平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/10/8(第225号)
金融の量的緩和の終着駅
  • ベースマネーとマネーサプライ
    先週号で、今日の日本では金融の量的緩和が実態経済にほとんど影響がないが、土地・株・債券などの資産価格には影響を与える可能性を示唆した。実態経済にあまり影響がないことは、統計数値の推移でも確認できる。

    統計の上のベースマネー(マネタリーベース)は、正確には現金(補助貨幣を含む)+金融機関の日銀に持つ当座預金口座残高である。この数値は日銀が、債券や手形の売買を通じて直接的に操作ができる。本来、このベースマネーを操作して経済実態に影響を与えるのが中央銀行としての日銀の働きである。そしてベースマネーを「1」増やした場合、民間に何倍の資金が貸出されるかが信用創造倍率である。しかし日本ではこの数値がほとんどゼロに近いのである。つまり日銀の金融機関の当座の残高が増えても、この余剰資金は貸出ではなく、そのまま積み上がったままか、そうでなければ国債の購入に充てられいるのが現実である。この国債を日銀が買上げ、また日銀の金融機関の当座に振込まれる。この繰返しである。

    日銀の操作目標には、もう一つ「マネーサプライ」がある(正確には操作目標だったことがある)。これは民間(法人・個人)と公共団体の持っている資金(現金と預金)である。つまり日本に存在する全資金のうち金融機関の持分を差引いたものである。これがM3であるが、統計上は、M3から郵便局・農協漁協・労働金庫・信用組合への預金を除いたM2が使われる。おそらくこれは、郵便局などが旧大蔵省の管轄ではなかったことが影響しているのであろう。統計上のマネーサプライはこのM2にCD(譲渡性預金)を加えたものである。

    マネーサプライは、実態経済に影響を与えたり、逆に実態経済から影響を受ける。つまり民間の経済活動が活発になれば、銀行からの借入が増えたり、所得が増えたりしてこのマネーサプライも大きくなる。またマネーサプライが増えれば、金回りが良くなり、経済活動も活発になる。

    昔、マネタリストの理論がはやり、影響力があった時代、このマネーサプライを日銀の操作目標の一つにしようとした。ベースマネーを操作することによってマネーサプライを間接的に操作し、最終的に実態経済に影響を与えようと言うのである。つまりマネーサプライは中間操作目標値と言うことになる。ところが日本では、このマネーサプライを操作することはほぼ不可能と言うことが分り、このアイディアは挫折した。これは70年代の話であるから、30年近く前のことである。


    次の表は、ベースマネーとマネーサプライの最近の統計数値の推移を示している。
    日本のマネータリーベースとマネーサプライ(平残前年比%)
    ベースマネーマネーサプライ
    98年度7.43.7
    99年度9.83.2
    00年度3.82.2
    00年10月5.32.1
    11月5.72.1
    12月▲1.12.2
    01年1月▲5.62.4
    2月3.42.7
    3月1.22.6
    4月1.42.5
    5月5.12.9
    6月7.63.2
    7月8.03.3
    8月9.03.4


    この表を見る限り、日本のマネーサプライの動きとベースマネーの動きはほぼ不規則と言える。たしかにベースマネーの増加が、ストレートにマネーサプライを増やすと言うことはないようである。しかし今年の4月以降の両者の動きは、少なくとも同じ方向となっている。これには3月以降の金融の量的緩和が多少なりとも関係しているのか判断に迷うところである。しばらくは両者の数値の推移に注目したい。


    日本では銀行が本当に貸出を増やしたい企業は、自前の資金を豊富に持っていたり、資本市場から直接資金を調達する。反対に貸出を絞りたいような業績に問題のある企業が借りにくる。つまり銀行にとって都合の良い貸出先は限られているのである。このことはバブル期以前から既に顕著になっていたことであり、最近始まったことではない。

    したがってこの日本の銀行の貸出状況では、日銀がベースマネーをどれだけ増やしても、銀行から先の一般の民間への貸出は簡単には増えない。つまり資金に窮して銀行が貸出を増やしていないのではない。むしろ今日のような金融緩和は、バブル期に見られたような土地や株式などの資産への資金の流れを助長する傾向が強い。つまり結果としてベースマネーが増えても、一般企業への貸出はそんなに増えないのである。

