平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/7/28(第26号)
内需拡大と整備新幹線を考える(その2)
  • 整備新幹線が評判が悪い理由(1)
    先週号では「整備新幹線」が実態以上に採算が悪く、財政赤字の元凶のように受け止められていることを説明した。今週はこのように整備新幹線の評判が悪くなった理由を筆者なりに考えたい。
    まず、一つにはやはり整備新幹線と故田中角栄氏の関係が頭に浮かぶ。東海道新幹線以降の新幹線網の計画は、整備新幹線法がそのもとになっているが、その元となったアイディアは田中角栄氏の「日本列島改造論」である。これは過密の都市部と過疎の地方を新幹線と高速道路で繋ぎ、日本全体の経済成長を均衡化しようと言うものであった。また、現在の整備新幹線の計画は当初の計画を縮小したものである。
    田中角栄氏が総理大臣が登場した時には、その庶民性と実行力を期待され大変な人気であった。「日本列島改造論」も単行本として空前のベストセラ-となった。そしてこれらの考えをまとめたのは、現在「新党さきがけ」の前代表武村氏であることは有名である。
    しかし、このアイディアも田中角栄氏の人気が下がるにつれ顧みられなくなり、整備新幹線に対する風当りが強くなった。さらに田中角栄氏が刑事裁判で有罪になるに及んで、「整備新幹線」にも有罪判決が降りたように工事も進み方が悪くなって、現在に至っているのである。
    田中角栄氏は大変評価の分かれる政治家である。ここではとりあえず氏に対する評価は行なわない。ただ、氏に対して非難するのは勝手であるが、主張したことまでもまったく間違いと烙印を押すのは誤りと思われる。だいたい政治家の評価と言うものは、死後相当期間が過ぎないと定まらないと筆者は考える。
    また、世間では田中角栄氏の政治は「土建屋政治」と揶揄され、この延長で現在の膨大な財政赤字を生んだような言われ方をしている。しかし、筆者はむしろ「日本列島改造論」は、都市部と地方を結ぶ交通インフラの整備によって、地方の経済的の自立をうながし、なるべく中央の世話にならなくても済む態勢造りがその目的であったと考えている。今日の日本経済を考えると、地方経済の活性化による内需拡大も重要なテ-マである。したがって、「日本列島改造論」ももう少し見直されても良いのではないかと思われる。

  • 整備新幹線が評判が悪い理由(2)
    もう一つは、ある財政担当官僚の「天下の三大バカ査定発言」である。実際、このような発言があったのか、どうかもはっきりしない。ただ、かりにこう言う発言が実際になかったこととしても、世間はあったものとして考えるから、実質的な影響は一緒である。
    これは、日本の政府支出のなかでまったく無駄なものは、「瀬戸大橋」「青函トンネル」そして「整備新幹線」と言う発言であった。そしてどう言う訳か、この発言が外部にもれ、世間の注目を集めた。そして大蔵官僚のエリ-トがそう言っているのだから、「整備新幹線」なんて「無駄の代名詞」と考えるのが当り前と言う風潮が世間に広がったことは否定できない。
    官僚が自分達の責任と思われる範囲について、考えや意見を持つことは自然と考えられる。しかし、財政を担当する官僚は、その支出そのものに一番の関心があるのであり、それによる経済効果などは予測が困難とあまり考慮しないのが普通である。ましてや「国鉄の民営化」や「速度の高速化」による競争力の上昇効果などには関心がない。ただ、最終的には色々な角度から、バランスを考え政策を決定するのは政治家のはずである。
    この発言以降、「整備新幹線」の必要性を訴えることは、「地域エゴ」であり、それを推進する代議士の行動は「族議員のゴリ押し」とレッテルが張られることになった。つまりこの「天下の三大バカ査定発言」は一定の成果を収めたのである。

  • 政府の支出と採算
    「整備新幹線」については、その採算が問題にされる。しかし、他の政府の支出で採算や生産性を問題にするケ-スはまれである。考えてみれば、防衛費のやODAの採算と言ってもピンとこない。
    たとえば学校の先生の生産性はどのように考えるべきであろうか。昔は一クラス当りの生徒は50人が当り前であった。現在の生徒数はその7割くらいであろう。つまり現在の教師の生産性は昔に比べ7割くらいと考えるのが妥当と言うことなるのか。それなら給料も昔の7割くらいで良いのではと言う考えも成り立つ。「いや教える内容が高級になつた」と言われても、とても納得し難い。このように公的支出と言うものの採算や生産性を考えること自体が難しいのである。「整備新幹線」の場合だけが、なぜか採算のことが話題になるので不思議である。
    道路についても同じである。一般道路は一般会計や地方の財政から支出され、その額も年間15兆円と莫大であるが、まずその採算が問題になることはない。その道路がどれだけ使用されているのかほとんど関心が向けられない。一方「高速道路」は財政投融資から支出される。これは借入金であり、高速料金で返済することになっているため、しばしばその採算と言うものが話題になる。「整備新幹線」も財政投融資で建設される。つまり財政投融資で建設されるものだけが、採算をうるさく言われるのである。筆者は、これは今だに「高速道路」や「新幹線」がぜいたく品と言う感覚が残っているからと考えている。一般会計から支出されるか財政投融資で建設するかの基準は一応あるのであろうが、相当古いものであろう。むしろこの際、一般会計から支出されているものの見直しを、採算や生産性の観点から行なうべきと主張したい。

