平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/11/5(第229号)
中国通商問題の分析(その1)
  • 中国との通商問題のポイント
    最近、色々なマスコミが中国との通商問題を大きく取上げ始めた。以前なら、マスコミの取上げ方は、単に、中国が急速な経済発展していることを紹介していたに過ぎなかった。「中国の経済成長はすごい」と言う話である。しかしこれが日本にとっては大きな問題となると言う感覚ではなかった。たしかに筆者もしばらく前までは、中国の経済発展が、これほど日本にとって問題になるとは考えていなかった。産業の空洞化の問題は、以前からくすぶっていたが、これも限度があると安易に考えいた。ところが産業の空洞化どころか、自由貿易を前提にすれば、このままでは世界の製造業が全て中国に集中する可能性も出てきたのである。

    以前、中国ビジネスと言えば、「中国人が一人一本のコーラを飲んだら12億本のコーラが売れる」と言うイメージであった。つまりとてつもなく大きい人口を相手にした商売が、中国ではきるのと言う話である。しかしこのような安易な考え方のビジネスは、「ヤオハン」の破綻が示すように、あまり成功していない。今日成功しているビジネスモデルは、先進国が技術と資本を中国に持込み、賃金が日本の20分の1と言う労働力を使い大量に製品を作り、それを自国や海外の自社の販売ルートに乗せ、売捌くと言うものである。いわゆる「ユニクロ」方式である。品質も国内生産品とほぼ遜色がなく、コストがべらぼうに安いことから、極めて価格競争力が強い。

    以前は、中国製品と言えば、雑貨や繊維製品が中心であった。墓石は中国で作っていると言う話は昔からあった。今問題になっているタオルも以前から中国製が多かった。浴衣の95%は中国製と言う話を最近聞いた。これらも全て「ユニクロ」方式であったが、これまではあまり注目されていなかった。しかしこの「ユニクロ」方式が、デジカメやプリンターと言ったハイテク製品まで及んできたのである。これらのメーカは、最新の技術を中国に持ち込み、大量生産を行う工場を中国に建設、あるいは生産委託するようになった。

    キャノンは大きな最新鋭のプリンター工場を中国に作り、他にも国内の工場を全て閉鎖し、生産部門を中国に全面移転するところが続いている。これらの世界のライバル企業の中国への生産部門の移転は、大きな流れとなっている。したがってこれらの企業との価格競争に負けないためには、自分達も中国に進出せざるを得ない立場に置かれている。また日本の大手電機会社などはハイテク不況で、全て大きな赤字決算である。これらの企業群が中国進出の次の予備軍である。つまり国内の生産拠点をどんどん整理し、中国に生産拠点を移し、価格競争力をつけるのである。


    マスコミは中国との通商問題を取上げ始めたが、どう言う訳かポイントが完全にズレている。中には「中国の脅威」論はナンセンスであり、中国との協調が大切と言う経済評論家がいる。
    たしかに今日「一企業」にとっては、中国で生産を行うことはたしかに今のところメリットがある。しかし一国の経済とっては、話は全く別である。日本国内では人手が不足して、生産が間に合わないから中国で生産し、それを逆輸入すると言う話ではない。失業者が溢れている現在、さらに日本国内の工場を閉鎖し、中国に生産拠点を移転しているのである。そしてこの流れが加速している。これが「脅威」でなくて何であるのか。

    さらに最近では、中国に進出した外資系の企業から技術が中国企業に移転し、これらの中国企業も競争力を持つようになった。たしかにこのような流れが、中国の当初からの「改革・開放政策」の狙いであったはずである。しかし今日、日本にとって問題なのは、中国に進出した日本企業の逆輸入品である。
    教育が行き渡り、労働者の生産性が増し、中国では高度な産業を受け入れる素地ができていることは理解できる。しかしこれだけで世界からの企業の進出ラッシュが起ったのではない。

