平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/9/24(第223号)
「インフレ目標」と「調整インフレ」
  • インフレ経済とデフレ経済
    この頃、「インフレ目標(ターゲット)政策」とか「調整インフレ」がよく話題になっている。「今日の日本経済の不調は、物価が下がり続けていることであり、これを是正する政策が必要」と言う主張である。物価が下がり続けているので、人々はさらに消費を手控えると言うのである。筆者は、物価が下がり続けていることだけが、消費が不振な原因ではないと考える。しかし結果的に物価を上がるような政策を行うこと事態には賛成である。

    話を進める前に「インフレ目標」と「調整インフレ」と言う言葉の意味が問題になろう。前者は、政府や中央銀行が物価上昇率の数値目標を定め、これを実現するための政策、主に金融政策を行うことである。一方、「調整インフレ」(筆者は、以前日本ではこれを生産性格差インフレの意味で使っていた記憶している)は、意図的に物価を上昇させたり、インフレ期待を刺激する政策を行うことである。したがって方策としては、金融政策だけではなく広い範囲の政策を実行することになる。しかし少なくとも戦後の世界で、意図的、あるいは積極的な「調整インフレ」を政策を行った実例を筆者は知らない。

    ところで「インフレ目標」政策はかなりの数の先進国で行われているが、これらは全て物価の上昇率を低くするのが目的である。日本のようにマイナスの物価上昇率をプラスに持っていこうと言うケースはない。多くの国は物価の上昇率の上限を3%くらいに設定している場合が多いようである。

    ところで国よって「インフレ目標」への対応には温度差があるようである。ドイツのように上昇率の上限に神経質な国がある一方、英国のように、上限だけではなく、下限にも注意を払っている国がある。英国の場合は、物価上昇率が2%を切った場合には、上昇率が小さ過ぎると考え、むしろこれ以上上昇率が小さくならないように注意を払っている。これらは戦前にインフレで国が混乱したドイツとデフレで苦労した英国の経験が夫々影響しているからと考えられる。今後、英国のユーロ参加が問題になるが、英国とドイツの影響が大きいEBC(欧州中銀)では、物価に対する対応がこのように微妙に異なる。これが英国のユーロ参加の障害になっていると筆者は見ている。

    一方、日銀では物価上昇率をゼロにすると言うことが、一応の目標となっているらしい。しかし英国のように、物価の下落率が2%を切った場合には注意を払うと言うのに比べると、日本の日銀の認識はすごく甘い。現実には、日本の物価下落率はむしろ大きくなっているが、日銀は全く気にしていないようである。本音では、いまだに物価は上昇することだけが「悪」と認識しているからである。


    世間では物価上昇が常に「悪」とみなされており、だいたいの政治家も有権者の支持をなくすと思っている。たしかに昔、日本でも物価が毎年上がっていた時代があった。当時は、庶民レベルではとにかく政府の評判は悪かった。長く政権にいた佐藤栄作首相が「栄作無策」とよく揶揄されていたことは、本誌でも以前述べたことである。このような自民党政府であっても政権交代に追込まれなかったのは、対立する社会党がイデオロギー政党であり、全く話にならない政党だったからである。

    これは物価上昇が全ての人々に影響するのに対して、デフレの悪影響の及ぶ範囲が当初は限定されるからである。さらに悲しいことに「他人の不幸」を密かに喜ぶのが人間の性(さが)である。自分さえ失業や倒産に直面しない限り、むしろデフレで物価が下がった方が良いと考える人々が結構いる。世の中にはどのように景気が悪くなっても、収入や雇用が安定している人々が大勢いるのである。

    デフレ経済が続くと、失業が増え、当然治安が悪化する。若者もろくな仕事がなく、失業がいやならフリータと言うことになる。実際、デフレの進行により、今日の日本はものすごく悪い方向に進んでいる。そして将来の日本が心配される。しかし多くの人々にとっては、やはり身近な物価上昇の方が問題と思うのである。
    ところでたとえブフレ経済が克服され、経済活動が活発になり、失業が減り賃金が上昇すると言っても、その恩恵が及ぶまでには人によって時間差がある。低所得のままで、物価だけが上昇するのではたまらないと言う人々もいる。また年金生活者のように、デフレ克服が何のメリットにもならないケースもある。

    筆者は、いずれ結果的に物価上昇を伴う可能性のある政策を日本は採用せざるを得ないと考えている。しかし誰がこの不人気なインフレ政策をあえて行うのか注目している。少なくとも今の小泉政権は、まさに逆のデフレ政策を行っている政権である。したがって人気も今のところ高い。これが逆転するには、デフレ経済が本当に悪いものであると言う認識が、国民の隅々までに浸透するまで待つ必要がある。つまり時間を要するのである。しかしこれも「急がば回れ」と言うことで仕方のないことである。


