平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/7/21(第25号)
  • タイのバ-ツに続きフィリピンのペソも切り下げの方向である。そしてこの流れは他のASEAN諸国の通貨にも波及する勢いである。この原因をこれらの地域の中期的な景気循環で説明する向きもあるが、筆者はASEAN諸国が自国の通貨を米ドルにリンクさせていたことが一番の原因と考えている。米ドルが安かったうちは良かったが、ここ1、2年米ドルは高い水準で推移している。米ドルとリンクすることは、米国に製品を輸出する分には支障はないが、日本やヨ-ロッパ との交易条件を悪くしたのである。元々ASEAN諸国の製品は、技術力と言うより価格で持っていたのだから、通貨を高く維持すれば、経常収支が悪化するのは当然である。そこを為替投機筋に狙われたのである。
    最近ではこれらの国も通貨を米ドルのリンクから離れ、フロ-トさせている。これが正解であろう。経常収支が黒字の中国や台湾さえ、黒字分で米国債を買って、自国の為替が高くならないようにしているのである。日本も結果的には、同様のことを行なっているのである。
    自国の通貨が高い方が輸入物価も上昇しなくてメリットがあると言うエコノミストもいるが、これは間違いである。正確には「その国の生産性の向上の範囲での通貨は高くなってもかまわない」と言うべきである。
    原料や部品を輸入してきて、それに付加価値をプラスして、製品を輸出する。その場合の付加価値を分解すれば、それは自国民の人件費になる。通貨を高く維持することは、人件費つまりコストを上げることになる。生産性のアップ分以上に為替が高くなれば、競争力がそれだけ失われることになる。
    ASEAN諸国は外資の導入を図るために為替を高く維持してきたと言う解説もあるが、コストが上昇しては投資の対象地域としての魅力が薄れるのも事実である。以前から本誌では、ゆき過ぎた「円安」は周辺諸国の経済に悪影響を与えると主張してきた。筆者は、今回のASEAN諸国の通貨不安をさせたものの一つは、昨年の暮れからの「円安」と考えている。


内需拡大と整備新幹線を考える(その1)
  • 難しい内需主導型への転換
    日本経済が、外需依存型から内需主導型に転換する必要があることについては特に異論はない。ところが、それが極めて難しいことも事実である。これをやろうとしても、日本の経済構造のせいか、経済がバブル化してしまう。どうしても住民の「私権」や「既得権」などの制限にぶつかり、投資が広がらないのである。つまり、限られた地域に資金が集中しがちになるため、それだけのマ-ネゲ-ムに終わってしまうのである。先のバブル景気の結果でも、地方経済にはほとんど恩恵がなく、都会の狭い住宅と満員電車と言った、貧弱なインフラの現状はまったく変わらなかったのである。
    政府は「日本はトレンドとして内需主導型に変わっており、経常収支は長期的には均衡して行く動きをしている」と、おりにふれ言っている。筆者は「経常収支は長期的には均衡して行く動き」と言う点については同意見である。しかし、これが内需主導で行なわれているとは思わない。単に輸出比率の高い企業が「度重なる円高」で、海外に生産拠点を移している結果と考えている。これは政府の政策によると言うよりも、日本にいたたまれなくなって、工場が出ていった結果である。
    最近、ある雑誌で知ったことであるが、「スペインの日本への一番の輸出品が自動車」と言う話である。オレンジやワインではないのである。これは日本の自動車メ-カが現地で組み立てて日本に輸出しているのからである。つまり、これが日本の製造業の空洞化の典型的な例である。「円高」になればこの傾向がもっと顕著になるだけである。このままでは、「経常収支が長期的には均衡して行く動き」はけっして日本経済の内需主導型に転換によるものではなく、日本の製造業の空洞化によって達成されることになる。メ-カにとってはどちらでも良いかもしれないが、日本経済にとってはけっして良いことではない。
    外需依存型から内需主導型に転換することはそんなに簡単なことではない。6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」で述べたように規制緩和をすればできると言った小手先の議論ではない。

  • 内需拡大の方策の提案
    本誌では6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」で内需拡大についての具体的な方策を提案してきた。それをまとめると次の2点である。
    1. 都心と郊外との交通アクセスを良くし、都市近郊の有効に使われていない土地の活用を考える。具体的には深い地下(大深度)を真直ぐ走る「高速地下鉄」の建設である。
      これにより一戸当りの敷地面積が広い良質の住宅が、安い価格で供給でき、通勤も飛躍的に快適なものになり、体の強くない人も都心に勤めに出ることが可能になる。駐車場がなくて車を持てなかった人も、2台目の自動車さえ購入できるようになる。また、農地を宅地化することにより、土地の価値が顕在化し、将来の税収の確保もできる。英国と仏国を結ぶユ-ロトンネルの建設費は1兆9千億円くらいかかったと言う話である。かりにこれと同じ規模のものを首都圏に5線建設するとしても、建設費は全部で約10兆円である。一方、これによる内需拡大効果は100兆円を超えることも可能であろう。詳しくは6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」をご覧願いたい。
    2. 地方と大都市圏とのアクセスを良くすることにより、地方の経済を活性化させる。
      つまり、地方と大都市圏の間の人や物の移動のための時間を縮め、コストを下げることにより、地方経済を活性化させることである。ここには情報の移動も当然含まれる。具体的には「光ファイバ-網」「高速道路」「新幹線」の建設である。電話については遠近の料金格差が縮まって来ているし、インタ-ネットを使用すれば、現在でも遠近の料金格差はほとんどない。「光ファイバ-網」が完成すれば、全国的に格差はほとんど解消される可能性もある。問題は交通アクセスである。「高速道路」についても色々述べたいが、これは別の機会にし、今週号では「新幹線」、つまり整備新幹線について筆者の考えを述べたい。


