緊縮財政下で、不良債権処理なんかできるはずがない。これは一体どう言うことなのか、筆者はじっと考えた。最後に「小泉首相および竹中・木村コンビ、さらに田原総一郎氏は柳沢前金融担当相と金融庁にみごとに嵌められた」と考えるに到ったのである。まさにこれらの4名は自業自得である。
一口に銀行の不良債権処理と言っても簡単ではない。会社を整理すると言っても、そこには多数の生身の従業員が働いている。連鎖倒産も発生する。また融資先はまともな会社だけではない。「マル暴関係」もある。まさかこちらはほっておいて、まともな会社ばかりを潰す訳にはいかないと思われる。柳沢前金融担当相は日頃から「現状でできる不良債権処理はやっている。これ以上の処理には別の政策が必要(強力な需要政策と筆者は理解している)」と言っていた。まさにその通りである。土地や株と言った資産の価格が上昇しなければ、とても不良債権処理なんかできるはずがない。
銀行の国有化に関して、よく韓国の例が持出される。「韓国はIMFの管理下に入り、銀行を国有化し、経済の構造改革を行ったため景気が良くなった。」と言う話である。しかしこれは全く事実ではない。アジア危機で韓国は打撃を受け、IMFに緊急融資を要請した。IMF(ニュークラシカル系の経済学者の大ばか者の集まり)は、融資の条件として緊縮財政を韓国に求めた。しかし韓国政府は断固としてこれを拒否した。韓国は、緊縮財政ではなく、反対に積極財政と金融の緩和、さらにウォン安政策を行ったのである。韓国では住宅のミニバブルが起るほど景気が回復した。しかし決して銀行を国有化して不良債権を処理したから、このように景気が良くなったのではない。そうではなく積極財政による需要政策を行ったから景気が良くなり、不良債権の処理も容易にできたのである。
竹中氏が金融担当相を兼務することに対して、世界の各方面から期待する声が届いている。しかしよく見ると、そのような声を上げているのはIMFやを始め、カルトエコノミストが主流を占めている所ばかりである(米大統領経済諮問委員会CEAのハバード委員長も、日本の経済のことが全く解らないのか、あるいはカルトの一員と思われる)。つまりカルトエコノミスト同士のエールの交換(このカルト経済学集団は最近各方面から批難ごうごう)である。韓国が、IMFに対して断固拒否したはずの「緊縮財政」の元で、日本は銀行の不良債権処理を行おうとしているのだから「正気の沙汰」ではない。まさに日本は、訳の分らない連中によって人体実験されそうになっている。
先月までほとんどの日本人は「銀行の不良債権の処理をしたり、銀行を国有化すれば株価も上昇する」とマインドコントロールされていた。竹中氏の金融担当相兼務が発表された時に株価が実際一時的に上昇したのも、その影響と考えられる。しかしずっと本誌で述べているように不良債権処理とは、通常、会社をどんどん潰すことである。さらに銀行を国有化すると言うことは、銀行の株券が紙屑になることを意味する。たしかに国有化しても、100%減資を行わないことも考えられるが、長銀や日債銀の国有化の際には、100%減資を行っている。
木村氏のリストの会社だけではなく、銀行の株も暴落している。このことは色々な方面に影響している。銀行が取引先企業の株を持っているだけでなく、企業の方も銀行の株をかなり持っているのである。つらいのは銀行の株が下落することが分っていても、企業は融資を受けている銀行の株を簡単には売れないことである。さらに悲劇的なのは銀行株を担保として銀行に差入れているケースである。自行の株なら多少大目に見てくれるかもしれないが、他行の株なら追加担保を要求される可能性が強い。つまり株価の下落で倒産する企業が出てくるのである。
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