平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




02/2/18(第241号)
資金の使途(その2)
  • 今日の雇用問題
    国債の日銀引受けによって得られる資金の第二の使途は雇用対策である。公表されている失業率は5.6%であり、この数値は少しずつ毎月大きくなっている。しかし実態は、この数字がもっと大きいはずである。失業率の数値は職安(ハローワーク)の求職者数をもとにしたものであり、実態から相当かけ離れている。むしろ日本では人手が不足していた時代が長く、失業に対する対策のノウハウがないだけでなく、実態を表すデータもないのである。元々職安もブルーカラーの人々への求職を斡旋していた機関である。政府は、今日のように大企業がリストラを進めたり、破綻して、大量の失業が出る社会を想定していなかったのである。

    しかし日本では、企業が自由に人員の整理を行っているかと言うとそうではない。ちゃんと日本的雇用慣行と言うものは維持されている。バブル崩壊後10年以上の間、企業はなんとか雇用、特に正社員の雇用を確保しながら経済が好転するのを待っているのである。つまりたいていの企業は社内失業と言うものを抱えている。したがってこれでも失業者の数がこの程度でおさまっていると解釈すべきである。もし実質的な日本の失業率を調査できるなら、その数値ははるかに10%を越えるものと筆者は想像している。しかし企業のやせ我慢もそろそろ限界に近くなっている。このままでは企業自体の存続が危うくなるからである。

    製造業では、余剰人員が発生した場合、一番先に切るのは派遣社員であり、次ぎが自分達が採用した臨時工であり、最後が正社員である。一般の企業でも派遣社員・アルバイト・パートが雇用の調整弁に使われている。このように日本では正社員の雇用が重視されてきた。しかし正社員の雇用の確保のために犠牲となっているのは、このような非正社員だけではない。企業は雇用を守るため、新卒者の採用を抑えている。そのため高卒の就職は毎年厳しくなっている。地域によっては年末の時点で、3人に一人しか就職先が決まっていない所(沖縄)もある。また就職が決まっていると言っても、全ての人々が満足していると言うわけではない。決まった就職先にも不満が多いと考えられる。したがって就職しても、2,3年のうちに離職するケースが多い。このような今日のような就職状況が大量のフリータを生むことになる。

    また中高年者の失業も深刻である。筆者は、日本的な雇用慣行を決して否定するものではない。しかしあまりにも正社員の雇用を守ることを考え過ぎるため、世の中の失業者を雇用する余裕がない。このように日本の労働市場は極端に流動性が乏しい。したがって大企業を一旦辞めれた人間は、他の大企業に就職できることは稀である。多くの場合、給与などの雇用条件が大幅に悪い企業に職を得ているのが現実である。実際、長年勤めていた企業を一旦辞めた場合、職を得ることは極めて難しい。


    このように日本の失業問題は、中高年と新卒者などの若者に集中している。日本の雇用慣行である終身雇用を否定する意見もある。人々はどの企業に行っても通用する技術を身に付ける必要があり、また日本の労働市場をもっと流動化しろと言うのである。たしかに話はもっともであるが、発言している人が言っていることで満足しているだけである。現実には企業が中高年の失業者を雇用する意欲はなく、このようなことを言っても何のたしにもならないのである。もっと現実に即した提案を行うべきである。また先程述べたように、日本の政府には、これを解決する方策を全く持っていない。

    まず筆者は、日本の企業の慣行を前提にするなら、これ以上の企業の破綻を防ぐことに全力を注ぐべきと考える。「企業の破綻は構造改革の現れ」と言ったボケたことを言っている場合ではない。たしかに景気が良かった時代にも、企業の破綻があったことは事実である。多くの企業は時代の流れに乗るため、新規の分野に進出し、業態を変えてきた。企業の名前が実際の業態を表さないくらい変身した企業も多い。一方で、どうしても時代の流れに乗れない企業があり、これらが倒産していたのである。しかし今日の状況は違う。ほとんどの企業の業績が悪いのである。有望な市場がないのである。2年ほど前には景気の良かったIT関連もほぼ全滅の状態である。

    このように政府が行う雇用対策の一番目は、経済全体の底上げを行って企業のこれ以上の破綻を招かないようにすることである。つまり新規の失業者を発生させないことである。しかしこれだけでは、今日の失業問題を解決することはできない。これとは別に積極的に失業者を減らす対策が必要である。先週号で取上げた大規模な公共事業の実施もその一つである。しかしこれだけでは、問題となっている中高年と新卒者などの若者の失業を解決することは無理と考える。もちろん今日政府が行っている雇用対策(雇用保険への財政支出や通信教育への補助)などは冗談である。決定的な対策が必要なのである。


  • 失業と公務員
    筆者が考える決定的な対策は「公務員の採用増」である。これについては本誌では前にも取上げたので、読まれた方は読み飛ばしてもらってもけっこうである。今日の失業問題のポイントは中高年(既に失業している人と事実上社内失業となっている人)と新卒者などの若者である。まず中高年を対象にした対策である。

    今日、どの企業も多数の中高年を抱えている。つまり組織のピラミッドが極めていびつな形をしている。これはどの企業も高度成長期に人を大量採用したからである。ちょうど就職した人々が団塊の世代の時代であり、人数が多く、どの企業もこの時代に採用した人々で溢れている。当時は、永遠に企業が成長し、人手不足が慢性化すると本当に思っていたからである。工場や販売拠点がそれまでのようにどんどん増えると想定していたのである。所謂、人手の仮需である。しかしこの仮需が極めて大き過ぎたのである。そして高度成長が終わってみれば、これらの人々が余剰と言うことになったのである。しかし日本の終身雇用、年功序列賃金と言う雇用慣行も相まって、これらの人々は今日も企業に大量に在職しているのである。日本の企業においては、米国のように簡単にレイオフとはいかなかったのである。

    そしてこの中高年の存在が新卒者の採用の障害となっている。企業の本音も、中高年者にさっさと辞めてもらい、賃金の安い若者を採用したいところであろう。実際、競争力のある企業の社員の平均年令は低い。そこで筆者が考える政策は、企業の中高年者を公務員に採用することである。この人々の公務員としての定年は、これらの人々が年金を受け取れる年令になるまでである。どうしても採用の中心となるのは団塊の世代の人々である。その替わり、企業に対しては新卒者や若者をその穴埋めに採用することを義務付けるのである。

    団塊の世代の人々は人数も多く、中には部下のいない管理職もいる。また、これまで殺伐とした競争社会に生きて来たが、これからはもっと公的な仕事をしたいと思っている人もいると思われる。また頻繁に転勤があり、住む場所が一定しないと不満を持つ人もいるはずである。つまりこれまで民間企業で働いてきたが、公務員ならなっても良いと考える人がかなりいるはずである。待遇も工夫すれば良い。年収を800万円保障したい場合には、プロジェクトが年間500万円拠出し、残りの300万円を所属している企業が出すようにするのである。

    誤解してもらって困るのは、このような民間企業の中高年者を公務員に採用する政策は、恒久的なものではない。民間企業が抱えているいびつな組織ピラミッドを是正し、新しい雇用を創出できるようにすることが主な目的である。おそらく12,3年で終了する政策である。


    一方、若年層の失業は深刻な問題である。9.6%(昨年末)の失業率は異常である。またフリーターと言うアルバイト生活を続ける人々も着実に増えている。筆者は、以前は小子化が進む日本では、若年層の失業はいずれ解決されると軽く考えていた。しかし現実はそうではなかったのである。ところで当然、日本は高い所得水準を今後も維持していくことが望ましい。しかし高い所得を得るためには、それに応じた高度な技術と知識が要求される。フリーターの仕事は、所謂単純労働であり、これを続けていて、このような技術と知識が身に付くはずがない。

    また受入れる側の企業も、長年フリーターを続けている人を正社員に採用することに躊躇する。昔は企業は若い人を採用し、教育すると言うことが当り前であった。しかしこれだけ企業の体力が落込むと、経費を掛けて新人を教育する余裕がなくなっている。高校の新卒者の就職状況が悪いのも、このような事情が関係していると思われる。

    日本は、明治以来、教育に力を入れ、国民のボトムアップを図った。これが今日の高い所得水準を実現することに寄与したことは間違い無い。しかし今日の義務教育は、形式化・形骸化している。教育の成果を求めると言うより、一定の年限学校に通うことが義務教育や高校教育と言うことになっている。これでは企業が新卒者を採用する意欲が萎えるのは当然である。

    そこで筆者は、フリーターなどの若者を一旦、公務員に採用する政策を提唱する。ただし公務員でいられる年限は2年くらいにする。この間に職業に密着した教育を受けさせるのである。このような教育の一部は、これまで企業が行っていたものである。また彼等はこの間に就職活動も行う。また一部の者は公務員に正式採用されることもあり得る。たしかにアルバイト生活を続けながら、専門学校に通い、努力して自分で就職先を見つける人もいる。しかしこのような人は、あくまでも一部であり、多くは惰性でフリーター生活を続けているのが現実である。

    増え続けるフリーターの存在は、絶対に将来日本にとって大きな問題になることは確実である。またフリーターが増え続けることによって、色々な面で経済にも悪影響が出る。ちょっと考えただけでも、今後、住宅や新車と言った大型消費が確実に減ると思われる。またフリーター層の増大は所得の格差を生むことになる。

    まだ世間には誤解がある。日本は所得格差の小さな国と言う認識があるが、これは昔の話である。今日所得の格差は確実に広がっており、ほぼピークを向かえている(所得格差は主に二つの方向で生まれている。これについては別の機会に取り上げる)。この所得格差がフリーター層の増大でさらに大きくなると言う話である。筆者は、所得格差を絶対的に否定する訳ではないが、むやみに大きくなることは問題と考えている。このままでは、日本に階層社会が出現することは確実である(事実上既に生まれていると考えても良い)。そして所得格差の拡大は社会に緊張を生むことになる。


    「日本は所得格差の小さな国」と同様に、「日本は大きな政府」と言う誤解が世間にはある。現実は、日本の所得格差は年々大きくなっており、日本は小さい政府である。欧米各国の方がずっと大きな政府なのである。どうしてこのようなに日本人は思い込まされたのか興味があるが、とりあえずこれは別の機会に取り上げることにする。

    たとえば米国の公務員の就業人口に占める比率は、日本よりずっと大きい。それはそうであろう。まず軍人の数が桁違いであり、SECなど市場監視員の人数も日本と比べものにならないくらい多い。これは社会の違いが大きいと考えられる。米国社会は性悪説であり、油断すれば人はいつも悪いことをすると考える。したがってどうしても公務員が多くなるのである。逆に日本社会は、認可を与える時にちゃんと調べれば、間違ったことはしないと言う性善説の立場である。また話はちょっと変わるが、米国は弁護士がやたら多い(90万人以上)と言う極めてトラブルの多い社会である。もっともこのような日本も、だんだん欧米各国に近付くことを余儀無くされているのが今日である。

    このようなことを考えれば、一時的とは言え公務員を増やし、失業問題を解決することは合理的と考える。特に一定の期間所得を保障しながら若者に職業訓練を施すことは、どの先進国でもやっていることである。ところが今日、日本では構造改革とか行政改革と言って公務員の数を減らす方向にある。筆者は、これは逆ではないかと考えるのである。たしかに公務員が多すぎる米国が言っているのなら分るが、デフレ経済の日本は、むしろ公務員を増やすべきである。



国債の日銀引受けによって得られる資金の第三の使途である「資金運用」について述べる。

ブッシュ大統領の来日に合わせて、急に「デフレ対策」が浮上してきた。具体的な対策は2月末までに決定すると言うことである。しかし今日検討されている項目は不思議なものばかりである。銀行の不良債権処理までデフレ対策と言うことで、筆者も驚いている。

医療費の3割本人負担に見られるように、小泉政権の本質は、最終的に財政の支出を削減することである。つまり政権の真髄はデフレ政策そのものである。そのような政権が「デフレ対策」を行うこと自体が矛盾している。つまり今日検討されている政策は「デフレ対策」でもなんでもないのである。

デフレは需要と供給の関係の話であり、マクロ経済の話である。今日積もりに積もった需給ギャップをどうして解消するかと言うことがポイントである。それが「日産のように頑張れば良い」「ドコモのように製品に工夫が大切」とまるで関係のない話ばかりである。だいたいデフレ経済を分りやすく説明できるエコノミストや経済学者がいないのが現状である(説明できる者はマスコミに登場しない仕組みになっているのではないかとさえ最近は考える)。

このようにデフレ経済をめぐる議論は迷走している。実際、このような状態が10年以上も続いているのである。今日の様相を見ているとこのような混乱はまだまだ続くものと考える。人々が正気に戻るのを待つしかない。そのためには小泉首相の考えている通りに政策を進めてもらうのが一番良い。もちろんそれによって日本経済はどん底に向かうことになる。しかしそこで人々も目が醒め、政策の方向が大転換される可能性が始めて生まれて来るのである。



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