平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/8/4(第27号)
米国の景気を考える(その1)
  • グリ-ンスパン議長の議会証言
    7月22日の米議会でのグリ-ンスパン議長の発言が波紋を呼んでいる。昨年末にダウ平均株価が6,000ドルを超えた際、「根拠のない熱狂」と警告を発した議長が、8,000ドルを超えた今日の株価について、今回はなにも触れなかった。さらに、失業率が低位に推移しながらも、物価の安定が保たれている今の米国経済は「100年に一、二度の事態かもしれい」と歴史的な経済構造の変化を示唆した。この発言を受け、米株式はさらに株価の上昇のピッチを上げ、連日高値の更新が続いている。議長は株価についてなにも発言しなかったこと自体を、市場は高騰している株価の追認と勝手にとらえているのである。
    今週号と来週号では、巷間言われている「強くなった米国経済」の実態について筆者の考えを述べたい。また、その前に活況を呈している米国株式とFRBなどの中央銀行の機能について触れたい。米国経済については、3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」で述べたが、今週号と来週号はその追加とフォロ-である。

  • 米国の株価は適正か
    本誌は以前から一貫して米株式が経済実態より高すぎるため、いつ大きく下げても不思議はないと主張してきた。そして、そのプロセスでは米国からの資金の流出を伴うことを想定していた。しかし、現実には、今のところそのような動きは見られない。むしろ実態は逆に資金が再び資金が米国に向かう勢いである。しかし、この動きがこのまま続けば、米国の金融市場のリスクがさらに大きくなることを意味する。
    筆者が米国の株価水準が高すぎると考える根拠は、ズバリPERが大き過ぎることである。適正水準の2倍くらいであろう。PERについては日本の方が大きいと言う指摘もあろうが、日本の場合には企業の価値の計算方法が異なるのでベ-スが違う。さらに日米の間では長期金利が違うためその分日本のPERが大きくなるのが普通である。
    詳しくは3/31(第9号)「日本の株式を考える」を参照願いたい。株価はその「企業の価値」を反映するものである。そしてその企業の価値はその企業が将来一定期間(一般には10年くらいの間)に得るであろう各年の利益を金利で還元(割り返して)したものの合計で求められる。ところが、日本の企業には内部留保として蓄積された利益や、バランスシ-トには表示されていない土地や有価証券の含み益があり、日本企業の株価にはこれらがプラスされていると考えるべきである。また子会社にもこの簿外の資産があるからさらにこれらも加味しなければならない。
    一方、米国企業の場合にはバランスシ-トには表示されていない含み益と言うものはないと考えて良い。さらに米国の場合は有価証券の評価は時価であり、決算も連結決算が普通である。つまり、収益力以上に株価の上昇した場合には、株価が高すぎると判断されるのである。もつともこれが最近行なわれている株式の償却でなされたものなら別であるが。
    米国では、以前はインカムゲインつまり株の配当を期待して株式の保有がなされた。しかし、最近ではむしろ主にキャピタルゲインを目的に株式は購入されている。キャピタルゲインに対する減税の動きもこれを加速している。もっともここまで株価が高くなっては、配当金目当てに株式投資はできない。
    企業の収益力が高まっているのだから、現在の株価が適正と言う意見もあるが、ダウ平均が半年で6,000ドルから8,000ドルに30%も上昇しているのである。わずか半年で30% も収益力が上がったとは考えられない。
    筆者は、米国の株式市場は不均衡の状態に陥っていると考えている(6/23(第21号)「投機と市場を考える」を参照願いたい)。つまり株価が高くなったから買う。買ったらまた上がるのでさらに買うと言うふうに株価はドンドン上がっているである。
    6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」での指摘の繰り返しになるが、米国で最近M&Aを行なった企業の格付けが下がるケ-スが増えている。この意味することは、現在の株価が実態よりかなり高くなっており、これをもとに企業買収を行なうと高い買い物になると言うことである。

