平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/3/4(第243号)
セイニア−リッジ政策への準備
  • セイニア−リッジ政策
    本誌が主張している「国債の日銀引受け政策」を端的に説明すれば、いわゆるセイニア−リッジ権限(政府の貨幣発行特権)によって財源を確保し、それを内需拡大に使うことである。たしかにこのような経済政策は決してオーソドックスなものではない。

    最近の例で、セイニア−リッジ政策が採られたのは、エリツェン大統領時代のロシアである。この時は、ロシア政府が海外からの資金調達が事実上できなくなり、公務員の給料さえ払えなかったのである。仕方が無いので、ロシア政府は多額の国債を発行し、これを中央銀行に引受けさせ、急場をしのいだのである。おそらくこの政策を行わなかったら、ロシアは大混乱に陥り、エリツェン政権は崩壊していたと思われる。しかし本誌で何度も取上げているように、このセイニア−リッジ政策のお陰で、ルーブルは暴落し、輸入品(例えば食料品)の価格が高騰した。この結果、ロシアの人々は、そんなに高い外国製品は買えないと言って、自分達で生産し始めたのである。これ以降、ロシア経済は予想外に順調に成長しているのである。

    ロシアの例でも分るように、セイニア−リッジ政策を計画的に行ったような国はない。切羽詰まった形で行われるのが普通である。しかし本誌は、これを今日の日本の経済政策に取入れようと主張しているのである。日本のデフレギャツプは、異常に大きくなっており、これを解決するには、尋常の手段では無理な段階である。オーソドックスな政策は、赤字国債を発行し、これを財源に財政支出を増大させることである。しかし銀行が保有する国債が75兆円(昨年9月末)になっていることを考慮する必要がある。とりあえずこの問題については別の機会にまた取上げることにするが、これが国債の増発を困難にしていることも事実である。

    したがって財源を確保すると言っても、単純に国債を発行するとはいかなくなっている。本誌が主張しているような「国債の日銀引受け」とか、先週号でご紹介した「政府紙幣の発行」と言った広義のセイニア−リッジ政策をどうしても取入れざるを得ない状況になっていると判断される。実際、最近日銀は、国債の買い切りを月額8千億円から1兆円に増額することを決めた。これは実質的に「国債の日銀引受け」である。つまりセイニア−リッジ政策を小出しに実行しているのである。


    今週の本題である。本格的にセイニア−リッジ政策を行うとしたなら、前もって準備しておくことがいくつかある。今週号では、そのうちの二点だけを取上げることにする。一つ目はインフレに対する備えである。セイニア−リッジ政策に対して拒否する人々がまず指摘することは、この政策によって引き起される物価の上昇であろう。かならず「ハイパーインフレーション」が起ると騒ぐのである。しかしこれだけデフレギャップが大きい日本で、簡単に「ハイパーインフレーション」が起るとは思えない。日本はロシアや中南米と事情が全く異なるのである。さらに筆者の考えでは、ある程度(年率2〜3%)の物価上昇を容認されていることが前提である。さらに万が一これを越える場合には、需要政策をセーブし、物価上昇率を目標内に収めようと言うのである。

    このような政策に反対する人々は必ず「一旦インフレが起ったら押さえようがなくなる危険な政策」と判を押したようなことを言う。しかし先進国ならこのような政策(インフレターゲット政策)はどの国も行っていることである。他の先進各国でうまくいっているこの政策が、どうして日本では無理だと決めつけるのであろうか。まさに「反対のための反対」である。

    ただしどうしても日本においては考慮しておく必要な事項が一つある。それは地価の動向である。国民の間には大きな誤解がある。バブル期には全ての物価が高騰したと思っている。しかし一般の物価は不思議なくらい安定していたのである。消費者物価が一番上昇したのは90年度であるが、わずか3.3%であった。またどうしても日本の物価上昇率は大きくなる傾向があることを考慮すれば、実際のこの年度の物価の上昇率はおそらく2%台と思われる。つまりバブル期の物価の上昇率は、ピーク時でも先進国では問題にならない水準であった。バブル期に問題になったのは、一般の物価ではなく、地価の上昇である。また株価の高騰も地価の高騰に連動していた。