    世界からの企業の進出ラッシュの原因は、何をおいても人件費が信じられないほどの安いことである。物の価格の構成は利益と人件費である。つまり人件費が安い中国での生産工程の割合が大きいほど、安く製品を製造することができる。そして中国の人件費が極端に安い原因としては、多くの失業者の存在や、経済発展が遅れている内陸部からの出稼ぎ労働者の存在が指摘されている。

    しかし本誌01/5/28(第209号)「中国との通商問題」、01/6/4(第210号)「中国の為替政策」で述べたように、中国の人件費が極端に安い要因はこれらだけではない。忘れてはならないのは、購買力平価から大きくかけ離れた「人民元」の為替レートの設定である。反対に購買力平価より常に高く推移しているのが「円」である。両者の間の格差は実に6倍にもなっている。1元は今日15円であるが、実際のその使いで(価値)は6倍もある。つまり1元の本当の価値は90円である。したがって労働者の賃金は20分の1と言われているが、元の使いでを考慮すると3分の1から4分の1くらいである。

    最近、テレビで中国の様子が取上げられ、物の値段が出てくる。たしかにため息が出るほど安い。しかしこのような時には、筆者はいつもそれらの金額を6倍に換算してみる。6倍くらいにすると不思議と納得する値段になる。先日もテレビ番組に「水晶麺」と言う、中国でもけっこう名が知れているらしいラーメンが登場していた。スープは十種類以上のダシを使った贅沢なラーメンである。その値段が日本円で80円である。客はどうも一般大衆と言うより、企業の経営者など地元の金持が多いようである。一見安いように思われるが、これも6倍すると480円となり、日本のラーメンの値段とあまり変わらなくなるのである。他にも中国の国防費やオリンピック施設の建設費なども6倍に換算してみると納得する金額となる。

    しかしこの肝腎な「為替」の問題を真面目に取上げている記事をほとんど見かけたことがない。本当に人件費が日本の20分の1であるなら、中国の人々の生活はもっと悲惨なもののはずである。決して中国人の生活はそのような低いレベルではない。中国の一般的な人々の暮らしぶりは、実質的な賃金水準をもとに判断するなら、おそらく日本の昭和45年から50年くらいのものと同じ程度と推察される。
    また購買力平価で換算すれば、GDPは既に世界で第二位(日本は第三位)である。さらに米国と中国の成長率の差がこのまま推移すれば、中国のGDPは12年から13年後には、購買力平価換算で世界一になる。
    為替の実質的な格差は、一人当りの実質所得の比較にも影響がでる。日中の購買力平価の比率が現在のままならば、中国の一人当りの所得が日本の3分の1になった時には、実質的には日本の倍の所得になる。ただし中国では外国製品が高く感じるだけである。


    マスコミは、日本における産業の空洞化を、しばしば「生産拠点がアジアに移転した」からと表現しているが、これは正確ではない。正しくは「中国に移転した」である。たしかに以前は中国以外のアジア諸国に進出した企業も多かったが、最近は、これがどんどん中国に再移転している。先週号で述べたようにマレーシアの人件費は中国の二倍である。これではマレーシアは中国にとても太刀打ちできない。これも異常な元の為替水準のなせる技である。

    中国経済は日本にも失業増と言う形で影響を与えている。しかし中国経済膨張の悪影響は、日本だけに及んでいるのではない。むしろASEAN諸国や韓国、台湾の方が深刻と言える。これらの諸国のこれまでの経済発展は、独自の技術と言うより、先進国からの技術移転で達成されたものである。したがってこれらの国での生産コストが中国より高くなれば、さらに中国への外資系企業の中国移転は進むはずである。そして中国以外のアジアの国から生産拠点を中国に移す日本企業には、かなり大きな除却損が発生することになる。ASEAN諸国にある生産拠点を、中国に移さないで現状のまま維持できるかどうか難しい。なにしろ人件費が中国の二倍では競争にならないのである。

    ところでこれらの国も同様に、為替レートを大幅に切下げれば中国に対抗できるのであるが(実際インドネシアルピアのようにかなり下がっているケースもある)、現実的にはこれがまた難しい。これらの国の全ての国民が直接中国経済の脅威にさらされている訳ではない。そして自国の通貨が安くなれば、輸入品がそれだけ高くなり、消費者から不満が出る可能性が強い。これらの国は民主化が進んでおり、生産業界だけに顔を向けた政策が難しいのである。したがって通貨を切下げると言っても限度がある。一方、中国は中央集権の国であり、政府が適当に通貨の交換レートを決めることができる。特に中国は基本的には自給自足の社会で、輸入品は一種の贅沢品であり、一般庶民にとって元々縁が薄い。

    はっきり言って中国は世界経済にとって問題児である。社会主義国家の崩壊と言うハプニングによって、このような国々が世界経済に登場することになった(アジアでは中国が問題になっているが、西欧では中国に加え、東欧の旧社会主義国が同様に問題になると予想される)。これまでWTOなどによって、世界の貿易秩序を作っていこうとしていたところに、中国など、全く異質な国が大きな存在として登場してきたのである。そして中国は、WTOが全く想定していない、完全な保護主義的な政策を為替を使って行っているのである。関税や補助金だけではなく、為替政策によって完璧な保護貿易を行っているのである。


  • 日本と中国の運命的な対立
    以前本誌で触れたが、日本、中国そして米国の経済分野の関係は微妙である。マクロ経済の観点からは、日本と中国は似ている。両国とも過剰貯蓄の傾向にあり(消費過剰の国が多い中で、両国の経済はめずらしい体質である)、慢性的に消費が不足しがちである。一方、米国は過剰消費の国である。したがって日本と米国の間では、過去に貿易摩擦があっても何とかやってこれた。同様のことは中国と米国の間にも言える。これまで日本と中国は、生産物を米国に輸出することによってマクロ経済の均衡を保とうとしてきたのである。

    先ほど述べたように、日本と中国の経済は同じような体質(過剰貯蓄による過少消費)にある。ところが、日本と中国の貿易は、中国からの日本への一方的な製品輸出と言う形である。これはかなり無理な現象であり、このような状況が長く続けば、日本経済に壊滅的なダメージを与えることは必至である。たしかにこれまでは金額的にも目立たなかったし、日本も大きな貿易黒字を持っており、特に問題にしてこなかった。しかし中国からの輸入が急ピッチに増え、金額も大きくなっている。当然、日本国内の雇用には、これによるはっきりとした悪影響が出ている。

    日米と中米は、今後も補完的な関係であり、直ぐには決定的に悪くなると言うことはないと思われる。しかし同体質である日本と中国の間の関係が、近い将来(既にかなり悪くなっていると言う見方もある。東京では分らないだけかもしれない)相当悪くなることは「必然」である。セーフガードの発動はこのような事態の前触である。

    日中の間の摩擦は、もっと前から問題になっても不思議はなかった。しかし米国の景気が長らく良かったため、両国とも米国への輸出を安定して行うことができ、両国間の問題がよく見えなかっただけである。しかし米国の景気が急速に悪化し、日本政府が緊縮財政に転換したため、両国間にある矛盾や対立点が表面化したのである。


    中国が何もやっていない訳ではない。公共投資を増額し、農業への補助金を出し、内需拡大政策を行っている。また連休を増やし、消費の喚起を促している。しかし今年になって、連休でも消費が伸びない状況になっている。つまり日本だけでなく、中国や米国までもが、国民は消費を抑え、貯蓄を増やしているのである。このような状況が続けば、日本と中国の関係が決定的に悪くなるのは目に見えている。

    しかし日本の政治家にはこのような認識が欠落している。日中友好と言うお題目を唱えていれば良いと言うものではない。自民党の加藤紘一氏などは「日本は米国との同盟関係だけではなく、中国との間でも同じような同盟関係が必要」と言っている。この人物は全く経済を理解していないのである。日米の同盟関係は決定的に重要である。このことははっきりしている。米国は日本の製品を買ってくれるお得意様だからである。しかし同じ経済の体質を持つ中国との間では、今後衝突は避けられない。同盟関係なんてできるはずがない。したがって日本と中国との付合いは、このような重大な対立点があると言うことを踏まえて行っていく必要がある。


