平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/7/7(第23号)
  • 米国の株式は、筆者の予想に反し、依然上昇を続けている。企業業績が良くなると言って上げ。景気に陰りが出てきても、それなら金利は上昇しないだろうと、また上げているのである。こうなってはどん材料が出てきても、株は上がることになる。その結果、株価水準は経済実態からかなり乖離してしまっている。つまり、下がった時の衝撃もそれだけ大きくなるのである。いやがうえでも注目せざるをえない。
    先週号6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」で連休明けに株価が大きく下落するケ-スが多いことを指摘した。しかし、それに加え、連休前にもそれが起こりやすいことを述べたい。そろそろ夏休みである。欧米の資金運用担当者も長い休みを採る。今年の場合は、株価が最高値の更新中である。かなり利益を得ている資金運用担当者も多いはずである。休みを採る前に利益を確定しておきたいと考えるのも理解できる。このような利益確定のための売りが多ければ、休み前に相場が崩れることは十分考えられるのだ。
    香港返還後、香港株式が弱含みに転じている。返還までの上げ方が大きかったからであろうが、株価ほどに経済の実態が追い付かないと言うことがはっきりしてきたら、さらに大きく下落する可能性がある。米国の株式市場ともども当分注目される。
    意外と大きな資金を日本の金融機関は香港に投入している。これが、これから問題になることもありうると筆者は考えている。これについては来週号で述べたい。


香港返還と中国経済を考える(その1)
  • 7月1日をもって香港は中国に返還され、その式典が行なわれた。マスコミ各社、特にテレビ局は熱心にこれを放送していた。全ての局が返還の時間帯に特別番組を組んでいたのには正直驚いた。しかし、このことがそんなに重大なことなのか疑問である。たしかに、将来歴史を振り返った時、このイベントがなんらかの出来事の始まりかもしれないが、現時点ではよくわかない。
    実際、香港の人々の中にはこの間の連休を利用して日本に遊びに来ている人も多いと言うことである。また旧宗主国の英国には、香港がどこにあるかさえ知らない人が多くいると言う話である。「香港の中国返還」については相当前から決まっていたことであり、どうして日本のマスコミはそれほど熱をいれているのであろうか。
    だいたい「香港の中国返還」は、政治的意味の方が強いと筆者は考えている。元々「一国二制度」と言う仕組も、これは台湾との統一を意識したアイディアであったはずである。ところが当の台湾は、これに対して「けんもほろろ」の態度である。つまり、中国はこのアイディアを、香港・マカオに流用しようとしているのである。
    中国が、「一国二制度」を守ると言うことになれば、実態は以前と変わらないことになる。「名」は中国返還となるが、「実」は「香港は香港のまま」と言うことである。筆者は、中国政府が言っているように「一国二制度を守り、香港の自由経済はそのままである」と言う言葉は、ほぼ額面通り受け取ってもかまわないと考えている。そして香港における中国の存在が大きくなり過ぎることは、中国にとっても得策ではない。 江沢民国家主席は式典が終わって、時をおかず北京にすぐ戻った。いかに中国首脳が香港に神経を使っているか、これからもわかるであろう。

  • マスコミの一部には、中国と香港が一緒になれば、その外貨準備高は2,000億ドルになり、これが米国債で運用されており、これを売却する可能性をちらつかせることで、米国に圧力をかけられると言う珍解説がある。まず、中国も香港の外貨準備に手をつけない方針である。そしてこれについては本誌の先週号6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」で述べたように、「それを行なった国の自殺行為」である。日本がそれを行なえば、為替はものすごい円高となり、輸出企業は壊滅的な打撃を受けることになる。
    中国も米国債売却を行なえば、経済が受ける衝撃はさらに大きなものとなろう。現在、中国の「人民元」は米ドルにリンクしている。米国債を売却し、米ドルを売却すれば、米ドルリンクからの離脱を意味する。これは、元は高くなるか、売却代金に見合う元を発行することになり、中国国内の物価は上昇し、賃金も国際的に上昇することになり、中国の経済力が急速に競争力を失うことを意味する。中国には、これに打ち勝つほどの技術の蓄積がまだないと、筆者は考えている。(これについては後ほど詳しく述べる)
    中国のライバルは沢山ある。「元」が高くなるなどして中国での製品製造がコスト高になれば、外国資本はベトナムなどASEAN諸国に生産基地をシフトさせる動きを見せるであろう。ましてや、一部米国資本は、ASEAN諸国からより成長力のある中南米に資本をシフトさせているのが現状である。
    中国は貿易黒字分のドルを自国に還元しないことにより、「元高」を阻止し、国際競争力を維持しているのが現実ではないだろうか。たしかに現在の1元が15円と言うのは安過ぎると思われる。その使いでを考えると「1元は30円くらい」が妥当ではないのかと考えられる。いずれ、中国の経常収支の黒字がこのまま続けば、元の切り上げ圧力は強くなると思われる。

