平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/9/9(第265号)
セイニア−リッジ政策の推進(その1)
  • セイニア−リッジ政策の勉強会
    さる8月29日、霞ヶ関の霞山会館で、恒例の丹羽春喜大阪学院大学教授を中心にした勉強会が開かれた。この勉強会は、単にセイニア−リッジについて勉強することに止まらず、セイニア−リッジ権限(政府の貨幣発行特権)政策を具体的に推進することが目的である。今回は、当経済コラムマガジンの読者の方にこの会合への参加を募った。これには12名と、当方の予想を大きく上回る参加希望者があり、最終的には10名の方々(学生や公務員を始め、不動産業の方や医師、そして大学の客員教授と様々)が出席された。中には鹿児島、和歌山、京都と言った遠隔地からの参加もあった。これも今日の経済が難しい状況にあることを、それだけ多くの人々が実感されているからと考えている。

    新しい出席者の紹介と経過報告の後、会合は丹羽教授の話から始まった。しかし今回は、コラムマガジンの読者の参加を含め、新しいメンバーが10名以上もいたためか、ちょっと教授が張りきり、話が長くなった。このため次に発表を予定していた筆者の持ち時間が15分間になってしまった。したがって筆者の話の大半は次回への持越しとなった。実を申せば、筆者以外にさらにもう一人話をする予定であったが、これも持越しである。中には筆者の話を期待して参加された方もいたかもしれない。そのような方には、今回は大変申し訳がないと感じている。


    たしかにセイニア−リッジ政策はここに来て、世間の注目を集めるようになっている。我々の働きかけもあってか、国会議員などの政治家の中にも、政策広報に「政府の貨幣発行特権」政策を訴える人がちらほら現れている。また丹羽教授も、文芸春秋社のオピニオン雑誌「諸君」の最新号(10月号)で対談を行っている。対談は丹羽教授を含め4名の経済学者の間で行われた。そのうちの一人は、最近中央公論で「政府の貨幣発行特権」による銀行の不良債権処理を主張した、榊原英資慶大教授である。4名の対談ではあったが、どうも丹羽教授VS榊原教授と言う図式が濃かったようである。これについては、是非「諸君」の10月号を読んでいただきたいが、本誌でも来週号で取上げることにしたい。

    他にも丹羽教授には、セイニア−リッジ政策に関して経済雑誌からの執筆依頼が来ているようである。このようにこれまで話題にも上らなかったこの種の政策に、少しずつではあるが、確実に人々が関心を持ちはじめた兆しが見られる。もし来年の今頃に「セイニア−リッジ、あるいは政府の貨幣発行特権」と言う言葉が、人々の間で一般的になっているようなら、日本の経済政策も大きく方向が変わって行く可能性があると言うものである。

    今回の会合には出席された経済コラムマガジンの読者の方の中に、銀行系のシンクタンクの方がいた。この方の話では、このシンクタンクでも最近「セイニア−リッジ」が注目されていると言うことである。そしてどうも「セイニア−リッジ」に関して入手できる文献の大半は欧米の学者のものであり、日本の学者のものはほとんどないと言う話である。そのような事情で、「セイニア−リッジ」に関して日本で唯一の専門家と言える丹羽教授の話を聴きたかったとのことである。


    次回9月のこの会合は、26日(木)午後6時開催の予定である。もし読者の方で、これに出席されたい方は、aqua@adpweb.comにご連絡いただきたい。なお出席名簿作成の関係で、メールには、お名前、お住いの都道府県名、簡単なご職業名を記入していただきたい。会費は6,000円で、これは会場費と弁当代(ビール1本つき)、プラス諸経費(資料コピー代など)である。


  • 内部疾患の「徴候」
    筆者は、このコラムを作成するにあたって、時々当コラムのバックナンバーを読むことがある。たまたま読んだ3年前の00/10/9(第180号)「財政赤字とマスコミの扇動」では、日経ビジネスの特集「日本はまた沈む」を取上げていた。驚くことにこの特集の副題はなんと「2002年、国債暴落のシナリオ」であった。2002年とはまさに今年ではないか。しかし現実は、それ以降も国債は買われ、国債価格は上昇を続けている。実際、今回の勉強会に参加者の中には短資会社系列の債券のブローカの方(この人も経済コラムマガジンの読者)がいて、「とても国債の暴落と言う状況は考えられない」と言っていた。一体、日経ビジネスは今日の国債価格の上昇をどのように弁明するのであろうか。

