平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




01/6/18(第212号)
需要があっての経済成長
  • 米国の貯蓄率の低下
    昨年まで、米国は記録的な長期の好況を実現した。この要因については色々言われている。しかし納得するような説明を、少なくとも筆者は聞いたことがない。それぞれの立場の人々が、それぞれの意見を言っているだけであり、部分的には正しくても、全てを合理的に説明するものではない。そこで、筆者も筆者なりに米国の経済が好調さを維持できたことについて論じたい。もちろん筆者は米国経済の専門家ではないので、多くを期待してもらってもこまる。また日本にいながら米国の経済を考えるのであるから、データなどの点で自ずから限界があり、話は筆者の個人的見解として捉えてもらいたい。

    面倒なので、まず最初から結論である。筆者は、10年も経済の成長した第一の原因は、一貫して消費需要が伸びたことと考えている。米国人はばかみたいに消費を増やしたのである。米国の貯蓄率は、90年代の初頭は8%くらいであったが、驚くことに今日はマイナスになっている。貯蓄率、あるいはその裏返しである消費率は、本来安定的なものである。ところが米国の貯蓄率は年々小さくなった。つまり所得からの消費比率が大きくなったのである。言えることは、平時におけるこのような現象は異常であり、世界史的にも珍しいことである。

    計算の上では、平均して年1%くらいの消費が増えたことになる。年間の金額で言えば10兆円くらいになると筆者は推定する。ここで注意することは、貯蓄率低下による消費増加額が年々10兆円ずつ増えている計算になることである。つまり今年が10兆円なら来年は20兆円、さらに再来年には30兆円と言う具合である。

    そしてもう一つ考えなければならないことは、この毎年増え続ける消費は、次の所得を発生させ、またその所得が次の消費を生むと言った連鎖を起こすことである。10兆円の独立的な消費の発生がさらに消費を発生させるメカニズムである。つまり乗数効果、あるいは波及効果と言われているものである。日本ではこの波及効果の値が1.9から2.0である。理論上の乗数効果は、貯蓄率の逆数であるから、貯蓄率が小さい米国では、波及効果の値も日本よりずっと大きい可能性が強い。したがって10兆円の消費増は、少なくとも20兆円以上の最終需要を増加させたことと推定される。20兆円と言えば米国のGDPの約2%に相当する。念を押すようだが、このような20兆円以上の最終需要の増加が毎年起っていた。つまり米国の10年の経済成長のかなりの部分が、この消費増で説明がつくのである。


    ところでここまでは需要サイドの分析である。たしかに需要が増えても、供給が間に合わなかったら、物価が上昇するだけで、経済は成長しない。つまり供給サイドの実情も考慮する必要があると言うことである。
    ところで米国が経済成長を開始した時代は、前のブッシュ政権の頃である。当時は不況であり、余剰設備と失業が多かった。少なくとも最初の頃は供給サイドにはネックはなかった。そして失業率は昨年まで下げ続けたが、不思議なことに、賃金の上昇はきわめて穏やかであった。これは生産技術の進歩に加え、米国の人口増加率が発展途上国並に大きいことや、発展途上国からの移民の受入れも影響しているからと考えられる。

    さらに生産設備の投資も毎年増加している。つまり供給面からのネックで経済成長ができないと言う事態にはいたっていない。理論上、供給サイドから見れば、経済の成長率はs(貯蓄率)/v(資本係数)で表される。v(資本係数)を一定とすれば、貯蓄率が大きいほど経済成長率も大きくなる。しかし米国の貯蓄率は年々小さくなってきたのである。つまり本来なら、最近のようにマイナスになる状態では経済はうまく成長しないはずである。しかしこのような考えは、一国の経済を閉鎖的に捉えた場合のことである。今日のように国外から自由に資金が流入する時代には通用しない。むしろ需要が増え、経済が活況を呈している国には資金が色々な国から集まるのである。米国には、欧州に加え、日本や中国などのアジアから膨大な資金が流入し、貯蓄不足を補ったのである。

    さらに政府部門も黒字になり、この余剰資金も産業界に流れた。これはソ連との冷戦が終わり、米国の軍事費が減ったから実現できたことである。また需要が減少した軍需会社が民需会社に転換することになり、このことからも供給力を増強することができた。


    このようにたしかに米国政府が財政支出を削減したことが、経済成長にある程度寄与したのは事実である。しかしこれは旺盛な民間の需要があって始めて効果が発揮されるのである。
    逆に多大な過剰設備が存在し、多くの失業者がおり、さらに国債を買うしかしかたのない余剰な貯蓄が存在している日本は全く事情が異なる。今日の日本では供給サイドのネックなど、始めから全く考える必要はないのである。

