平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

普通の電話を使用。市外一律3分20円。国際電話や携帯電話へも割安通話。インターネットの音声帯使用により音質良好。



01/5/14(第207号)
消費不振の分析
  • グループ別の消費動向
    米国の景気の先行きが不透明であり、日本は輸出に大きく期待はできない(為替は昨年より円安で推移しており、企業は輸出ドライブをかけざるを得ないが)。住宅建設も頭打ちで、今年度はマイナスは避けられない状況である。そして唯一の救いであった財政支出も、小泉政権の成立により、マイナスの伸び率を覚悟しなければならない。そうなれば日本の景気回復には、最大の需要項目である消費に期待がかかるのは自然なことである。今週号からこの消費が伸びる可能性について検討してみたい。

    消費と貯蓄は裏表の関係にある。そして貯蓄を分析することによって、消費を増大させる方策が見つかるかもしれない。ところで日本の貯蓄の実態を知る方法は色々と考えられる。筆者は、01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」で使った総務庁の1,999年の全国消費実態調査を再度使ってみることにする。これには年代別の貯蓄と借入金が載っており、色々と応用ができる。

    まずこの調査結果を多少アレンジして、日本の消費者を三つのグループに分ける。Aグループは、年令が若く収入が少ないか、あるいは無職の人々の世帯である。収入は主に、アルバト的なものであり、時給や日当で支払いを受けている。代表例はフリータである。また年令が高くても、臨時雇用的な職業や熟練をあまり要しない職種に就いている人々もこのグループに入る。

    このAグループの特徴は、収入が極めて少ないことである。しかし消費意欲は強く、収入のほとんどを費消しており、したがって貯蓄はほとんどない。昔はアルバイトと言えば、正社員に採用されるまでの一時的な雇用形態であった。しかし今日では正社員の採用は抑えられており、アルバイト生活をいつまでも続けるフリータと言う存在が定着している。そしてこのグループの人口は近年目覚ましく増えている。このグループは、あまり熟練を要しない職業に就いており、いつまでも低賃金のままである。最近数が増えている派遣社員も、どちらかと言えば、このグループに入れるべきと考える。

    Bグループは、主に30才代、40才代で主に企業の正社員や公務員の世帯である。年功序列賃金カーブでは中間に位置する。これまで数の上で圧倒的に多かったこのグループも、少子化と正社員の採用減少で徐々に存在が小さくなりつつある。団塊の世代が全員50才代になる数年先には、このグループは一段と小さくなる。

    このグループの特徴は、「住宅」を購入するため貯蓄をしているか、あるいは「住宅」を購入したための多額の借金を抱えている。特に30代は貯蓄より負債が大きい。また子弟の教育費がかかるなど、収入の割には自由になる金が意外と少ない。消費意欲は強いが、ローンの返済などを優先させているため、消費は伸びない。特にリストラがさかんな今日では、守りに入っている人々も増えている。

    最後のCグループは、50才代以上の老齢の人々の世帯である。ほとんどの人々は、自宅を持っており、ローンの返済も大半が済んでいる。このグループの消費行動については、本誌では、01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」から4週間取上げたので、それらを参考にしてもらいたい。

    このグループの特徴は、金銭的には余裕があるが、消費意欲が強くないことである。したがって貯蓄額も最高である。特に収入額で頂点となる50才代も、高齢社会の到来で守りに入っている。いつまで生き続けるのか分らない現状では、この年代層の人々はとにかく消費より貯蓄の方を選択するのである。このグループの人々は、無理に貯蓄をしていると言うより、派手な消費をためらうのと言う方が適当であろう。


    たしかにこれらのいずれにも分類が迷う人々もいる。たとえば自営業を営む人々である。これらの人々は事業の好不調で収入に大きな開きがある。収入が少ない人々はとちらかと言えば、Aグループに含めても良いと考えられる。

    また自営業で収入が多い人々と夫婦共働きの人々は、同じ年代層にあっても余裕があり、不況下の今日でも消費に積極的と考えられる。たしかにこれらの人々は、商売を行っている人々にとっては良いターゲットである。しかし本誌では、これらの消費に積極的な人々は少数派と考え、分析の上ではとりあえず割愛する。
    ところでDINKS(ダブルインカムノーキッズ)の広がりが、米国の長期の消費景気に一定の影響を与えていると筆者は考えている。つまり筆者は、日本でも「夫婦共働き」の問題は今後中長期的には重要な問題と考えている。いずれ米国の景気が、供給サイドのうんぬんではなく、まさしく需要増大で実現されたことを説明する時にまた取上げる。