    9月は、特に同時テロや株安対策、さらに期末越の資金需要に備え、大幅に金融を緩和した。この結果、9月の月中の平残ベースのベースマネーは、対前年で14%も増加した。これがどれだけマネーサプライの増加に効果があり、実態経済に影響するか注目される。


  • 国債バブルのリスク
    随分前から本誌で筆者は、今日の政府の経済政策を前提にすれば、日本でちょっと考えられない(絶対にないと断言しても良い)ことが二つあると主張してきた。一つは「国債の暴落」であり、もう一つは「ハイパーインフレーション」である。そして両者ともそれ以降起っていないし、その徴候もない。むしろ国債価格は上昇ぎみで、国債利回りは低下傾向である。物価も安定と言うより、下落しており、その下落幅が大きくなっている。

    たしかに通常の国が、今日の日本のように大量の国債を発行すれば、「国債の暴落」や「ハイパーインフレーション」の原因になる。しかしこれはあくまでも教科書の記述である。しかし日本では、エレメンタリーな経済学の教科書では到底想定していないような事態が進行しているのである。日本では、政府が国債を増発して、需要を補填している以上のペースで貯蓄が増えている。これでは「国債の暴落」や「ハイパーインフレーション」が起りようがないのである。かりにもし金利が上昇するほど資金需要が出てきて、そして物価上昇するほど経済活動が活発になれば、政府も国債を増発して景気対策を行う必要性もそれだけ小さくなるはずである。

    しかし国債は暴落すると言って回り、人心を惑わす人物が必ず出現する。国債が大暴落すると言ういい加減な話を書き、これが実際に起るようなことを言っている小説家もよくマスコミに登場する。一年前にも「国債は暴落する」と言う特集を組んだ「日経ビジネス」は、今日でもまた国債は暴落すると言っている。この雑誌の編集者は現実の経済を勉強すべきである。「デフレ経済下で長期金利が高くなったら大変」と訳の解らないことを言っている。デフレ経済下でどうして金利だけが上昇すると言うのだ。

    今日の状況では、国債価格が一時的に下落することは十分あり得る。特に国債取引の参加者が少ない日に、突発的な出来事があったような時にはこのようなことが起りやすい。しかし今日の金融市場の資金状況を見れば、国債価格がそのままどんどん下落する事態は絶対に考えられない。

    もし利回りが3〜4%にもなるように国債価格が下落する事態が発生すれば、銀行はどのような有力企業への貸出であっても、それらを引上げて喜んで国債を買うであろう。人々も国債を買うために長い列を作るはずである。また国債が暴落すると言うことは、国債を持っていた者が多量に売ることを意味する。しかし国債を売って得た資金も、今日の日本では次の使い道がない。したがってまた国債を買う他はないと言うのが今日の日本経済の実状である。


    日銀がさらなる金融緩和の一環として、ベースマネーの供給を増やす政策を続けた場合の経済効果を予測するのは難しい。前段で述べたように日本では実態経済に及ぼす影響は限られると思われる。このことは今日行われている金融緩和の効果を観察すれば判るはずであり、結論はすぐに出るはずである。少なくとも日銀の主張しているような「ハイパーインフレーション」と言う事態は絶対にない。だいたい日銀は矛盾したことを平気で言っている。ベースマネーをどれだけ増やしても、マネーサプライは増えず、実態経済には影響はない(筆者は少しはあると思うが、日銀の主張に近い)と言っている。それなのに「ハイパーインフレーション」が起り、一般の消費者物価がどんどん上がるとはどう言うことなのであろうか。

    これは本誌でも何度も言っていることであるが、日本経済は物価が上昇しない体質に随分前から変わっている。最近もこの傾向はますます強くなっている。またバブル景気のピーク時の90年度でさえもわずか3.3%しか上昇していない。これでどうして金融を緩和したくらいで、「ハイパーインフレーション」が起るのか日銀に聞いてみたいものである。とにかく日本には「国債の暴落」説や「ハイパーインフレーション」説を説いて回り、人々を脅かすことを職業としている人々が沢山いるのである。そもそも「国債の暴落」や「ハイパーインフレーション」が起りそうもないと言う日本経済の体質が、日本経済が長いスランプから脱出できない大きな原因である。