    ところが日本では全く逆の発想が主流となっている。たとえば本誌の00/12/4(第188号)「シミュレーション分析の見方」で取上げた主張である。ここで京大の吉田和男教授は、将来日本の貯蓄率は小さくなり、経済成長ができなくなると説明している。そしてこの貯蓄不足を補うため、政府は支出を抑え、増税も考え、財政赤字を減らさなければならないと言う結論になっていた。筆者に言わせれば、これは全くの妄言である。かりに需要が増大し、景気が良くなれば、米国のように資金は世界中から集まるのである。さらにそれどころか貯蓄率が年々大きくなっている日本で、貯蓄不足などを前提に物事を考えること事態がばかげている。しかし驚くことに小泉首相の発想は、まさにこの妄言そのものなのである。


  • 貯蓄率低下の原因
    次に考えることは、どうして米国の貯蓄率が年々急速に小さくなったかと言うことである(本来貯蓄率と言うものは安定的なもののはず)。これは重大なことであるが、これについてもあまり適切な説明を聞いたことがない。つまりこれについても筆者自身が考える必要がある。

    第一に、これはよく言われることであるが米国の株価の上昇による資産効果である。この資産効果によって米国の消費が増えたと言う話で、これは納得できる。皮肉にも米国株価上昇のスタートは、米国の金融機関の信用不安からであった。資産家は、銀行の信用不安から、預金から株式や株式投信に資金をシフトさせた。先代のブッシュ政権の当時、米国では一般の大企業の方が、銀行より信用があったのである(最近では日本もこれに似てきた。しかし日本では預金から株式への資金のシフトが大きくなる事態はないであろう。)。

    株や投信を買ってみたら上がるので、さらに株や投信を買う人が増え、米国株式は上がり続けることになった。さらにFRBも景気てこ入れのため低金利政策を続けた。92年から94年まではゼロ金利政策を続けた。米国のゼロ金利政策は、短期金利を物価上昇率に同じにすることである。つまり実質金利をゼロにすることがゼロ金利政策である。ちなみに日本の場合には、物価の上昇率がマイナスであることから、実質金利はプラスとなり、厳密にはゼロ金利政策ではない。
    米国のこのゼロ金利政策によってさらに株価は上昇した。とにかく株価の上昇による資産効果は、米国の貯蓄率低下の大きな原因になっていると筆者は考えている。

    米国の貯蓄率の低下の原因として、筆者が次に考えるのは、米国民の精神面の解放である。これは筆者の独自の推理であるが、ソ連との冷戦の終了が、米国民に影響を与えなかったはずはないと筆者は考えている。冷戦と言え、米国は50年もの長い間ソ連と軍事力で対峙してきたのである。したがってベルリンの壁の崩壊で、米国民がこの戦争の米国の勝利を実感したとしても不思議ではない。この頃から貯蓄率が低下し始めたのも注目される。戦争の勝利が、その国の景気を良くすることはよくある現象である。たしかにこれは蚊屋の外にいた我々日本人には、ちょっと理解できないことかもしれない。

    さらにもう一つ取上げるとしたなら、これは以前本誌で述べたように、米国での夫婦共働きの増加である。いわゆるDINKSの広がりである。レイオフの多い米国では、夫婦共働きの増加は、収入の安定をもたらし、生活の将来設計を考える上で人々に安心感を与えるものであった。これによって、保険としての貯蓄の必要性が低下したと考えられるのである。
    米国の高い消費比率を説明をするには、この他にも色々なことが挙げられる。発展途上国からの移民や大きな出生率も消費にはプラスに働いていると考えられる。

    ここまで米国の貯蓄率が継続して小さくなったことの原因を筆者なりに述べてきた。たしかにこれらはあくまでも筆者の個人的な考えであり、仮説みたいなものである。もちろん全てを説明しているわけでもない。しかしこの不思議な現象は、いつかは適切に説明される必要がある。実際、株価の上昇による資産効果を除き、世間にはあまり説得力のある説明がない。まさにこれを合理的に解明できたらノーベル賞ものであろう。

    またこれが解れば、今後の米国の経済の動向を占う上で大変役に立つと思われる。ところで今回の米国景気の急低下については、株価の急落やIT産業の需要後退が原因と言うことが定説になっている。たしかに筆者もこれには賛同する。

    しかしこれまで述べてきた、貯蓄率の変動についての言及がなさ過ぎる。貯蓄率が年々小さくなってきたと言うことは、消費がそれだけ大きくなってきたのである。しかし貯蓄率がとうとうマイナスになった段階で、この需要の増加効果もこれ以上望めなくなったとも考えられるのである。ところで貯蓄率が、これまでの低下傾向から、一転して上昇に転じることが考えられる。もしそのような事態になれば、これは本当に恐いことである。今予定されている減税ぐらいでは対処できない。一年目はなんとかなっても二年目以降は対策がなくなるのである(理由については別の機会に述べる)。したがって本誌が以前から述べているように、米国の消費動向は大きな注意を払う必要がある。


