平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




01/5/28(第209号)
中国との通商問題
  • これまでの貿易摩擦
    ネギやしいたけに並んで、畳表が緊急輸入制限措置、つまりセーフガードの発動の対象になっている。これらのセーフガードの対象国は中国である。筆者は、畳は日本だけで使用されているものであり、どうしてこのようなものまでも中国が生産しているのか不思議に思っていた。当然、日本の業者や商社が、畳表の材料である「い草」の苗を中国に持込み、中国人に栽培させているのであろう。

    しかし住宅建設の状況を見ていると和室は減っているはずであり、畳表の需要は確実に減っていると思われ、価格も安くなっているはずである。
    「い草」はほとんどが熊本の八代市の周辺で栽培されており、残りは岡山で少し栽培されている。畳表の輸入が急増していると言うことであるから、これらの産地は大きな打撃を受けていることは間違いない。実際、現在では6割ものシェアーを中国からの輸入品が占めている。

    セーフガードの申請については、これらの三品だけにとどまらず、タオルやわかめなど次々と対象品目が広がる様相を見せている。またこれらについては、中国以外の国も対象になっている。しかしセーフガードのほとんどの対象となる国は中国と言う事実には変わりはない。たしかに近年、安い物資の輸入が増加しており、物価下落の大きな要因になっている。

    日本側のセーフガード発動に対して、中国は当然反発している。国内にも色々の意見がある。筆者の意見は、ちょっと次元が異なる。200日に限定されている今回のようなセーフガードぐらいでは、解決につながらないと考えており、抜本的な対策が必要と考えている。また筆者は、セーフガードの賛成派も反対派もちょっと誤解の上に議論をしていると感じるのである。さらに輸入品の急増による問題発生は、農産物だけでなく、雑貨にも及んでいる。そのうちハイテク製品にも広がるのは明らかである。このまでは中国に対する日本人の感情が最悪になると危惧される。


    筆者は、数年前まで中国の経済力(生産力)をどちらかと言えば、軽視していた。安い労働力を使った生産の増加も、そのうち限度に来ると考えたのである。むしろ他の発展途上国との競争が激しくなり、中国も大変だろうと考えていたくらいである。しかしこれが間違いだと言うことが、ここ1,2年の動きではっきりしてきたのである。理由は確実に中国製品の品質が向上していることである。したがって安い人件費で作る製品の品質が向上すれば、中国製品に日本国内で対抗できる企業はほとんどなくなるはずである。

    中国製品の品質が向上した原因としては、日本などに研修に来ていた技術者が中国に戻って、中国人に技術指導を行うまでになっていることがまず挙げられる。しかしこれだけで中国製品の品質が、短期間に向上するはずがない。それだけではなく、先進国が資本に加え技術も中国に持込んで、製品を製造し始めたことが第一の原因である。どちらかと言えば欧米諸国の企業がまず進出し、日本企業が本格的に中国への進出が急増したのは最近である。したがって中国からの輸入品が、日本において問題になってきたのもそれ以降である。中国にとってのこれらの外資系企業の全体の生産に占める割合はまだ大きくはないが、こと輸出に関しては、約半分のシェアーを占めるまでになっている。


    日本は、これまで米国との繊維交渉以来、様々な貿易摩擦を経験してきた。しかしこれまでの貿易摩擦と、今回の中国との貿易上の諸問題は全く別次元のものと認識すべきである。特にこれまでの日米間の貿易摩擦は、どちらかと言えば、双方の誤解に基づくものであった。米国は、日本からの輸入品の急増と日本への輸出の不振は、日本の輸入障壁や日本の政府や企業が何かインチキなことをやっているからではないかと疑っていた。

    しかし日米貿易のインバランスの主な原因は、両国のマクロ経済の状態や政策によって起っていた。端的に言えば、過剰消費の米国に対して、過剰貯蓄の日本と言う図式である。このような両国が貿易を行えば、日本が巨額の貿易黒字と言うのが当然の結果である。もっとも本来は、為替がパラメータとして働き、日米貿易のインバランスが是正される方向に動くはずである。しかし両国の間では、価格メカニズムはあまりうまく作用しないのである(理由はまた別の機会に述べる)。したがって米国の景気が好調だったり、日本が財政支出を絞るとたちまち日本の貿易黒字が急増することになる。

