平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/10/1(第224号)
金融の量的緩和
  • 「インフレ目標」「調整インフレ」政策の功罪
    今週号は、まず読者の方からのご意見の紹介から始める。ご意見の要旨は、「インフレ目標や調整インフレ政策は貯蓄者から、債務者への所得の移転させることを意味し、不公平な政策である。このようなことを政府が行おうとするのは理不尽」である。たしかにこの経済政策を部分的に見れば、その通りである。

    ところで政府が行う経済政策の目標となる項目は多岐に渡る。大きなものでもいくつもある。「失業をなくすこと」や「国際収支の改善を図ること」。さらに「社会福祉の増進」や「社会資本の整備」も政府の仕事とされる。また「過度の所得格差の是正」や「新産業の育成」も政府が行うべき政策とされる場合もある。この他では「為替の安定」や「物価の安定」も国の政策に含まれるであろう。

    国の経済政策の目標はこのように様々である。そこで困ることは、一つの政策目標を実現しようすると、これが他の政策目標の実現を阻害する事態がしばしば起ることである。たとえば分かりやすい例としては、予算額が一定の時「社会福祉」と「社会資本の整備」のうちどちらを優先するか選択を迫られる場合がある。

    結局、政府が将来の見通しを踏まえ、さらにその時の世論の動向を見ながら、優先する政策を決めることになる。たとえば失業がより大きいな「悪」と見なされる社会がある。今日の日本はこれに近い。まず失業をなくすためには経済成長が必要となる。そして経済成長にはどうしても物価上昇が避けられないと言うことはありうる。実際、経済成長と物価の安定を同時に達成することは難しい。したがって物価の安定をある程度犠牲にしても、経済の成長を優先する政策が行われることは、決して間違った政策とは言えないと筆者は考える。

    日本は民主国家である。前述したような政策がもし間違っていると人々が考えるなら、そのうち政権が交代し、別の政策が行われることになるだけである。実際、今日の日本経済のマイナス成長と言う異常事態は、様々な悪影響を社会に及ぼす。失業の増大だけでなく、金融機関の不良債権問題の深刻化や税収の不足などである。たしかに物価の安定は、これだけを見れば一つの良い現象である。しかしこれを多少犠牲にしても、全体ではより大きなプラスが得られるなら、そのような政策の方がより好ましいと言うことである。そこで登場した試みの一つが先週号から取上げている「インフレ目標」と「調整インフレ」と言った政策である。

    実際のところ、貯蓄者から債務者への所得の移転政策は、日本ではずっと前から行われている。低金利政策がそれである。貯蓄者の不満も強いはずである。しかし日本経済全体を客観的に見れば、過剰貯蓄が今日の一つの問題である。高度成長期には、この貯蓄が貴重であり、これが設備投資に投入され経済成長を実現させた。しかし過剰設備の今日では、むしろ消費の不足の方が深刻な問題である。

    日本経済は現在縮小均衡の過程に入っている。理論上は、日本の投資額に見合う貯蓄額になるまで日本経済の規模は縮小することになる。つまり投資がどんどん小さくなると言うことは、貯蓄がほとんどできなくなる水準まで国民所得が小さくなると言うことである。もちろん貿易の黒字や政府の投資(端的に言えば政府の赤字)があるので、そこまでは小さくならない。しかし今日のように輸入が増え続け、政府はこれ以上赤字は増やさないと言っている以上、日本経済は相当小さくなる可能性が強い。したがって失業もずっと増える。今日失業率は何パーセントと言っているが、そのうち何割と言う表現に変わることも考えられる。どうも小泉政権の人々は、誰もこのような深刻の事態を認識していないようである。

    一方、「インフレ目標」や「調整インフレ」政策により、実質の貯蓄額が毎年2〜3%減価する政策を採用することによって、このような最悪の状況が回避できるなら、筆者はそれを推進すべきと考える。さらに誤解を避けたいのは、筆者は「貯蓄額が毎年2〜3%減価する政策」が目標ではない。経済を成長させる政策を行った結果、物価が上昇しても、これが2〜3%の範囲に収まるなら許容されるのではないかと考えるのである。むしろ問題は、貯蓄額が毎年2〜3%減価する政策を行っても、経済がうまく成長しない場合があり得ると言うことである。

    政府は、これまで経済の成長を促す政策を行ってきた。しかしあまりうまく行っていない。原因は色々あるが、これらについては本誌でも何回も取上げた。ただご意見を紹介した読者の方のように物価上昇を「悪い事」と考えている人々が多いはずである。日本が抱える経済問題を解決するには、ある程度の物価上昇は避けられないと言うことをうまく説明する必要があると言うことである。
    自民党の一部に「インフレ目標」と「調整インフレ」政策を主張している人々が出てきた。彼等の考えは荒っぽ過ぎるし、主張している手法には無理がある。しかしようやくここに来て、物価の上昇を伴う政策と言う考えが出てきたのは事実である。日本においては、これはある意味で前進である。


