平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/6/30(第22号)
  • 米株式が23日急落した。原因等については今週号の本文を読んでいただきたい。加熱した市場が急落するにはパタ-ンがあるようだ。それがよく休み明けに起こるのである。
    87年の「ブラックマンデ-」は文字通り月曜日に起こった。今回も月曜日であった。日本においても、90年の正月休み明けから大幅に急落した。たぶん市場参加者も連休中に冷静になり、相場が高くなり過ぎていることに気がつき、急に不安な心理が高まるのではないか。したがってちょっとしたことでも、それがきっかけとなり、相場は急落するのである。今回は翌日にもどしている。しかし、その戻し方が急落の前の水準に達していない。つまり相場自体が弱くなっているのだ。今後下落相場に移行する可能性が出てきたのである。
    いずれにしても、しばらくは要人と言われる方々は、土曜から月曜にかけては発言を慎重にした方が良いと考えられる。


日本の米国債保有を考える
  • 23日の橋本総理の「米国債売却」の話(コロンビア大学での講演)がきっかけで、米国株式は暴落した。米国の株式が実体以上に買われてきたことが、今回の暴落の一番の原因であろう。また現在の米国の債券市場を始め、金融市場でかなり外国勢の資金のウエイトが大きくなっているのも事実である。
    もっとも、日本政府は「米国債売却」はありえないと言う弁明を行い、翌日には株式も戻し、一件落着と言う話にはなっている。総理の狙いはなにかと言うことについては、色々説がある。「単なるジョ-ク」と言う説から「米国の円高誘導に対する牽制」「米国のおごりへの反発」までさまざまである。筆者は、2番目の「米国の円高誘導に対する牽制」が真意ではないかと考えている。マスコミの報道では、今回のサミットの場ではあまり強い対日要求はなかったと言うことになっているが、実際は「内需拡大が無理なら為替での調整しかない」と言う主旨の話が米政府から日本に伝えられているのではないだろうか。これに総理が反発し、上記のような内容で講演を行ったと筆者は考えている。
    米国債は海外からの資金による保有が増え続けている。常々筆者には、米国政府がこの動きを容認していること(むしろそれを促進しているように見受けられる)が不思議に思われ、このこと自体が今後問題になるのではないかと危惧していた。今回の混乱はまさにこのことの「さきがけ」となったのである。
    まず、この問題を考える前に米国債の保有の実態と橋本総理の講演の要旨を述べる。

  • 米国債の発行残高は、現在約5兆ドルであり、そのうち1兆5千億ドルは米国の公的基金が保有しており、この分は市場に出回らない。残り3兆5千億ドルのうち34.4%が日本などの海外勢が保有している。日本は海外勢ではトップで、3兆5千億ドルの8.5%の約2,900億ドルを保有している。英国がこれに続き、あとはドイツ、中国の順番で、中国は1.5%の約500億ドルの米国債を保有している。日本政府は外貨準備高2,200億ドルの大半を米国債で運用していると言うことなので、日本の保有額2.900億ドルの半分以上は日本政府の保有である。
    海外勢の保有額は93年の約6,000億ドルから直近の約1兆2,000億ドルへ3年ちょっとで倍になっている。米政府の赤字がそこまで増えていないので、その間、米国の投資家は米国債を売却し、その資金を新興国の投資や米株式の購入に当てていることが想像される。
    日本の米国債購入の原資は「円高阻止」のための買い介入で積み上がったドルである。日本政府は「今まで米国債を売却したことがない」と主張しているが、満期となった元本まで全て再投資していることにはならない。満期になったものについては、先週号6/23(第21号)「投機と市場を考える」の冒頭で述べたように、ドルを円転していることも十分考えられる。

