平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/5/27(第253号)
消費税の減税効果
  • 読者の方からのご質問
    読者の方から、消費税の減税がデフレ対策として効果があるのではないかと言うご質問があった。そこで今週号では消費税について述べることにする。まず指摘しておきたいことは、現実の問題として、消費税の減税は可能性がほとんどないと言うことである。随分苦労して導入し、将来の税収の柱として考えている消費税を、政治家や税務当局が簡単に減税したり、廃止することを承諾するはずがない。また税率の変更は、コンピュータプログラムの修正などの混乱を引き起す。あまりにも消費税の減税論議が安易に行われ過ぎているきらいがある。しかしデフレ対策として、各方面から(米国のエコノミストを含め)消費税減税に言及があることは事実であり、一応検討してみることにする。

    ところで本誌では、消費税の減税の効果について、既に98/12/28(第96号)「不況の原因と消費税減税を考える」で取上げている。結論から申せば、減税全般に言えることであるが、効果は極めて小さい。詳細は上記を読んでもらえば良いが、消費税減税は所得税減税より、若干効果があると言った程度である。先週号で述べたように、所得税減税の効果はかなり小さい。したがって消費税減税の効果も知れている。

    この根拠は、所得税減税より、消費税減税の方が、所得の低い層まで効果が及ぶからである。所得が低くなるほど消費性向は大きくなる。つまりほとんど所得を消費してしまうため、消費税の減税効果がうまれやすい。一方、所得税の減税は、所得の高い層に恩恵が大きい。しかし所得が高くなるほど消費性向が小さくなり、貯蓄性向が大きくなる。つまり減税をおこなっても、それが貯蓄に回る比率が大きくなる。また特に消費意欲が大きい低所得層は、ほとんど所得税を払っていないので、所得税の減税の効果が全く及ばない。

    ところで消費税の増減税の効果を示す乗数を見かけることがない。所得税や法人税については、過去には新聞にも掲載されていたが、消費税については見たことがない。当然、当局はこの数値を把握しているはずである。当局は、消費税を含め、これらの最新の数値を公表すべきである。その数値を公表すれば、今日の不毛な減税論議にピリオドが打たれるものと考える。

    ところで所得税減税が効果が小さいなら、逆に消費税を増税しても経済に悪影響は小さいのではないかと言う意見が出そうである。たしかに消費税を増税して、そっくりそれを財政支出をした場合には、差引き需要は増大する。しかし今日のように、消費税に抵抗が大きく、また財政支出にも逆風が吹いている状況では、これは実行不可能である。むしろ後ほど述べるように、消費税を減税し、その分財政支出を削ると言った、とんでもない意見の方が出てきそうなのである。

    筆者も、今日デフレ経済下においては、逆進性の強い消費税の増税には反対である。特に今日、前に本誌で取上げたように、所得格差がかなり大きくなっていることを考慮すべきである。また効果が小さい消費税の減税にも反対である。つまり5%の消費税はこのまま維持されるべきであり、デフレ経済に対する効果のある対策は、別に考えるべきと考える。


  • 減税の効果に対する誤解
    筆者は、消費税の減税効果については、人々の間に誤解があると思っている。数年前、どこかのスーパーが「消費税還元セール」と言うイベントを行い、これが成功を収めた。そしてこのことが、消費税を減税すれば消費が増えると言う誤解を生んでいるようである。たしかに日常行われているバーゲンでもなかなか値引きの対象にならない商品がある。このような商品でも「消費税還元セール」では値引きがなされるのであるから、たしかに消費者は喜ぶ。しかしこれによって日本全体で消費が増えたとは言えないのである。

    実際、このスーパーの「消費税還元セール」の成功を見て、他のスーパーもこれをまねしたセールを行っていた。しかし後発の「消費税還元セール」はあまりうまく行っていない。そしてそのうち「消費税還元セール」も尻すぼみになっていった。ところで「消費税還元セール」と言っても、実質的には値引きセールである。100円のものが、消費税の5%が加味され、105円になるところを、100のままで販売していたのが「消費税還元セール」である。しかしこれは、実質的に5%値引きセール(正確には4.8%値引きセールであり、95.2円に値引きしたものであり、これに5%の消費税が加算され100円で売っていた)である。

    消費者も、色々なところが「消費税還元セール」を行うようになり、冷静になった。よく考えてみれば、5%の値引きと言っても、値引きセールとしては決して大きいものではないことに気がついたのである。

    ついでながら、「消費税還元セール」と言う表現は間違っていると言うことを指摘しておきたい。消費税はちゃんととっているのである。おそらく正しくは「消費税相当額の値引き」と言うことになるであろう。また「うちは免税業者であるから消費税はいただきません」と言う表現もおかしい。この場合も、単なる値引き販売であり、売価には消費税が含まれているものと見なされる。いずれにしても景品表示法上、問題になる表現である。