  • 世間には「中国の脅威論」と言うものがある。経済力が20~30年のうちに日本や米国を追い抜き、この経済の発展を背景にして政治力と軍事力が強大化すると言うことらしい。筆者は、政治や軍事の面でははっきりわからないことが多いが、経済の面でそこまで発展するとは考えられない。このような人々の根拠は、最近の経済の成長率の高さであろう。ただ、筆者には、中国がこれまでのような一直線の成長を今後とも続けることは無理と考えている。しかし、ある新聞社のアンケ-トでは、日本人の多くはそのように考えていると言うから驚きである。また、銀行などの経済界もそのように考えて、中国に多大の投資を行なっているのである。
    本当に中国が、経済力で近い将来、日本を追い越してしまうのか考えてみたい。まず日本と主なアジア諸国のGDPを比較する。
    (94年、単位:100 億ドル)
    日   本469韓   国38
    中   国52タ   イ14
    香   港13マレ-シア7
    台   湾24インドネシア17
    シンガポ-ル7イ ン ド30
    筆者は、前の方で中国の「元」の実際の価値は、現在の2倍くらいではないかと述べた。とすれば中国の実際のGDPは、表の52百億ドルの倍、つまり104百億ドルになる。仮に毎年の中国の経済成長率を8%、日本の経済成長率を2%とする。その差は6%であり、この104百億ドル(筆者の中国のGDP修正値)をもとに、計算すると、たしかに2,020年のGDPはわずかに日本は中国に追い抜かれることになる。ましてや香港の経済がプラスされるから、もっと早く追い抜かれることになる。
    話をまた元の表の数字に戻す。94年のGDPでは日本は中国の9.0倍である。しかし、さらにこの14年前の80年では3.5倍であった。つまりこの間の成長率は、逆に日本が中国を大幅に上回っていたのである。この主な要因は為替がその間に円高になったことである。つまり各国の成長率を国際比較する場合にはベ-スを合わせなければいけないのである。最近の日本の経済成長率は低いが、それは円建てベ-スの話であり、ドル建てベ-スで考えると中国と日本の成長率の差はだいぶ縮小する。今後どれくらいの期間で、日本が中国に追い抜かれるかを予想するには、このように為替動向が重大に影響してくる。これらを考慮すると、追い抜かれる時期は、筆者には100年後か、あるいは永久にこないような気がする。
    20~30年で「経済力で日本は中国に追い抜かれる」とさわいでいる人々は為替レ-トを考慮していないのである。このような言動に惑わされてはいけないと言うことであろう。

  • 過去の日本の経済成長の過程では何度も試練があった。循環的な不景気を除いても、オイルショックや度重なる「円高」で経済は何度も落ち込んだのである。ここまでやってこられたのも、これらの試練をなんとか克服できたからである。
    いま経済成長が目覚まし中国やASEAN諸国はこれまで目立った試練を受けていない。今後、このような試練に遭遇しても、それを克服していけるかが問題である。実際、現在、タイ経済はピンチを向かえている。今回のことは、タイ経済がさらに成長を続けていけるかの試金石でもある。
    タイ経済の不調の原因の一つに、為替水準がこれまで円安で推移していたことも影響していると考えられる。これによってタイの経常収支の 赤字の拡大を加速させたのである。アジアにおいては、日本の経済動向の影響は、我々日本人が思っている以上に大きい。
    これらの地域の経済発展を日本の高度経済成長期のそれに擬せられることがあるが、そのパタ-ンはまったく違う。日本の場合は、資本も技術もほとんど自前であった。たしかに技術については、オリジナルは欧米のものであっても、日本はそれを自分の技術として消化していたのである。また、戦前からの技術の蓄積もあった。有名な話は新幹線である。この技術の多くは戦前の「満鉄」から引き継ぎ発展させたものであった。技術は短期間に蓄積できるものではない。一つの技術を次の後継者が引き継ぎ、さらにこれを発展させて行かなければ技術の蓄積はできない。
    現在経済成長が目覚ましい国々は、外国から技術付きの資本を積極的に受け入れて成長している。しかし、経済が一旦つまづいた場合、自力でこれを克服できるような技術の蓄積はまだない。中国も例外ではない。例えば、前述したように中国には持続的な経常黒字があり、これが「元」の為替切り上げの圧力になった場合には中国はピンチをむかえる。「元高」はコストのアップを意味する。これに対処するには、より付加価値のある製品を作るようにしなければならないが、これにはそれに応じた技術が必要である。もし自分にこの技術がない場合には、他の先進国から移転してもらわなくてはいけない。しかし、必ずしもこの移転を受けられる保障はない。技術もより条件の良い国を求め移動するからである。

  • このように成長著しい国々にも、色々な問題が起こるため、一直線の経済発展と言うものは無理である。それまでにどれだけの技術を蓄積できるかがポイントと考えている。資金より技術力が重要と筆者は考える。単なる資金の流入は、経済成長をうながすが、それは不動産の価格を上げるだけで終わる可能性もある。
    中国はようやく成長段階に入ったばかりである。それなのに直ぐにでも先進国に追い付くと言う論者がいるが、これらの人々は勘違いしているのである。
    中国については、決して過小評価するわけにはいかないが、過大な評価も禁物である。来週号では中国を過大評価しているのか、これらの地域に多大な資金をつぎ込んでいる邦銀の行動について述べたい。



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97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」