  • 絶望的な消費拡大
    前段で人々を三つのグループに分けた。つまり「金を持っていないので使えない」Aグループ、「ある程度持っているが使えない」Bグループ、そして「持っているが使わない」Cグループである。このグループ分けは、日本の経済現象を説明する上でも有用である。たとえば減税の効果である。日本では、これまで景気対策として度々減税が行われたが、全くと言ってよいほど効果がなかった。

    減税が関係してくるのはBグループとCグループの50才代である。前者は、ローンの返済などを優先しているのであるから、減税があったからと言って、消費を増やす訳にはいかない。また守りに入っている50才代は、減税だからと言っても容易には消費を増やさないのである。Cグループの60才代以上のほとんど働いていない人々(ただし収入はある程度ある)にとっても、減税は関係がない。さらにAグループはあまりにも収入が低いので、払っている税金も微々たるものである。したがって減税の恩恵もほとんどない。

    つまり減税は、たしかにBグループの救済(要望は多いが景気対策としては効果がない)にはなるけれど、景気浮揚にはつながらないことが良く解る。欧米では、金利の引下げと減税がもっともオーソドックスな景気浮揚策である。しかし今日の日本では両者ともほとんど効果がないのである。したがって本誌が主張しているように、現状では公共投資に代表される財政支出だけが、景気対策として確実に効果が期待できる政策である。


    中長期の問題になるが、三つのグループの比重の変化が経済に及ぼす影響が大きい。Bグループの人口は減り、AグループとCグループの人口が確実に増える傾向にある。Bグループは日常の消費を切り詰めているが、「家」や「自動車」と言った大型の消費を行うか、または行った結果ローンを抱えている。Bグループの縮小は、今後の大型消費財が売れなくなることを意味する。ちなみにAグループに属するフリータの平均月額収入は、11万円くらいと言う調査がある。これでは将来の日本の消費動向は真っ暗である。

    ところで5月8日の日経の「経済教室」に、第一勧銀総研の公文敬と言うエコノミストが「消費不振の主因は人口鈍化」と言う一文を寄稿している。これによると、欧米に比べ、日本では消費が盛んな15才から64才までの人口の伸び率が低下しており、これが消費不振の原因と指摘している。これも興味のある分析であり、ここまでの本誌の分析と重なる部分も大きい。


    いずれにしても、日本の消費不振、つまり過剰貯蓄は構造的なものであり、さらに深刻な方向に向かっているとも言える。筆者は、構造と言うものは変わらないから構造と言うのであり、政府の経済対策はこの構造を前提に行うべきとずっと主張してきた。しかし中長期的には打つべき政策はあると思われる。たとえばAグループの人口が増えないようにして、なるべくAグループからBグループに人が移動できるようにする施策である。しかしこれについてはまた別の機会に取上げる。

    さらにこれだけリストラが横行し、雇用不安が増すと本来Bグループに属している人々でも守りに入る人々が増える可能性が強い。つまりBグループにいても、貯蓄行動がCグループに似てくるのである。これが消費不況をさらに深刻にしている。
    「経済成長には、産業を整理する必要がある。その際の失業の増大はやむを得ない」と言う無責任な言動が今日飛び交っている。このような雰囲気が一段と消費を冷え込ませるのである。


    来週号では、このような難しい状況で消費を伸ばす方策を考えることになる。即効性のある施策はほとんどないと言うのが正直なところである。もし考えられるとしたなら、やはり中心となるターゲットは余裕のあるCグループとなろう。

    老人の貯蓄率が大きいことは、何度も取上げた。これは消費が小さいからとも言えるが、一方、日本の老人の所得が意外と大きいことにも注目する必要がある。70才代の世帯の平均収入は年500万円を超えている。これはフリータの実に4倍である。つまり年金以外にも結構収入があることを示している。

    筆者が知っているある老人は、賃貸マンションを3棟と駐車所を二ケ所所有している。筆者の勝手な計算で、年収は一億円くらいと思われる。この人の夕食はたいていホカ弁と缶ビールである。二年前に心臓を患っており、派手な行動を慎んでいる。つまりこの老人の収入のほとんどは、そのまま銀行に直行している。日本にはこのような老人がゴロゴロいるのである。銀行に預金された資金が、設備投資や消費に充てられていた時代なら、資金は循環し、問題はなかった。しかし今日のように設備投資が不調になれば、資金への需要はなくなる。またそれと同時に総需要が不足することになり、不況が深刻になるのである。銀行の方も資金が余り、国債を購入する他はなくなる。したがって政府が景気対策を渋り、国債発行を抑えると今日のように、たちまち国債利回りは低下するのである。