  • 整備新幹線の採算
    そもそも鉄道事業はそんなに儲かるものではない。いや都会では「私鉄」は利益を上げていると言う意見もあろうが、鉄道事業自体であげている利益はそんなに大きくないはずである。ラッシュ時にあれだけの乗客を詰め込んでも利益は大きくないのである。また、「私鉄」の資産の大部分は戦前の地価が極めて安い頃に取得されたものであり、現在も新路線をドンドン建設しているわけではない。
    鉄道事業で利益を上げるとしたら、付帯事業からであろう。例えば、沿線の不動産開発とかタ-ミナルでのデパ-トやス-パ-の経営から利益を得るのである。整備新幹線の場合はこれがちょっと難しいかもしれない。むしろ、整備新幹線により、地域の経済の活性化によって税収が増えることを期待すべきと考える。つまり、建設費の財政投融資からの支出を減らし、一般会計からの支出を大きくし、その見返りは税収の増加でと考えるのである。
    現在、新幹線はJR各社の儲け頭である。しかし、これから予定の整備新幹線は段々採算の点では難しくなることは予想される。今後、採算を考える場合には、地域の経済の活性化にどれだけ貢献できるかと言う点も考慮に入れる必要があると思われる。
    田中角栄氏が上越新幹線の採算を聞かれた時に、「新幹線がそんなに儲かるなら越後交通(田中角栄氏のファミリ-企業)やらせるよ」と答えたと言う話を聞いたことがある。この言葉は実にものごとの本質をとらえている。例えば、上越新幹線の沿線の長岡市には新幹線開通後、各種の研究所が進出してきたと言う話である。新幹線を運営するJRにとってはそれほどメリツトはないかもしれないが、地域には確実に経済効果があるのである。つまり、こうゆう場合には国の支出を大きくし、JRの負担を小さくすることが必要と考える。今後、新幹線は長野市まで伸びる。この地域への新幹線経済効果も興味が引かれるところである。
    さらに、現在新幹線には貨物列車は走っていないが、夜間にコンテナ車を走らせることも考えられる。これで生鮮食料品を運べは、これは航空貨物に十分対抗できると考えられるのである。
    整備新幹線ついてその採算性の点で問題にする論客は多いが、新幹線が開通した地域の経済効果まで言及しているケ-スを筆者は見たことがない。新幹線が開通して、その地域がさびれたと言うならわかるが、こういう人々はそういう所まで調べてはいないのである。つまり、単に時流に乗って「整備新幹線」は問題と言っているだけである。

  • 財政と地方経済
    国の財政は、中央で「揚げ超」、地方で「散超」になっている。つまり結果的には、都会で大きい税収をあげ、それを地方につぎ込んでいる形になっている。これは都会と地方との所得格差を大きく広げないために一定の働きをしている。今後もこれは続くと思われるが、この傾向は少しづつ是正されて行くと考えられる。たしかに、都会に住む人も元は大部分が地方出身である。したがって、地方に税金が多く使われることに対しても、一定の理解があったと考えられる。しかし、これが二代目、三代目ともなれば、地方に対する思い入れも変わってくるはずである。さらに今後はますます、定数是正により国会議員の数も、都会のほうにウエイトが重くなって行く。つまり、いずれは地方も経済的に自立を迫られることが必然である。
    しかし、現状を見るとたしかに、地方は産業基盤は出来ているが、肝腎の企業がやって来ないのである。つまり、今、地方経済に一番必要なものは、大都市との高速交通アクセスであり、そしてそれにより、民間の投資を呼び込むことである。さらに言えば、その公共料金の引き下げである。そして産業立地としての都会との格差を縮小することが重要である。
    地方経済の活性化に公共工事の必要性が、すぐ叫ばれるが、本当に必要な公共工事は高速交通アクセスの建設である。そのためには、その他の工事を犠牲にする覚悟さえ必要と思われる(5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」を参照願いたい)。しかしこれがまた難しいことである。これについては後日また述べたい。



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97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
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97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
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