平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/5/20(第252号)
小泉政権のデフレ対策
  • 小泉政権は森政権
    「小泉政権は森政権」と言う指摘がある。たしかに両首相は、ともに旧福田派の派閥である清和会に属していた。また小泉政権は、福田官房長官を始め、側近のスタッフは森政権からそっくり引継いでいる。つまり首相の周りの風景は変わらないのである。たしかに両者の間には経済政策に対するスタンスに極めて大きな隔たりがある。しかし意外なことに、結果的に両政権のマクロ経済政策に大きな違いが見られないことである。

    筆者の印象では、森前首相はどちらかと言えば、積極財政主義者であり、小泉首相は反対にガチガチの緊縮財政主義者である。ところが実際に行われている財政政策には、大きな違いがない。したがってどちらの政権においても、緩慢な形で経済が徐々に悪くなっているのが実状である。どうしてこんなことになったのか。

    森政権は、小淵政権の政策を継承する形で始まり、一応スローガンでは経済政策も景気対策重視であった。しかし財政政策はむしろ緊縮型に変わっている。実際、小淵政権の後半あたりから財政政策は見えない形で転換している。小淵政権は明確に景気を重視し、「二兎を追わない」姿勢であった。しかし地方が財政再建のため財政支出を削減を始めており、国と地方のトータルでは、財政は緊縮型になっていたのである。ちなみに99年度の地方財政計画では、公共事業の地方単独事業費は19.3兆円であったが、決算ベースでは13.5兆円と5.8兆円も計画よりショートしている。


    99年度と言えば、小淵政権の後半である。たしかに国は景気重視で積極財政を続けていても、財政難の地方が支出を絞っていたのである。おそらくこの傾向は、森政権以降も続いていると考えられる。特に、地方の場合は、予算ベースより、実績である、決算ベースがショートしている場合が多い。とにかく地方の財政支出の削減を見越して、国がその分財政支出を増やしておかない場合には、たとえ前年と同規模の財政支出を行っても、結果的には、国全体では緊縮型の財政運営になってしまうのである。最近では、地方は当初の予算ベースから、財政支出は前年割れである。

    たとえ森首相自身が積極財政主義者であっても、地方が財政支出を削っていたのでは、結果的に国と地方のトータルで財政は緊縮型になる。このことは首相の周りも分かっていたことと思われる。株価も森政権の頃から下落を始めている。筆者の感想では、小淵政権の後半から、密かに財政は財政再建政策への転換が準備され始め、森政権でははっきりと財政再建路線に転換した。つまり積極財政主義の森首相は足を引っ張られていたのである。

    一方、小泉首相はガチガチの緊縮財政主義者であり、国債発行に30兆円の枠をはめようとした。しかしさすがに経済は低迷し、特に同時テロによる経済の大きな落込みが起り、小泉政権は補正予算の策定を余儀無くされた。つまり小泉政権は、意に反した財政支出を無理やりやらせられたのである。

    このように足を引っ張られていた森政権は財政支出を削られ、逆の方向に足を引っ張られた小泉政権は財政支出を増やしたのである。結果的には、両政権とも似たような緩慢な緊縮型の財政政策を行うことになった。このように経済運営では、小泉政権は森政権と同じようなものに落着いた。「小泉政権は森政権」と言われて不思議ではない。


    筆者が期待したのは、小泉政権が小泉首相の理念通りの政策を行うことであった。もちろんそれを行えば、日本経済はたちまち窮地に陥ることになる。しかしそうなって始めて、経済政策が大きく変わるチャンスが訪れるのである。「加藤の乱」の時に述べた00/11/13(第185号)「急がば回れ」論である。日本の今日のデフレ経済から脱却するには、相当大きな政策転換が必要である。具体的にはセイニア−リッジ権限(政府の貨幣発行特権)による政策しか選択肢はないと考えている(今さら新たに国債を大量に発行し、市中で消化すると言う政策は困難になっている)。そしてこのような政策に大転換するには、世論が大きく変わる必要がある。つまり世論が大きく変わるほどの経済危機が一時的に訪れることも、やむを得ないと言うことである。