    値が下がれば、消費が増え、経済活動が活発になると言う意見をよく聞く。しかし筆者は、この意見を疑わしいと考える。今日のように選択的な消費の比率が高くなれば、一般の消費物価が下がっても、消費が大きく増えると言うことは考えにくい。実際、バブル崩壊後、消費税がアップした97年を除き、毎年消費者物価は下落を続けているが、消費が大きく増えたと言うことはない(消費性向は、ほんの少し大きくなっている(失業した人々が預貯金を取崩しているからと推察される)が、ほとんど同じ水準と言った方が適当であろう)。実際、物価が下がれば、消費が大きく増えるのなら、平成の長期不況はとっくに解決しているはずである。

    97年は橋本政権の財政再建政策が行われた年であり、消費税が不況の原因とされているが、これは正確ではない。たしかに消費税のアップによって一旦消費は減ったが、しばらくして元に戻っている。97年の景気の急激な落込みの原因は、住宅投資が激減したことと、財政の支出(地方を含め)が減少したことである。特に、住宅は96年に消費税のアップを見越し、建築ブームとなった(この結果96年度の経済成長率は先進各国の中で一番大きかった)。そして翌97年は、この住宅の建設ブームの反動が大きかったのである。


    この消費税の減税がデフレ対策として効果を質問された方は、どうも日本共産党の都会議員のホームページをご覧になって、メールを送ってこられたようである。公共投資を減らし、それで消費税を減税することは、日本共産党の基本政策であり、この都会議員個人の意見ではない。しかし共産党がいつも公共投資にいちゃもんをつけるのは、建設業界が、常に与党(必ずしも自民党と言う意味ではないことがみそ)を支持していると言う事情もあることを念頭に置く必要がある。

    しかし本誌の先週号で述べたように、客観的に見て、公共投資の乗数効果の方が、減税の乗数効果よりずっと大きい。したがって公共投資を減らし、その分消費税を減税した場合、最終需要はトータルで相当減ることになり、デフレ対策になるどころか、デフレはもっと深刻になる。このようなことは先週号で示したデータを見れば簡単に解ることである。ところで筆者もこの都会議員のホームページを見てみた。そこでは今日の公共投資額が50兆円と言っていた。しかしこれは全くのでたらめである。今日の公共投資の額は、国、地方さらに財政投融資の合計でせいぜい30から35兆円(予算ベースと決算ベースでは数字がかなり異なり、正確には言えない)である。筆者の記憶では公共投資額は、ピーク時でも40兆円くらいだったはずである。だいたい50兆円と言えば、GDPの10%であり、常識的にも大き過ぎると判断すべきである。

    先週と今週で、減税が経済に及ぼす影響を述べてきた。結論から申せば、日本のデフレギャップは100兆円以上あることを考えれば、どのような減税を行っても、デフレ経済の解決にほとんど影響がないと言うことである。つまり今日行われている、税制改革による経済の活性化なんて、全く「時間の無駄」の典型である。一方、筆者達は、このデフレギャップを活かすことの方が肝腎なのであり、そのためには相当大きな需要創出政策が必要と主張しているのである。



来週号は、物価と為替について述べる。かなり重要なことである。

他の読者の方から、野口悠紀雄教授の考えについてご質問がきている。筆者は、これまで同氏の経済理論についてほとんど関心がなかったが、この読者の方から教授のホームベージの紹介があり、勉強中である。そのうち筆者のご意見も本誌でも取上げることにする。どうも野口教授の考えは、典型的な「供給サイド重視」である。ちなみに筆者達の考えは、これに真っ向から反対するものである。

竹中経済財政担当相は、テレビに登場し、これまで財政支出を増やしても需要政策を行ってきたが、デフレ経済は一向に解決しないと発言している。しかしこれは全くの「嘘」である。地方を含めた財政支出は確実に減っている。これについてはデータもあり、そのうち本誌でも取上げる。こと経済政策に関しては、このような明らかな「大嘘」が多すぎる。デフレ経済脱却には、まずこのような嘘話の排除から始める必要がある。

これは「小さな政府」論者や「供給サイド重視」論者にとって、財政支出に需要創出の経済効果があっては困るからである。彼等は、ずっと財政支出に効果はないと、嘘の主張を続けてきたのである。

また彼等は、自分達の主張する政策がうまく行っていないと指摘されると、必ず他人のせいにする。「金融庁が悪い」「文部化学省がなっていない」などである。「供給サイド重視」のカルトの教祖のジョージ・ギルダーも、米国のIT不況の原因を「米国で規制緩和が十分なされていない」からと言っていると日経新聞に載っていた。筆者は、「金融庁が良くて」「文部化学省がちゃんとしていて」も、とても日本の深刻なデフレ経済は解決される程度のものではないと考える。

また彼等は、すぐに「日本産業構造が新しい時代に合っていない」とか「日本企業の事業構造が古い」と言った意味不明なことを言い始める。たしかに需要がものすごく多い分野があるが、そこにうまく生産資源がシフトしていないと言うなら、この話も分る。もっとも当然、その産業分野や事業では大きな利益が見込めるはずである。しかしどの日本の企業も血眼で儲かる事業を捜しているが、なかなか見つからないのが現状である。「小さな政府」論者や「供給サイド重視」論者は、どの分野で供給が不足しているのかを具体的(ここが大事)に示すべきである。ただ「そのような気がする」と言うのでは困るのである。



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