  • 金融政策の限界
    「インフレ目標政策」とか「調整インフレ」を主張する政治家のグループが現れた。自民党の一部の政治家達である。彼等はこれを主に金融政策で行おうと言っている。たしかに一年の間に、少なくとも日本の雰囲気が一変したものである。
    ちなみに昨年の今頃は、日銀の「ゼロ金利政策の解除」が問題になっていた。日経を始め、各マスコミは、「ゼロ金利政策の解除」は当然であると言う論調であった。また日銀の独立性は絶対的であり、金融政策に政治が口出しをしてはならないと言う雰囲気があった。政府の代表が日銀政策委員会へオブザーバとして参加している。しかしこれが日銀への圧力になるから、政府代表のオブザーバ参加も止めるべきと強く主張していた狂信的な大学教授もいたほどである。

    話はちょっとそれるが、今日特殊法人が問題になっており、廃止か民営化を迫られている。筆者は、世の中に存在する組織で、全く問題がない組織なんて絶対ないと考えている。問題があるからと言って、廃止か民営化と言うのはいかにも短絡過ぎる。また特殊法人改革が官僚の抵抗でなかなか進まないと言う話がある。マスコミの報道によって、人々はそう信じ込まされている。しかしこれは改革とやらを進めている側の人々が、あまりにも幼稚な門外漢であり、特殊法人の実状に「うとい」からだと筆者は見ている。おそらく官僚の初歩的な質問や疑問にも答えられないのであろう。これについては本誌でそのうち取上げることにする。

    ところで筆者は、最も問題にするべき特殊法人は「日銀」と考えているが、肝心のこれが対象になっていない。これでは特殊法人改革なんてやる意味はない。どういうわけか、改革の対象外となっている特殊法人の方が、より大きな問題を抱えていると筆者は見ている。
    金融政策も政治の責任によって行われる必要がある。具体的な方策は、日銀を廃止し、通貨庁を創設することである。これは本誌で何回も取上げたように、筆者の持論である。そして金融政策の責任を政治家に取らせることが重要である。反対に今日の日銀はどれだけ失敗をしても、誰も責任を取らない体制になっている。したがってどうしても日銀は、国民経済が犠牲になっても、自分達に都合の良い政策を行うようになる。たしかに日銀の独立性だけが強調されれば、このような事態になるのは当り前の話である。


    話を「インフレ目標政策」と「調整インフレ」に戻す。問題は、物価の上昇を伴っても、経済を活性化させるような具体的な方策である。マクロ経済政策には財政支出、減税、そして金融政策がある。財政支出だけはある程度の確実性で効果が読めるが、減税と金融政策については、その効果の大きさが各国で異なる。

    欧米では、マクロ経済政策はもっぱら金融政策であり、それでも経済が活性化しない場合は減税である。日本のように公共投資などの財政支出に頼ることはあまりない。しかしこれは欧米において公共投資の経済効果がないと言うことではない。おそらく日本と変わらないほどの需要創出効果はあるはずである。しかし日本と欧米では事情が異なっており(国の大きさ、隣国との貿易量、社会資本の充実度など)、用いる政策が違うのである。反対に日本では、減税と金融政策の効果が極端に小さく、どうしても財政政策に頼ることになる。

    しかし同じ国であっても、減税と金融政策については、その時の経済の置かれた状況の違いによって、効果が大きくなったり小さくなったりする。米国はずっと金利を引下げ続けている。たしかに金利低下によって借入余力が大きくなった個人が、住宅投資を増やし、消費を下支えしている。しかし度重なる金利低下にもかかわらず、設備投資は大幅な減少を続けている。このように米国経済トータルでは、今日金利低下は大きな効果を生んでいないのである。またこれは本誌でも以前予想していたことではあるが、ブッシュ政権の今回の減税は、大きな効果を上げていない。つまり米国も減税と金融政策があまり効果を上げない状況になってきている。

    このような現象は日本に似てきたことを意味する。筆者は、米国も日本と同様に最終的には財政出動に頼らなければならないと考えている。ちょうど同時テロに対応して400億ドルの軍事支出を決めた。今後こう言った財政の支出が増えそうである。これらがどのような経済効果を生むか注目している。


    日本経済は金利に非弾力的である。金利政策はアナウンスメント効果はあるが、実態経済にはあまり効果がない。従来は、これに続いて財政政策が行われ、金融の緩和が始めて効果を持ったのである。日本では金利の経済に及ぼす影響が小さいのは昔からであるが、近年さらにその傾向が強くなった。一般の人々も、金利の高低にほとんど影響されことなくコンスタントに貯蓄行動を行っている。金に困った人は、金利が高くても消費者金融から借りる。本来金利の動向に敏感なはずの企業も、日本では金利の動きにあまり左右されない。これは企業の関心が利益よりも、シェアーだったり企業自体の存続と言ったものであり、設備投資もこの観点が重視されるからである。

    設備投資総額に占める土地代の比重が大きいことも日本経済の特徴である。そしてこれまで日本では地価の騰落が極めて大きかった。したがって多少金利が動いても、設備投資の動向に影響を与えないのである。地価が一年で倍にもなろうと言う時に、金利が数パーセント上昇しても関係がない。地価が毎年上昇していた時には、たとえ設備投資が失敗に終わっても、土地を売却すれば利益を上げることができたのである。逆に今日のように毎年6〜7%下落している状況では、たとえ金利がゼロでも、土地購入を伴う設備投資にはブレーキがかかる。