    中国からの逆輸入品との競争で、日本の生産現場はどこも大変である。山陰のある携帯電話の組立工場では、生産工程を色々工夫し、コストを10%、20%削る涙ぐましい努力を日夜行っている。競争に負ければ働き場がなくなるからである。ところがどれだけ努力しても、価格の面で中国からの逆輸入品には勝てない。これまでは少なくとも新製品だけはまず日本で作っていたが、コストを考えると、これからは新製品も中国で生産することになったと言う。このような状況では、この山陰の工場の存在が危ぶまれる。為替操作で、中国の元が実際の6分の1に維持されている以上、とても中国製品とは競争にはならないのである。

    ところが日本のマスコミや経済学者は、為替のことには言及せず、日本の高コスト体質が問題と言っている。流行りの構造改革を行って、コスト下げ、競争力を回復しろと「ボケ」たことを言っているのである。中国のめちゃくちゃな為替政策が、日本の生産現場の合理化努力を全部無にしていることを何故指摘しないのであろうか。製造する製品によって両国で「住み分け」と言う意見もあるが、これだけ為替の価値に大きな開きがあれば、それも不可能である。そして何も手を打たなかったなら、そのうち日本の製造業は根こそぎ抹殺されるはずである。

    経済産業省に「中国対策室」と言うものが設置された。特定の国に対する対抗策を策定する部署ができると言うこと自体が異例である。日本政府も中国との貿易関係が難しくなることを覚悟しているのであろう。



来週号では、今日の世界情勢を前提にすれば、自由貿易主義者の主張が全く実現する可能性がないことを指摘したい。むしろこの自由貿易主義者のような考えの浅い人々の単純な考えが、かえって世の中を混乱させているのである。中国との通商問題の解決には、もっと深く中国経済を分析する必要がある。

ユニクロの売上が減少している。製品があきられていると言う面もあるが、同業者が同じように中国で製品を作り始め、製品を日本に持込むようになれば、このような結果になることは見えている。ユニクロに特別の技術やノウハウがある訳ではない。また中国での大量の製品製造を行い、これを国内の自社の販売ルートに乗せて売捌くと言う方式も、以前述べたように元々米国のディスカウトストアーがやっていたことである。誰でもマネができるのが「ユニクロ」方式である。つまり「ユニクロ」方式でいつまでも利益が確保される保障はないのである。


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01/10/29(第228号)「経済政策の科学性」
01/10/22(第227号)「9月11日の以前と以降」
01/10/15(第226号)「カルロス・ゴーンと上杉鷹山」
01/10/8(第225号)「金融の量的緩和の終着駅」
01/10/1(第224号)「金融の量的緩和」
01/9/24(第223号)「「インフレ目標」と「調整インフレ」」
01/9/17(第222号)「対中国、WTOの特例保護措置」
01/9/10(第221号)「「生産性」と「セイサンセイ」の話」
01/9/3(第220号)「今日の日本経済の諸問題」
01/8/6(第219号)「支離滅裂な構造改革派」
01/7/30(第218号)「日本は建前の国に」
01/7/23(第217号)「日本を滅ぼす松下政経塾」
01/7/16(第216号)「戦略的パートナシップ」
01/7/9(第215号)「Let it be !」
01/7/2(第214号)「日本における起業」
01/6/25(第213号)「小泉政権の構造改革」
01/6/18(第212号)「需要があっての経済成長」
01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」
01/6/4(第210号)「中国の為替政策」
01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
01/3/19(第200号)「与党の緊急経済対策」
01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
01/3/5(第198号)「公共投資の経済効果」
01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
01/2/19(第196号)「日本の経済政策の方程式」
01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
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