    日経ビジネスの論調は、これだけではなく、ずっとおかしな状態が続いている。もちろん論調がおかしいのは日経ビジネスだけではない。内閣府(前の経済企画庁)の経済白書も相当おかしい。日本中がこのようなことになったのも、米国に留学し変な経済学を学んできた者や、同様の考えを持ったエリートと称される人々(新古典派の中でもニユークラシカルと言われている人々)が、あらゆる分野で主導権を握るようになったからと考える。彼等は、「痛みを堪えて構造改革を行えば、立派に日本経済は蘇る」と言った「虚言」を盲信している。そしてこれに近い政策が進められているのが、今日の日本である。しかし実態は、構造改革の名の元に「構造の破壊」が行われているだけである。

    ポール・グルーグマン教授は「需要政策を伴わず、設備廃棄を進めれば(銀行の不良債権の処理も進め方によっては、設備廃棄と同じことになる)、経済はスパイラルに陥る」と警告している。筆者もこの意見に賛成である。ちなみにアルゼンチンでは観念論者の前大統領が盲目的に構造改革を進め、多くの人々が職を失った。そして失業者の多くがタクシーのドライバーになったと言う話である。しかしそのタクシードライバーのほとんどは今はどこに行ったのか分らない状態と言うことである。おもしろいのはこの観念論者の大統領は、国民総背番号制実施には異常にこだわったと言う話である。まさにどこかの国の話のようである。ところでこのアルゼンチンの経済の破綻については、そのうち取上げることにする。


    以前から筆者は、今の経済政策が続く限り、絶対起らないものとして「ハイパーインフレーション」と「国債価格の暴落」であると断言してきた。まさに今日、物価は下落を続け、前述の通り国債の価格は上昇している(つまり国債利回りは低下を続け、とうとう1.2%を切る水準に来ている)。ところで日本では、物価が下がり、国債が買われていることはむしろ良いことと認識されている。これらを問題視する人はほとんどいない。しかしこのことは大きな間違いと筆者は考える。これらは経済が重症の内部疾患に冒されている「徴候」と言うのが筆者の見解である。


    先進国の中でインフレターゲット政策を行っている国の一つが英国である。インフレターゲット政策と言うと、一般には金融の調整によって物価の上昇を一定に抑える政策と理解されている。しかし英国の場合には、物価上昇率の上限を設定するだけでなく、下限も決めている。過度の物価上昇だけが、悪い現象として捉えられているのではなく、物価があまり上昇しないか、あるいは下落することに警戒感を持っているのである。英国のインフレターゲットは、年率1.5%から2.5%に設定されている。つまり物価上昇率が2.5%を越えないことはもちろんのこととして、逆に1.5%を下回らないこととされている。

    英国では、物価が上昇しないことをデフレのシグナルと捉えている。英国のように長い間デフレで苦しんだ国は、デフレに対して警戒心があるのであろう。このような背景もあってか、物価上昇率が1.5%を下回った場合には、金融政策の責任者である中央銀行の総裁は、政府に始末書を提出することになっている。「物価上昇率がゼロになるまで金融の緩和を続ける」と「のんきな」ことを言っている日銀とは大違いである。やはり根本的に、日銀は、いまだに物価上昇を阻止することにしか関心がないのである。


    また日本では国債の利回り(長期金利)が低下を続けていることに警戒感がない。このようなことが起るのは、それだけ民間に資金需要がないからである。さらに最近では、銀行は貸付金の回収を活発化させており(かなり強引な金利の引上げ交渉が行われていると聞く)、この回収した資金の一部で国債を購入している構図ができている。そして銀行の国債保有額は今日ピークに達している。