  • 橋本総理の講演の要旨は次の通りである。
    1. 私(橋本総理)は過去に日本政府保有の米国債を大幅に売りたいと言う誘惑にかられたことがある。例えばカンタ-米通商代表と自動車でやりあった時などであった。
    2. 米国民が国際的な機軸通貨としてのドルの価値に関心がなくなった時にも誘惑にかられた。
    3. 米国債を売って金による準備を増やす選択肢もあった。
    4. 日本一国が米国債を一度に売り出しても、米国経済はこれを受け止める力を持っている。しかし日本のように外貨準備を米国債で持っている国は他にもある。それらの国々がドルの価値が下落している時も証券を保有し続けているからこそ米国経済は支えられているが、この点が認識されていない。
    5. 米国債を売って金に切り替えると言う誘惑に負けないよう、米国も為替の安定に協力してほしい。


  • まず、外貨準備を金で持つと言うアイディアである。金は現在、1g当り1,300円くらいであり、価格は比較的に安定している。世界の産金量を年間1,000tとすれば、総額は1兆3,000億円になる。これをドルに換算すると約110億ドルになる。つまり、日本の外貨準備高2,200億ドルのうち半分を金に換えるとしたなら、世界の産金量の10年分を購入することになる。いかにこれが現実離れをしているかご理解できよう。そして金は金のままであり、利息を生まない。また、金の円建て価格は長期的に下落しており、今後も上昇すると言う保証はない。
    総理にとって、ドルの価値が下落していることが問題らしいが、これも半分は正しくない。為替が変動相場に変わった後、対米ドルで価値が上昇した主要通貨は「円」と「独マルク」くらいであり、英ポンドも仏フランも下げているはずである。特に90年以降は「独マルク」さえも対ドルで下げているのである。つまり、「対円」を除けばドルは決して弱い通貨ではない。
    交易にドルを使うかどうかは、貿易を行う両国の取り決めであり、基本的には米国政府が関知するところではない。米国との貿易でも同じである。「ドル建て」にするか「円建て」かは双方の取り決め事項である。現状では米ドルは流通性があり、便利であるから各国ともドルを使っているだけである。ようするに各国ともかってに使っているだけである。どうしてもドルでの受け取りがいやなら、その取り引きを止めればよいことである。また将来ドルの価値が下落することが予想される場合には、為替を予約すれば良いのである。つまり、交易にドルを使っていて、機軸通貨として価値が下落しないように希望を持つことはかってであるが、米政府にそれを要求することはおかしいことである。いやならドル以外の通貨を使えば良いと言うことである。

  • 次に「ドルの価値が下落している時も証券を保有し続けているからこそ米国経済は支えられている」と言う点である。これを言い替えれば「ドル安場面でもドルを売らなかった」と言うことである。ではこの時ドルを売ればどうだったかと言うことである。たしかに、米国では金利が上昇し、株も下落するであろう。また、ドル安により輸入品の価格は上昇することになる。しかし、米国産業にとっては、ドル安は、輸出を伸ばし、輸入品との競争でも優位に立てることを意味する。一方、米国への輸出に頼っている国は大変である。例えば日本は限りなく「円高」が進むことになり、輸出産業は壊滅的になるか、工場を全部米国に移転しなければならなくなる。つまり「証券を保有し続けていること」は米国のためと言うより自国の都合である。
    たしかに米国債の大量売却は米国の金融市場を混乱させるかもしれないが、それ以上に自国の産業に打撃を与える可能性がある。ドル安局面の日本政府のドル買いは、ドル防衛と言うより、「円高」防止の側面の方が強いのである。

  • 自国の国債を海外勢が大量に保有することに対して危惧する声は、米国内にもあるはずである。たしかに国家の安全保障の観点から問題もあろう。例えば日本の大都市で大きな地震が起こったことを想定する。日本の金融機関は多額の復興資金が必要となると考え、米国債等を売却し、キャシュポジションを高めようとするであろう(貸出金の回収は短期間では困難であるから、資金の調達は手持ち債券の売却で行なうことになる)。これにより、米国の債券市場と為替市場は大きな影響を受ける。また実際のこの動きがそれほど大きくなくても、思惑筋の売りもプラスされることから市場の混乱は意外と大きなものになることも考えられる。つまり、遠く離れた日本の地震が米国の経済にも影響を与えることになる。特に米国の外国為替管理法には有事規定がない。突発時にも打つ手がそれだけ少ないのである。