  • 金融の量的緩和の影響
    「インフレ目標」と「調整インフレ」を言い始めたのは、山本幸三氏や舛添要一氏などのグループである。ただ彼等の考えも微妙に変わってきている。最初は、「とにかく日銀が問題だ」と言っていた。「もっと金融を緩和しろ」と言うのが彼等の主張である。これに対して日銀サイドは「金融緩和はこれまで十分やっている」と反論している。そしてこの日銀の反論に、彼等は「量的緩和をもっと大胆に行えばきっと効果がある」と言っているのである。

    ここで問題になるのが、金融の量的緩和政策である。金融政策には金利政策と資金の供給量の調節がある。公定歩合の引下げは単純に日銀の決定だけで済む。しかし市場金利を引下げるには、通常、金融機関から日銀が債券を買って、市中への資金の供給量を増やし、金利の目標への誘導が行われる。つまり金利の引下げる場合は、量的緩和が同時に行われる。ところが短期金利がほぼゼロの今日の日本では、これ以上の金利の引下げは無理である。ここで登場したのが資金供給だけをさらに行うと言う政策である。

    金融の量的緩和の具体的方法は、金融機関が日銀に持っている当座預金の残高を政策的に増やすことである。つまりベースマネーの増加である。この当座預金口座は金融機関の同士の決済に使われている。さらに金融機関の信用を維持するため、一定額(4兆円)までは預金を積み上げておく義務が課せられている。金融の量的緩和の方法は、この口座の残高が4兆円以上を維持するように、日銀が金融機関から債券を買上げ、代金をここに振込むようにするのである。この口座は当座預金であり利息がつかない。したがって口座を持っている金融機関は余剰な資金を貸出や運用に回すことになり、経済活動は活発になると言うのが量的緩和論者の主張である。

    ところで日銀は既にこの量的緩和を行っている。今年の3月の緊急経済対策の一つとして、当座預金口座の残高を5兆円にする方針を決めている。ただこれがどれだけ効果があったかどうか今のところはっきりしない。しかし大きな効果がなかったことだけは確かである。自民党の舛添氏達のグループは、もっとこの金額を大胆に増やせば効果があると主張しているのである。この金額を15兆円位に増やせば効果があると言っている。海外のエコノミストでも同様の主張をしている人々は多い。この金額を増やすことによって名目経済成長率を高めることができると言う理論もある(この理論の紹介は長くなるので割愛する)。

    量的緩和には為替介入資金の不胎化の問題も関係してくる。円高阻止のために日銀はドルやユーロを買い円を売る介入を行う。これまで日銀は介入後、供給した円資金を債券を売って回収していた。これはどこの中銀でも行っているオーソドックスな方法である。いわゆる介入資金の不胎化である。しかし以前からこれに対しては、この資金を市場に放置しておくべきと言う意見が強かった。つまり不胎化は間違っていると言う主張である。


    昨年のゼロ金利解除政策の失敗などから、当然のこととしてこのところ日銀の風当たりは強い。そして「同時テロ」に端を発する国際的な株安と金融不安に対する対策として、日銀はかなり大胆な金融政策に転換している。日銀の資金供給量の目標を「6兆円を上回る水準」と変更している。実質的には「青空天井」である。実際、現状では10兆円を越える当座預金残高になっている。

    さらにドルやユーロを買いに伴う円資金を市場に放置しておく政策を採用した。ようするに介入資金を不胎化しない金融政策への転換である。介入資金が1千億円くらいなら影響はないと判るが、1兆円を越える場合にはどうかと言うことである。とにかくこれらの政策によって、市場(日銀と金融機関の間)にはジャブジャブの資金が供給されている状態である。

    次に問題になるのが、現在の形での金融緩和の効果である。しかし日銀の主流となっている見方は、「ベースマネーを増やしても実態経済には影響がなく無駄」と言う冷めたものである。むしろ量的緩和を放っておくと将来のハイパーインフレーションの原因になると言う主張である。

    筆者は、どの国でもちょっと経験したことがない難しい経済状況に直面している日本では、効果のありそうな政策はとにかくやってみることが大切と考えている。その意味では、金融の量的緩和も一つの試みであり、実行してみることが重要である。もっともこれが現在の日本実態経済に大きな効果があるとは筆者も考えていない。この点では日銀の見解に筆者も賛成である。しかしこれが大きな効果がないことがはっきりすれば、「それではどのような政策がさらに必要か」と言う話に初めて進むことができるのである。最終的に「財政政策を伴わなければ、金融政策だけでは成果を収めることは難しく、さらに弊害もあり得る」と言う結論に早く達することが肝腎である。

    効果があるとかないとか議論することによって時間を浪費するくらいなら、思いつく政策を次々とやってみる方が良い。特に日本のように考えられないくらいいい加減な経済学者とエコノミストで溢れている国では、彼等の主張しているばかな政策でもどんどん実行してみる方が早い。