    バブル経済の全てを悪く言う人がいるが、これは正しくはない。バブル発生は、プラザ合意以降の円高不況に対する対策であった内需拡大策の結果である。もしこの内需拡大策を行わなかったなら、今日のような失業問題が当時起っていたはずである。たしかに地価対策が後手に回ったことは事実である。また一旦上昇を始めた地価の上昇を抑え込むことが難しかったのも事実である。だいたい当局が地価の上昇を問題にし始めたのが遅すぎたのである。バブル発生は資本主義経済につきものである。しかし経済規模が大きくなり、動く資金が膨大になれば、バブルが崩壊した後始末も大変になるのである。

    筆者の主張であるセイニア−リッジ政策は、もう一度内需拡大政策を行おうとするものである。ただし今回は、前もって準備を行うことによって、前回のような野方図なバブルが発生することがないようにすることが肝腎がある。


  • バブルの制御
    前回のバブルでは、金融を引締め、金利を高くして地価の上昇を押さえようとした。しかし年率何十%も地価が上昇しているのに、多少の金利の上昇では地価の動向には影響は及ぼさない。さらに金利は、一般の経済活動や為替にも影響を与えるのであり、このような金利政策には限度がある。次に銀行の土地融資を規制したが、住専などのノンバンクや農林系金融機関(大蔵省の管轄以外の金融機関)から、どんどん資金が土地に流れ続けた。また税制で押え込もうとして地価税を創設したが、地価税が実施された頃には、バブルは既に崩壊に向かっていたのである。

    「一旦インフレが起ったら押さえようがなくなる危険な政策」と言うのは、一般の物価の話ではない。これは国民に誤解を与える表現である。しかし土地については、この危険性があると認識すべきである。土地は極めて特殊な「財」であり、一般の「財」とは違い、再生産が困難であり、在庫と言うものがない。したがって価格を決定する市場も不安定になりがちである。普通の「財」は、価格が上昇すれば、需要が減り、供給が増えることによって価格も安定に向かう。しかし土地の場合は、いつもこのような価格メカニズムが働くとは限らない。日本において土地はどうしても「投機」の対象になりやすい。こうなれば通常の価格調整メカニズムが働かないのである。むしろ一旦地価が上昇すると、人々はさらに高くなるのではないかと期待し、土地に対する需要が一段と増え、これによってさらに地価が上昇するのである。

    たしかに今日では日本の「土地神話」は崩壊したと言われている。筆者も、地価の動向にそれほど神経質になる必要はないと考える。しかし今日の状態は、まさに超金融緩和である。見方によっては、列島改造論時代や前のバブル期より大きな過剰流動性が存在していると思われる。したがって条件が揃えば、また土地投機と言うものが発生する可能性を全面的に否定することはできない。

    セイニア−リッジ政策と言う特別の政策を行うには、今度こそ失敗は許されないのである。どうしても地価の監視体制を整備しておき、次のバブルの発生を一定レベル内に抑え込む仕組を用意しておく必要がある(もちろん場所によっては地価が相当下がっており、銀行の不良債権処理のためにも、一定レベルまでの上昇は容認される)。これを金融政策や税制でコントロールしようとして前回は失敗したのである。前述したように、土地は特殊な「財」であるから、この価格をコントロールするにはやはり特殊な方法が必要と考える。

    地価の高騰を抑えるにはもっと直接的な方法が必要である。筆者は、国土利用計画法の監視区域制度をもっと有効に使えるように改正するのが良いと考える。これは一定以上の面積の土地取引を許可制にして、適正な価格での土地取引を守らせるものである。この面積規定をより小さくしたり、あるいは特定の地域は全ての土地取引を許可制にすることが考えられる。このような政策のためにも、土地投機がおこりそうな地域の公示ポイントを大幅に増やすことが必要である。


    セイニア−リッジ政策をどんどん進めれば、ある程度の一般の物価が上昇することは避けられない。そこで一般国民から不満が出ることが予想される。これに対処することが、第二番目の準備である。デフレ経済の特徴は、全ての人が同時には不幸にならないことである。企業倒産などで失業した人々や就職ができない人々に、不幸が集中する。一般の人々にデフレ経済が影響が及ぶには相当時間がかかる。ましてや日本のように、なんとなくなし崩し的な景気対策を行っている場合には、デフレ経済を問題にする「空気」はなかなか醸成されない。日本においては慢性病のようにデフレ経済が進行しているのである。むしろ逆に物価が安くなって喜んでいる人も多くいるのが現実である。