    このような状況で、金融政策だけで本当に「インフレ目標政策」とか「調整インフレ」が実現できるのであろうか。金利は下がるところまで下がっているのである。自民党の政治家グループもこれは承知している。そこで彼等が強く主張しているのは、金融政策の中でも「金融の量的緩和」である。これは一般にあまりなじみのない言葉である。



来週号では、「金融の量的緩和」で本当に「インフレ目標政策」や「調整インフレ」が実現できるか検証してみる。

経済の状態が悪くなると、必ず日経新聞は政策提言を行うようになる。最近もまたこれ始めている。しかし筆者は、うっとうしいので止めてもらいものと本当に思っている。日経新聞の論説委員や編集委員の主張に沿った政策が続けられてきたことが、今日の日本経済の危機を招いている大きな原因である。これについては近々取上げることにする。


榊原慶応教授が最近頻繁にテレビに登場して色々発言しているが、発言の内容が非常におかしい。この人物は、官僚時代(国際金融局長、財務官)の発言は比較的まともであったが、官僚を辞める頃から言っていることがおかしくなり始めた。最近では「大型補正予算は絶対に行うな、国債が暴落する」と騒いでいる。

国債価格はかなり高い水準にあることは間違いない。これは銀行などが適当な資金の運用先がないため、国債の購入に走ったためである。長く1.8%前後で推移していた長期国債の利回りは、とうとう1.1%まで低下した。その後金融機関が益出しのために少し売却したため(株式が暴落しているため、高くなった国債を売って中間期の利益を確保しようとしているからである)直近では1.4%から1.5%にある。これでも宮沢シーリング(金融機関が貸出ではなく国債でばかり資金運用しているので金利が低下し過ぎると警告していた水準。かなり長い間この水準は破られなかった)の1.7%より低いのである。

この教授は1.5%の金利が1.7%なることさえ暴落と表現している。しかし国債の利回りは97年の金融危機には0.7%まで急落し、その後1.8%前後まで戻している。また日銀の国債の「買い切りを止める」とか「資金運用部の国債運用を減らす」と言う不規則発言で2.2%に一時的に上昇したことがある。つまり国債価格は結構これまでも暴騰・暴落を繰返しているのである。どうして1.5%が1.7%になったくらいで暴落と言うのか不思議である。今後も一時的に金利がハネ上がることはあり得るが、国債が暴落(金利が3%や4%になれば暴落と言えるだろう)と言う事態は絶対にないと筆者は考える。銀行も国債を売却してもその代金の使い道がない。したがってまた国債を買う他はないのである。

国債は株式と違い、たとえ買った後価格が下落しても償還まで保有しておれば損は最小限に抑えられる。一方、株式は償還がないうえに、無配になったり倒産のリスクがある。また国債価格が相当下がった場合には、日銀の国債の買切りの増額と言う手段がある。

筆者が榊原慶応教授の発言を問題にするのは、彼の発言が外資系金融機関の関係者と全く同じだからである。外資系金融機関の関係者は、何も日本の国益を考えて発言しているのではない。自分達のビジネスチャンスを多くしたいだけである。そのためには日本で企業が沢山整理されることが望ましい。それだけ有望な買収案件が増えるからである。そしてこの問題についても近々取上げたい。


先週号で「「米同時テロ」の決行前にビンラディン氏が、株式の売りヘッジをしており、当局が調査している」とネットでの話題を取上げた。しかしその後の報道によれば、どうも冗談のようなこの話は本当の事らしい。ネット上の話もばかにできないものである。今ネットで目につくのは今月末の企業破綻である。たしかに半年くらい上場企業の倒産がないと言う不思議な状態続いていたが、マイカルの破綻で、これから一気にくると言うことである。話題になっているのは、やはり中堅ゼネコンである(3月ピークの公共事業関連の支払いが9月末にやってくる。前金のある公共事業を新たに確保できなかったゼネコンにとっては厳しい)。また大手の生保さえも株価急落でピンチと言う話である。

このような危機的状況になっても、小泉政権は何も打つ手がない。小泉政権はまさに経済問題に非弾力的である。この政権が続く限り、日本経済は落っこちるところまで落っこちると言うことである。


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01/9/17(第222号)「対中国、WTOの特例保護措置」
01/9/10(第221号)「「生産性」と「セイサンセイ」の話」
01/9/3(第220号)「今日の日本経済の諸問題」
01/8/6(第219号)「支離滅裂な構造改革派」
01/7/30(第218号)「日本は建前の国に」
01/7/23(第217号)「日本を滅ぼす松下政経塾」
01/7/16(第216号)「戦略的パートナシップ」
01/7/9(第215号)「Let it be !」
01/7/2(第214号)「日本における起業」
01/6/25(第213号)「小泉政権の構造改革」
01/6/18(第212号)「需要があっての経済成長」
01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」
01/6/4(第210号)「中国の為替政策」
01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
01/3/19(第200号)「与党の緊急経済対策」
01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
01/3/5(第198号)「公共投資の経済効果」
01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
01/2/19(第196号)「日本の経済政策の方程式」
01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
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