平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/2/25(第242号)
資金の使途(その3)
  • デフレと国債
    国債の日銀引受けによって得られる資金の三番目の使途は、資金運用である。たしかに資金の使途を公共投資や雇用対策に限ることも考えられるが、これらに700兆円もの資金が直ぐに必要と言うことはない。これでは使える資金が遊ぶことになる。さらに資金の運用を活用することによって、プロジェクトの目的であるデフレ経済からの脱却と財政の再建を、よりスムースに行うことできると考える。

    まずこの資金を国債や地方債の償還に充てることが考えられる。これを行えば、10年もあれば、大半の国債や地方債は償還されることになる(20年国債があるため)。つまり公債は全て日銀に引受けられた国債に置き換わることになる。こうなれば日本政府と地方自治体は、実質的に無借金になる(日銀引受けとなった国債に利払いが行われても、この利息は最終的に国庫納付金として国に戻ってくるため)。またプロジェクトが満期前の国債を市中から買った場合は、満期まで国から利息を受取ることになる。この利息はプロジェクトの収入となるが、これも最終的には国の収入と言うことになる。

    ちょうど今日行われている日銀の国債の買切りオペと同じである。ちなみに昨年9月末で既に日銀の国債保有高は65兆円である。つまりこの65兆円の金利は実質的にはゼロであり、国債発行総額が差引いても良いものである。注目されるのは、最近、政府と日銀の間で国債の買切りの増額が検討されていることである。筆者のアイディアは、実質的にこの「国債の買切り」を大規模に、しかも一度に行うことと同じである。これまで国民は、「財政は危機的であり、財政出動のための国債はもう発行できない」「国債は将来返済を迫られる借金である」「こんなに国債を発行したら近いうちに大暴落する」と言ったプロパガンダに完全に騙されているのである。このような仕組みは当然財政当局知っているはずである。しかし財政当局としては、「もう金は出せない」とどせうしても言っておきたいのであろう。

    国債を中央銀行がどんどん引受けると言うことは、新規に貨幣を増発することを意味する。この副作用は物価の上昇である。しかし今日の日本は、反対に深刻なデフレである。卸売物価は92年度以来10年間も下がり続けている(97年度は1%上昇しているが、これはこの年に消費税が2%アップされたためであり、この年も実質的にはマイナスである)。

    したがって物価が上昇すると言っても、欧米諸国並の2〜3%の物価上昇が実現するには、相当の額の貨幣の増発が必要である。そして日本国民が、物価の上昇をどこまで容認するかによって、日銀による国債引受けによって得られた700兆円の資金のうち、どの程度まで使えるかが決まってくる。筆者は、相当の額が使えると踏んでいる。逆に言えば、それだけ日本には澱んだ多額の資金が存在していることを意味する。これはちょうど無駄な皮下脂肪のようなものである。これは高度成長期が過ぎ、人々の消費意欲も減退しているのに、相変わらず多額の貯蓄がなされているからである。この貯蓄が投資に回されているのなら問題ないのであるが、逆に今日民間は借金返済に一生懸命の状態であり、ますます皮下脂肪が蓄積されているのである。

    筆者の提案は、国債の日銀引受けによって得られる資金を使うことによって、日本に澱んでいる皮下脂肪を燃やしてやることである。もしこの過程で、民間の住宅投資、設備投資、さらには消費が盛り上がり、物価が上昇してきたなら、その時点でこの資金を使うことを中止すれば良いだけである。700兆円はあくまでも枠であり、全てを使い切る必要はない。プロジェクトにはこのような機動性も要求される。そして今日の日本の行政機構には、このような日本経済をマクロ的に見ながら経済政策を遂行する機能がない。夫々の官庁は、自分達が関わる部分にしか関心がないのである。これが平成の不況を長引かせている大きな原因の一つでもある。


  • それ以外の運用
    資金を国債の償還や市中からの買上げだけに使うのはもったいない。これは既に日銀がやっていることである。しかしこれだけでは十分効果を挙げていないのが現状である。つまりこれを行っても、資金が流れるのは銀行などの金融機関までである。実際、日銀がベースマネーをどれだけ多く供給しても、経済実態に直接影響するマネーサプライがあまり増えないのが現状である。つまり資金運用と言っても、銀行を飛び越して市中の金融資産を買うような資金運用が必要である。具体的には、株式や社債の購入である。さらに銀行の社債や金融債も運用対象となる。

    日本の金融市場はどんづまり状態である。銀行が融資したい有力企業は、自力で資金を調達するが、貸したくない企業ばかりが借りに来るのである。そして日本の国債の格下げに伴って、日本の大企業の格付けがどんどん引下げられている。そのうち社債が投資不適格になる企業で溢れることになると予想される。事実上、このような企業は社債の発行ができなくなるのである。そうなれば、それらの企業は銀行に頼る他はなくなる。しかしはたしてそのような企業に銀行が喜んで貸し付けを行うか、ちょっと疑問である。そして資金の調達に失敗すれば、そのような企業は倒産することになる。このように日本の企業の命運が格付け機関、特に海外の格付け機関のサジ加減に左右されているのである。

    そこでプロジェクトでは、既存の格付け機関とは違う尺度で企業を評価し、投資不適格になった企業の社債も購入することも行う。少なくとも投資不適格になると言うことが、即倒産すると言う意味ではない。投資資金の回収にリスクを伴う度合が大きくなると言うことである。ところが保守的な資金運用を行っている機関投資家は、投資不適格となれば手放す他はないのである(特に日本では、資金運用の担当はサラリーマンである。リスクを冒してまで利益を上げても見返りがないのである)。また投資不適格となれば、当然金利は上昇する。本来、リスクとリターンを勘案して投資を行うのが普通であるが、日本では極端にリスクが嫌われるのである。このような状態になれば、プロジェクト、つまり国がそのリスクを取る他はないのである。現実に、大手銀行の中でも、もう一つ格付けが下がれば投資不適格になるところがいくつか出てきている状況である。


    もう一つの資金運用は外債投資であるが、それについて述べる前に為替の決定メカニズムについて触れる。ところで元々筆者は、外債投資を始めとした海外への資金流出に良い感じをもっていない。本来、このような資金は国内で使われるべきと考える。実際、英国のように資金がどんどん海外に流出し、国がおかしくなった例もある。しかしこれまで民間だけでなく、政府も外債の購入を行ってきた。政府の場合は、ドル買い介入の資金を運用しているのである。たしかに国内の機関投資家や政府によって資金が海外に持出されれば、為替は円安となり、輸出企業は助かる。

    問題は変動相場制である。本来、変動相場制は各国の経常収支を均衡化する機能を持つはずである。為替がパラメータとなり、経常黒字の国の為替は高くなり、経常収支が赤字の国は為替は安くなり、経常収支のアンバランスを小さくするように働くはずである。しかし現実には、資本の移動(経常外収支)があり、この機能の障害となっているのが現実である。特に世界的な資本移動の自由化とともに、世界の金融市場を動き回る資金の額が大きくなっており、これが為替相場に大きく影響している。

    しかし長いレンジで見れば、為替は経常収支で動くと筆者は見ている。資本の移動と言っても、永久に一方的な動きとはならないからである。これが調整される時には、その分為替は大きく動くことになる。プラザ合意後の急激が円高も、累積的な日本の経常収支の黒字の調整であった。

    今日、為替は円安で推移している。これは貿易収支が赤字になったからではない。たしかに小さくはなっているが、依然貿易収支は黒字である。つまり貿易収支だけなら円高になっても不思議はないのである。円安の原因は、外債投資などの資本流出による資本収支の大幅な赤字である。これには個人の外貨預金も含まれる。それにしてもあまりにも日本国内に投資機会がないのである。

    そして長年の資金流出の結果、日本は膨大な海外資産を持つことになった。しかしこれらの資産(元本)は利息や配当と言う形の果実を生むことになる。この果実が常に円高圧力として働くのである。とうとう昨年は貿易黒字(8兆5千億円)より所得収支の黒字(8兆8千億円)の方が大きくなってしまったのである。

    つまり今後貿易収支の黒字が縮小し、あるいは赤字に転落しても、所得収支の黒字が大きいため、常に円高圧力が働くと言うことになる。これは由々しき問題である。輸出が困難になり、かつ輸入がどんどん増えても、円は高くなると言うことである。実際、筆者は、そのうち為替は円高に反転(どの時点と明言できないが、海外、特に米国での資金運用にリスクが大きくなった時と考えている)すると予想している。これはこれまで日本政府が、円高に対する対策を為替介入や機関投資家に外債投資を奨めると言ったその場限りの方策に終始してきた「ツケ」が来たのである。筆者は緊急時の為替介入を否定しないが、これが常態化させたのは問題である。

    筆者は、本来円安論者である。しかしこれを実現させるには、内需拡大政策によって日本国内の経済活動を活発にし、ある程度の物価上昇を起こし、円の価値を低めることによって円安を実現すべきである。しかしどうしても財政を出動を嫌う財政当局が進めたがる政策が、為替介入と資本流出政策であった。このようなその場しのぎの政策の積み重ねによって、日本経済はとんでもない状態になっているのである(貿易収支が赤字に転落しても、所得収支の黒字が大きいため、常に円高圧力が働く)。


    プロジェクトの資金運用の話に戻る。筆者は、外債投資には快く思っていないが、あえて最初は外債投資を行うことを考えている。これは為替を円安にすることが主目的ではない。将来、プロジェクトがうまく行き、物価が上昇して来た時への備えである。デフレが克服されるのは結構なことであるが、逆に物価が上昇し過ぎる事態も想定されるからである。その対策の一つが購入してある外債の売却代金の円転である。これによって為替は円高となり、物価の上昇を抑える方向に働く。

    もちろんプロジェクトの資金運用の対象の大半は国内である。外債投資は、将来の物価上昇への対策に使える範囲で良いのである。もっとも物価上昇に対する対策は、他にも色々考えられる。そしてそのような場面に直面した時には、今日叫ばれている「構造改革」的なものが初めて必要になると考えられる。つまり「構造改革」はまさに「あさって」の話である。



来週号は、プロジェクトを進めるに当たって、準備しておく事柄を取り上げる。これは一見地味であるが、極めて重要である。このような準備がないまま強力に政策を進めたために、前回の内需拡大政策はバブルを必要以上に大きくし、失敗したのである。

文芸春秋のオピニオン誌「諸君」の3月号に丹羽春喜大阪学院大学教授の文章が載っている。タイトルは「ノドから手が出る秘策あり」である。これはセイニアーリッジ権限(政府の貨幣発行特権)を使って内需拡大を図り、デフレ経済の克服する政策を提唱している。

簡単に内容を記す。流通している通貨には日銀券と政府貨幣(金属製の貨幣だけでなく、紙幣の発行でも良い)がある。日銀券は発行に制限はないが(平成10年に担保が不要と改正された)、これは日銀の負債勘定となる。そしてこの発行が増えると日銀が債務超過となる恐れがある(ただし民間と違い債務超過となっても中央銀行の機能は損なわれない。マスコミが騒ぐーただそれだけ。)。一方、政府貨幣にも発行の制限がない。また発行すればするほど造幣益(額面から政策費用を差引いた分)は大きくなる。記念コインの発行もこの一つである。

教授のアイディァは、この多額の政府貨幣を発行し、これを内需拡大策に使うことである。このように多額の政府貨幣を増発しても問題が生じないのは、日本に巨額なデフレギャップが存在しているからである。ちなみに教授の試算では、現在40%のデフレギャップが存在していると言うことである。

筆者の国債の日銀引受け政策も、基本的には教授のアイディアと共通している。ポイントは、実質的にセイニアーリッジ権限による政府の通貨の発行である。これだけ巨額のデフレギャップが存在する場合には、むしろ当然の政策と考えている。

しかし丹羽教授や本誌のようなアイディアを、少なくともこれまでは、世間は「唐突だ」「奇をてらう」とまともには相手にしなかったのは事実である。一方、政府関係者は「これまで出ている対策を地道に行っていく」と効果があるのか、逆効果なのかさっぱり分らないような政策(いまだに規制緩和、構造改革、税制改正と間抜けなことを言っている人々が多いのには驚かされるが)を行っている。そして政策に共通する特徴は、とにかく財政の出動を抑えることである。この点では、我々の主張と正反対である。

デフレ対策の一環として、日銀に外債を買わせると言うアイディアが浮上している。また日銀は企業の社債や土地を購入しろと言う声まである。そのうち日銀に公共事業をやらせろと言う意見まで出てきそうである。しかしこれらは、日銀ではなく、まさに政府(本誌の主張に沿うならプロジェクト)が行うべき政策である。財源はもちろん国債の発行である。そしていずれ日本には、我々が主張しているセイニアーリッジ政策に転換する日が来ると見ている(日銀が65兆円もの国債を引受けている以上、既にセイニアーリッジ政策が事実上に行われているとも言えるが)。そして日銀の外債購入がその第一歩と考える。「唐突だ」「奇をてらう」と言われている我々の主張に、ようやく世間の方がまた一歩近付いて来るのである。

ダイエーの99%減資には驚いた。50%減資を先日発表したばかりである。たしかに理論上は、100%減資でない限り、減資が何%であろうと一株の価値に違いは生じない。また増資するとしても、商法改正によって可能となる議決権のない普通株式を発行すると言っている。しかし月曜の株価は下落すると思われる。

これは、株主としての中内家に対する、会社と銀行の対抗措置と筆者には感じられる。比率は小さくとも中内家はいまだに大株主であろう。もしこの中内家の発言力を弱めるための減資なら、一般株主にはえらい迷惑な話である。減資後資本金は5億円となる。議決権のない普通株式に止まらず、議決権のある株式も簡単に発行できるのであり、これが中内家への牽制になる。



02/2/18(第241号)「資金の使途(その2)」
02/2/11(第240号)「資金の使途(その1)」
02/2/4(第239号)「確信犯(その1)」
02/1/28(第238号)「政策の実現性」
02/1/21(第237号)「国債の日銀引受け政策」
02/1/14(第236号)「経済政策の目標」
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