    本来なら、これまで国債利回りが3%程度で推移するくらいまで国債を発行し、その資金を財政支出に回して来れば良かったのである。しかし「財政再建派」の力が強くなり、これに「構造改革派」「供給サイド重視派」(いわゆる小さな政府論者であり、観念論者)がこれに便乗し、国債をなるべく発行しない政策を押し進めてきた。この結果、民間に資金需要がなくなり、今日のように国債価格が上昇し、利回りが異常に低下したのである。しかしこの結果、マクロ経済では、慢性的に内需が不足し、経済成長はマイナスになり、倒産や失業を増やすことになった。

    おそらく国債利回りが3%程度で推移するくらいに国債を増発し、財政支出を行って来たならば、逆に国・地方の借金も今日より小さかったと思われる。日本の税体系は、所得税の累進課税に見られるように、所得が増える以上の率で税収が増えるようになっているからである。また財政支出を増やして有効需要が増えれば、国民所得も増え、経済成長も維持できたはずである。そうなれば、企業倒産ももっと少なく、新規の不良債権の発生も抑えられた。さらに株価も今日のように下落することがなく、銀行の不良債権問題も半分は解決が済んでいたはずである。「痛みを堪えて構造改革を行えば、立派に日本経済は蘇る」と言った「虚言」を発する人々によって、今日、日本経済はボロボロにされているのである。「痛み」の後には「もっと大きな痛み」しか待っていないことに、世間もそろそろ気がつくべきである。


    しかし今日「国債利回りが3%程度で推移するくらいに国債を増発」する政策は採ることはもはや困難になっている。そのような国債の大量発行を行えば、国債の消化不良を起こし、国債価格は下落し、長期金利は急上昇するリスクがある。金利が上昇すれば、あらゆる分野に悪影響が及ぶ。特に銀行は大量に国債を保有しており(全てが長期国債ではないが)、国債価格が下落した場合、銀行の信用不安が一遍に増大する(もっともその場合にも日銀がどんどん国債を買上げると言う手段はあるーーこれも実質的にセイニア−リッジ政策と言えるが)。

    そこで残された手段がセイニア−リッジ権限(政府の貨幣発行特権)政策である。長期金利に影響を与えることなく、資金を確保し、これを財政支出に充てるのである。これができるのも、日本には巨大なデフレギャップが存在し、このような政策を行っても、物価が簡単には上昇しないと言う確信があるからである。



来週号では、本文で述べたように丹羽教授が参加した10月号の「諸君」の対談を取上げる。

アルゼンチン経済を破綻に導いた前大統領は、「構造改革」を唱えていたせいか、経済の状態が相当悪くなっても、不思議とかなり高い支持率を維持していた。経済の調子が悪いのも「構造改革が進んでいないからだ」と必ず言い訳をする。「悪いのは改革を邪魔する抵抗勢力」と言っておれば大衆は簡単にだまされるのである。

「改革」唱えながらの経済運営では、経済は低迷する。すると必ず「改革」派の人々は、犯人捜しを始める。悪いのは「銀行の経営者」「建設・土木業者やこれらに支援を受けている政治家」「道路公団」「金融庁」「大企業の経営者」等、きりがない。しかし彼等が悪いかどうか知らないが、たとえ彼等を懲らしめたからと言って、日本経済が上向くと言うものではなかろう。

おそらく次には彼等は「精神」の問題と言い始める気がする。日本人の「精神」が悪くなり、何でも人に頼るようになったから、経済が上向かないと言うのである。日経新聞には、既にその徴候が現れている。「科学性」が否定され、「精神主義」が花盛りになる。まさに戦前と同じ構図を辿っている。

このような意味で、田中県知事が再選された長野県政は注目される。田中県知事は「長野は公共事業に頼っていたから、新しい産業が起らず、経済は低迷した」と主張しているが、これは本当のことであろうか。たしかに日本はこのような論調で溢れている。つまり公共投資などの財政支出を削れば、新しい産業が次々と生まれて来ると言うのである。

しかし筆者の聞いている範囲では、長野の経済もどんどん悪くなっている。本当に「改革」派の人々が言っていることが、正しいのかどうか、はっきり証明させるのが今後の長野経済の行方である。その意味で長野県は一つの実験台みたいなものである。したがって今後、問題を、田中県知事の性格や仕事の進め方に矮小化してもらいたくないものである。そして「改革」派の主張が、完全に間違っていることを証明される必要がある。



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