    今日国会では「構造改革」と言った全く緊急性のない議論がなされている。彼等は現在進行している問題の深刻さに、何も気がついていないのである。「構造改革」によって、老人が急に金を使い出すとでも思っているのであろうか。これらの政治家とその取り巻きの経済学者の頭の中の「構造改革」が必要である。

    ちなみにブッシュ大統領は小泉首相の「構造改革」を、「リフォーム」と捉えているようである。誤解している彼は、小泉首相の「構造改革」を歓迎するメッセージを送っている。そして小泉首相に来月具体的に「構造改革」について説明を聞きたいとまで言っている。したがって小泉首相の「構造改革」が、「リフォーム」ではなく「デストロイ」、つまり単なる「破壊」を意味すると知った時にどのような反応を示すか見物である。



来週号は具体的な消費を増やす方策について述べる。

読者の方から、国債の日銀引受けは、物価と金利の上昇を招くのではないかと言うご質問を受けた。まず金利については、上昇はないと考える。むしろ日銀引受けで得た資金で市中の国債を買うこともできる。この場合には、逆に長期の金利は低下することになる。

問題は物価である。まず国債の日銀引受けだけでは、物価に影響はない。影響が出てくるのは、日銀引受けで得た資金で政府が公共投資や減税などを行った場合である。市中に出回る資金が多くなるのであるから、需要が増え、物価は上昇する可能性はある。しかし実際は、日本には多くの失業や遊休設備が存在しており、簡単には物価は上昇しない。また消費物資が中国などから安く輸入されており、とても物価がどんどん上昇する状況にはない。本誌でも以前、半分冗談で「中国の失業者がいなくならない限り、日本の物価は上昇しない」と言ったが、これが現実になりつつある。もっともこれは別の問題を引き起こしており、近々取上げるつもりである。

国債の日銀引受け政策のポイントは、どこまでの物価上昇が国民のコンセンサスが得られるかと言うことである。欧米並の物価上昇率、つまり2〜3%を実現するには相当巨額の国債を日銀が引受ける必要があると筆者は考えている。

別の読者から、「最近、これまでの財政支出による景気浮揚策が効果がなかったと言う政治家や経済学者の言動が目立つが、本当か」と言うご質問があった。これに対しては、「財政支出による景気浮揚策は効果があったのに決まっている」と答えるほかはない。ただ財政支出のプラス効果より、各種のデフレ圧力の方が勝っていただけである。これは長期金利の動向見ていれば明白である。一つの要因は今週号で取上げた構造的な過剰貯蓄の増大傾向である。また全体として消費に対する欲求が弱まっている今日の日本では、循環的な経済の動きも小さくなっている。したがって景気対策を行ったからと言って、経済が自律成長路線に乗ると言うことは難しくなっている。つまりプラス成長のためには、政府は、ずっと財政の赤字を増やしながら、不足する需要を補填し続けることが必要なのである。これを止めれば、経済は縮小均衡に向かうだけである。




普通の電話を使うインターネット電話。市外一律3分20円、携帯電話へも割安。音質も良好。


01/5/7(第206号)「小泉政権雑感」
01/4/23(第205号)「「IT革命」騒ぎの舞台裏」
01/4/16(第204号)「グリーンスパンのかかった二つ目の「罠」」
01/4/9(第203号)「グリーンスパンのかかった二つの「罠」」
01/4/2(第202号)「銀行の不良債権問題(その2)」
01/3/26(第201号)「銀行の不良債権問題(その1)」
01/3/19(第200号)「与党の緊急経済対策」
01/3/12(第199号)「自分の家の前の掃除」
01/3/5(第198号)「公共投資の経済効果」
01/2/26(第197号)「公共事業雑感」
01/2/19(第196号)「日本の経済政策の方程式」
01/2/12(第195号)「老人の貯蓄と経済(その2)」
01/2/5(第194号)「老人の貯蓄と経済(その1)」
01/1/29(第193号)「老人と貯蓄(その2)」
01/1/22(第192号)「老人と貯蓄(その1)」
01/1/15(第191号)「経済論議のポイント」
00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー

日常的に起こる経済問題をトーク形式で解説
日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン