- デフレスパイラルの起る確率
今年最後の経済コラムとなった。筆者は、これまで当コラムが小泉政権の経済政策に非難だけを行ってきたような印象を与えていると感じている。しかし筆者なりの政策提言と言うものは持っている。もう一度それを提示するつもりである。大体の話は既に当コラムで過去に述べてきたことである。それらに新しい話を加味したものになる。おそらく4週以上に渡ることになる。本当は、これを今年中に行うことを予定していた。しかし経済がこれだけ失速しているにもかかわらず、小泉政権は依然高い支持率を維持している。このような時期に政策提言を行っても、本誌が浮き上がってしまうだけである。したがってもう少し様子を見ることにした。
国民の考えが分裂ぎみになっている。世論調査の結果を見ると、ようやく「景気対策」や「雇用対策」が上位に来るようになった。一方、「財政再建」を望む声は相対的に小さくなっている。当り前と言えば当り前である。しかし小泉政権の支持率が依然高い。つまり国民は小泉政権に「景気対策」や「雇用対策」を期待していると言うことになる。ところが小泉首相は何度も「2、3年は経済の低成長を覚悟する必要がある」とはっきり断言している。したがって「景気対策」や「雇用対策」を小泉政権に期待することは、全く矛盾した望みである。
たしかに小泉政権の経済政策に異を唱える人はいる。しかし小泉政権の経済政策に反対する人々の意見が、国民レベルでよく見えていないのである。また明らかに、メディアは小泉政権の「改革路線」を支持しており、反対派がちゃんと意見を述べる機会は極めて限られている。そしてその少ないチャンスがうまく活かされていないと言う問題がある。「国債を発行してでも、景気対策として財政支出を増やさなければならない」「地方経済は大変な状況である」だけでは、長年のマスコミの働きによって先入観を持っている国民レベルを納得させられない。「国債の発行残高が増えれば、将来の国民の負担が増えるだけ」と反論され、それでお終いなのである。何かもう一つ、大きなビジョンと言うものがないのである。
最近、読者の方からある勉強会への誘いを受けた。筆者は、残念ながら都合で参加できない旨をご連絡した。色々な方々が参加しておられるようである。その勉強会のテーマは内需拡大政策であり、その財源は政府の新規発行の紙幣と言うことである。筆者も、国債を発行し、それを日銀引受けにすることで財源を確保し、これを公共投資などに使うと言う政策を主張してきた。ほとんど同じような政策と考えて良い。日本に同じような政策を具体的に考えているグループが存在することを知って、筆者は正直に言って、「ほっと」している。
「このままでは日本経済は、デフレ経済のスパイラルに陥る」と言う人がいる。また「デフレスパイラルに陥るのを避けるために補正予算を組む」と言う話もある。しかし筆者に言わせれば、バブル経済崩壊後、ずっと日本はデフレ経済は続いている。つまりデフレ経済のまっただ中にいると言うことである。毎年2〜3%の物価上昇している諸外国に比べれば、一目瞭然である。ただ急速に「らせん階段」を落っこちるような事態がなかったと言うだけである。この原因の一つは、これまで政府が不十分であっても、その都度、景気対策を行ってきたからである。
この他にも原因はある。日本の雇用形態もその一つである。企業も不景気だからと言っても、簡単に従業員を解雇することは避けてきた。まず配置転換や子会社への出向であり、さらに新規採用を抑えてまでも、現在の雇用を確保しようとしてきた。つまり日本型の雇用形態はまだまだ健在と考えて良い。簡単にレイオフを行う米国とは大きく違う。したがって日本の場合は、失業率が大きくなるのも極めて緩慢である。一方米国の失業率の動きはダイナミックである。しばらく前までは日本より小さかったのに、今日では日本より大きくなっており、差も一段と大きくなる傾向にある。
社会的なセーフティネットも、景気の急速な後退を防いでいる。例えば雇用保険の存在である。このような制度のなかった時代や、制度が整備されていない発展途上国の場合のように、GDPが20%以上のマイナスと言った極端な落込みは、少なくとも今日の日本では考えられない。
個人の貯蓄が大きいことも、景気が急速に落込むことを防いでいる。たとえ失業しても当分生活に困らない人が多い。リストラと言ってもかなり大きな退職金を手にする人も多い。また一家の全てが失業するケースもまれである。親類縁者の援助がある人もある。周り中の人々が一斉に貧乏になるわけではないのである。また昔にはなかった消費者金融も貸出し競争を行っている。
今日の日本では、これだけセーフティーネットが揃っている。したがってこれだけマイナス成長が続いても、急速に消費を減らすと言うこともない。少なくともこれまでは、心配されているようなデフレスパイラルに陥ることはなかったのである。ホームレスになる人の数は多くなっているが、まだまだ少数派である。もっともこのようなセーフティーネットがあるため、反対に、多少の景気対策を行っても景気の急上昇と言う現象は起きにくい。
問題は今後である。政府の経済政策に変更がないとしたなら、デフレ経済はさらに進むのは当然である。しかしやはりデフレスパイラルと言うことにはならないと考える。当分の間、慢性病のようにデフレが進行するのである。しかしデフレスパイラルと言う事態が全く考えられないかと言えば、そうでもない。この危険性は少しある。小泉政権がさらに大きなミスを犯した場合である。たとえば「ペイオフ解禁の強行」などである。
今日、銀行を始め金融機関、政府、官僚の全てがほぼ当事者能力を失っている。財政支出だけは絶対に行わないと言う呪縛に支配されているため、色々な施策が打出されるが、すべて「思いつき」である。政策は矛盾だらけである。「民間にできることは民間にやらせる」と言いながら、不良債権を償却して資本が不足したなら、「公的資金を注入して銀行を国の管理に置け」と主張する者もいる。
来年あたりには何が起るか分らないところが無気味である。上場企業が100社も倒産すれば、世の中の雰囲気も変わるはずである。たしかに今年の夏までは、上場企業の破綻はほとんどなかったが、マイカルの倒産以降、結構なペースで大型倒産が続いている。株価も低迷し、銀行は既に体力をなくしている。状況が、来年にはもっと悪くなることは確実である。一つのポイントは、以前本誌で警告していたように国債の格付けの引下げである。しかしこれによって国債利回りが上昇することが問題と言うことではない。むしろ利回りは低下する可能性が強い。問題は、これに続けて日本の企業の格付けの引き下げが行われることである。引下げによって社債が発行しにくくなったり、最悪の場合には社債発行が不可能になる企業が続出する可能性がある。したがって上場企業100社が倒産すると言った事態も否定できないのである。そのような場合には、人々は自己の防衛に走り、消費性向がかなり小さくなる事態もありうる。つまり世界一の外貨準備を持ち、莫大な金融資産を持っている日本が、デフレスパイラルに近い状態に陥るのである。本当にばかげている。
- 没落の徴候
歴史を見て、どんなに栄華を誇った文明・文化や帝国もいつかは没落している。これらの崩壊の直接的な原因は外敵による侵略である。しかし外敵に攻められる前に、既に内部が腐っているケースがほとんどである。今日の日本はこれに近い状態と筆者は判断している。本誌で指摘しているように、観念論者があらゆる分野の主要なポストを占めるようになった。メディアも観念論者に占領されつつある。
この徴候はかなり以前から現れている。怪しい論理を展開する「霊媒師」のようなエコノミストの跋扈。全くの嘘を平気でしゃべる人々。前言を簡単に翻しても平然としている学者。そしてこのような人物が小泉首相の周りにはうようよいるのである。役に立たないエコノミストや経済学者が、「蠅(はえ)」のように首相にたかるようになったのは、橋本首相の頃からである。ちょうど橋本首相が誰にも相手にされなくなった時からである。
「30社の危ない大企業のリスト」を持って、小泉首相に「大口の貸出先の対する銀行の引当を強化するよう」迫った日銀出身の木村剛と言うエコノミストの30社リストが波紋を呼んでいる。このリストは公開されたものではない。本人も文芸春秋の12月号で「リストはない。ただどの銀行にも、問題となる大企業が30社くらいあるはず」と弁明している。30社のリストを本当に持っていったかどうか不明である。しかしそれらしいリストが世間に出回っているのは事実である。筆者もネットでそれらしきものを見た。ただそれが木村氏のリストかどうか判らない。問題は、倒産した新潟鉄工も青木建設もそのリストの中にあったと言う話である。
しかし「リストあった、なかった」「これが木村氏のリストだ、いや他の人物が作ったものだ」と言うことは既に問題ではない。世間では「次に破綻する大企業はどこか」と言う噂が大きくなっている。最近では51社リストと言うものもあるらしい。
今日の状況では、噂だけで簡単に企業が倒産する。青木建設は中間期は黒字だった。しかし30社リストが問題にされた頃から、取引先の態度が変わったと言うことである。取引に現金が要求されるようになった。おそらく受注にも影響があったと思われる。取引銀行も、メインを除き、融資を引上げはじめたと言うことである。もし青木建設破綻にこの30社リストが関係していたとしたなら、とんでもないことである。
これだけ銀行が体力をなくし、信用の不安がある今日では「風評」で破綻に追込まれる企業が出ても不思議がない。このような状況を助長したのが木村氏のリストと言うなら、事実関係を知りたいものである。なんとそれに一国の総理が関係していると言うのである。筆者は、事実関係をはっきりさせるため、青木建設の関係者は、訴訟を起こすことも考慮すべきと考える。
前言を簡単に翻す。それも正反対の主張を行っている経済学者が実に多いのには驚く。前に本誌で取上げた榊原慶大教授のその一人である。当コラムも5年もやっていると、過去に識者と言われている人々の言っていたことを過去のコラムから捜すことができる。これは00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」の一部である。ーーー「前財務官の榊原氏は、ペイオフに反対する数少ない専門家である。氏はテレビ番組で「金融の自由化については原則として賛成である。しかしペイオフまで行う必要はない。人々は自分の仕事で忙しいのである。自分の預金が、今日も安全かどうか気にしている余裕や暇はない。」と発言していた。筆者は全くこれに賛成である。」とある。ところが先日のテレビ朝日系のサンデープロジェクトに登場した時には、正反対の「ペイオフはきちんと実行すべき」と主張していた。同じ番組なのだからVTRがあるはずである。二年もたっていないのである。
さらにこの前には、榊原慶大教授は同じ番組で、「財政支出を増やしても、大丈夫ですよ」と発言していたはずである。これもVTRを調べる必要がある。最近では、彼は、国債発行増大による国債の暴落を風潮して回っている。
とにかく今日この人物の発言はめちゃくちゃである。「構造改革で、生産性の高い分野に資源を移動する必要がある」と言っている。考えの浅い観念論者が言いそうなセリフである。しかし長期金利が1.4%を切っているのである。1.4%の金利でも企業は借入を起こさないのである。生産性が高い、つまり労働生産性が高いと言うことは、分りやすく言えば儲かると言うことである。それだけ儲かる商売が全くないのが、今日の日本である。榊原慶大教授は、これは儲かると言う商売を具体的に言うべきである。ビジョンがないくせに、あるように言っているだけである。筆者に言わせば、今日、生産性が高く儲かっている商売は、違法か合法かきわどいものだけである。
竹中経済財政担当相もすさまじい。小淵首相を持上げていたかと思うと、一年後にはこきおろしていた。昨年まではIT革命を風潮し、日本の景気低迷の原因は「NTT」と言っていた。昨年は補正予算に激しく反対していたが、今年はデフレスパイラルにならないように補正予算は必要と言っている。
とにかく小泉首相の周りには「魑魅魍魎(ちみもうりょう)」「霊媒師」「嘘つき」なんでもいる。以前、読者の方から「小泉首相の人脈」と言うものをメールで送っていただいた。新聞に載っていたものらしい。送っていただいた方は、「これらの学者達はただ名前が売れているだけ」と評していた。筆者も賛成である。ところで日本で名が売れている経済学者やエコノミストの中で、筆者が「これは酷すぎる」と言う者がいる。筆者は「マッド」と評している。今のところ3名はいるが、なんとそのうちの2名までが小泉首相の周りにいるのである。もっとも小泉首相も変わっており、波長が合うのであろう。
話は、文芸春秋の12月号での木村氏の弁明に戻る。彼は、小泉首相に何時間も説得したことは、問題は中小企業ではなく、銀行の大口融資先である。これらに対して貸倒引当金を積ませることであると言っている。これによって問題企業を整理し、資本が不足する銀行には公的資金を注入する。同時に銀行経営者に責任を取らせる。そして彼は、それが実行されれば日本経済は蘇ると言う。ようするに簡単に言えば、例の陳腐な論理である。しかしこれは前半である。
後半は、「金融庁の検査が甘い」「これはペイオフ実行で銀行に信用不安が起っても、銀行の経営者や監査人の責任にするため」「金融庁は、最後には銀行を裏切る」、極め付けは「これは財務省が復権するための罠」であると断言していた。彼の文章の意味がよく把握できなかったので2回も読んだ。おかげで筆者は頭が痛くなった。「財務省の陰謀」とはこれまたすごい。
読者の方々はどう判断されるか判らないが、このような人物が作成したと言われているリストで日本の経済は翻弄されているのである。またこの人物の職業は金融コンサルタントらしい。筆者も詳しくないが、どうも破綻した日本企業を外資に紹介したり、斡旋することも商売にしているらしい。そう言えば、榊原慶大教授も以前、国有化された長銀は外資のリップルウッドに渡すべきと、異常なまでにしつこくテレビで主張していた。
はっきり言えば、この木村剛と言う人物も実に怪しい。そしてこのような人物を、なぜ竹中氏やアサヒビールの樋口氏が首相に紹介したのか謎である。繁栄している国も内部から崩壊していくのである。我々は今、それをこの目で見ているとも言える。
|