    今日の状況を見ていても、デフレ経済についてマスコミが取上げていても、一般の国民がそれほど強い危機感を持っている訳ではない。今日の一般の関心はむしろ「宗男問題」なのである。企業の倒産も増えているが、人々はこれに馴れっ子になっており、以前のようには騒がなくなっている。このような状況では、逆に物価が上昇する政策に人々が抵抗を感じるはずである。

    デフレギャップを埋める政策は必要である。しかしこの政策で恩恵を受ける人にも順番がある。政府の需要政策によって、職を得る人や企業倒産から免れる従業員などは真先に恩恵を受ける。しかし年金暮らしの人や当分職が見つかる可能性がない失業者にとっては、単に物価上昇(わずかであっても)に直面するだけである。このような人々から不満が出ることは容易に予想される。

    そこでこのような政策を行うには、まず全ての人々に恩恵が渡る政策も同時に行う必要があると考える。例えば少なくとも最初の2年くらいは物価の上昇をゼロに近いレベルに抑えるようにするのである。これには公共料金を引下げる方法などが考えられる。電気料金の基本料金の一部をプロジェクトから支出したり、高速道路の料金を引下げることを行うのである。

    このように筆者が主張するような政策には、この二点以外でも色々な準備が必要である。たとえば需要政策を大胆に進めれば、また汚職のような不愉快な事件が増える可能性が強い。実際、このような事柄が公共事業に対して人々の反感を買っているのは事実である。したがってこのような出来事の防止策も必要になる。これについて筆者も考えはあるが、それは別の機会に取上げることにする。



来週は、国債の日銀引受け政策の締め括りとして、財政の累積債務問題を取上げることにする。

2,002年度、つまり来年度の経済見通しを行ってみる。来年度は経済がかなり落込むと言う見方がある。筆者もそれに近い考えであった。しかしどうもそれほど落込むとは思えないのである。成長率は今年度と同じくらいと思われる。

一つは米国の景気動向が予想ほどには落込まないからである。同時テロ後、米国の貯蓄率が急上昇したが、アフガン問題が予想以上のスピードで解決に向かったせいか、消費は持直している。さらに円安が続いており、外需が増える可能性が強い。

小泉政権は「国債の30兆円枠」の緊縮財政言っているが、事実は違う。今年度もとても30兆円に収まらないし、来年度は絶対に無理である。原因は事実上の減税が行われているからである。

増減税は、税率の変動だけで行われるのではない。経済上の実効性では、実際に税金がどれだけ納められるかである。今年度の税収は、前年企業業績が比較的良かったせいで増収になっているはずである。一方、今年度の企業業績は大幅な減益であり、税収は相当減る。つまり今年度の増税に対して、来年度は大幅な減税である。つまり経済上は大きな減税が行われることと変わりがない(経済学で言うところの財政のスタビライザー機能の働き)。もちろん国債の発行は相当増えるはずである。おそらく日銀による国債買い切りは、またそのうち増額されると見ている。とても30兆円枠に収まるはずがないのである(本当に30兆円枠に収めるつもりならもっと予算を削る必要があったのである)。このようになし崩しの財政政策が日本では行われているのである。

あと不確定な要因が二つある。一つは「補正予算」である。本予算が成立したなら、直ぐに「補正予算」が話題になると思われる。つまり小泉構造改革と、財政政策と言う矛盾した政策がまた平行して行われる可能性が強い。ブレーキとアクセルを同時に踏みながらの、訳の分らない蛇行運転が今後も続くのである。

もう一つ分らないのが消費の動向である。本来消費性向、貯蓄性向と言うものは短期的に変動しないものである。しかし人々の不安が急激に増した時には消費性向が小さくなる可能性がある。企業倒産が劇的に増える状況では、このような事が起る可能性がある。以前、半分冗談であったが、筆者も上場100社くらい倒産したら、人々の消費マインドに影響すると述べたことがある。

ところが株式を公開している企業で破綻した数が既に現在11社(雪印食品を含め)である。これは年間60社と言うものすごいペースである。つまり身近に企業倒産を感じる人々がそれだけ多くなっているのである。今後さらに大きな倒産が続けば、消費動向にも影響が出る可能性があると考える。

たしかに消費動向の先行きが不透明と言う面があるが、筆者は、このままの経済政策なら景気の落込みはそれほど大きくならないと見ている。ただし地方と東京の経済格差は一段と拡大することは確実である(東京だけは経済の落込みは小さい)。要するに、本格的な経済危機は一年先送りされたのである。それだけに次の年に日本経済は正念場を迎えると言うことになる。



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