- とっつき易い政策
今日の日本で政策によって消費を増やそうとすることは、本当に難しいことであるが、今週はこれを検討する。まず先週号では、消費世帯を、「金を持っていないので使えない」Aグループ、「ある程度持っているが使えない」Bグループ、そして「持っているが使わない」Cグループの三つに分けた。
フリータに代表されるAグループは、金銭的な余裕は全くない。また近年フリータの数が増加しており、時給や日当は着実に下がっている。したがってこのグループの一人当たり収入も、確実に減少しているはずである。つまりこのグループの消費の増大は絶望的である。
30才代、40才代の正社員や公務員に代表される次のBグループは、ある程度貯蓄を持っている。さらに信用による借入余力もあり、条件が揃えば、住宅購入のような大きな消費を行う可能性はある。しかし一旦、住宅購入などの大型消費を行った場合、ローン返済のメドが立つまで、人々は消費を抑えることになる。つまりこのような大型消費は、将来の消費の先食い的な性格を持つ。実際、バブル期以前から、内需拡大策として住宅取得の推進が図られてきた。つまり財政支出の伴わない景気対策(安上がりの景気対策)として重宝がられた。
この結果、現在このBグループには多額のローンを抱えた人が多く、購買力はかなり低下している。また資産価格の継続的な下落も、このグループの消費意欲を一層削いでいる。昔のように土地などの資産の価格が毎年上昇していたなら、たとえローンを抱えていても、ある程度の購買力は維持できたはずなのである。さらにリストラなどの横行で、雇用不安が追い討ちをかけている。これではとてもこのグループの人々の消費増については、多くは望めない。
これらBグループとAグループは、ある消費を増やせば、他の消費もしくは将来の消費を減らさざるを得ない状況にある。結局、消費の拡大の可能性があるとしたなら、やはり50才代以上のCグループである。このグループは少なくとも金銭的に余裕があり、他の消費をあまり減らすことなく、全体の消費額を増やすことが可能なのである。しかし以前本誌では、これまでお年寄りをターゲットとしたシルバー産業がことごとく失敗したことを述べた。可能性はあるが、このCグループから消費増を生み出すことは難しいのである。
とりあえず筆者が思いついたアイディアは次のようなものである。
- リバースモーゲージ(逆住宅ローン)に公的保証
リバースモーゲージとは、持ち家を担保に金を銀行から借入れる制度である。これによって老人が死ぬまで自宅に住みながら、現金を手に入れることができるのである。筆者は面白い制度と考えている。しかし近年の継続的な地価の下落によって、せっかくのこの制度がほとんど使われていないのが現状である。そこで公的保証を導入することによって、この制度が機能するように仕向けるのである。たとえば、土地・家屋の評価額の50%までは政府が保証すると言う方法が考えられる。
この制度を利用しようとする人々は、金銭を使用する目的があるはずであり、消費が増える可能性が強い。またこのような借入制度があること自体を知らない人々が多いので、広報活動も大切である。老人の中にも消費意欲が強いが、貯えがないと言う人々がいる。貯蓄がなくても、もし担保価値のある住宅を所有していたなら、この制度で現金を手にすることができ、これによって消費も増えるのである。
- 年金の支給方法の変更
年金によっては、支給が三ヶ月毎になっている。これを毎月支給と支給方法を変えることが有効と考える。どうしても収入がまとまってあると、貯蓄率が大きくなる傾向がある。技術的に簡単なことなら、このようなことでも少しは消費も増えることがあり得るのである。
- 寄付行為の奨励
本人が金銭を使わないでも、それを寄付することによって、資金が循環し、結果として社会全体で消費が増えれば良いのである。日本には、勲章・褒章の制度があるが、多額の寄付をした人々にもどんどん勲章を与えるべきである。また勲章を受けたと言うことで、祝賀のパーティーがどんどん行われれば、これも消費を盛上げる。
勲章制度には、人を位で差別すると言う非難はあるが、このような制度は使いようである。時代が変われば、勲章を受取る人々の対象を変えて行けば良いのである。たとえば寄付金100億円なら勲章は何と目安をはっきりさせておけば良い。
- カジノの開設
以前から説明しているように、消費には、所得効果の他に代替効果がある。代替効果とはある消費が増えた場合、その分他の消費が減ると言う効果である。つまりAの消費が増えてもBの消費が減少することである。今、話を進めているのは、全体で消費が増やす方策である。よく規制緩和で消費が増えると言う話があるが、しかしこれに代替効果が伴っておれば意味は半減するのである。特に代替効果は時間が経って起るケースがあり、分かりにくいので分析上では無視されるケースも多い。しかし真面目に消費全体を増やそうと考えるなら、これを考慮する必要がある。したがって今週号は、筆者も苦労している。
今日、代替効果を起こさずに、純粋に消費を増やすような規制緩和が存在するかと言うことである。つまり人々が貯蓄を減らしたり、貯蓄を取崩してまで買いたい商品やサービスの出現が、規制緩和で実現するかと言うことである。しかし筆者の結論は「まともなものはない(細かいものはあるかもしれないが)」と言うことである。