    筆者は、大幅な金融の緩和を続けることは、前段で述べたように別の方向に影響を及ぼすと予測している。一般物価の上昇ではなく、資産価格の上昇である。具体的には土地・株・債券の価格の上昇である。

    まず土地である。全国的には地価は依然下落を続けている。しかし都心の一部では少し地価が上昇するポイントが出現している。以前、橋本政権の時にも一時地価下落がストップするような気配を見せたことがあった。しかし金融不安の勃発と急速な景気後退で、各企業が土地の処分を急ぎ始め、逆に地価はさらに下落した。

    今回ははたして、地価上昇のポイントが順調に増えていくかどうか注目される。地価の上昇は銀行の不良債権問題の解決には良い傾向である。しかし経済実態がこれから悪くなるのに、金融緩和だけでこれ以上の地価の上昇を実現できのるか疑問のあるところではある。しかしたしかに「都市再生銘柄」と言うことで、不動産会社や東京に大量の土地を持つ企業の株価が最近上昇している現象は注目される。

    金融緩和は株価にもプラスである。景気の後退と同時テロの発生で、各国とも対策としてかなりの金融緩和を行っている。たしかに同時テロ発生時は、株価下落はさらに速度を速め、日経平均も8,000円台突入を予想する向きもあった。実際、さらなる下落を見越し「カラ売り」をかけていた人も相当いたはずである。しかし日経平均も10,000円台を回復しているように、ここにきて株価は持ち直している。したがって売り方は相当損を抱えているはずである。

    株価回復は政府関係資金の出動、つまりPKOのせいと言っている人もいるが、やはり世界的な緊急金融緩和の効果が大きいと考える。米国の株価が落着き、これが他の国の株価を支えているのである。問題は、金融緩和をこれ以上続けた場合、はたして株価がさらに上昇するかと言うことである。実態経済の不振は続いており、はっきり底が見えない。特に日本の場合には深刻である。米国経済が回復すれば、日本良くなると言う単純な意見も多いが、米国経済が悪くなる前から日本はずっと不調である。したがって米国経済が回復しても、日本経済だけはさらに悪くなる事態もあり得る。このような状況では、金融緩和が続くとしても、株価だけが上昇すると言ったことは考えにくい。

    このように大幅な金融緩和は、土地と株には一定の効果は予想されるが、バブル期のようなこれらの高騰を生むとはとても考えにくい。つまり金融緩和をどんどん進めることによって、市場には余剰の資金が溢れる。一部は土地や株に流れることが考えられるが、実態経済が悪いので、これにも限度があると言うことである。さらに海外へ投資も、世界的な不況で、良い投資先がない。唯一景気の良い中国も、莫大な不良債権を抱えており、リスクが大きい。さらに中国一国ではあまりにもパイが小さ過ぎる。したがって消去法で残るのは、この余剰資金が債券、特に国債に流れることである。

    つまり現在行われている金融緩和をさらに進めれば、「国債の暴落」とか「国債市場の崩壊」どころか、国債の暴騰、つまり利回りの急低下の可能性の方が大きくなるのである。
    本来、利回りの低下、つまり長期金利の低下は実態経済にプラスのはずである。しかし今日でも既に低金利が続いているにも拘わらず、企業への貸出は増えるどころか減る一方である。これは銀行の貸し渋りと言うより、企業の資金需要がそれほどまでに後退しているからである。個人の借入による住宅を購入もほぼ限度まで来ている。このような状況では、さらなる長期金利の低下も、それほど実態経済に影響があるとは考えられない。