    もし日米の二国間の貿易収支だけが問題なら、これを解決する方法はある。本誌で何度か取上げたように。日本が米国からアラスカ原油を輸入し、中東からの原油輸入を減らすのである。米国は反対に中東からの原油の輸入を増やすことになる。たしかにこれによって日米のインバランスは是正の方向に向かうが、日米それぞれの国全体の貿易のインバランスは解決しない。つまり貿易収支のインバランスは、マクロ経済の問題である。日米はこのことを日米構造協議などを通じて、相互に理解してきたつもりである。そして先代のブッシュ大統領の時代には、日本に対して公共投資などによる内需拡大を要求してきた。極めて合理的な要求であった。しかし政権が変わる度に、スタッフが交替し、話が元に(通商問題に)戻るのである。

    この他に日本は、牛肉・オレンジなどの個別の生産物の貿易に関する交渉も経験した。これらの自由化によって日本の農家も打撃を受けたのは事実である。またこの他に金融の自由化の交渉も行っている。しかしこれまでの相手は、主に先進国であった。少なくとも互いに価格メカニズムは尊重しようと言う基本線はあった。したがって日本も購買力平価より高い為替レートもずっと甘受し、これ以上インバランスが拡大することを抑えようとしているのである。つまり少なくとも日本は貿易の相手国との協調の道をさぐろうとしているのである。ところが今後問題となろう思われる中国は全く発想が異なる国である。

    クリントン前大統領は、中国も普通の国になると言う期待で「戦略的パートナー」と言う、中国重視の政策を行ってきた。ところがこれがあまりうまく行っていなかったようである。ブッシュ大統領に変わって、この対中国政策は大きく転換した。米国は、中国は簡単には普通の国にならないと感じて、方向を転換させているのであろう。
    日本も対中国の経済問題を考える場合には、中国が極めて戦略的な国家であると言うことを忘れてはならない。中国の経済政策も、中国の国家的戦略の重要な一部なのである。


  • 中国経済の問題点の核心
    中国では工場に勤める勤労者の月給は100ドル、つまり1万2千円くらいであり、これは昔から変わっていないと言うことである。実に日本の25分の1から30分の1である。たしかにこれだけを見ると中国人はまだまだ貧しいように思われる。しかし最近テレビで、中国の中小企業の経営者の自宅と暮らしぶりを見る機会があった。自宅は豪華であり、調度品も立派である。ところがこの経営者の年収は、8万元で、日本円で120万円から140万円(為替レートによって変動)と紹介されていた。しかしどう見てもその程度の年収の人の暮らしではない。筆者は、この経営者の暮らしぶりは、日本では年収1,000万円以上の人々のそれに相当すると言う感想を持った。

    結論を言えば、中国の通貨である人民元が異常に安いのである。逆に言えば、元は交換レートより相当価値が大きいのである。ちなみに世銀の試算によると、中国の購買力平価は実際の為替レートの実に4.55倍である。また日本は逆に0.78倍である。この数値で換算して、元の実際の価値を計算すると、現在の価値の実に6倍になる。つまり一元は、為替レートが15円とすれば、6倍、つまり90円の価値を実際は持っていることになる。これで勤労者の月給を計算し直せば、7万2千円になる。また年収8万元の経営者の収入は720万円になる。この修正でかなり実態が見えてくる。つまり中国は、異常と言えるほど安く人民元を設定し、かつ為替操作によってその水準を米ドルに対して固定させているのである。筆者に言わせれば、不公正を飛び越えたほどひどい為替レートである。

    人民元の為替レートが異常に低く維持されていることによって、様々な問題が引き起きおこされている。たとえば中国人の先進各国への頻繁な密入国もその一つである。彼等はボロボロの船に乗って日本を目指したり、コンテナの中に鮨詰め状態で英国に密入国をしようとしている。このように命を賭けてまで密入国しようとしているのは、中国国内に仕事がないからと思っている人は多いのではないか。しかしこれは全くの誤解である。彼等をこのような行動にかりたてているのは、元の為替レートが異常に低く設定されているからである。先進国で収入を得て、これを中国に持込めば、莫大な資産に変わるのである。もし人民元が妥当な範囲に設定されていたなら、彼等もこのようなばかげた命懸けの冒険は絶対に行わないはずである。

    為替水準がこれまで問題にされなかったのは、中国製品と言えば、品質に問題があり、「安かろう悪かろう」と言うイメージが定着していたからである。つまり中国製品が日本市場を席巻するとしても、その分野は限定されるだろうと言う甘い観測が一般的だったのである。ところが日本の企業が進出し、技術を提供し、日本国内と同等の製品が製造できるようになったのなら、話は全く別である。販路もこれらの進出企業によって確保されている。このような日本企業の技術とむちゃくちゃな為替レートを組合わせれば、日本国内の製造業で立ち向かえる所は全くない。農産物やタオルと言った雑貨が今日問題になっているが、いずれ自動車やハイテク製品にこのシステムが波及するのは必至である。実際、今日具体的な動きが活発になっている。