もしあるとしたなら、人々の根本の欲望に根差したものであり、公序良俗に反するとして、日本では法律で禁止されている分野である。以前から、半分冗談で「規制緩和で消費増の可能性があるとしたなら、売春・麻薬・カジノ・銃などの解禁しかない」と言っていたが、まさにこれらのことである。たしかに世界には、制限がありながらもこれらを合法化している国々もある。
筆者も、この中で日本で可能性があるとしたなら「カジノ」しかないと考えている。「カジノ」は、たしかに競馬などの他の公営ギャンブルと競合する部分もあるが、金銭に余裕のあるCグループを主なターゲットとするように運営すれば、住み分けも可能と考える。ただし誤解してもらっては困るのは、「カジノ」ぐらいで、今日の日本経済の需要不足が解決するとは決して思っていない。
Cグループを対象にした、筆者のアイディアは今のところこのようなものである。またグループを限定しない政策としては、高速道路の無料化と言うものがある。これは全ての高速道路を無料化すると言うのではなく、利用者が極端に少ない有料道路料金を無料、あるいは大幅に値下げする政策である。
全国には、利用者の少ない高速道路や有料道路がある。もったいない話である。またこれらを日を決めて無料開放(または大幅な値下げ)する方法も考えられる。一度利用すれば、その便利さに気が付き、利用者が増える可能性がある。利用者数が予定を大幅に下回ると言われている「アクアライン」も、試しに何日か、無料(半額でも良い)にしてみれば良いのである。またそれによって適正な通行料金と言うものも分かるかもしれない。さらに車の走行が、このことによって増えれば、ガソリンや軽油の消費が増え、税収も増えるはずである。国は道路公団に補助金を出しているのであるから、公団も国も最終的にサイフは同じと考えるべきである。
- 中長期的の対策
前段では、どちらかと言えば、即効性のある政策について述べたが、もう少し中長期的な観点で消費増を目指す政策も考える必要がある。一つは雇用問題の解決である。政府も雇用問題を重要と考えている。しかし経済諮問会議に提出されたアイディアは「規制緩和で500万人以上の雇用が創出ができる」と言う、本誌も触れたくないほど荒唐無稽なものである。たしかに経済諮問会議のばかばかしさだけはよく解る。
筆者は、この問題についてずっと考えているが、最終的には公務員の採用増しかないのではないかと思っている。たしかに経済の活動レベルを上げ、民間の雇用を増大させる施策は重要であるが、どうしても落ちこぼれる人々が相当出てくるのは必至である。これについては、本誌でも以前、企業の中高年者を公務員(主に団塊の世代を対象にした時限的な公務員の特別枠の設定。15年後には消滅。)に採用し、その分企業が新卒者の採用を増やさせる政策を提案した。今回は、これに加え、現在フリータとなっている人々を一旦、公務員に採用する政策を提案したい。
フリータの数は、4年前の調査で150万人と言われていたことから、現在は300万人に近いのではないかと推定される。さらにこの数は今後も急ピッチで増え続けると予想される。一つの問題は、彼等の行っているのはほとんどが単純な業務であり、将来収入が増える可能性がないことである。また民間企業も、再教育が必要な彼等を積極的に採用する気が無い。このままでは、増え続けるフリータの存在は、日本の構造的な問題になる(既になっているとも言える)。付加価値が小さい仕事しかできなく、収入が少ない彼等の存在がどんどん大きくなれば、将来消費需要も縮小することは容易に想像される。またこの他にも色々な社会問題が引き起こされるのは必至である。
世間では、よく職業訓練と言うが、フリータには自由になる金がない。したがってフリータが働きながら、職業訓練を受け、ステップアップした職業に就くと言うことは難しい。また雇用保険の対象になっていない彼等が職業訓練を受ける機会はほとんどない。筆者の提案は、彼等を一旦年限を切った公務員に採用し、そこで必要な職業訓練を施すと言うシステムである。この職業訓練を通じ、民間企業に正社員に採用されたり、自営の道を探ることにする。中にはそのまま公務員に採用される場合も考えられる。とにかくAグループの人口の増加を抑え、Aグループの人々をできるだけBグループに移行させることが大事である。
これを行えば、公務員の数は増える(一時的にはかなり増える)。行政改革が叫ばれている現在、筆者のような主張は流れに逆行するものと思われるであろう。しかし世の中の物やサービスへの需要は増えてはいないが、社会サービス(安全、治安、環境、快適な通勤や交通など)の需要は依然大きいのである。
また日本には、公務員の数が多すぎると言う根強い誤解がある。これは本誌で以前取上げたが、日本の公務員の数は、諸外国に比べずっと少ない。国と地方を合わせた公務員の数は449万人であり、全人口の3.5%である。一方、他の先進国は公務員の数は日本より多い。ちなみに7年前の数字であるが米国は1,875万人で、全人口の7.5%である(こう言うと必ず特殊法人などが含まれていないと言う声が聞こえそうであるが、そのようなものを含めても明らかに米国の方が圧倒的に多い)。何も知らない「小さな政府信奉者」である日本の経済学者達は、米国は小さな政府だと誤解しているだけである。だいたい軍隊の規模を考えても、米国が小さな政府であるはずがないだろう。
