平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/9/23(第267号)
銀行の不良債権問題(その3)
  • 延命策と対処療法
    本誌は、過去に(01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」、01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」)で銀行の不良債権問題を取上げた。1年半前のことである。それ以降、この問題にはあまり触れなかった。それは本誌で2週に渡って述べたのだから、自分の頭の中では、この問題は何か解決済みと言う感覚であったからである。とんでもない錯覚であった。これらのコラムを今読返してみると、銀行の不良債権問題の状況がこの1年半の間ほとんど変わっていないことに驚かされる。むしろ状況はより深刻になっている。

    本誌は、小泉政権発足後、この政権では、経済政策が空白の時代(経済政策が無策)を迎えると警告して来た。まさに「空白の時代」である。今後の不良債権問題の行方は、実態経済および、地価や株価などの資産価格の動向に掛かっていると言える。しかし小泉政権の経済政策を前提にすれば、前途は真っ暗である(経済は低迷、地価の下落は止まることがなく、株価も最安値を更新中)。つまりこのままでは、今後もますます銀行の不良債権問題は解決不能な方向に向かうことになる。

    この問題には、色々な意見があるが、これらもみごとなくらい1年半前と同じである。意見は大別して「ソフトランディング派」と「ハードランディング派」に別れる。現実の政策は、これまで概ね「ソフトランディング派」の意見に沿って行われて来た。しかし「ソフトランディング」でうまく行くには、一方で経済実態を良くすることが条件のはずであった。経済実態が良くなり、地価が安定、あるいは上昇に転じる政策が行われてこそ「ソフトランディング」路線が意味を持つ。ところが小淵政権の最初の頃を除き、信じられないないことに政府の経済政策は、いつのまにか財政再建路線、つまり緊縮財政に転じてしまった。

    これでは銀行への資本注入など、「ソフトランディング」を目指す政策を行ってきた意味がないのである。緊縮財政によって、経済の実態が悪くなれば、経営悪化する企業が増え、銀行の不良債権が増え、地価の下落も止まらないことになる。「ソフトランディング」政策は、単なる銀行の延命策になってしまっていたのである。


    とにかく日本政府のこれまでの施策は、結果的に延命策にしかならなかったものが多すぎる。中小企業に対する、信用枠の設定もこの類である。経済の実態を良くしないまま、中小企業への貸付を増やすことを行えば、そのうち借入金を返せなくなることは分っていたことである。

    日本政府の政策の特徴は、この延命策と対処療法である。対処療法の代表は、「為替介入」、「株価のPKO」、そして国債の買切りと言った市場への直接介入である。内需主導型の経済への転換をせず、円高になれば無制限に為替介入を行う。しかしこのような介入資金は、利息や配当を生み、将来の円高要因となる。また株価が下落すると必ず登場するのが、公的資金による株価の維持政策である。さらに信じられないことに、今、日銀による株式の購入が検討されている。とにかく小泉政権になって目立つのはこのような市場への直接介入である。どのへんが小泉政権は「小さな政府」を目指していると言えるのか。

    さらに国債価格が下落する場面で登場するのが、日銀の国債の買オペである。また毎月日銀は国債の買切りを行っている。しかもこの額は年々増えている。これは実質的に、日銀の国債引受けである。これは国家の信用で、通貨の発行を増やすことであり、我々が主張しているセイニア−リッジ政策と変わらない。それなら国が国債を発行し、日銀がそれを引受け、その資金を政府が財政支出に充てるのが筋である。


    筆者は、これらの延命策や対処療法を全面的には否定しない。しかしこれらの政策は、本筋の政策があってこそ意味がある。本筋の政策が行われる場合、その効果が現れるまでの政策として行われることは考えられる。しかし小泉政権のように本筋の政策が全くない場合には、全ての政策が延命策や対処療法になることは目に見えている。まさか「郵便局や道路公団の民営化」が本筋の政策と考えている人はいないであろう。


  • 公的資金投入による不良債権処理
    ここに来て浮上しているのが、銀行への公的資金投入による不良債権処理である。先週号でも紹介したように、榊原慶大教授の政府紙幣発行特権(セイニア−リッジ)による資金を銀行の不良債権処理に使うと言うアイディアもある。

    しかし公的資金投入によって不良債権処理を行っても、経済が上向くと言う保証はない。これも銀行存続への延命策であり、対処療法の一種である。むしろやり方によっては、一段しデフレ経済を深刻化しかねないのである。また不良債権問題があるから、デフレ経済になったと言うのはデマである。話はあべこべで、デフレ経済が続いたから銀行の不良債権問題が深刻化したのである。


    ところでどのよう仕方で銀行の不良債権の処理がなされても、銀行自体は金融システムのインフラとして残る(国営化されようが、今日のままの姿で残ろうが)。つまり銀行自体は残るのである。問題は、銀行からの融資金が不良化している一般企業の方である。これらの企業の行方が問題なのである。つまり不良債権処理は銀行の問題ではなく、一般の企業の問題として捉えるべきである。


    次に考えることは、銀行が持つ不良債権の処理の方法である。これには税務や銀行の株主の権利も絡んでくる。銀行が勝手に不良債権を処理する訳にはいかないのである。一定のルールに乗っ取って行うことになる。

    今日、行われている企業の整理は、法的整理と私的整理に大別される。法的整理には清算型(破産、特別清算)と再建型(主に会社更生法と民事再生法)がある。法的整理でも清算型は企業が消滅するが、再建型は企業の存続が前提である。

    一方、私的整理の場合は、関係者の話合いの中で、債権の放棄などが進められる。以前は私的整理の場合は借金の棒引きと言った印象が強かったが、昨年、経団連を中心に「私的整理のガイドライン」が作られ、これに沿って行われることになっている。これによって、私的整理の場合でも、経営改善計画の作成の他、経営者と株主の責任を求められている。通常、経営者には責任を取って退任、株主には減資が求められる。「私的整理のガイドライン」の内容はなかなか厳しいと言う印象である。要するにそれくらい厳しくしなければ、税務当局も、銀行の債権放棄をなかなか損金に認めなし、銀行株主の代表訴訟の問題をクリアできないと言う話である。

    法的整理(再建型)と私的整理では、どうしても前者の方が厳しい。たとえば人員の整理では、これまでの様子を見ていると、法的整理の場合、従業員の半分から3分の2が解雇されている。一方、私的整理の場合にも、人員整理が伴うのが普通であるが、こちらはせいぜい2〜3割に止まっているのが実態である。


    簡単に「銀行の不良債権処理」と言っているが、具体的な方法は、企業をどんどん法的整理や私的整理に追込むと言うことである。特に法的整理が多くなった場合には、街に失業者が溢れ返る事態が予想される。

    このように「公的資金を使っての銀行の不良債権の処理」がデフレ対策と言われているが、とんでもない話である。不良債権の処理を進めると言うことは、どんどん失業者が増えることを意味している。したがってデフレ解消どころか、デフレを深刻化させるのが「不良債権の処理」である。ところが世間には、せっかく「公的資金」を投入するのであるから、何かデフレの対策になるのではないかと言った雰囲気がある。しかしこれは全くの誤解である。

    どんどん企業の整理を進めると、銀行の貸倒金が増えることになる。貸倒金がどんどん増えれば、銀行の自己資本が不足することになる。そして最終的にこの自己資本の減少の補填を公的資金で行うと言うことが、今日言われている「公的資金による不良債権の処理」である。つまり「国が金を出して銀行の存続を保障するから、どんどん企業を潰しなさい」と言っているのと同じである。

    訳のわからないエコノミストがテレビに登場し、「不良債権の処理を進めれば、一時的に失業が増え、苦しいかもしれないが、その後日本経済は蘇る」とよく発言している。たしかに一旦破綻させた企業は、借金がなくなり、大胆な人員の合理化で、利益が出るようになるかもしれない。しかしこれはこの企業の再生に限ったことである。彼等は、完全に経済学と経営学を混同しているとしか思えない。問題は、このようなミクロのことではなく、日本全体の国民経済、つまりマクロ経済への影響である。

    銀行がどんどん企業を潰し、貸倒金が発生すれば、預金保険機構、あるいは国から金が振込まれる。しかし今日では銀行には適当な貸出先がないため、この金が振込まれても、この金の使い道がない。結局、この金で国債を買うことになる(これまでも銀行に注入された公的資金は、結果的に国債の購入に充てられている)。そしてこのように国と銀行の間で「金」が行き来する過程で企業がどんどん潰されることになる。これが「公的資金による不良債権の処理」の具体的な姿である。

    不良債権の処理に伴い、銀行に金が振込まれるが、これは国の銀行に対する出資金である。これまでは、議決権のない優先株の取得と言う形を採っている。しかし年数が経ったり、優先株に配当ができなければ、議決権のある普通株に転換する。つまり今後、このように国からの出資金が増えて行けば、いずれ国有化される銀行が出てくるはずである。「郵便局など、民営化できるものは民営化しろ」と小泉首相は日頃言っているが、一方では民間の銀行を国有化する政策を進めているのである。

    ところで政府には、最近創られた「株式の取得機構」と言うものがありながら、日銀が銀行の持株を買うと言う話が急浮上している。中央銀行が株を買うと言う行為は前代未聞の出来事である。もちろん筆者はこれに断固反対である。このような政策は政府が責任を持って行うべきであり、決して日銀の出る幕ではない。このように政府・日銀の政策は、もはや「めちゃくちゃ」である。「株式の取得機構」が機能しないのなら、これが機能するように改善するのが筋である。このような当り前の政策が行われず、驚くほど唐突な政策が行われる。ここに今日の日本政府の病根の一旦が垣間見られる。