    小泉政権がこのような中途半端な政策を続けることは、日本にとっては迷惑なことと筆者は考える。ただ時間だけが無為に過ぎるのである。日本経済の疲弊がゆっくり進むだけであり、国民も不幸な時間を長く過ごすことになる。


  • 減税の経済効果
    小泉政権の経済政策が転換していると言う話がある。小泉政権の当初の経済政策の理念は「供給サイド重視」である。各種の構造改革を行い、経済を効率化することによって経済を浮揚させると言うものである。もっとも筆者などはこの考えに真っ向から反対している。今日の日本のように供給力が需要を大きく上回っている場合には、大きなデフレギャップが存在している。このような状況で経済を効率化させても何の意味もない。むしろデフレギャップをさらに大きくする恐れさえあると考えるのである。つまり今日必要な政策は、需要の創出、それもかなり大きな需要の創出である。

    ところが小泉政権は、最近税制改正(減税)による経済の刺激と言い始めている。一見、需要政策に変わったと言う印象を受ける(もっとも小泉首相自身は、それほど深くは考えていないとは思われるが)。しかし日本において、減税は、ほとんど需要創出効果がないと言うのが筆者の主張である。また減税のために財政支出を一部削減すると言う話はとんでもないことである。そこで減税の経済効果について改めて述べることにする。

    まず本誌の98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」で使った経済企画庁(現内閣府)のマクロ計量モデルの数値である(この数値はたしかに古い。しかし最近、この種の科学的な根拠を示す数値が一切公表されなくなったのである。筆者は、日本の官庁もニュークラシカル派とか供給サイドの重視と言った呪術的な経済学に洗脳された人々が増えたためと考えているーー公共投資の経済効果がなくなったと言う彼等の主張してきた大嘘が簡単にバレるから)。各数値は各々1%増やした場合の実質GDPの増加率である。短期金利だけは1%の利下げの場合である。
    実質GDP押し上げ効果
    公共投資所得減税法人減税短期金利
    1年目1.220.410.060.09
    2年目1.290.570.240.37
    3年目1.160.220.350.63

    この表を見ても解るように、日本における減税の経済効果は「みじめ」なくらい小さい。「いや今度の減税は政策減税」と言っても、結局、投資減税は法人税減税であり、住宅減税は所得税減税である。また住宅建設に対する親の資金提供の非課税枠の拡大が検討されている。しかし今でも既に親の名義で住宅が取得されているケースが見受けられのであり、税制改正で住宅建設が急増する事態は考えられない。

    減税、減税と言っても、税収額そのものが決して大きくないことはあまり知られていない。13年度の予算ベースで所得税が18.5兆円(源泉と申告の合計)、法人税が12兆円、消費税が10兆円である。さらにこれらは予算ベースであり、景気の落込みによって、これらの決算数値はもっと小さく(特に法人税の落込みは大きい)なるはずである。

    そこでかりに所得税と法人税の税額をゼロにした場合を想定してみる。どれだけの経済効果があるかは、上記の数値を使えば、簡単に算出できる。ちなみに一年目の実質GDP押し上げ効果は、所得税で7.6兆円、法人税にいたっては、わずか0.7兆円である(一年目の法人税の減税の効果が極端に小さいのは、減税の効果が発生するのが、決算を締めた後だからと考える)。つまり所得税と法人税で合計30.5兆円もの減税を行っても、8.3兆円しか実質GDPが増えないと言うことである。

    これまで本誌が指摘しているように、日本のデフレギャップは、算出方法で数値に幅(GDPの30〜40%)があるが、少なくとも100兆円くらいあると推定される。そしてデフレ対策とは、需要を創出し、遊休資産や遊休人員の稼働率を高め、このデフレギャップを埋めることである。