  • 日本が米国を始め、海外に多額の金融資産を保有している原資は、貿易で稼いだものである。そしてその多くは米国からである。たしかにこれは日本の企業が努力した成果であるが、米国が日本に対して市場を開いていてくれたことも重要である。
    例えば自動車である。日本の車の輸出のほとんどは米国と欧州である。しかし欧州の場合は、その主な輸出先は自国に自動車産業がない国である。欧州でも自国で自動車を作っている国への輸出はさほど多くはない。ところが米国は自動車の生産国にもかかわらず、多くの日本車を買ってくれていのである。自動車以外でもそうである。米国は極めて寛容的な国である。
    日本は米国が買ってくれるほどには、米国から物をかわない。この状態が続けば、本来なら為替が円高に動いて、貿易収支が均衡するはずであるが、日本政府のドル買いと民間の外債投資が実質的な為替介入となり(5/5(第14号)「為替の変動を考える」を参照願いたい)、均衡値より「円安水準」で為替が推移しているのである。これは例えて言うなら、日本は米国と言うお得意様にカ-ドを発行して、色々と買い物してもらっているようなものである。
    橋本総理の講演の内容は、米国と言うお得意様に「おたくは金使いが荒いからカ-ドを取り上げる誘惑にかられる」と言っているようなものである。米国政府としては総理の言っていることが理解できないであろう。筆者にもまったく理解ができない。特に、最近の「円高・ドル安」傾向のきっかけは日本政府が主導していたのではないか。
    これまで外貨の準備高が急増した時期があったが、きまってこれは日本政府が財政支出を絞った後であった。つまり米国債の保有増加は、ほとんど日本政府の自作自演の結果である。これで「日本は米国の財政の一旦を背負わせられている」と考えるのは被害妄想である。今年度からの予算も緊縮予算である。為替が円高に進まないように日本が米国債の購入し続けば、経常収支の黒字が累増して行くことは容易に予想ができる。

  • 日本がこれ以上の内需拡大を行なわず、日米間の為替水準を今のままにして、貿易収支を均衡させる方法が一つだけある。それは米国の財政支出をさらに大幅削減することである。福祉関係の歳出を大幅にカットすることは難しい。公共事業は元々これは州政府の仕事である。残るは軍事費である。つまり軍事関係に用いられている資源を「日本から輸入しているような製品」の製造に回せば良いのである。米政府としては、東アジア地区から米軍を撤退させる選択肢も考えられる。そうなれば、日本との安全保障条約も不要と言うか空文化する。安保の再定義も必要ない。経済政策も他の政策と複雑に関連している。米政府に要求があるなら、日本政府はこれらをワンセットで考えた後に行なうべきである。

  • 米政府は、橋本総理と日本政府のこの講演についての釈明に表面的には理解を示している。しかし、議会はそうはいかないであろう。中間選挙が近づけば、この一件がボディブロ-のようにきいてくることも考えられる。
    米国の駐日大使が半年間空席である。大使の候補者は決まっているが、議会から承認されていないからである。その反対理由は「その大使候補者が親日家」と言うことらしい。
    正しい事柄を米国政府に主張することは大事であるが、事実を誤認したままの発言が問題なのである。さらに米国の株価が急落したから釈明に努めると言うのもおかしい。世間には今回の総理の講演を「米政府に一矢をむくいた」とはやす向きもあるが、経済実態からはずれた認識の発言にどれだけの意味があろう。米政府に軽くいなされるのが「関の山」である。
    筆者は米国の金融市場に混乱があまり大きくならないと言う条件で日本政府は保有している米国債を売却し、その代金を円転すべきと考えている。これにより円はものすごく高くなり、景気は急降下するであろう。しかし、このことにより日本政府は始めて内需拡大に真剣に取り組むことになり、長期的にはメリットは大きい(5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」を参照願いたい)。日米が真の友人関係を続けるためには、「金の貸し借り」をなるべく小さくすることが重要である。
    現総理は有権者の支持率も高いらしい。9月に再任されると言うのも常識となっている。そして自民党には他に対抗馬として誰も立たないようであるが、それで本当に良いのであろうか。



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97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュ-」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レ-トの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レ-トの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レ-トを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」