平成9年2月10日より
経済コラムマガジン

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01/5/7(第206号)
小泉政権雑感
  • マスコミの嵌め込み
    選挙前の大方の予想に反して、圧倒的な大差で小泉氏が自民党の新総裁に選出された。この結果は、橋本氏があまりにも不人気だったせいだけではない。小泉氏に投票した人々は、10年もの長きに及ぶ経済の低迷の解決を、まったく違ったタイプのリーダシップに託したと言う見方がある。たしかに全ての自民党員が小泉氏の掲げる政策に賛同して投票したとは考えられない。だいたい小泉氏は、選挙中ほとんど具体的な政策を訴えていない。

    同様のことは、総理大臣就任後の各種世論調査でも言える。おかしなことに日経の緊急アンケートでは、新政権に望む政策の第一位は経済の回復である。しかし小泉氏は「経済構造改革なくして、景気回復はない」と主張し、「2,3年のマイナス成長も止むなし」と言っているのである。もし一番に望む政策が「経済の回復」なら、小泉氏以外の候補に投票すべきである。筆者は、小泉氏に投票した自民党員や小泉氏を支持している人々の考えに大きな混乱があると考える。

    この不思議な現象には、二つの背景が考えられる。まず一つには、マスコミの影響が極限まで大きくなっていることが挙げられる。
    前の森首相は新聞記者出身であった。ところがマスコミの業界の実情を知っていたためか、彼はかえってマスコミを毛嫌いしていた。これを受け、マスコミの方も必要以上に前総理への攻撃を続けた。そしてこれが森政権の低支持率の一つの原因でもあった(低支持率の大きな原因は、経済の低迷であったと筆者は考える)。

    森政権下の自民党は、完全にマスコミに嵌められていた。前政権は、「密室」性と言うマイナスイメージの言葉でずっと象徴され続けてきた。しかし首相に選出された当時は、小渕首相が突然倒れ、サミットも控え、誰かを緊急的に首相に選出しなければならない状況にあった。また小渕首相は死ぬか生きるかの瀬戸際であった。したがって派手な選挙戦を行うことがはばかれる状況であった。さらに新しい政権は、誰がやっても暫定的なものと考えられていたはずである。つまり自民党の有力幹部が集まって、暫定的な首相をとりあえずに決めることにそれほど抵抗感がなかったはずである。また日本においては、首相の力の及ぶ範囲が限定されていると一般的に考えられている。したがってこのような選出方法も許されると当事者は安易に考えたのであろう。

    また過去の経歴から考えても、森氏が自民党の中では、総裁の最有力候補の一人であったことは間違いない。おそらくまともに総裁選を行っていたとしても、消去法で森氏が出馬し、総裁に選ばれていたと思われる。当時、唯一の対抗馬と考えられたのは加藤紘一氏くらいであり、もし両氏の戦いなら、森氏が圧勝していたはずである。しかしマスコミもこのようなことは解っていながら、「密室」キャンペーンを続けたのである。

    ところがこの「密室」キャンペーンは、意外に効果が大きかった。理由がなんであれ、内閣の支持率が下がる都度に、この「密室」性が問題にされた。これによって自民党の地方組織もマスコミに嵌められることになった。知事選で無党派の立候補に負ける度に(実際自民党が担いだ候補者に問題がなかったか検討する余地がある)、人気のある首相を求める声が大きくなっていった。そしてこの「密室」問題が尾を引き、今回のよりオープンな総裁選が実施されることになった。そしてこうなればマスコミの影響が自民党の総裁選に及ぶのは必至である。

    たしかに小泉人気は、マスコミが全部作ったものではない。しかしマスコミにはそれを増幅する機能があった。特に今回の総裁選で分かったように、自民党員も相当無党派化が進んでいる。つまり今後は、自民党の総裁と言えど、マスコミの動向を軽視できなくなったのである。


    もう一つの重要な背景は、国民の多数は、いまだ今日のデフレ経済の深刻さを実感として受け止めていないと言うことである。もし日本経済の深刻さを実感していたなら、このように小泉氏が圧倒的な支持が集まるはずがない。たしかに小渕政権以来、政府はある程度の景気対策を行って来ており、日本経済の底割れは回避されている。日本に訪れている外国人に聞いても、日本が不況と言っても、ちょっと信じてもらえないかもしれないのが実態である。

    デフレ経済の特徴は、初期段階においては、その影響が一部の人々に止まることである。2割くらいの人々には深刻な問題でも、他の人々にとっては関係ないのである。あるテレビのニュースキャスターは「牛丼が半額なったりして、デフレ経済も決して悪いものではない」と言っていたが、案外このような認識が国民の平均的なものかもしれない。

    筆者は、日本において失業が増え、フリータが増えていることに危機感をもっている。しかし人々はリストラの当事者でもなければ、牛丼やハンバーガーが半額になったことの方が嬉しく感じるのである。したがって大衆を相手にするマスコミは、デフレ経済の問題点を取上げるより、むしろ政府の666兆円の債務残高をより重要な問題として取上げることになる。そして小泉氏圧勝の原因の一つは、この政府の債務残高問題を前面に出したことだと筆者は考える。


    小泉人気は、日本のマスコミのこの論調が変わるまで続くと考えられる。もしマスコミの論調が変わるとしたなら、日本経済がもっと深刻になった時である。

    筆者は、常に毎月の「広告扱い高」に注目している。この金額の対前年度比はずっとプラスで推移している。昨年度は実に10.5%もの高い伸びを示している。他の産業が苦戦しているが、マスコミは空前の好景気なのである(3月時点でも依然対前年度で6.7%も伸びている)。「広告」は、景気が良くても悪くても増える可能性がある。売上が不振になった場合、他の経費を削っても、広告だけは行うと言う企業あるくらいである。しかしさすがに景気の悪化がもっと進めば、「広告扱い高」も減少することになろう。

    98年度は、経済が大きく落込み、めずらしく「広告扱い高」の伸びがマイナスになった。この時にはさすがにそれまで橋本政権の「財政再建」を後押ししていたはずのマスコミも、景気対策を訴え始めた。つまりマスコミは方針を転換したのである。はじめのうちは不人気だった小渕政権も、景気対策を進めることによって、マスコミも好意的に取上げるようになり、支持率も急上昇することになった。

    「広告扱い高」はマスコミにとって重要である。この金額が減少するような事態になれば、マスコミも現実的にならざるを得なくなり、論調も変えるはずである。そして小泉政権が、このマスコミの論調の変化に対応しなかった場合には、政権も危なくなるのである。まさにマスコミの天下と言うのが、今日の日本の姿である。


  • ドンキホーテ小泉首相の経済政策
    筆者が考える小泉政権の経済政策のポイントをいくつか取上げる。小泉総理は「構造改革」と言っているだけで、その内容はさっぱり分らない。これは「構造改革」派の人々の特徴でもある。ただ財政出動を抑えることだけははっきりしている。つまり現状では、小泉政権の経済政策についてコメントすることはなかなか難しい。とりあえず今回は二点に限って取上げることにする。

    一つは緊急経済対策である。この中には色々な対策が盛り込まれているが、意味のあるのは都市再生プロジェクトだけである。この他に株式の譲渡課税の軽減や金庫株の解禁などがあるが、これらはほとんど効果はない。
    また銀行の持合い株の買取機構構想がある。しかし筆者の考えは違う。筆者は、どんどん株式を市場から買上げる機関の設置を主張している。35年ほど前に設置したような株式買取機関である。つまり銀行には自由に持株を処分してもらい、株価が一定以下になれば、政府の機関が市場から買上げ、株価を維持するのである。ちょうど政府の資金によるPKO(プライス・キーピングオ・ペレーション)と考えてもらって良い。

    都市再生プロジェクトで問題となるのは財源である。計画では財政投融資を使うことになっていた。しかし郵政民営化を主張する小泉総理が、この財投を使うと言うこのアイディアにすんなり納得するかどうか難しいところである。また今後は、これまでのように簡単に財投と言う訳にはいかない。つまりこれまでの財投は財投債や財投機関債に置き換わるのである。したがって採算どうなるのかと言ったややこしい事柄がより問題になる。とても機動的な対策にはならないと言うことである。

    もっとも緊急経済対策は、今年の2月から3月にかけての株価急落に対応することが、当面重要な目的であった。したがって3月の危機は一応回避された今日では、半分役目を終えているとも言える。また持合い株の買取機構などについても色々な意見が出てきている。どうも緊急経済対策自体が空中分解する雰囲気である。


