- 国債価格の動き
本誌では、1月の株・債券・為替のトリプル安を受け、02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」と02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」で、これらのその後の予想を行った。まずこれについて総括することにする。当コラムも経済を扱っている関係上、よく今後の経済数値の見通しを予想することがある。そして筆者は、なるべくこのような予想が本当に、現実のものになったかどうかを後で検証する必要があると考える。もちろん予想通りの推移ならば結構であるが、かりに予想に反した動きになった場合には、何故予想がはずれたかを考え、今後の予想に活かすことが重要と考える。
第一番目は、債券である。当時、債券はずっと売られ続け、国債の利回りが上昇していた。しかしこの原因はわりとはっきりしていた。銀行を始めとした金融機関の決算対策売と、日本国債の格付け引下げによる海外投資家の売却である。これらが峠を越えれば、国債価格も上昇に転じるものと筆者は予想した。結果はまさにこの通りであった。
ところで日本の国債はほとんどが国内の投資家が保有しており、非居住者の保有高は、全体から見れば微々たるものである。分散投資の観点から日本国債を保有している海外の機関投資家がいるが、所有数量は小さい。たしかにこのような海外の機関投資家の中には、手堅い運用を行っているところがあり、一定以下の格付けの債券には投資を行わないと言う姿勢を貫いている。したがって日本の国債の格付けが引下げられた場合、このような投資家は機械的に売却を行うのである。ただ数量的には限界があり、影響力も限られている。今後も国債の格下げがあった場合には、このような投資家から一時的な売が出るものと考える。
通常、国内の債券の格付けの上限は国債と考えられており、国債の格付けが引下げられた場合、これをきっかけに国債以外の債券の格下げが行われることが多い。したがって国債以外の債券の格下げが行われた場合、これらを売って国債を買うと言う動きが活発となる事態があり得る。つまり国債の格下げがあった場合には、一時的には国債が売られるが、最終的にはむしろ国債が買われ、皮肉にも国債の利回りが低下することがあり得るのである。
トリプル安の時には、いつもの通りのいい加減な「国債価格暴落論者」がマスコミに頻繁に登場し、「だから財政支出を切り詰め、国債の発行を最小限にすべきであり、今後は暴落と言うこともあり得る」と発言していた。しかし反対にその後は本誌の予想通り、国債価格は底を打ち、利回りは既に1.4%を割込んでいる(やはり、一時1.57%をつけたが、これが上ヒゲだったと思われる)。するとこのような人々はいつもの通りだまりこくってしまうのである。本誌は常に言っているが、人によって経済の将来に色々な予想があることは別にかまわないが、予想がはずれた場合には、どうしてはずれたかを弁明するべきである。しかしこれらの人々の弁明を聞いたことがない。特に「国債価格暴落論者」は悪質であり、卑怯である。とにかく「国債価格暴落説」はここ何十年も聞いているが、暴落するどころか国債価格の長期トレンドははっきりと上昇しており、利回りは低下している。
日銀が国債の買い切りを表明してから、さらに国債価格は上昇した。しかし「日銀の国債の買い切り」と言うと、「日銀による国債の買い切りは、日本国債の信用をなくし、国債価格の下落を招く」と言う奇妙な説を唱える者が必ず現れる。そしてこのようなおかしい論評の一つが東京新聞に載った。ところが日本テレビの辛坊と言うニュース解説者が、朝の番組でこれを紹介し、「日銀による国債の買い切り」は国債の暴落に繋がり、問題であるとハデに噛みついていた。それ以降の国債価格の動きは、これまで述べてきたように正反対である。しかしこの解説者は、これについて釈明なんかしていないはずである(筆者も毎日この番組を見ているわけではないのではっきり言えないが)。
ところでこの番組は、視聴者に対して、「日銀による国債の買い切り」で国債価格は下落するとはっきり言っているのと同じである。たしかに東京新聞の論評を引用していると言え、結果的に視聴者に間違った情報を伝えたことになる。この解説者の言葉を信じ、もし国債を売却した人は、損失を被っているはずである。取り方によっては、このような解説はまさに「風説の流布」に該当するとも考えられる。少なくとも日本テレビや東京新聞はこれについて弁明を行うべきである。言い放しはまずいであろう。