    米国の長期の好景気の理由は、述べてきたように米国の貯蓄率が持続的に低下したことでほとんど説明ができる。しかし96年以降には、これらの貯蓄率低下の要因にもう一つの要素が加わったことを説明しておく必要がある。

    話はちょっと変わるが、本誌はよく経済の予想を行っている。筆者が自分で言うのもなんであるが、これまでは幸いにもかなりの予想が当たっている。こと日本の経済成長率については、ほぼパーフェクトである。しかし本誌も予想でとんでもない失敗をしたことがある。それが4年前に行った米国の景気の動向の予想である。97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」で、「米国の景気は今がピークであり、これから景気は下降する」と予想した。つまり貯蓄率の低下もそろそろ止まる頃と考えた。ところが現実はこの予想に反して、さらに3年も好景気が続いたのである。

    予想がはずれた主な理由は、インターネットである。それまでもマルチメディアと言うことでハイテク産業は好調であったが、筆者はこのブームもそんなに長く続かないと読んだ。しかしこれが失敗のもとであった。インターネットのブームが続いたのである。さらにナスダック市場のインターネット関連企業の株価上昇も、実態経済に好影響を与えた。たとえそれがバブル的要素があったとしても、ウィンドウズ95の発売で火が付いたインターネットブームは、米国の好景気をさらに持続させたのである。


    米国は、石油精製設備が不足していたり、発電能力が不足して問題になっている。さらに携帯電話でも、デジタル化が遅れており、全国的使えるのはいまだにアナログである。このような過小資本が問題になりそうな米国でさえも、経済成長を引っ張ったのは、貯蓄率低下などによる需要の増大である。そして需要さえあれば、資本は世界中から集まるのである。世界には金が余っている。逆に需要が減退すれば景気は後退する。IT製品も需要がなくなれば、在庫の山となる。まさにこれは今日の米国経済の姿である。したがってFRBは繰返し金利を引下げ(金利の下げ方がちょっと異常であり、米国の経済の実態が相当悪いことを窺わせる)、連邦政府は減税を行って需要を喚起しようと必至なのである。

    ところが慢性的に需要が不足する日本の方が、供給サイドの政策に走りはじめているのである。需要もないのに、「経済成長のためには、資源を成長率の高い分野に移動させる構造改革が必要」と言っているのだから驚く。「成長率の高い分野」とは需要があり、儲かる分野である。逆にそのように儲かるものとは一体何なのだと、筆者はこれを言っている人々に質問したい。もし需要があれば、カネ余りの日本なら、当然そこに投資が殺到するはずである。つまり政府が音頭を取って、資源を他の分野に移動させる必要性などは全くない。たしかに昨年まではそれはITだと嘘がつけたが、今日では通用しない。反対にビジネスチャンスがなかなかないのが日本の現状ではないか。だから金利も歴史的な低水準で推移しているのである。



来週号は「構造改革」である。

昨年度のGDPの成長率は0.9%と公表された。昨年の夏には、どう言うわけか各シンクタンクはGDPの成長率の予想値を上方修正した。中には3%くらいに修正したところもあった。政府も1%から1.2%に若干上方修正した。しかし本誌は、補正予算が実行されてもせいぜい1%が限度と、予想は変えなかった。理由は最終需要がどうしても伸びるとは思われなかったからである。結果は本誌の予想通りであり、内訳も予想の範囲であった。むしろ筆者は、何故、各シンクタンクが予想値を上方修正したのか不思議でならない。とにかく当時、「景気はもう良い」「次は財政再建だ」と言う声が急に大きくなった。日銀もゼロ金利を解除したのである。

日本の経済政策を実行する時に、問題になるのはどうしようもないこれらのエコノミストや経済学者の存在である。マスコミに登場する9割以上の者がいい加減なことを言っている。今回の予想が大はずれしても誰も弁明さえしない。今度は彼等も小泉首相と一緒に「構造改革」と言っている。そのうち小泉政権も崩壊すると思われるが、それと同時に今度こそこれらのエコノミストや経済学者が一掃されることを願うだけである。

竹中経済財政担当大臣は「公共投資が意外に伸びなかったので驚いた。これは地方が財政難で工事量を削減させたからである。」と昨年度の成長率が予想を下回った理由を述べていた。しかしこんなことは前から十分に分かっていたことである。それ以前から、既に地方は財政難で公共投資を抑えていた。このことは本誌が何度も指摘したことである。地方の財政支出が期待できないことを考えれば、既に昨年度から実質的に国は緊縮財政を始めていたのである。この竹中大臣は今頃一体何を言っているのであろうかと思われる。また昨年暮れに政府は補正予算を組んだが、「補正予算は不要だ。財政再建を優先しろ。」と先頭に立って補正予算に反対したのがこの竹中氏である。このような声に押され、昨年度の補正予算が小さなものになったではないか。


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