これほど経済政策が「めちゃくちゃ」になって来ると、本誌もコメントのしようもない。しかし「めちゃくちゃ」になっている原因を探って行くと、不思議と一点に集約されて行く。来週号では、これを取上げる。


日銀の銀行の持株の取得の話で、国債が売られ、利回りが急上昇している。ここまで市場では、日銀の国債買切りの増額を予想して国債が買われおり、利回りも1%まで低下していた。ところが日銀は、国債買切りの増額ではなく、銀行の持株の取得を決めたのである。

たしかに国債は、ここまで急ピッチに買われ過ぎていた。したがって利益を確定したい向きが一旦売却するタイミングを計っていたと考えられる。そこに飛込んで来たのが、この銀行の持株の取得の話で、これに過剰反応して、国債が一斉に売られたのである。

今後国債価格がどのように動くか注目される。とにかく筆者には、どんどん国債が売られる状況は考えにくい。たとえ当分の間多少不安定な相場が続くかもしれないが、そのうち落着いてくると考える。まず「日銀による銀行の持株の取得」政策が本当にすんなり実行されるのかが疑問である。また日銀の国債買切りの増額の話もそのうち復活するものと考えられる。


9月3日東京中央区の中小企業者が窮状を訴えて、1,000人規模の集会とデモを行った。主催は「中小企業景気振興東京会議」と言うところである。不況が長引き、業績が不振となり、倒産が急増している。中には銀行借入でビルを建てたが、不況で賃料が以前の半分になり、銀行から、ビルの売却と立退きを迫られている人々もいる。

特にこの地域では、いくつもの信用組合が破綻しており、資金繰り問題は深刻である。ここに来ての銀行の貸し剥がしは、目に余るものがあると特に金融問題を真剣に訴えている。これは全国の中で唯一景気が良いと言われている東京の話である。来年、2,003年は大型の再開発ビルが次々と完成し、テナントを募集する。ここに集まった人々に危機感があるのも理解される。

筆者は、経済の窮状が酷いのはむしろ地方であり、地方からこのような「示威運動」が起ると思っていた。しかし景気の落込みの一番少ない東京から起ったのであり、これには大きな関心を持っている。どうも地方は、既に訴える気力もなくなっているのかもしれない。

特に注目されるのは、このような直接行動を行っているのが、主に自民党の支持層と言うことである。つまり重要なことは、これらの人々の生の「声」が既に政府や政治家に伝わらないことである。いまだに自民党の声の大きい議員は「構造改革なくして景気回復なし」とか「潜在成長率を高める構造改革が必要」とばかなことばかりを言っている。民主党はもっと極端である。あとは宗教政党とイデオロギー政党である。窮状を訴える人々は、どこに話を持って行けば良いのか分らない状態にある。

「中小企業景気振興東京会議」では、3ケ月後に他の地区にも呼び掛けて、5,000人規模のデモを計画していると言う話である。政治家も小選挙区で若手の2,3世議員が増え(彼等は構造改革と歯の浮いたことばかり言っている)、目線が低い人がいなくなった。パイプが詰り、政治が末端の人々の要求を吸い上げられなくなれば、このような直接的な示威運動が活発になる他はないのであろう。



02/9/16(第266号)「10月号「諸君」の対談」
02/9/9(第265号)「セイニア−リッジ政策の推進(その1)」
02/8/12(第264号)「経済よもやま話」
02/8/5(第263号)「マスコミのチャイナースクール化」
02/7/29(第262号)「チャイナースクールの落日」
02/7/22(第261号)「中国の不当な為替政策」
02/7/15(第260号)「セイニアリッジ政策への反対意見」
02/7/8(第259号)「榊原慶大教授の文章」
02/7/1(第258号)「小泉政権の本音」
02/6/24(第257号)「小泉政権への批難」
02/6/17(第256号)「サッカーのワールドカップ大会」
02/6/10(第255号)「成功は失敗のもと」
02/6/3(第254号)「為替と物価」
02/5/27(第253号)「消費税の減税効果」
02/5/20(第252号)「小泉政権のデフレ対策」
02/5/13(第251号)「酔っぱらいの論理」
02/4/22(第250号)「生産力を生まない投資」
02/4/15(第249号)「商品相場と世界の動き」
02/4/8(第248号)「経済予測のレビュ-」
02/4/1(第247号)「ニュークラシカル派の実験」
02/3/25(第246号)「ニュークラシカル派の論理」
02/3/18(第245号)「日本の所得格差の動向」
02/3/11(第244号)「通常では行わないような経済政策」
02/3/4(第243号)「セイニア−リッジ政策への準備」
02/2/25(第242号)「資金の使途(その3)」
02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」
02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
02/1/14(第236号)「経済政策の目標」
01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン