平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/7/14(第24号)
  • 7月18日から、東証と大証で株式のオプション取引が始まる。仕組はこれまでのオプション取引の「TOPIX先物」や「日経平均先物」とだいたい同じであるが、対象が平均値や指数ではなく、株価そのものが対象になる。スタ-トは30銘柄であるが、そのうち増えることになろう。競馬に例えれば、今までの複勝式馬券に加え、単勝式馬券が新たに売り出されるようなものである。
    これはビックバンの流れの一つでもあり、株式市場の活性化を狙いにしており、特に個人が参加を意識していると考えられる。
    世間には、個人株主を増やし、また株式市場を活性化するためには「企業の配当性向を高める」とか「無償の増資を行なう」と言った話がある。しかし、これらは理論的に間違った話である。
    株価はその企業の価値を反映するものである。したがって、利益を会社にキ-プ しても、配当として社外に流出させても、株主にとっての利益は変わらない。利益を会社にキ-プすれば、それを反映してその分株価が上昇することになるし、配当として受け取れば、その分株価が上がらないだけである。もっとともさらに厳密に言えば、配当金にかかる税金と株式を売却した場合の源泉税の差額分だけ違うことになるが、この差はほとんどない。個人の投資家で、活発に日本の株式の取引を行なっている人々は、ほとんど配当金のことを意識していないのが現状である。増配することで株価が上昇しても、それは配当の増加そのもので上昇したのではなく、増配できるほどに企業の業績が良くなり、会社の価値が上がったからと考えるべきである。
    株式市場の活性化については、色々考えられているようだが、反対に逆行する動きもある。現在個人株主の株式取引については、源泉分離課税と総合課税のどちらかを選択できる。現在大半の個人株主は源泉分離課税を選択しているはずである。それを総合課税一本に統一し、税収の増加を計ろうとと言う動きである。
    この背景はビックバンに関連した「有価証券取引税の廃止の要求」と関係がある。税務当局としては有価証券取引税の廃止による減収分を個人株主の取引を総合課税に一本化することによってカバ-しようと考えているのである。実際、これによって減収分をカバ-できるか疑問であるが、ただ確実に言えることは、個人株主は相当減ることである。さらに、もしこの改正が行なわれた場合は、施行されるまでの間にかなりの個人保有の株式が売りにだされるであろう。
    本誌の6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」で述べた通り、有価証券取引税が、日本の株式取引所での取引に決定的な障害になっているとは、筆者は考えない。はたして有価証券取引税がないと言う理由だけで、日本株式の取引の多くがロンドンの市場に移ってしまうと言うことが本当にあるだろうか。時差もあり、日本株式の流動性もあまりないと考えられるのがロンドンの市場での日本株式の取引である。少なくとも個人株主は移らないであろう。問題は機関投資家の動きであるが、これについては、現時点で正確に予想することは難しい。筆者には、まず、改正外為法施行後の資金の動きを見極めてからでも対策は遅くないと思われる。かりに有価証券取引税ぐらいで移動する資金なら、日本での株式取引の魅力をちょっと増やす施策をうてば、簡単に戻ってくるはずである。
    筆者は、妥協案として「有価証券取引税の廃止と源泉分離課税の税率のアップを同時に行なう」ことを提案したい。たしかにこれだけでは機関投資家の取引に係わる有価証券取引税の減収分をカバ-できない。しかし、米国のキヤピタルゲイン減税に見られるように「株式の取引に係わる税金を軽減して、経済を活性化させた方が、最終的には税収が増える」と言う考え方が世界の潮流であることも事実である。


香港返還と中国経済を考える(その2)
  • 邦銀の香港金融市場に占める位置
    香港の金融市場の資産規模は120兆円であり、そのうち邦銀が占める債権は割合で44%、金額は53兆円である。これを大きいと見るか、適当と見るか、個人によって差があると思われるが、筆者には、率直にこれはびっくりするほど大きいと思われる。香港のGDPは年間約15兆円である。また、香港が中国への投資の窓口であることを考慮しても、中国のGDPが約60兆円しかないことから考えると、邦銀の債権額53兆円はいかにもバランスの欠いた大きなものと思われる。
    たしかに、そのうちある程度(全体の約15%)は日本に還流しているし、米国や欧州で運用されている部分もあり、これらについては比較的に安全と考えられる。また、短期資金として運用されいる部分もあると思われるが、一方長期資金として直接・間接的に設備や不動産に投資されている部分も大きいはずである。
    しかし、香港金融市場の運用先は中国への約30兆円を始め、香港やASEAN諸国で半分以上を占めている。これらの地域は成長率が高い。これに着目し、邦銀は毎年20%の増加率で債権額を増やして来たのだ。この増加率は経済の成長率の倍以上である。
    話を中国と香港に限れば、邦銀は香港経由の資金に加え、直接中国に融資したものもあるはずである。つまり、邦銀の香港を含めた中国全体に対する債権額の規模は、もはや抜き差しならるところまで来ているのではないだろうか。

  • メ-カ-の投資と銀行の投資
    メ-カ-が中国に進出し、投資を行なうについては理解できる。多くの場合はコストの面で、これが有利と判断される場合の行動である。製品を日本や欧米に輸出する場合には、これまでの販路に乗せられることからリスクは比較的に低いであろう。また、国際的な生産基地の一つと位置づけることにより、為替や需要の動向により理想的な生産体制を敷くことができる。しかし、販売が、国内、つまり中国の場合は事情は違ってくる。たしかに、需要は期待できるかもしれないが、問題は購買力である。たしかに、中国人の個人は統計数字より、大きな財産を保有しているが、それにも限度がある。あまりにも付加価値のある製品を作った場合には、在庫の山になる可能性がある。
    銀行が投資する場合はもっと難しい。たしかに、日本のメ-カ-が中国に設備投資を行なう場合の融資なら比較的に楽であろう。つまり、その日本メ-カ-から保証を得るか、あるいは日本国内の不動産を担保にする方法がある。つまり、国内での融資に準じたかたちをとることが可能であるからである。問題は融資先が日本以外の企業、特に中国企業の場合である。証券投資と言う形をとっていても、それが中国企業の社債なら、実質的にはその企業に対する融資である。なかには、現地政府の保証らしきものがある案件も考えられるが、そういうものががない場合の投資も多いはずである。筆者が一番興味があるのは、「邦銀が香港や中国の企業に直接・間接に投資する場合の債権の保全方法」である。

  • 日本の銀行の債権保全方法
    日本において、新興の企業には、銀行は、保証協会の保証や不動産、特に土地が担保になければ、まず融資は行なわない。つまり信用貸しは行なわない。今はときめく企業が、「昔、資金繰りに困った時、銀行の支店長の裁量で融資を受けられて助かった」と言う話が美談のように語られている国である。反対に、バブル期における土地融資のように、土地さえ担保にすれば、相手も見境なく融資を実行して来たのが日本の銀行である。
    その邦銀が、中国や香港の企業には、何を担保にしているのかわからないが、ドンドン融資しているのだから理解できない。特に中国の場合は「土地」は全て国有である。土地を使う権利を得て建物を建てることになる。この権利は、日本における「所有権」ではなく、「賃借権」や「地上権」に近いものであろうが、担保としての価値があるのか疑問である。他に考えられる担保は設備の「譲渡担保」である。「譲渡担保」とは生産設備などに融資する場合、所有権を融資が完済するまで、融資対象物件の所有権を融資した側が保有する方法で融資金の担保を行なうことである。日本においては、自動車をロ-ンで売る場合に利用される。つまり、ロ-ンが完済するまで、所有権は販売会社が保有し、購入者には車の使用権だけが渡されていることになっている。
    しかし、「融資金の返済ができなくなったから、設備を日本に持って帰って、勝手に処分してくれ」と言われても困る。つまり、「譲渡担保」は形だけの担保になりかねない。筆者は、香港や中国で、多くの場合、実質的に無担保に近い形で邦銀が投資を行なっていると考えている。
    さらにびっくりするのは、現在、香港における邦銀同士の貸出競争が激しく、「利ざや」もほとんどないと言う話である。結論として、どうも日本の銀行は、「中国人」はとことん信用できるが、「日本人」はまったく信用できないと考えているのであろう。

  • 中国経済のリスク
    投資や融資にはリスクはつきものである。邦銀の中国向け投資についても、失敗例は色々囁かれている。「上海のビルにテナントが入らない」「作った製品が高級過ぎて中国国内で売れない」「リ-ス債権がこげついた」などの個々の話は語られている。しかし、本誌では中国経済に根差すもっと根本的なリスクや問題点について検証したい。
    1. 中国は統計が確かではない。だいたい中国は人口さえはつきりしない。最近では12億くらいと言うのが定説であるが、ちょつと前までは11億から15億人まで色々言われてきた。民間の資金量もはっきりしない。かなりアンダ-グラウンドの資金があるようだが、どの程度あるのかわからない。話はそれるが、アンダ-グラウンドの資金が多いことではイタリアも有名であり、このような国での中央銀行の金融政策はどのように行ない、その効き目はどの程度なのか興味がある。
      いずれにしても現在の中国の統計数字自体があてにならない。20~30年したら中国経済は世界一になると言う話をする人がよくいるが、どの数字を元にするのか一度聞いてみたい。
    2. 先週号7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」の話の繰り返しになるが、中国には独自の技術の蓄積がない。競争国の出現や為替が「元高」になった場合には、中国製品はすぐ競争力を失うことになる。国内の物価が高騰し、賃金が上昇した場合にも国際競争力を失うことになる。また主な中国製品の輸入国は米国と日本であり、両国の景気の動向に中国経済は左右されることになる。特に日本との関係では「円」の為替水準も重要である。「円安」になれば、日本への輸出は減少することになる。日本と中国に生産拠点を持つメ-カ-は「円安」になれば、日本国内の生産を増やし、中国での生産を抑えることになる。「円建ての日本から借入」を除けば、これは中国だけではないが、日本の貿易相手国はとにかく「円安」は困ることである。
      日本経済も過去に何度も危機に直面してきた。ただ、それを克服してきた一番の決め手は「技術」であり「技術の蓄積」であった。良い例がオイルショックへの対応である。原油価格の高騰は、原油の輸入大国である日本に多大のショックを与えた。翌年の経済成長率がマイナスになったくらいである。これに対し、企業は省エネに励み、自動車メ-カ-も燃費効率の良い車を作ることにより輸出を伸ばし、この困難を乗り越えたのである。これができたのも日本が自前の技術を持っていたからである。
      中国が、今後、このような困難に直面した時にうまく対処できるだろうか。筆者はそれは難しいと考えている。中国にはまだ自前の技術が蓄積されていないのだから、その場合には他の先進国から技術を導入しなければならない。しかし、先進国が技術の移転をしてくれる保障はないのである。
    3. 中国は政治的リスクも大きい。「民主主義体制」は色々欠点があるとしても、経済には安定を与えるものである。少なくとも現在の中国の政治体制は「民主主義」とは言えない。つまり安定性に欠けるのである。ここ一年や二年で体制が変わると言っても誰も信じないが、投資については10年、20年先を見越して行なわれることもある。その間に政治体制が変わってしまうと言うリスクがあるのである。
    4. 日本の金融機関が多大の投資を既に行なっていること自体がリスクである。日本の金融機関は一斉に同じ行動を採ることが好きである。香港・中国への投資も一斉に増やしたが、将来、引き上げる時も一斉に行なう可能性が高い。
      しかし、現在の投資累計額は中国にとって、余りにも大き過ぎる。もしそれが行なわれた場合には中国経済はマヒ状態になることは必至である。しかし、これは悪くすれば政治問題化するおそれがある。また、日本の資金が抜けた後を埋めようて言う国もちょっと出てこないであろう。


  • 金融機関の本店の海外資産管理能力
    前段で述べた通り、成長率が高い替わりに、中国経済には大きなリスクが存在する。また、これ以外にも色々問題があるが、長くなるので省略する。もっともどの国にも問題があるもので、これは中国に限ったことではない。ただ、日本の金融機関が、日本国内でさえあれだけ大きな不良債権を作ったリスク管理能力をそのままに、「土地カンのない国」に出かけていって、コンスタントに利益を得ることが本当にできると考えること自体がおかしいのである。
    日本の金融機関の海外での損失は、よほど大きくならないと表面化しない。つまり現時点でさえ、損失の発生の進行中であることが十分考えられる。各金融機関は競って海外に支店や事務所を開設している。これまでのケ-スでは、海外での損失 が相当大きくなるまで、本店でもその事実を把握していない。つまり、海外の支店は本店のコントロ-ルからはずれやすいのである。本店は現地から良い報告だけを聞いている可能性がある。ひどい場合には、海外の支店が勝手に行動していることも考えられる。こうなっては、戦前の「関東軍」である。
    島国に住む日本人にとって、大陸はロマンをかきたてるものかもしれない。しかし、ビジネスはリアリズムである。夢を見るのも良いが、足元を見ることも大切なのである。
    日本の大手金融機関はバブル期から、自分達の管理能力を超えるようなリスクの大きい資金運用をさかんに行なうようになった。香港・中国への投資の急増もその延長線上にある。これは単に国内に投資先がないと言う話だけでは説明がつかない。この点についてはさらに後日また述べたい。



日常的に起こる経済問題をトーク形式で解説
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97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」