    これまでも経済を混乱させる政策や効果のない政策を結構やってきている。具体的には「減税」、「景気が後退局面でのゼロ金利解除」、「デフレ下の財政再建」などである。これからも「デフレ下の不良債権の早期処理」、「特殊法人の整理と言う構造改革」、「サプライサイドの強化」、「ペイオフの解禁」など目白押しである。これらは全て今日の日本経済にはマイナスである。しかしマイナスであることが証明されるには、実際にそのような不毛な政策が実行される必要があると言う情けない状況に日本は追込まれている。これもいい加減な経済学者やエコノミストが多すぎるからである。そう言えばこれらのいい加減な人々は、昨年の今頃は「IT革命の推進が必要であり、補正予算は不要」と強く言っていたいたはずである。「けじめ」と言うことがない日本では、どれだけ間違った主張していても、言い訳だけが達者な人々はいつまでも生き延びている。そして彼等の主張である「財政再建」政策が日本経済を危機に陥れるのは今度で二度目である。

    金融政策全般に言えることであるが、その国の置かれている状況によって、金融政策の効果は大きく異なる。たしかに同じ金融の量的緩和でも、効果が認められるケースもある。米国では2,000年問題で経済に混乱が生じることを回避するため大きな金融緩和を行った。そしてこの資金の一部が株式市場に流れ、ナスダックは大きく高騰し、史上最高値を記録した。もっともそれがピークで、それ以降2年間近く下げ続けているのである。つまり米国では、少なくとも金融の量的緩和は株式市場には影響を与えたのである。

    今日の日本では、有力企業も銀行からの融資を増やして設備投資を行うことはまれである。ほとんどがキャッシュフローの範囲で投資を行っている。むしろ企業は銀行からの借入金の返済を急いでいるのが現状である。個人もこの先行きが不透明なデフレ経済では、借入で住宅を購入に躊躇している。さらに日本の景気は下降局面に入っており、さらに同時テロの発生で米国経済が減速することがはっきりしている。このような状況では、民間の投資は増えるどころか減少すると考えるのが普通である。実際、IT関連の有力企業は、大幅な人員削減と設備投資の削減を決めている。

    つまり民間には資金のニーズがないのである。この状況で日銀が大量に資金供給を増やしても、実態経済には影響はほとんどないと筆者は考える。しかし金融の大幅な量的緩和が経済に全く影響がないかと言えば、そうでもないと筆者は考える。たしかにほとんど実態経済に影響はほとんどない。しかし問題は資産価格への影響である。筆者は、金融緩和をどんどん進めれば、そのうち資産価格の上昇を生むと見ている。具体的には、土地、株式そして国債などの債券の価格の上昇である。



来週号では、さらなる金融緩和の資産価格への影響を予想してみる。

小泉首相は、職安の年間の求人数が年間の求職数を上回っていると所信表面演説で述べている。つまり今日の失業問題の主な原因はミスマッチと言いたいようである。小泉政権の多く人々もこれに近いことを言っている。筆者は、今日言われているミスマッチのほとんど解決不能なものと(どの時代にもそのような無理な求人は一定数あった。求人を出す方も無理を承知で出している)見ている。そしてこのような求職数を差引けば、実質的な有効求人倍率は半分以下になると見ている。特に50才以上の有効求人倍率は0.1前後(地域で異なる)である。つまり高齢者にはまず仕事はないと言う状況である。

この発言から判断しても、首相には今日の深刻な経済状況の認識がない。小泉首相は、元々大蔵族では(単なる大蔵省の代弁者)あるが、経済閣僚の経験もなく、経済に本当に疎そうである。筆者は、日本においては首相は経済を理解している必要があると以前から主張している。

経済に疎い首相には、どうしても訳の判らない経済学者やエコノミストが沢山寄ってくる。このような傾向は、前の森政権の頃から顕著になっている。そしてもし彼等の意見を鵜呑みして、これを政策に取入れるとなれば、とんでもない事態になる可能性がある。


普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


01/9/24(第223号)「「インフレ目標」と「調整インフレ」」
01/9/17(第222号)「対中国、WTOの特例保護措置」
01/9/10(第221号)「「生産性」と「セイサンセイ」の話」
01/9/3(第220号)「今日の日本経済の諸問題」
01/8/6(第219号)「支離滅裂な構造改革派」
01/7/30(第218号)「日本は建前の国に」
01/7/23(第217号)「日本を滅ぼす松下政経塾」
01/7/16(第216号)「戦略的パートナシップ」
01/7/9(第215号)「Let it be !」
01/7/2(第214号)「日本における起業」
01/6/25(第213号)「小泉政権の構造改革」
01/6/18(第212号)「需要があっての経済成長」
01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」
01/6/4(第210号)「中国の為替政策」
01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
01/3/19(第200号)「与党の緊急経済対策」
01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
01/3/5(第198号)「公共投資の経済効果」
01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
01/2/19(第196号)「日本の経済政策の方程式」
01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
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