    筆者の考えは、はっきりしている。このような不当な為替レートを維持している国とは貿易を止めることである。もしそれを避けるのなら、聞く耳を持っているどうか分からないが、まず少なくとも大きく為替水準を引上げるよう要求する必要がある。このままで貿易を続けることは、相手のむちゃくちゃな為替政策を容認することになる。これはセーフガード発動以前の問題である。

    では中国の場合、どれくらいの為替の切上げが必要かが次の問題である。必ずしも購買力平価で為替水準は決まるべきとは考えないが、一つの目安にはなる。そもそも世銀の試算の4.55倍もどこまで信頼できるか調べる必要がある。工場労働者の25分の1の給料と言う数字もある。筆者はこの数字はもっと大きいと言う印象を持っている。また中国の中でも沿海部と内陸部では物価水準や給与水準に大きな開きがある。このようなことがらを総合的に考慮すると、筆者は少なくとも4倍の切上げが最低必要と考える。1元が15円なら60円にするのである。3倍では、一時的に中国も競争力を失うかもしれないが、現在の生産工程を多少合理化することによって、簡単に回復できる為替水準であろう。実際、セーフガードが発動された対象品目には、枠を超えた部分には250%から260%の関税がかかるものもあるが、この高関税を払っても、業者は枠以上の輸入をしようとしているのである。

    つまり中国の為替政策があまりにも酷すぎるのである。WTOの精神は、貿易の自由化によって、各国の経済の活性化を促し、人々が豊かな消費生活を実現することである。そのために手段が貿易の関わる障壁をなくすることである。そして障壁としての関税を互いに低くすることが重要な目的である。ところが現実の為替レートの設定に対しては、あまりにも無頓着過ぎる。実際、為替を実態以上に低位に維持してきたのは主に発展途上国である。たしかにこれらの国々が世界貿易に占める比率は微々たるものであった。つまりこれまでは、これらの国の為替政策に関心がなくても特に大きな問題が起ることはなかった。しかし中国のように先進各国が進出し、技術を提供し、先進国と同等の製品が製造できる国が登場するようになったのなら、状況は全く変わるのである。このような国の為替が不当に安く設定されている場合には、WTOは真先に問題にすべきである。

    今回のセーフガード騒動が起るまで、日本人の多くは、中国の為替政策がどんなに常識を逸脱したものかをはっきり認識していなかった。また今だに、今回の日本のセーフガード発動が「保護主義」だと非難めいたことを言っている、ばかな経済学者やエコノミストが多いのには驚かされる。彼等は、経済の実態を知らないことを誇りにしているのではないかとさえ思われる。

    今週号から中国との通商問題を取上げる。しかしまず最初の大きな問題は、日本のマスコミやエコノミストが問題点のポイントを大きく誤解していることである。一番の問題は中国の為替政策である。しかしこれが問題と言って、中国に善処を求めること自体が難しいのである。

    だいたい政治家で問題点を正しく認識している者がほとんどいない。ドンキホーテ小泉の政権は、何が問題であるのかさえ把握できてないと考える。ましてや中国に変な思い入れがある外務大臣がおり、時流に乗ることしか頭にない学者が経済財政担当大臣である。特にこの学者大臣は農水省の職員に対する講演で、セーフガードの発動を牽制する発言を行っている。本当に驚きである。既に「い草」の産地の八代ではかなりの人々が自殺に追い込まれていると言うことである(このような実態をマスコミはこれまでほとんど報道してこなかった)。問題の解決は遠いのである。



来週号では、中国に為替政策の変更を求めることが非常に難しいことについて述べたい。セーフガードがそれほど効力を発揮しないと言うことになれば、由々しき問題である。

本誌で、以前、世界の中で最近ペイオフを行った事例がないと述べたが、実際は2年前にアメリカの片田舎で行われていた。たしかに極めて零細な銀行の破綻ではあったが、ペイオフが行われたのは事実である。これをテレビの番組で知った。この番組はペイオフの特集であったが、日本人でペイオフの実態を正確に知っている比率が、非常に小さいことには考えさせられる。さらにこの番組においても説明は極めて不十分である。

筆者は、日本ではペイオフは絶対に実施してはならない観念的な政策とずっと主張している。まだ混乱が起っていないのは、人々がペイオフの実態をほとんど知らないからである。このまま盲目的にペイオフ解禁に向かうことは、日本人が大海に飛び込むねずみの群れになったようなものである。


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