平成9年2月10日より
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しばらく本誌は夏休みです。次回号は9月3日に予定しています。

01/8/6(第219号)
支離滅裂な構造改革派
  • 小泉首相の構造改革
    小泉首相を先頭に、日本は構造改革ブームである。そのうち構造改革の具体的工程も発表され、構造改革とか言われるものが実行されることになる。しかし構造改革に対するイメージが、人によって異なっており、構造改革派の主張も微妙に違っている。そこで構造改革派を非難するにしても、まず構造改革派の主張を整理することが必要となる。

    まず筆者が理解している小泉首相の構造改革の骨子をまとめることから始める

    1. 競争力のない産業を整理し、成長産業に人や資源をシフトさせる

      まず競争力のない産業の代表と目される建設・土木業界を整理する必要があり、このため公共事業を縮小する。



    2. 地方経済に自律を求める

      地方交付金や補助金の見直しを行い、場合においてはカットする。税源の移譲も考えられるが、税収の見込めない地方の財政は厳しくなることが考えられる。

    3. 特殊法人など、政府が関与する団体の整理や民営化を進める

      民間ができることは、民間が行い、政府系の特殊法人などは原則全廃する。またこれによって一般会計や特別会計から支出されている補助金をカットする。さらに特殊法人に資金を供給している郵便貯金は民営化を進める。


    以上の3項目が小泉首相の、当初の主な構造改革プランである。そして小泉首相は「構造改革なくしては経済成長はない」と言っているのである。つまりこの3項目の改革を行うことによって、経済は成長軌道に乗ると理解できる。しかし小泉首相の主張するこれらの3項目を実行することが、経済の成長に繋がるとは、筆者にはとても思えない。むしろ今日の日本にとっては、これらが逆にデフレ圧力となって、日本経済は破滅の方向に向かうと考える。筆者には、小泉首相の主張に全く論理的根拠が見出せないのである。

    小泉首相の発想で一番大事なことは、来年度予算で3兆円の支出を削減することである。これは来年度の国債の発行額を30兆円に抑えると言う公約があり、これが一人歩きを始めているからである。このためどうしても3兆円の支出をカットする必要に迫られている。スタートはまさにここである。世間がそこまで思っていなくても、小泉首相本人がそう思いつめているのである。

    つまり公共事業の一兆円のカット、地方交付金の一兆円のカット、特殊法人への補助金の一兆円のカットの合計3兆円の政府支出の削減である。道路特定財源の問題は、この話の過程で出てきた枝葉末節な話の一つである。そもそも構造改革の話も、この3兆円の帳じり合わせの結果である。構造改革は経済成長のために必要な政策ではなく、予算削減のための方便である。

    3兆円の政府支出のカットでどうして経済が成長するのか、とても信じられない。しかし今日、マスコミを始め、日本人全体が「頭がおかしくなっている」ので、このような荒唐無稽な話もまともな話ととして通じているのである。

    だいたい3兆円の根拠は、国債発行限度を30兆円にすることをもとに算出したもので、特に合理的な根拠はない。3兆円の歳出カットで経済が成長できるのなら、そのようなケチなことを言わず、10兆円でも20兆円でも削減した方が良いと筆者は考える(もちろん冗談であるが)。

    日本には、たしかに600兆円以上の公的債務がある。しかし注目すべきは、これだけ借金があっても、物価も上昇しなければ、金利も上昇しないことである。つまり日本の経済は特殊であり、この不調な経済には特別な処方箋が必要なのである。
    本誌で前にも指摘しているが、小泉首相はもともと大蔵族である。そのためか歳入と歳出をどうしてもタイトに考える傾向が強い。しかし日本経済の体質では、このような発想(歳入と歳出をタイトに考える)の延長線上の政策は、必ず失敗すると筆者は確信している(これについては本誌で何度も取上げている)。

    600兆円以上もの借金があるのに、どうして3兆円と言ったちっぽけな支出を削減することに一生懸命になれるのか、筆者にはとても理解ができない。まさに小泉首相の発想は、財務省の係長クラスの発想である。財務省の係長なら「なんて責任感の強い担当者」と言って誉められるかもしれないが、少なくとも小泉氏は日本の総理である。

    筆者の感想では、小泉首相が唱える構造改革の骨子は、この3点である。この他に構造改革派の人々がはしゃいで色々なことを言っているが、小泉首相オリジナルでないものが多い。また「銀行の不良債権の処理をすることによって、競争力のない産業を整理統合する」と言う主張もよく聞かれる。しかし不良債権の早期処理は、森前首相の頃からの懸案であり、小泉首相が最初に言出したことではない。


    しかし筆者は、予算を3兆円削減すると言う構造改革より、今日ずっと重要な案件が沢山あると考える。一つは日本からの資本の流出の問題である。特に中国への設備投資の急増が、日本国内の雇用問題を引き起す可能性が強いことである。長期に渡る経済の不調が、資本流出を加速させている面もある。これには為替の問題もからんでおり、日本の高コストだけでは片付けられない問題である。またフリータなどの単純労働者の急増により、将来の日本の競争力が問題になる。さらに高齢者の失業、依然多い自殺者、そしてホームレスの増加など、社会問題であると同時に経済の問題である懸案は山積している。しかし小泉首相は、これらの問題には興味がないようである。彼は3兆円の予算削減を目指して、「構造改革なくして経済成長はない」と空に向かって毎日吠えているのである。

    おそらく構造改革派の人々もこれらの問題に対しては、「構造改革が進めばこれらの問題は解決する。とにかく構造改革だ。」と答えるであろう。彼等は本当にそう盲信しているから恐い。しかし事実は全く反対と言う可能性が大きい。彼等、構造改革派はひと昔前の左翼と同じである。当時の左翼の連中は「プロレタリアート独裁が実現すれば、世の中の問題は全て解決する」と目を輝かしながら語っていたものである。


  • 構造改革派の変節
    各種の経済指標は不況の深刻化を示し、株価も冴えない。倒産がこれまで以上のペースで増えそうである。小泉首相の人気に便乗して、「我こそは構造改革派である。構造改革なくして明日の日本経済はない。」とはしゃいでいたエコノミストや経済学者も、ここに来て微妙に軌道を修正し始めた。「構造改革を進めるためにも、景気の下支えが必要」と言い始めたのである。

    これはおかしなことではないか。彼等は「競争力のない産業を市場から退出させることが、構造改革の早道」とずっと主張してきたはずである。今日の景気の下降でまず経営が危ぶまれているのは、まさに彼等が退出を求めているこれらの企業群である。また補正予算も必要と言い始めている者もいる。どうも従来の公共事業以外なら、かまわないと言うことである。(どうしてもゼネコンだけは潰さなくてはならないらしい)

    しかし構造改革派は、前から構造改革に伴う「痛み」は覚悟の上と言ってはずである。そのかわり、構造改革がうまく行けば、日本経済も成長軌道に乗ると主張していたはずである。一体どうしたと言うのであろう。どうも彼等が想定していた成長産業とはIT産業だったようである。ところが今日のIT産業の損益はボロボロである。またもう一つの新産業として考えていた介護サービスも、需要が伸びず、参入した企業も営業戦線を大幅に縮小している。ここで働く人々もあまりの給料の少なさに、辞めていく人々が続いている。

    構造改革派の人々は、土木・建築など公共事業に携わる人々や資源を、IT産業や介護サービスに振向けることによって、日本の経済は成長できると単純なばかなことを考えていた。しかし現実はそうはならなかったのである。しょせん彼等は頭だけで考えている観念論者である。つまり彼等が言っている低生産性の産業を潰しても(彼等流の低生産性。しかし彼等は生産性の正しい意味を理解していない。これについては別の機会にまた述べる。)、決して新しい雇用なんか生まれないのである。

    雇用を吸収するはずの次に生まれる産業とは何かと聞かれ、あきれることに竹中経済財政担当相は「日本は社会主義国ではないのだから、次の活力ある産業は自分達で考えてくれ。政府はそこまでは関与しない。」と言っていた。この人物はつい最近までたしか「IT産業、IT産業」と言っていたはずである。もう嘘が通用しないことが分かったのであろうか。
    厳しい現実を前に、構造改革派の人々は今さかんに「セーフティネットの構築」と言い始めている。もっとも低生産性の産業を潰すことによって新しい産業が次々に生まれるなら、セーフティネットなんていらないはずであるが。


    最近、構造改革派の人々の言っていることは支離滅裂になってきており、混乱している。これも過去のいい加減な発言と、なんとか整合性を保とうとしているからである。だいたい自分達が言っていた「大嘘」を本当に実行しようとする小泉政権の登場が誤算であった。

    日経7月27日付「経済教室」の立教大学の斉藤精一郎教授の主張もこの典型である。この教授は「痛み抑えつつ構造改革」と言っている。この教授は他の構造改革派と同様に、構造改革を推進する立場であったはずだ。ところが経済実態の悪化に直面し、これまでの主張を大きく変えている。おかしなことに「このままでは「景気回復なくして構造改革なし」と言う抵抗勢力が動き出す」と変な警戒をしている。ところがこの教授の「痛み抑えつつ」と言うセリフの方がずっと「曲者」である。このための具体的な対策は次の通りである。

    1. 痛みを除去するために期間5年の小泉国債を10兆円の範囲内で発行する

    2. 金融政策は現状維持

    3. 公的な株式買上げ機構の設置

    4. ベンチャー基金の創設と不良債権の最終処理期間を2〜3年から3〜5年に延長する

    5. 銀行への資本再注入とペイオフ解禁の2年間延長

    と以上であるが、驚きを通り越して、笑ってしまう。どこが改革派のセリフなのだ。自民党の抵抗勢力と目される人さえ絶対に口に出さないことばかりである。もし万が一にもこのようなことを言えば、間違いなくマスコミや改革派の人々から「改革潰し」と袋だたきに会うであろう。つまり斉藤教授のような構造改革派なら何を言っても良いと言うのが、今日の風潮である。

    構造改革派の人々は、「今の構造改革を進めながら、経済を立直すのは「ナローパス」、あるいは細い道である」と、失敗を見越し既に予防線を張っている。この「ナローパス」が一種の流行になっている。しかしはっきり言おう、「ナローパス」どころか、道は全くない。実際、橋本政権で同じ実験を行って、みごとに失敗しているではないか。むしろ橋本政権の頃の方が日本の経済の条件は良かったのである。為替も140円台の円安水準で推移していた。銀行の経営も今日ほどまでには混迷を極めていなかった。また中国の輸出攻勢も態勢が整っていなかった。さらに地価と株価も今日よりずっと高かった。なにが「ナローパス」だ。


    構造改革派でなく、つまりマスコミなんかからは守旧派とか抵抗勢力と言われる人々(今日では少数派)は、改革派のやろうすることに反対すべきではない。彼等に好きなようにやらせることが大事である。これは一種の賭であるが、どうしても通らなければならない道のようである。

    むしろ構造改革派が「痛み抑えつつ」とか何とか言いながら、自分達が主張してきた政策を器用に変更することを阻止する必要がある。ちょうど斉藤精一郎教授の変節のようなものである。したがって補正予算なんてとんでもない話と反対すべきである(現実的には大型の補正予算が必要である。そのためにも本年度の予算の前倒し消化が必要であるが、これがなされていない。したがって補正予算を組んでも、消化は困難である。さらに財政難の地方が、わざわざ議会を開いて、これに呼応した補正予算を本気になって組むとは思えない。)。だいたい「補正予算は今年度のものであり、来年度予算と関係ない」と言う話も「詭弁」そのものである。

    そのうち(時期は分からないが)小泉政権は、経済問題で行き詰ると予想される。そしてその次の政権では、需要政策、それも科学的な需要政策を採ることが必須である。百八十度の政策の転換である。そのためにも、日本経済の体質には、構造改革派の主張する政策がことごとく有害・無益と言うことが、それまでにはっきり証明される必要がある。中途半端な構造改革政策で延命されてはこまるのである。




来週からしばらく夏休みである。次回号は9月3日に予定している。

構造改革派のエコノミストから、自民党の税調も抵抗勢力とレッテルを貼られていた。証券税制の改定を渋っていると見られているからである。税調の言い分は、「源泉分離課税制度の2年間延長したばかりなのに、これと整合性がとれない」である。税調の方が筋が通っている。しかし構造改革派は紅衛兵である。逆らってはならない。本文で述べたように彼等の好きなようにやらせることが大事である。だいたい証券税制の改定くらいで、証券市場にどっと資金が流れ込んでくるはずがない。

読者の方からセーフガードについてご意見をいただいている。中国との貿易問題は今後ますます難しいことになると考えられる。今日、農産物がまず問題になっている。しかしこちらの方が解決の糸口を見つけ出しやすいと思われる。農業の方が色々と制約条件があるからである。むしろ制約条件の少ない分、工業製品の方が解決が困難である。これらについてはまた本誌でそのうち取上げることにする。

ある投資顧問のホームページに、今日の明るい材料と暗い材料と言う項目があった。驚くことに「公共事業費の一兆円の削減」「特殊法人への補助金の一兆円の削減」と言う政府の方針が明るい材料の方に区分されていた。どうしてこれらが株価にとって明るい材料なのだ。最近の暑さと、あまりにも長い不況で、日本人の頭がおかしくなっているのであろう。


普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


01/7/30(第218号)「日本は建前の国に」
01/7/23(第217号)「日本を滅ぼす松下政経塾」
01/7/16(第216号)「戦略的パートナシップ」
01/7/9(第215号)「Let it be !」
01/7/2(第214号)「日本における起業」
01/6/25(第213号)「小泉政権の構造改革」
01/6/18(第212号)「需要があっての経済成長」
01/6/11(第211号)「深刻な中国との通商問題」
01/6/4(第210号)「中国の為替政策」
01/5/28(第209号)「中国との通商問題」
01/5/21(第208号)「消費の拡大策」
01/5/14(第207号)「消費不振の分析」
01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
01/3/19(第200号)「与党の緊急経済対策」
01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
01/3/5(第198号)「公共投資の経済効果」
01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
01/2/19(第196号)「日本の経済政策の方程式」
01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
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