Bグループの消費を拡大させることは、あまり考えていない。なぜなら先程述べたようにこれが、他の消費を結果的に減らす代替的消費だったり、単なる将来の消費の先食いだったりするからである。ただこのグループが必要以上に消費をセーブするケースが見られる。数年前、大型金融機関の連続破綻し、信用不安が拡大た時には、あまり変動がないはずの消費性向がかなり小さくなった。これはこのBグループが消費をかなり抑えたからと推測される。筆者は、このグループが必要以上に消費を抑制しようとする場合の一番の要因は、雇用不安と考えている。今後、景気が急激に落込んだり、大型の企業の破綻が続けば雇用に対する不安が増し、必ずまた消費が減少すると考えている。
このグループが住宅購入を延期したり、取り止めれば、消費はかなり落込む。このような消費の落込みを避けることは、今日の情勢では難しい。雇用不安を解消と言っても、「構造改革のためには、マイナス成長もやむを得ない」と言う小泉政権のもとでは無理である。
雇用不安に加え、もう一つ将来への漠然とした不安で、消費を抑えると言う現象は、BグループやCグループではあり得る。社会保障の整備が中途半端であり、コミュニティの崩壊が続く、今日の日本では可能性が強いのである。これに対して、筆者は、一つの提案がある。将来(15年くらい後)、公共事業費を削減し、これを年金の財源にすることである。筆者は、公共投資を大幅に増加させることを主張している。しかしこれは10年から15年先までのことである。それ以降は、公共投資を大幅に減少させ、15年後には、メンテナンスと地方の雇用対策としての公共工事だけを残すようにする。
この年金は国民全体を対象にしたものであり、支給開始年令も低く設定する。厚生年金など高額の年金を受取る人々は、これを減額するか、あるいは支給しないとしたなら、支給対象者にはある程度の年金が確保される。政府が行うことは「将来、公共事業を減らし、それを年金に充てる」と宣言することである。このことによって将来の生活の不安を減少させ、今日の消費を増やさせるのである。
今日、各種のシミュレーションが行われ、年金の財源を確保するには、増税が必要と言う話が横行している。このような話がさらに国民の不安を増しているのである。しかしこれらのシミュレーションの前提は、公共事業費の額を現在の水準のままで行っていると推測される。前提がおかしいのである。
今週号では、筆者が考える消費の拡大策を検討してきたが、この他にも方策があるはずである。もし考えが浮かんだら、そのうちまた本誌でも取上げたい。そして小泉政権下では無理であるが、現在やはり必要なのは、財政支出による需要の補填である。これによって人々の不安を解消し、消費を喚起すると言うのが正攻法である。
ところでどう言う訳か、貯蓄と言えば個人の貯蓄ばかりが、話題になるが、日本では法人の貯蓄も問題である。法人と言っても、実質的にはほとんど個人の持ち物と言える企業も多く、そこが大きな貯蓄を持っている。また相続税対策と思われる財団の設立が多く、そこにも大きな貯蓄が寝むっている。宗教法人や学校法人も多額の貯えを持っている。この他には労働組合がある。ストなんか絶対にしないのに「闘争資金」と言って、今だに毎年積み立てを行っている。
つまり日本中で皆が貯蓄を行っているのである。これらの貯蓄は増え続け、動きそうもないこれらの貯蓄が、需要不足を引き起こしているのである。これらの貯蓄を、国債発行によってかき集め、それを財政支出として使うことが何故問題であろうか。いやその資金を経済の循環に戻してやらなければ、経済が縮小し、失業する人々が出るだけである。これがまさに日本経済の体質なのである。つまり増え続ける貯蓄に合わせて、財政赤字を増やさざるを得ないのが、日本経済の今日の姿なのである。
また財政支出の削減を意図している小泉政権のもとでは、今週号のように消費拡大策を考えること自体がポテンシャルの高い作業ではない。首相自ら「マイナス成長もやむを得ない」と言っているではないか。いずれ小泉政権が交代するのであるから、消費の拡大策はその時期までに考えれば良いと言うことである。
日経新聞だけでなく、他のマスコミでも「財政再建」論議が活発である。先日も朝日新聞が「財政再建」のキャンペーン特集を載せていた。ディスカッションに参加していた多数の経済学者やエコノミストは、どれもこれもどうしようもない人々ばかりである。今日の雰囲気は、橋本政権の「財政再建」論議の時とそっくりである。橋本政権の「財政再建」路線の大失敗によって、これらの経済学者やエコノミストは一掃されるべきであった。彼等は、しばらく静かにしていただけで、また活発に活動を始めているのである。連日テレビに出演し、「無駄な公共事業費を削減しろ」と叫んでいる。まさに「けじめ」と言うものがない日本人を象徴している。
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