    もう一つ、小泉政権で今後問題になるのは「ペイオフ」である。以前、テレビで亀井前政調会長が「ペイオフは、その時の状況で考え、解禁を延期することもあり得る」と発言していた。したがって事実上ペイオフ解禁は、延期されると筆者は理解していた。しかし小泉政権成立で状況は大きく変わった。柳沢金融担当相も「小泉政権のもとではペイオフ解禁の延期はあり得ない」と断言している。つまり「ペイオフ」に関しても、小泉政権がいつまで続くかと言うことが重要な要素になってきた。

    定期預金のことを考えると、実質的に「ペイオフ解禁」は始まっている。しかしマスコミはこれを報道しないし、多くの人々は気が付いていない。ただ知っている人は、「ペイオフ解禁」が遅れることになっている普通預金にとりあえず資金をシフトしている。金利水準が極めて低いので、どちらでも同じなのである。

    00/1/31(第148号)「「ペイオフ強行派」への反論」で述べたように、「ペイオフ」で問題になるのは格付機関の格付の動向である。特にムーディーズは邦銀の格付は、政府などの支援を前提に行っているとはっきり言っている。つまり現在の政府の支援体制がなくなれば、格下げを行うと言うことである。実際、前回「ペイオフ解禁」が延期が決定された際には、ムーディーズは邦銀の格付を上げている(ペイオフの解禁を延期すると国際公約に反することになり、邦銀の格付は下がると主張していた沢山のばかな経済学者の主張とは反対に)。したがって「ペイオフ解禁」が現実的になった場合に、格付機関がどう動くかが注目される。

    おそらく「ペイオフ解禁」がはっきりしてくれば、ムーディーズは格付を下げると思われる。しかしこれはある程度織込み済みである。一方、次に注目されるのはS&Pの動きである。ムーディーズが投資家寄りで、債券の発行会社に辛い格付を行うのに対して、S&Pは発行会社寄りの格付を行う。このS&Pが「ペイオフ解禁」に伴いどのような格付を行うかが次の問題である。


    とにかく小泉政権はスタートした。筆者は、小泉氏の考えに真っ向から反対している。しかしこれまでの政権にように中途半端な政策を続けるくらいなら、小泉氏に政権をゆだね、大きく失敗してもらった方が得策と言う考え方もある。その方が経済政策が、正しい方へ大きく転換されると考えられるからである。まさしく「急がば回れ」である。今後数年間は、経済が大きく混乱すると思われるが、半永久的なジリ貧路線よりましかもしれない。

    早くも塩川財務相が来年度の一般歳出のカットを示唆している。橋本政権と同じことをしようとしているのである。まさにドンキホーテ小泉氏の象徴的な経済政策である。パンチョはマスコミと彼を支持している80%以上の国民である。



多くのエコノミストは反対するであろうが、先進国で経済の成長を決めるのは需要の増加率と筆者は断言する。そしてその需要の一項目が消費である。そこで来週からは、日本の消費が何故伸びないかを考え、消費を伸ばす方策を検討したい。

筆者は、昔から名前と言うものが、その人の人格形成にある程度影響があるのではないかと考えている。小さい頃からずっとそれと付合っているのであるから可能性はある。それは偏見と言われるかもしれないが、「純」「節」「律」と言った字が含まれている名前の人々には、性格に一定の特徴があるような気がする。良く言えば「曲ったことが嫌い」「一本気」である。悪く言えば「頑固」「融通がきかない」と言う風である。

新首相の小泉純一郎氏の場合もこの法則が適用されるのであろうか。筆者は、経済に関しては小泉新首相とは正反対の考えの持主である。たしかに小泉首相の考えと同じ人々は大勢いる。それが間違いと証明されるためには、自分の信じている経済政策をそのまま実行してもらう必要がある。まさに「一本気」に進めてもらいたい。途中で「財政による景気対策も必要」と言った中途半端なことは、絶対に許されることではない。それでは「純」ではなく「不純」になる。

今回の自民党の総裁選の候補の中で、日本経済の深刻さを本当に理解しているのは、亀井氏と麻生氏だけである。そして麻生氏の考えを知ったことは今回の総裁選の収穫であり、救いである。しかし麻生氏もとても小泉政権の元では、政調会長なんかやっておられるものではないはずである。適当な時期にさっさと辞めたほうが賢明である。

セーフガードについて色々議論がでている。本誌でもそのうち取上げることになる。しかし今日の問題は、過去の「牛肉・オレンジ」などの輸入制限問題とは、質的に全く別次元の問題である。そしてこれは極めて重大な問題に将来発展する可能性が強い。このことを理解しない安易な解説が多すぎる。


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