  • 中央銀行の機能(1)
    日本では「日銀法の改正」により日銀の大蔵省離れが模索され、イギリスでは新しく誕生した労働党政権はイングランド銀行の独立性を強化する方向である。また、ドイツは政府の「財政赤字削減を意図した金売却構想」を拒否したように中央銀行は依然強い存在である。
    世間では、中央銀行の独立性の重要性が叫ばれている。しかし、筆者は今日のような複雑な経済情勢の中では中央銀行の独立性がどれだけ意味があろうかと考えている。中央銀行が自分達のポリシ-を守る施策に固執した結果、国の経済が滅茶苦茶になるようでは、中央銀行の存在自体が邪魔である。また、逆に中央銀行だけがいつも正しいと言うなら、政府は経済にまったく関与をしない方が良いと言うことになるのである。
    実際の経済運営は、関連する各経済機関の政策を調整しながら、行なわれているのが実態であろう。「中央銀行の独立性」だけが重要と言う考え方はまったくの観念論である。特に今日のように国際的に経済政策の協調が求められている場合には、どちらかと言えば国内向けのスタンスにある中央銀行の政策だけでは対応できない。
    程度の差はあっても、どの国の中央銀行も一番の政策目標は「自国通貨の価値の安定」、つまり物価の上昇を抑えることであり、その次あたりが「金融システムの安定」である。そのため中央銀行は金利を高くする方向に流れやすい。国内に不良債権を大量に抱え込んでいる銀行やゼネコンのため、金融システムが不安定なため低金利政策を維持している日本などはむしろ例外である。もっとも日本の低金利は、慢性的な資金余剰も関係しているので、日銀の政策だけが原因ではないが、話が長くなるのでここでは省略する。
    一方、財政当局は低金利を好む。経済活動が活発化し、失業率が下がり、最終的には税収が増えることを期待するのである。また、各国とも国債を発行して、税収の不足を補っている。この利払いのためにも、金利が低い方が好まれる。このように、中央銀行と政府、特に財政当局とは利害が異なるのが普通である。
    随分前から「日銀の総裁」は日銀出身者と大蔵省の出身者が交互になっている。大蔵省出身者が総裁の時には低金利に、日銀出身者の場合には高金利に運営されやすいとの指摘がある。現在の松下総裁は元大蔵事務次官である。今日の低金利政策の維持もこれに関係しているかもしれないが、出身によって政策が変わるのも変な話である。また日銀内部の歴代の総裁に対する評価は、高金利政策を行なった方が高いと聞く。公定歩合を一度上げると一勝で、下げると一敗と言うことらしい。2回上げて1回下げると、2勝1敗と言うことになる。しかし、経済や国民にとって大事なことは政策の結果である。決して公定歩合の上げ下げ自体ではない。むしろ中央銀行の独立性だけを強調するのは危険と言える。少なくとも中央銀行については、政策の透明性の確保だけは必要である。

  • 中央銀行の機能(2)
    最近、先進国の各国の物価は安定している。つまり各国とも、物価の安定を第一義に捉えている中央銀行の活躍する場がないのである。また、物価は当分上昇する気配はない。これが意味するところは、中央銀行の存在の希薄化と地位低下である。また、「金融システムの安定」と言うもう一つの政策は、中央銀行だけに求められるものではなく、むしろ政府が深く関与するもので、。このような状況を考慮して、議会でのグリ-ンスパン議長の証言を理解すべきである。
    特に市場自体の働きを重視し、政府の関与を嫌う米国にあっては、株価や為替水準について関係当局者が発言することにさえ拒否反応が強い。株式市場崩壊した場合、金融システムに問題が生じることを懸念していることは理解できるが、株式市場に直接には関係のないFRB議長が株価について発言することには、議会からも強い反発が出ている。このような状況下で議長が「株価」に言及しなかったことは当然である。
    むしろこれからは、中央銀行は、世間の常識に反して、独立性を薄め、他の各経済機関の政策との整合性を持った行動を行なうことが求められているのである。国は潰れたが、中央銀行だけが健全に残ったと言うのでは話にならない。

  • グリ-ンスパン議長の苦悩
    グリ-ンスパン議長は歴代のFRB議長の中でも評価の高い議長である。その議会証言が現在の株価の追認と受け止められるとは、本人にとつて心外であろう。筆者には、議長が株価に対して発言を慎んでいるのは、議会からの批判だけではないような気がする。一つには、株価の下落が、暴落と言う形をとった場合のリスクが大きすぎることである。また前述のように物価が上昇しなければ、現在のFBRとしては「手の出しよう」がないと言う現実もある。
    米国政府とFRBにとっては、株価が現在のまま推移し、企業の収益力が増して、これに追い付いてくれるのを願う他はない。しかし、現実にはちょっと無理であろう。
    米国では、現在の高株価の説明として「ニュ-エコノミ- 論」と言うものが出てきた。これによれば米国の生産性が飛躍的に上昇していると言うことらしいが、来週号ではこれについて検証してみたい。



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