    そして政府や経済諮問会議で検討している追加デフレ対策とは、税制改正による景気刺激策が中心である。しかしここまで述べてきたように、税制による景気対策はほとんど効果がない。それどころか今検討されている項目には、かえって全体の消費を減らすものもある。もっと驚くことには、経済諮問会議では、減税の財源として無駄な支出を削減すると言う意見も出ている。無駄かどうかは別にして、どのような政府の財政支出の経済効果も、上記の表の公共投資の実質GDP押し上げ効果とほぼ同じと考え良い。つまり財政支出の経済効果は少なくとも、どのような減税よりもずっと大きい。したがって減税するために同額の歳出を削減すれば、確実に有効需要は減少する。

    理論的にも、減税の乗数効果は、財政支出の乗数効果より「1」だけ小さい(日本の乗数効果は段々小さくなっており、「1」の違いは相対的に大きくなっている)。はっきり筆者は言うが、経済諮問会議では、経済政策を討議する前に初歩的な経済原論の講義が必要である。このように検討されている追加デフレ対策はとてもデフレ対策とは呼べないものである。せいぜい株式市場だけが一時的に反応する類のものばかりである。

    政府の追加デフレ対策がとてもデフレ対策ではないことは、政府関係者も周知のことであろう。これはあきらかにサミット向けてのポーズである(もっともこんなものをデフレ対策として米国に示せば、相当に「ばか」にされることは確実)。振り返ってみれば、小泉政権の言ってきたこととやってきたことは、ほとんどがこのようなポーズばかりである。景気問題、失業問題、金融機関の不良債権問題、これらの本質的な問題が解決の方向に進むのではなく、むしろ深刻になっているのが実状である。かろうじて円安に助けられているのが実態である(その円安も怪しくなっている)。つまり今日壮大な無駄な日時を過ごしているのである。もっとも小泉政権に、これらの解決を期待こと自体がおかしいとも言える。



読者の方から消費税の減税がデフレ対策として効果があるのではないかとご質問を受けた。そこで来週号は、この消費税を取上げる。結論を申せば、消費税の減税もほとんど効果はないと考える。

先週の株価上昇によって、平均株価の100日移動線が200日移動線を下から突抜けたと言う話である。いわゆるゴールデンクロスである。ゴールデンクロスが起ると、経験則ではその後20〜30%の株価上昇が期待されると言う話である。株価上昇の原因の一つは、外人の買越しと聞く。しかしどうもその半分くらいは公的資金と言う話もある。しかし決して経済活動のレベルが高くはなく、金融不安が続いている現状で、本当に株価だけが上昇するかはなはだ疑問である。

たしかに財政投融資の削減によって、資金がかなり余っているはずである。国債価格もある程度上昇してしまっている。そうなれば、余った資金が株式市場に流れて来ることは考えられる。また株価上昇によって小泉政権をアシストしようと当局が動いたと勘ぐることもできる。つまりゴールデンクロスはその演出と考えられるのである。

小泉首相は、極端な「小さな政府」論者である。したがって建前の上では、市場に政府がなるべく介入しないことになっている。しかしこの政権ほど露骨に市場に介入を続けている政権は、筆者の記憶にはない。

中国の領事館での北朝鮮の人々の亡命騒動が問題になっている。そして日本の中国専門の外交官、つまりチャイナースクールが非難の的になっている。本誌も一年前ほどから中国通商の問題を何回か取上げてきた。そこで問題と指摘してきたのが、まさにこのチャイナースクールの存在である。

日中関係は、今後相当悪くなることを筆者は予想している。ところがチャイナースクールの存在が、かえって日中の関係を複雑にしてしまう恐れがあると考える。このチャイナースクールについては、近々取上げるつもりである。とにかく日中友好と言っても、日本にはほとんどメリットがなかった(良かったことは、パンダとトキがやってきたとと中国残留孤児の人々が帰ってきたことだけである)のがこれまでの日中関係である。



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