  • どうして整備新幹線は評判が悪いのか
    とにかく世間では「整備新幹線」の評判は悪い。効率の悪い公共事業の代名詞のようである。よくマスコミでは「整備新幹線に代表される無駄な公共事業・・・」とか「国民生活を犠牲にするような整備新幹線の予算・・・」と整備新幹線が悪玉にされている。
    ここでは整備新幹線についての代表的な反対論に対して反論してみたい。
    1. 整備新幹線は金がかかりすぎる
      たしかに整備新幹線には金はかかるが、他の交通機関に比べ、べらぼうにかかるわけではない。上越新幹線が約1兆6千億円、東北新幹線が約2兆7千億円であった。またこれらの当初予算は実績の3分の1くらいであった。この点については他の建設期間が長い公共工事と同様の問題である。どうしても完成までの期間が長いと物価の上昇などにより工事費が増える傾向にあるが、当初の見積もりが甘いと言う話もあり、これは別の機会にまた述べたい。
      この金額を別の公共工事と比べてみる。「道路」は5年間で76兆円であり、年間では15兆円以上である。またにこれには「高速道路」は含まれていない。農地の土地の改良事業は、10年で41兆円であり、年間で4兆円である。これらに比べたら、整備新幹線の建設費がいかに小さなものかご理解できよう。新幹線の工事期間が10年以上としたら、年間の工事費は1~2千億円である。
      逆に「道路」にどうしてそんなに金がかかるのか、どこで工事を行なっているのか疑問を持つ人も多いと思われるが、この点については別の機会に「高速道路を考える」と言うテ-マで述べたい。
    2. 旧国鉄の累積赤字にさらに赤字がプラスされる
      旧国鉄には色々問題があり、それにより赤字が累積されたものである。民営化が遅れたことも一因である。鉄道事業そのものは、世界的にそんなに儲かる商売ではないが、そんなに損失を生むものでもない。旧国鉄の経営がそれほどひどいものだった証拠である。現在無人駅となっているところでも、国鉄時代には10人以上職員がいたケ-スもあると言うから驚きである。昔完全な赤字路線だったところが、第三セクタ-に移管したことにより、赤字が非常に小さくなったり、わずかであるが黒字になったケ-スもあると聞く。つまり、旧国鉄の赤字も、鉄道そのももによるのではなく、その経営体質に問題があったのである。
      累積債務を大きくしたもう一つの原因は、赤字資金を財投資金でまかなっていることである。これも民営化の遅れが原因している。財投資金の金利は決して安くはない。一頃は、大きな民間企業はほとんどゼロに近い金利で長期資金を借りていたくらいである。旧国鉄も早く民営化して、市場から低金利の資金を導入しておけば、累積債務ももっと小さいものであったはずである。もっともその場合には郵便貯金の運用先がなくなってしまうと言う新たな問題が発生するが。
    3. 在来線が無駄になる
      新幹線ができると並行して走る「在来線」が無駄になると言う意見である。これについては半分同意できる。しかし、新幹線ができ、長距離列車が全部そちらに回れば、JRはもっと細かいサ-ビスができることになる。長距離列車がなくなれば、在来線の駅間を狭くして乗客を増やすことが可能になるのである。在来線は大都市の地下鉄の反対で駅間が非常に長いのである。日本は今後高齢化が進み、それに合ったの交通機関が必要となる。これを自動車で全部まかなうのは無理である。筆者はこの解決の決め手は鉄道とバスと考えている。近くに駅があることは今後大切なことになるであろう。また、今後、環境問題も含め、交通機関として鉄道とバスの重要性が見直されると信じられる。
    4. 航空機の時代に新幹線は古い
      これについては以前から指摘されている点である。しかし、今年3月に開業した「秋田新幹線こまち」の例でもわかるように、国民の新幹線に対する信頼感は大きい。東京まで4時間かかる新幹線が2時間もかからない航空機に完全に勝ったのである。たしかに、都市の中心部同士を結ぶ新幹線の方が便利と考えるのであろう。この結果、東京-秋田間の航空機の便数は削減された。
      現在、国内線で乗客が一番多いのは東京-札幌便である。しかし、これも東北新幹線が延長され札幌までつながれば、乗客は新幹線にほとんど取られるであろう。とくにJRは時速350kmの車両を開発中である。これを走れば、東京-札幌間は3時間とかからない。わざわざ遠い飛行場まで行く手間を考えると、航空運賃を相当安くしなければ競争にならないであろう。つまり、「新幹線は古い」と言う考えが古いのである。
      飛行場も地域経済の活性化に寄与するが、これは「点」である。地域経済の活性化の観点から言えば、少なくとも「線」の新幹線にはかなはない。むしろ航空機の方が、将来危惧される点が多い。一つは、新幹線との時間での競争のために、ハイジャック防止のための検査が雑になることである。そして新幹線とさらに同業他社も加えた価格競争が激しくなることによる安全面のコスト削減である。検査さえ通れば、相当古くなった飛行機も運行することになろう。これが安全面にどれだけ影響があるのか、コスト競争では先進国である米国のこれからの実情が参考になろう。
    このように整備新幹線に対する非難は説得力があまりない。それなのに、どうしてそれほどまでに整備新幹線が悪く言われるようになったか、不思議である。しかし、筆者にはその原因の一つが推測される。そして、それを元にいつのまにか、整備新幹線は悪いものと言う、あまり根拠のない「空気」と言うものが世間の中に作られたのである。来週号ではこの点について述べたい。さらに、交通アクセスの整備による地方経済の活性化についても触れたい。



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97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
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97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
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97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」