この辛坊と言うニュース解説者は、その前にも「公債の発行残高がそのうち700兆円」になることを取上げ、「これはまさに危機です」と絶叫していた。「危機」と感じるのは勝手であるが、どのような状態をもって「危機」と言うのかはっきりさせるべきである。たしかに残高が増えるだけでなく、日本の国債を買う人がいなくなるのならまさに「危機」である。しかし実際のところ、日本国債は買われ、利回りは低下して来ているのである(世界史上最低の金利水準)。どうもこの辛坊と言うニュース解説者は、一定の考え方をする人々の代弁者と見られても仕方がない。このような片寄った考え方(客観性を欠いた)の人物を、朝の番組に登場させ、変な解説をやらせている日本テレビの考えを知りたい。とにかくこの人物は要注意である。
今後の国債価格の動きを予想することは、少し難しくなってきている。既にある程度上昇しているからである。これからも紆余曲折はある。しかしこれまでのように、日本のデフレ経済を放置するような小泉政権の政策が続く限り、国債価格が大幅に下落すると言う局面は考えにくい。
暴落する危険に直面するとしたなら、それは政府の経済政策が大転換する時だけと考えている。何十兆円と言うオーダの新規国債を発行し、それで財政支出を増やし、経済の立直しをしようとした場合である。市場の国債の消化能力を考えずに、国債を大量に新規に発行すれば、国債価格の暴落と言う事態も考えられる。そしてこのような場合には、国債の暴落に対処するため、日銀は国債買入を増やす必要に迫られることになる。まさにこのような方策こそ、実質的には、本誌がずっと主張している「セイニアリッジ政策」そのものになるのである。今日の政府・日銀の動きは、これを小出しに行っているのである。
- 為替と株価の動き
為替レートについては、「133円、134円と言った水準で膠着状態が当分続くような気がする(あまり自信がない)」と筆者は予想した。結果は、今のところ概ね当たっている。一時、株価高騰を受け、円は120円台まで騰がった。この時には筆者も「今度ははずしたか」と思ったが、2週間ほどで元に戻ったのである。とにかくこのような膠着状態が長く続くことは過去にも幾度もあった。このような状態になった場合には、簡単には動かないものである。為替ディーラーもさぞかし暇であろう。
筆者は、これまで為替について、長期的な予想は行っても中期や短期の予想は行ってこなかった。長期的な予想は根拠を示すことができるからである。為替レートの長期の動きは、経常収支や物価上昇率である程度予想ができると考える。たしかに近年では、資本取引が大きくなっており、経常収支だけでは中・短期の為替動向を予想するのは難しい。それだけ予想が難しくなっているのである。しかし長期的に見れば、どうしても経常収支を重視することになる。筆者の読みは、長期においては円高である。今日の円安の状態は矛盾を蓄積している過程と考えている。したがって少なくとも政府の政策に変化がない限り、これ以上の極端な円安(たとえばレートが140円台に定着すると言ったような)はないと考えている。
筆者は、これからはもっと短い為替レートの予想も行っていこうと思う。為替レートの予想は期間が短くなるほど難しい。「当った、当った」と言っている人も、はっきりとした根拠があった訳ではなく、一種の「勘」である。したがっていつもこのような人の予想が当っている訳ではない。しかし短期においても読みやすい時があるのも事実である。このような場合には、本誌も中・短期の予想を行ってみようと思う。
中期的には、米国の金利動向や中間選挙だけでなくパレスチナやイラクの状況などが影響する。日本の経済状況は今のままであろう。株価の動向や商品市況も関係してくる。ちょっと考えただけでも予想は実に難しい。
最後は株価である。本誌は、「ダウ平均が9,000円を割る状況になれば、政府の介入(正確には公的資金によるPKO)が予想されるため、これを大きく下回ることはない。」「ただし経済の実態が良くないのでどんどん騰がる状況ではない」と予想した。たしかに株価は9,400円台から反騰しており、予想は半分だけ当ったと思われる。しかし12,000円近くまでの上昇はとても予想していなかった。今回は「公的資金によるPKO」だけでなく「カラ売規制」が効いたと考えられる。「カラ売規制」が効果的であることは、以前から本誌でも指摘してきたが、これほど効果があるとは考えていなかった。
今回の株価の上昇で、筆者が見落としたことがある。一部を除き、銀行の株式の評価方法が3月中の平均を採っていることである(東京三菱を除き、期末日の株価ではない)。今回の株価上昇に政府が関与したことは明らかである。一つの大きな狙いは、銀行の保有株の評価損を小さくすることである。したがって3月の月中の株価を高く維持できれば良かったのである。筆者などは「節分天井、彼岸底」とのんきに昔の格言を引用していたが、とんでもないのである。おそらく今後は、この「節分天井、彼岸底」と言う格言自体が「死語」となろう。これからは9月や3月と言った決算月の株価は、政府の動きによっては要注意である。とにかく格言が無効となるほど、日本の銀行経営は追い詰められていることだけはたしかである。
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