    むしろ筆者が危惧するのは、国債価格が高騰し過ぎた場合のリスクである。国債の価格がどんどん上がれば、いつの日にか暴落すると言うリスクを抱えるのである。以前なら1.7%の宮沢シーリングと言うものがあり、かなり長い間1.8%くらいの水準で安定的に推移していた。しかしこのシーリングを一旦越えてからは、国債価格の変動は大きくなっている。つまり国債価格の推移が不安定になっている。利回りは1.1%から1.5%の間でかなり大きく変動している。

    市場に余剰資金がだぶつき、これがどんどん国債に向かえば、利回りが1.0%を大きく割込む事態が考えられる。そうなれば日本は新たな国債バブルと言うものを抱えることになるのである。そしてこのような状況になれば、また「国債の暴落」とか「国債市場の崩壊」すると言うウンザリするような連中がまたはりきり出すことが目に見えている。彼等の主張がまた政府の財政政策の足枷になるのである。


    自民党の舛添要一氏のグループも主張を変えている。当初は日銀の金融緩和だけを言っていた。つまり効果が上がるまで、どれだけでもベースマネーを増やせと言っていたのである。しかしベースマネーの増加だけは実態経済は動かないと言うことに気が付いたのか、その次には日銀が土地などを買えと変わった。政府が基準を作るから、これに沿って日銀が土地などを買い上げろと言うのである。あまりにも荒唐無稽なので誰にも相手にされないようなアイディアではある。しかしはからずも今日の日本経済のスランプ脱出には、金融緩和だけでは無理と言うことだけは認めたことにはなる。

    舛添要一氏に限らず、今日声が大きい人々は国債発行額の30兆円の限度に縛られている。つまりこれ以上の財政出動は行わないと言う前提で話をしている。しかし実際のところ、今年度は税収が想定より相当減るので、このまま財政支出を追加しなくとも、とても国債発行額の30兆円の限度を守ると言うことは無理である。したがって「30兆円」と言う数字は何の意味もないのである。どうしても30兆円に抑えるのなら既に承認されている今年度の予算を大幅に削減する必要がある。補正予算どころの話ではないのである。それなのに30兆円にこだわると言う奇妙な空気が世の中に蔓延している。全く合理的ではない、まるで「宗教の世界」である。



本来なら、次は筆者が考える「インフレ目標」政策・「調整インフレ」政策を述べるべきところであるが、これについてはもう少し後にしたい。世の中の流れがあまりにも逆方向で、筆者の意見が宙に浮いてしまうからである。そして来週号では、企業の経営と国の運営の決定的な違いをテーマとして取上げることにする。

同時テロの発生もあり、政府の関心は経済から離れている。そうでなくともこの半年の間、政府はほとんど何の経済政策も行っていない。日銀にさらなる金融の緩和を求めたくらいである。つまりほとんど傍観者と同じである。

ただ竹中経済財政担当相がやたらテレビに出て中味のない話をしている。彼は「財政赤字が子々孫々の負担になり、財政再建が最も重要」といつもの主張を繰返している。子々孫々のことよも現実に生きている人々の方が大事であろう。さらに「子々孫々のためにと言った財政再建策」がさらに財政赤字を増やし、子々孫々の負担を大きくしている現実から目をそらしている。


普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


01/10/1(第224号)「金融の量的緩和」
01/9/24(第223号)「「インフレ目標」と「調整インフレ」」
01/9/17(第222号)「対中国、WTOの特例保護措置」
01/9/10(第221号)「「生産性」と「セイサンセイ」の話」
01/9/3(第220号)「今日の日本経済の諸問題」
01/8/6(第219号)「支離滅裂な構造改革派」
01/7/30(第218号)「日本は建前の国に」
01/7/23(第217号)「日本を滅ぼす松下政経塾」
01/7/16(第216号)「戦略的パートナシップ」
01/7/9(第215号)「Let it be !」
01/7/2(第214号)「日本における起業」
01/6/25(第213号)「小泉政権の構造改革」
01/6/18(第212号)「需要があっての経済成長」
01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」
01/6/4(第210号)「中国の為替政策」
01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
01/3/19(第200号)「与党の緊急経済対策」
01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
01/3/5(第198号)「公共投資の経済効果」
01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
01/2/19(第196号)「日本の経済政策の方程式」
01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
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